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第94話 異世界転売ヤー

【ホマレ視点】


 取調室で机の上に置かれたゲソボットの首に聴取をしていた。

 何だこのシュールすぎる光景は?

 地球(いせかい)だったら頭おかしいんじゃねぇかってそのまま俺が病院へ送られるぞ?

 ああ、こんな事してないでフリーダに付き添いたい。

 でも男が付き添うのはNGだっていうしなぁ。何だよその慣習は。とりあえず仕事をして気を紛らわせよう。


「それで……ゲソボットさん。あんたの職業は?」


「うむ。吾輩は錬金術師をしている」


 錬金術師か、珍しいな。

 様々な素材を使って武具やアクセサリーなんかに特殊な効果を付与する職業だ。

 ちなみに愛するリリィ姉さんはちょっとベクトルが違ってダイレクトに武具やらを作り出すチート能力者だ。まあ、性能は職人の作ったものには及ばないし商売はしていないがな。

 

「へぇ、錬金術師か。どういうものが専門なんだ?」


「うむ。需要がありそうな商品に狙いを定めると買い占め、付加価値を添えて更に高値を付けて売りさばくんじゃよ」


「それって転売ヤーじゃねぇか!!」

 

 本当に困るんだよなああいうの。生活必需品に手を出すこともある。

 前世でもマスクを買い占めた輩が居たんだよな。

 この世界でもそんな輩るはいるのに驚いたものだ。

 最近だとリーゼ商会がより上質で赤ちゃんに優しい素材で出来た布オムツを発売した。

 当初の想定より布オムツの回転が早いのでどうせならと買いに出たが買い占めた奴が居たらしく、闇市とかで高額転売されていた。

 しかも普通の布オムツまで買い占められていて困り果てたものだ。

 結局、親のコネやら何やらをフル活用して少しは補充できたがあの時は転売ヤーをガチで恨んだものだ。


「この間はリーゼ商会が新しく売り出した肌触りがいいという布オムツのおかげで美味い飯が食べれたものでな」


 俺は無言でゲソボットの首を持ち上げるとゴミ箱へ叩き込みふたを閉めた。


「さて、事件解決だ。報告書を作って俺は家族の所に帰る」 


「おいおい待て。流石にあれはまずいだろ?」


 イザヨイが慌てて俺を諫める。


「知るかよ。こいつのせいで俺の超かわいい息子が数日間快適に過ごせなかったんだぞ?万死に値するわ!!」


「落ち着け。大変だったし腹が立つのはわかるがあれでも一応は市民だ。な?」

 

 俺をなだめながらイザヨイはゴミ箱からゲソボットの首を取り出す。


「相棒が申し訳ない事をした。大丈夫でしたか?」


「ハハッ、まあ人から恨まれるのは慣れておるよ。新発売の『ふわふわキャロット』を買い占めて錬金術った時も恨まれて命を狙われたりしたからな」 


 今度はイザヨイがゲソボットの首をごみ箱に叩き込んでふたを閉めた。


「クソが、死ね!」


「おいおいどうした!?お前、止める側だったろ?」


 今度は俺がイザヨイをなだめる番となった。 


「『ふわふわキャロット』ってリュシトーエが新しく開発した野菜だろう?この間、『買い占めされた上に転売されていて腹が立った』って言ってたぞ。こいつに人権はない!!」


 まあ、確かに『ふわふわキャロット』はリムが新しく開発した野菜だ。

 皮をむくと中身はふわふわしており上品な甘さと喉に優しい成分が詰まっている。

 自信作であったが転売ヤーの買い占め被害に遭ったことをあいつは嘆いていた。


「よし、とりあえず落ち着け。妹の為に怒ってくれるなんてお前は最高の相棒だよ。その優しさがあればお前が好きな女の子だってきっと振り向いてくれる。だから、落ち着こうな?」


「そうだろうか?」


「ああ保証するさ。お前はいい奴だ。とりあえずこのクソ転売ヤーをごみ箱から取り出そうじゃないか。な?」


 ふたりでごみ箱を開け首を取り出す。


「やれやれ、貧乏人のひがみは恐ろしい。まあ、それにさらされるのも成功者の常であるな」


 ふたりでごみ箱に首を叩き込んだ。



【フリーダ視点】


 わたしはナギとセシルに付き添われ医者の所へ行く事に。

 勿論、乳母車に乗せたアルも一緒だ。

 弟か妹か、今はわからないけど新たな家族の魂が宿っているという祝福を見守ってくれるというわけだ。

 

