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第90話 逃げるは恥でも何でもない

今回ちょっとヒーローにあるまじきビビり具合ですが冷静に考えたらすっごく怖いモンスターですよね?

【ホマレ視点】


「しかしまあ、ある意味わかりやすい所だよな」


 違法賭博の舞台となっているのは街外れにある廃墟となった砦。

 戦争時代の遺産だが特に歴史的な価値もなくごろつきのたまり場になっていた。


 俺とイザヨイは制服を脱いで警備隊員とバレない様、情報にあった場所へと赴く。

 髪型を少し変えたりして何か潜入捜査みたいで少しわくわくするが楽しんでいるわけにはいかない。

 

 入り口で金を払い建物へと入る。

 割とガバいセキュリティで助かった。

 

 建物を案内されると改造された空間があり、そこでは金網で囲まれたリング上でモンスター達が戦わされており観客たちがそれを応援していた。

 

「凄い熱狂ぶりだな。安全確保は大いに問題はありそうだが」


 イザヨイの言葉に俺は同意した。

 地這エイに鋭牙大ミミズが絡み付き、そこへ爆走トカゲが突撃していく。


「だが、あれくらいのモンスターなら逃げ出しても問題はないだろう」


 いずれも初級モンスター。

 初級冒険者でも十分対処できるレベルなので危険は少ない。

 試合が終わりモンスターの死体が片付けられると司会者が大声で叫ぶ。


「さぁ、いよいよ本日のメインイベント!第1ゲートから出てくるのはユピル雷原に生息する死霊馬、ミイラホースだぁぁ!対して第2ゲートからは寒冷地の悪魔バイコーン、こいつはヤベェェェェ!!!」


 2カ所のゲートからミイラホースと、バイコーンがそれぞれ姿を現す。


「懐かしいな。こいつらさ、嫁との思い出のモンスターなんだよ」


 フリーダがぴたごらしてバイコーン怒らしたんだよなぁ。

 ミイラホースは何だろう。餌になってるイメージが強いなぁ。


「いや、何を懐かしがってるんだお前……」


 イザヨイが呆れる中、3番目のゲートが開く。


「そして!第3ゲートから出てきたのは世にも珍しい新種、その名も『ギルティワラビー』だぁぁぁ!!!」


 どうやら本命の奴が出てきたらしい。

 両腕が刃物の様に変質しているモンスターだった。 

 というかあれだよ。完全に電ノコついてるよな。

 

「生態もよくわかってない新種を闘技場に出すとか頭おかしいだろ」


「このギルティワラビー!何と非常に硬質な女神像をも両断してしまう刃を持っています」


 あっ、司会者が勝手に自白してくれた。

 それじゃあ……


「警備隊だ!お前ら大人しくしろ!!」


 俺が叫ぶと会場に居た連中が反応し我先へと逃げ出す。


「おい、ホマレ!」


「いいんだよ。どうせ外で捕まえられる。それより……」


 俺はリングの方に目をやる。

 リングの中は凄惨な事になっていた。

 ギルティワラビーの刃は高速回転をしておりミイラホースの首を切断、バイコーンもバラバラに解体しその肉を貪っていた。

 すげぇな、電ノコついた生物なんて初めて見たぞ。生命の神秘だな。原理どうなってんだろ?

 というか予想以上にヤバいのが出てきたなこりゃ。


「なるほどなぁ、確かにあれなら女神像の傷も説明がつく。ただ切っただけじゃなくて切断面を潰しながら切り進むわけだ」


「すまん、聞いただけで気分が悪くなるんだが……」


 だろうな。俺も正直この現場はきつい。


「なぁ、イザヨイ。俺が連中をここから逃がした理由についてなんだがな。これから何が起きるかわかるか?」


 割とお約束の展開が待ち受けると俺は踏んでいるんだよな。

 

「あー、わかりたくないが……わかった気がする」


 血まみれになったギルティワラビーは狂ったような目でこちらを凝視するとゆっくりと金網へと近づいて行く。

 そして腕の電ノコで金網を刻み始めあっさりと場外へと飛び出す。


「「やっぱり」」


 息がぴったりだった。

 これ、観客が大勢いる時だと血の雨が降っていたよな。


「あー、ホマレよ。それでこいつについてはどうする?」 


「そうだな、思った以上にヤバい事態だよな。とりあえずここは……逃げるか!!」


「大いに賛成だ!!」


 踵を返し脱兎のごとく逃げ出す。

 八つ裂き大好きなワラビーが奇声をあげながら追いかけてくる。

 あっ、今気づいたがワラビーってジャンプしながら移動するよな?

