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第85話 ようこそ、この世界へ

【ホマレ視点】


 フリーダの糸によるバフをかけてもらい、俺は家へと急いだ。

 既におふくろや義母さん。リリィ姉さん、ケイト姉さん。更にはメイママやアンママなんかも駆けつけてくれていた。

 メイママは俺が生まれる時に取り上げてくれた経験があるので的確な指示を周りに出していた。

 どうやら医者は親父が呼びに行っているが到着はまだらしい。というか医者嫌いに医者を呼ばしに行くなよ。


「間に合ったようですね、ホマレ。ほら、こっちへ来てナギの手を握ってあげなさい」


 促されるまま苦しむナギに近づいて行く。

 途中、リムと目が合って何か言おうとするが……


「お兄様。今は……」


 リムは首を横に振った。


「ああ……」


 俺はナギの傍に寄って手を握る。


「ふふっ、あなたが生まれた時の事を思い出しますね。安心なさい、私の全カロリーを使ってでも母子共々安全な出産を約束します!!」


 頼もしいが後が大変そうだ。

 とは言え、この人に任せれば安心感はけた違いだ。

 地球(いせかい)に比べればまだまだ劣る医療技術。

 出産で母子共々命を落とす確率はあっちよりはるかに高い。


 現に俺が生まれた際は息をしておらず、騒然となった。

 その事がメイママを治療術の研究に走らせるきかっけだったのだ。

 

 そう言えばメールが生まれた時もメイママが全身全霊で取り上げてあの時はぶっ倒れたな。

 ああ、だからリリィ姉さんが奥の方で薬を調合しているんだな。


「よ、よし。そ、それじゃあナギ……えーと」

 

 今は集中だ。

 何か声を掛けないと。


「えいえいおー?」


「ジェス君、絶対にそれ違いますから!!」


 俺もそう思う。

 いや、もう色々動揺しすぎて自分でも訳が分からないんだよ。

 何だっけ?前世でテレビか何かで見たんだけど……


「えーとそれじゃあ、ふれーふれー……じゃなくてえーとそいやー!じゃなくてあれれれ」


 やべぇ、俺大分混乱してる。

 すると玉のような汗を流し苦しむナギが叫んだ。


「ホマ!シャラップッ!もうキミは手だけ握っててッッ!!!」

 

 無茶苦茶怒られました。

 すいませんでした。

 そうして俺は余計な事は言わない様にしてナギの手を握り続けることにした。

 途中医者が到着したが何かメイママの補助程度しか出来てなかった。

 そうして数度の波の後……男の子が元気な産声を上げた。


「はは……ほら、立派な男の子……ですよ」


 メイママがナギに赤子を渡す。


「ナギ、よく頑張りましたね……流石に私も集中し過ぎました。後はお願い……します」


 エネルギーを使い果たしたメイママは後ろ向きに倒れていきリリィ姉さんとリムに支えられながら退場していく。ありがとう、メイママ。


「よかった……無事生まれてくれた……」


 愛おしそうに我が子を抱きながらナギは微笑んだ。

 そして俺の方を見て……


「ほら、ホマ。キミの子だよ?」


「あ、ああ」


 緊張でガチガチになりながら息子を抱いた。

 この子が、俺の……


「ありがとう」


 自然に涙と共に言葉が出ていた。

 それはナギ、そしてここにいる家族への感謝。

 そして次に出たのは我が子へ送る言葉。


「生まれて来てくれてありがとう。ようこそ、この世界へ」


 それは、俺が生まれた時におふくろが掛けてくれた祝福の言葉であった。


 その後、俺はとりあえずリビングへ出される事となった。

 ナギを少し休ませないといけないし、やる事がたくさんあるらしい。


「回復は任せてください。何せ『3位』の元聖女ですから」 


 この状態でもぶれないセシルが妙に頼もしく見えた。

 集まって手伝ってくれた家族達にも礼を伝えていく。

 そして、リムと向き合った。


「ちょっと、いいか」


「……はい」


 外へ出て、話をする事に。

 息子が生まれたばかりでこんな話はしたくなかった。

 だけど……俺には責任があった。


「ユウトの事なんだけど……」


「お付き合いをしていました。それに、彼から暴力を振るわれていました」


 ああ、やはりそうだったのか。

 リムもかなり強いがユウトは転生者だからな。


「彼は……もう居ないんですよね?」


「……済まない」


 あいつを『弟』と呼びたかった。

 ここに一緒に居て祝福して欲しかった。

 だけど『心の闇』を開いてしまった彼を俺は……


「……お兄様が謝る事ではありません。こうならなくてもきっと上手くはいかなかったんです。途中から何となくわかってはいました。ですから……気に病まないでください。私は……大丈夫ですから」


 言いながらリムは涙を流していた。

 いつの間にか着ていたリリィ姉さんがリムを抱きしめた。


「大丈夫だから。きっと次は最高の人に出会えるから。だから、泣いてもいいよ」


 泣きじゃくるリムの頭を撫でながらリリィ姉さんがこちらに視線をやる。


「リムは大丈夫。だから、あんたは中に戻ってなさい」


 俺は唇を強く噛みながら中へと戻った。


□□


 中に戻るとフリーダが声をかけてきた。


「ホマレ、その……」


「大丈夫。わかってるから」


 それでも心配そうな顔で俺を見る年下妻。

 まあ、仕方ないのだがどうしたものか……とりあえず和ませなければいかんな。


「次はお前の番だぞ。容赦なくいくから、よろしく頼むぞ」


「ぇえ……いや、あんたさぁ…………」


 するとフリーダが少し失望したような表情で呆れていた。

 うん?これはもしかして滑ったか?俺何か……しちゃってるよな? 

 見ればおふくろも呆れ顔で俺を見ている。


「アンジェラ~、これはボクがきっちり怒っておかないといけないよね?」


「そうね。流石に生まれたその日にこれはないわね」


「あたしも、これにはちょっと引いたわ」


 アンママ、そしてケイト姉さんもドン引きしていた。

 この場に義母さんがいなかったのが幸いだ。

 と思いきやナギが休んでいる部屋から治癒をしていたセシルが出てきた。


「えーと、ナギのお母さんが笑顔で『後でじっくりお説教したいなぁ』って言ってました」


「げっ……」


 これ、ダメな奴だ。


「じゃあ、イシダとボクでダブルお説教だね」


 やべぇ、完全にやらかした!!

 親父にアドバイスを求め視線を送るが……


「頑張れ!」


 何の役にも立たない雑なアドバイスを貰った。


「違うんだ!場を和ませようと思って……べ、弁解の機会を求める!!!」


 その後、俺はおふくろと義母にこっぴどく叱られた。

 まあ、義母さんの方は半分楽しんでいた節があるがおふくろはガチで怒ってた。

 こうして悲しい出来事もあったが我が家にひとり、家族が増えた。

 ようこそ、この世界へ。



 レム・アークトゥルス

 生年月日:星歴1243年8月12日

 肩書:レム分家長男・第三世代

 母親:ナギ  



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