「ごめんな、セシル。仕事だったのに休ませちゃって」


「何言ってるんですか。こんな時こそ仕事は休むものですよ」


「でもさ、何か上司がいやーな奴だって言ってたじゃんか」


 結構高圧的な男性で威張り散らし仕事を押し付け成果だけ横取りするような人らしい。

 休みを取ろうものなら激しい叱責を受けるとか。

 ナギから言わせれば『あー、ブラックかぁ』って事だけど異世界語は難しいな。


「確かに、休みを取るって言うと怒鳴られましたね」


「やっぱりか……」


 だがセシルは何処か楽しげだ。


「大丈夫ですって。クソ上司はしっかり黙らせましたから」


「黙らせたって何やったんだ?」


 ちょっと聞くのが怖いんだけど……


「ふふふ、簡単な事ですよ。『人脈』ってここぞという時に使うものですからね」


「セティさ、何か悪だくみしたね?」


「いえいえ悪だくみなんて。あれですよ。上司に怒鳴られた後、涙ながらに『大切な家族の病院付き添いごときで休みを頂くって言ってごめんなさい』と『偶然』お越しいただいていたお義母様の前で謝罪をさせていただきました」


 えぐっ!

 確かにセシルは新人だが会長であるリゼットさんにとって『義理の娘』だ。勿論わたし達も。

 義理の娘が上司の前で泣いていたら、そりゃ……


「もう彼ってば半端なく青ざめてましたね。部下の名前もろくの覚えない人だったんであたしがレム家の嫁だってその瞬間まで気づいてなかったみたいでした。最後は見た時はメイシーさんが笑顔で彼の肩を叩いていましたね。ああ、無事だと良いんですが」


 全く心にもない事を言いながら手を組んで祈りのポーズを取っていた。

 メイシーさんも商会の理事をしているわけだし、多分これは無事じゃないよな。


「あーあ、『ざまぁ』されちゃったんだねその人」 


「何だよそれ。異世界語か?」


「そーだよ。恨みを買う場合もあるからあんまやらない方がいいけど、聞いててスカッとしたかな」


 ナギが苦笑していた。


「ふふっ、セティママはやり手だねー、アル」


 ナギは息子の顔を覗き込み笑いかける。

 何か本当にナギって変わったよな。

 最初は上手くやれるか心配だったけど今やみんなのお母さんポジションだ。

 子どもが生まれてそれはますます加速している。

 わたしも、こんな風になれるかな?


「大丈夫。フィリーも良いお母さんになれるよ」


 わたしの心を見透かしたようにナギが微笑んだ。


「さあ、お医者様の所へ行って、祝福を頂きましょう」

 

 彼女たちに出会えてよかったよ。

 今は準備をしている『4人目』。冒険者ギルドのカウンターで見かけた事がある。

 彼女からも『糸』が出ていた。わたし達を繋ぐ『虹色の糸』。

 きっと彼女とも仲良くやって行けるはずだ。


【ホマレ視点】


 結論から言えば現場に散乱していたプレートアーマーの中にゲソボットの本体は無かった。

 どういうことかと思いリーゼ商会へ赴き事情を聞くとどうやら荷馬車はもう一つあったようでゲソボットの身体はそっちの便で発送されたらしい。


「あ、あの……あなたってその、会長のご子息ですよね?」


 責任者と思しき男性は随分と低姿勢で俺の顔色を窺っていた。


「え?ああ、そうですけど何か?」


 どうしたんだろうか?


「こ、この度は奥様に大変なご無礼を働いてしまって、本当に申し訳ありませんでしたッッ!!!!」


 凄まじい勢いで最敬礼と共に謝罪が飛んで来た。

 奥様?あー、そう言えばセシルの職場はここだったな。


「えーと、何かあったのかな?ていうかすいませんね。急に妻がお休みを貰っちゃって」


「いえ!家族の為に仕事を休むのは当たり前であります!!本当に素晴らしい奥様で、わたくしも大いに見習わせていただきたい所存ですッッ!!」


 何だ、聞いてたよりも随分と話の分かる熱い男じゃ無いか。


「まあ、それじゃあ頑張ってください」


「はい!ありがとうございますッッ!!」


 セシルの上司からもうひとつの荷馬車がプレートメイルを配送した場所のリストを受け取り俺とイザヨイは転売ヤーの身体を捜索することになった。

 ちなみに、俺が下げているバッグには騒いで混乱を巻き起こさない様に猿轡(さるぐつわ)をはめたゲソボットの首が入っていたりする。

 何だ、この地獄みたいな仕事は!?

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