 確か結構早かった気が……


「ギシャャァァァッッ!!!」


 ほらやっぱり!

 もう追いついてやがるよ!!

 近くにあった木箱を投げつけてみるが当然簡単に破壊される。

 ならば二手に分かれようという事で二方向へ別れるのだが……俺の方を追って来やがった!!


「だと思ってたよぉぉぉ!!」


 だがこれは都合がいい。

 何とかイザヨイの目が無い所まで逃げきることが出来ればデュランダルに変身できる。


「ホマレ!今行くぞ!!」


 あらやだ、イザヨイったら仲間思いだなぁ。

 俺が追われているのを見て居てもたってもいられないのか助けに来てくれてるよ。

 いや、気持ちは嬉しいんだけどさぁ……今は違うんだよ!!!

 お前が常に俺を視界にとらえている事で変身出来ないからね!?しかも微妙に追いつけていない。

 しかもワラビー君、後ろから追ってくるイザヨイには目もくれず俺を追いかけてるわけだし……もう何だよこの地獄みたいな状況!?

 ヤケクソだ。これはもう覚悟を決めるしかない!!


「ああもうっ!かかって来やがれ!!」


 隠し持っていたサーベルを抜いてワラビーに向き直る。

 するとワラビーは尻尾で地を蹴り跳躍。

 フライング電ノコクロスチョップを放ってきた。

 これはをサーベルで……


「受け止められるかぁぁぁ!!!」


 サーベルごと両断されるわ!!いなしだって万が一失敗したらズタズタだ。

 アル!パパ凄く頑張ってるからな!!

 受け止めるのは無理と判断した俺は姿勢を低くして攻撃を避けるとカウンターとしてどてっぱらを蹴り上げダウンを取る。


 冷静になれ、俺!

 よくよく考えれば全身凶器に変化させるセシルと戦った経験があるんだ。

 何か血まみれなのと電ノコの凄い音でビビってるけど電ノコに気をつければセシルよりは戦いやすい…………のかなぁ?

 

 起き上がり電ノコパンチを繰り出してくるワラビーの猛攻をかいくぐり首へと蹴りを入れた、

 大丈夫、攻めの姿勢を忘れず敵の本質さえとらえることが出来れば怖くはない……はず。

 そこへ追いついたイザヨイが……


追牙(おいきば)ッ!!」


 サーベルを抜き素早い一撃を背中に放った。

 背中を切られワラビーが驚きイザヨイの方を向く。


「ナイスタイミングだ、相棒!!」


 俺はサーベルを投げ捨てると背後からワラビーの顎と片脚を掴み背骨を反らす。


「行くぞ、俺の必殺技!」


 驚き逃げようとワラビーが尻尾で飛び上がるが好都合。

 俺はその力を逆に利用して空中で反転。


「ロッキングクラッシュ!!」


 背中に膝を当てながら床目掛け腹から叩きつけた。

 首の骨、脚、そして背骨が破壊される音が響きワラビーが口から血を吐き動かなくなった。

 俺はホールドを外すとそのまま床にヘタレ込んでしまった。

 

「ホマレ!大丈夫か!?」


「ああ、大丈夫だ。大丈夫だからさ……」


 俺は寝転がって天井を仰ぎ呟いた。


「早く帰って息子を可愛がりたい」


「本当に変わったよ。お前は」


 笑うイザヨイ。

 その時だった、咆哮と共に奥の方から多数のモンスターが這い出てきた。

 

 あ、忘れてた。

 そうだよ。ワラビー君のインパクトで忘れてたけど他にもモンスターが居る可能性って十分あったんだよ。

 ちょっとこいつの後で流石にあれはきつい。


「「逃げるか」」

 

 俺とイザヨイは立ち上がると再び逃げ始めた。

 結局、追いかけて来たモンスターは外で待ち構えていたケイト姉さんが相手をした。

 毒を手から拡散させまくり次々とモンスターを倒していく姉さんは控えめに言ってかっこよすぎだ。

 逃げ出した連中も捕縛され、とりあえず女神像切断事件から発覚した違法賭博事件は無事解決となったのだった。


---------モンスター名鑑---------



ギルティワラビー

種族:哺乳魔獣類

体長:1m80cm

危険度:上級Lv6相当


オルドール遺跡平原で密猟者によって捕獲されたカニボバワラビーの亜種であり新種。

電ノコを両手に備えており生命の神秘すげぇ!なモンスター。

何故そんなものがついているのか、どういう原理なのかは今後の調査でわかっていくだろう。



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