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第89話 不安

【ホマレ視点】


 密猟者を『やさしーく』取り調べた所、どうやら最近珍しい『カニボバワラビー』の亜種を捕まえある業者に売りつけたという事が判明した。

 一応、『やさしーく』だぞ?別に暴力は振るっていない。


「呆れたものだな。捕まえたモンスター同士を戦わせる裏賭博とは……」


「まあ、王国時代は公式に『モンスター格闘場』があったらしいからな。ああいうの好きな奴は好きなんだろう」


「そうかもしれないが裏賭博じゃ安全に配慮はされていないだろう?」


「それなんだよなぁ……」


 違法な事を隠れてやっているのもありアドレナリンも出るのだろう。

 だが、当然の如く安全に運用されていないのでモンスターが逃げ出す恐れだってある。

 時折街中にモンスターが現れ俺達が討伐にいくことがあったがある程度関係しているのだろう。


「もし逃げたモンスターに息子が襲われたら……」


 その辺のモンスターよりも強いナギ達がついているからアルは大丈夫だとは思っている。

 それでも『もしも』を思うと心がざわつく。

 『もし』何かあったら……正気じゃいられないかもしれない。

 すると隊員の一人『ザック』がやって来る。


「ホマレさん。お客さんですよ」


「客?誰だろう……」


 見ればフリーダ、そしてアルを抱いたナギの姿があった。

 俺は3人に慌てて駆け寄る。


「お前達、何かあったのか?まさかアルの調子が悪いとか?」


「違うよ。あんたさ、また弁当を忘れて行っただろ?」


 フリーダは手に弁当を持っていた。

 そう言えば弁当をカバンに詰めた記憶がない。


「パパはよく忘れものをするねー、アル?」


 ナギに微笑みかけられアルは『だぁー』と返事をする。

 やべぇ、かわいいぞ。今のやりとりでごはん12杯はいける。


「話には聞いていたが、本当にあのホマレが姉妹以外に対してここまでデレデレになるとは……これは何かの幻覚か?」


 俺の背後でイザヨイがぽかんと口を開けて驚いていた。

 失礼な奴だな。『子どもが生まれたらわかる』と言っておいた。


「ああ、そうだ。お前達、これから予定とかはあるのか?」


「そーだね。これからアルとお散歩して」 

  

 散歩?

 何か物凄く嫌な予感がしてしまう。

 もしモンスターが出てきたら……

  

「いや待て。今日は日差しも強いしお散歩は止めておこう。そうだ、俺の仕事が終わるまでここに居たらいいんじゃないのか?」


「どうしたんだ?朝は『散歩っていいよなぁ』って言ってたじゃないか。それに流石にここに長くとどまるのは邪魔だろう?」


「お母さんも異動しちゃったしねー」


 どうやらナギは事前に義母の異動を聞いていたらしい。

 それなら教えてくれよ。今朝マジでびっくりしたんだぞ?


「あーよし、それじゃあ親父達の所なんかどうだ?或いはケイト姉さん、ダメならリリィ姉さんの職場とか……」


「なぁ、ホマレ。あんた変だぞ?急にどうしたんだ?もしかして外は危険なのか?」


「あー、いやそれは」


「すごーく不安を感じている『音』がするね」 


 ダメだ。こいつらに隠し事は出来ない。

 ナギは『音』でわかるしフリーダは『糸』で感じ取る。

 そして今ここに居ないセシルは『直感』派だ。

 する気はないが浮気とかしたら秒で気づくだろう。

 だけど情報を漏らすのは職務上よくない事だし……


「それじゃー、ホマの実家に行っとくね?いつも誰かはいるもんね」


 ナギは何か察してくれた様だ。


「え?ナギ、いいのか?何か隠し事されてるみたいで」


「いーからいーからおいでって。アル、おじーちゃん達に会いに行こうねー」


 送ろうかと提案するが『大丈夫、気を付けるからねー』と断られた。

 去り際、ナギはこっそり『声』を飛ばしてきた。


『その代わり、後でちゃーんと説明ね?お仕事頑張ってねー』


 すまん、助かる。

 イザヨイが肩を叩く。


「ホマレ、大丈夫だ。情報は引き出した。このワル共をさっさと捕まえてやろう」


「あ、ああ……」


【バレッタ視点】


「市民を守る、か。でも私は……私はそんな高尚な理由でここに立っているわけじゃ無いから……」


 本当はこんな所に来たくなかった。

 私はゴンドール家の出来損ない。

 女として生まれたのがそもそもの間違い。

 男性至上主義のゴンドール家において女は『男の優秀な血を後世に残す道具』でしかない。

 幼い頃からずっと言われ続けた事だ。


 士官学校だって入りたかったわけじゃ無いが何の間違いか試験に受かってしまった。

 卒業後の進路など考えてもいなかった所、父の命令で警備隊へ行く事に。

 しかもいきなり隊長に着任というのだから胃に穴が開くかと思った。


 とりあえず上のご機嫌を損なわない様に、そして尚且つ父から与えられた『使命』を果たすべく立ち回らなければと思うがどうもうまくいかない。


 隊長室から主任警備官である男性を覗く。

 見れば彼の奥さんと思しき女性がやって来ており彼に弁当を手渡していた。

 その横には赤ちゃんを抱えた女性が。あれが話に聞く奥さんたちなのだろうか?

 とりあえず、赤ちゃんが可愛い。


「幸せそう。いいな。私だって本当は……」


 呟いたところで主任警備官であるホマレさんが部屋に入ってきた。


「隊長。裏賭博の摘発に行くけどいいよな?」


「あ、はいっ!。えーと、でもモンスターが数多くいる可能性があるなら冒険者ギルドにも協力を要請した方が」


「ならサウスベリアーノに要請してくれ。位置的にも近いしあそこの支部長なら一騎当千だ。うっかりすると毒まみれにされるけどな」


「ひぃぃっ!?ど、毒ゥゥ!?」


 本気で来るんじゃなかった!

 お父様、やっぱり私には無理ですよ。この人の『血統』を手に入れろだなんて!!

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