第84話 転生者の光と影Ⅱ
【ホマレ視点】
こいつを初めて見た時から嫌な感じはしていた。
でもそれは俺がシスコンだから、妹に近づくから過剰反応しているだけだと思うようにしていた。
矢が放たれる直前に身体を捻った為、直撃は免れた。
脇腹を掠った程度だ。
「お前、何を!?」
ユウトはパレットの様なものがついた弓を構えてこちらを睨みつけていた。
「何でなんだよ。何で俺はいつもそうなんだ。誰も俺を愛してくれない。見てくれやしない。転生したって変わらない。いつだって選ばれないんだ!!」
ユウトは黄色い色の弓を放つ。
着弾地点で火花がバチバチっと散った所を見ると『雷』属性か。
転生したからと言って皆がウハウハになれるとは限らない。
俺や親父の様に自分の居場所を見つけ愛する人に囲まれるものもいる。
一方で道を間違えたり、思い描いていた未来を手に出来ないものもまた存在してしまう。
かつての俺は家族以外の女性を嫌がっている節があった。
生まれる前に貰っていたスキルでどんな女性でも無条件で俺に惹かれていたという事があったからだ。
自死したリリィ姉さんを助ける代わりに俺は全てのチートスキルを神に返却した。
その後待っていたのは見事なまでの掌返し。
俺にすり寄っていた女性たちは皆、凡人となった俺の事を蔑み離れて行った。
唯一変わらない態度で俺に接してくれていたのは家族だけだった。
そこから俺は人間不信みたいな感じになって家族以外の人間との交流を避けるようになった。
特に家族以外の女性に対しては『やっぱり俺なんか』という感情が強くなりシスコンは加速した。
そんな俺の心にずかずかと入ってきたのは今まさに俺の子を妊娠しているナギ。
更に数年してかつて俺が突き放したフリーダが俺に対し変わらぬ憧れを持って目の前に現れた。
そして再会した幼馴染のセシル。再会時にラリアット叩き込んじゃったけど嫁になってくれた。
あいつらが居てくれたのは俺にとって幸運だったと思う。
だけどこいつは……
「お前の妹も!俺の事を馬鹿にして!俺がジャガイモの栽培を手伝ってやったんだぞ!?」
次は水色の矢を放つ。
着弾地点に水色の液体が飛び散りわずかに触れた時、滑るような感覚があった。
どうやら『色』使いであり、調合した『色』によりさまざまな特殊効果を発生させる事が出来るらしい。
転生者なだけあって基礎能力も高くエイムも正確。俺じゃなきゃ避けられなかったと少し心の中で自慢してみる。
「俺のおかげで夢が叶ったのに、裏切りやがって!何で俺を拒否したんだよ!!」
恐らく何かしらのアプローチをしてリムに拒絶されたのだろう。
大方肉体関係でも迫ったとかか?まあ、リムも22歳だから問題とかはない。
俺の嫁には19歳が居るからな。自慢じゃないぞ?
リムはリリィ姉さんの顛末を知っているし古風な所もあるからそういう男女の機微にはかなり慎重なだ。
そして今ので何故こいつに『嫌な感情』を抱いたのかがわかった。
こいつは、リリィ姉さんを暴行した『ルーク』と同じなんだ。
自分に好意を寄せた女は思い通りになると思い込んでいて、自分が落ちると相手に責任を転嫁する。
まったく、姉妹揃って似たような男を好きになるなんて……
「違うだろうが!そうやって自分勝手な事ばっか言いやがって。お前はリムをちゃんと見てたのか!?ちゃんと向き合ったのか!?」
きちんと向き合っていたならリムが恋愛に対してどんな価値観を持っているか理解できたはずだ。
リムの想いを尊重する恋愛を続けていればきっと幸せを手に出来た筈だ。
リリィ姉さん、アリス姉さん、メール。彼女たちの夫となった男性はそれが出来ていた。
「どれだけ頑張っても。転生しても、ダメだったんだ!ダメだ……今のままじゃ……誰も俺を愛してくれやしない!!」
やたらめったら矢を討ちまくる。
色とりどりの矢が様々な効果を発揮しながら俺へと降り注いでいく。
「クローシールド!!」
普通の盾では間に合わない。
爪を具現化させ振り広範囲にシールドを貼る。
ただ、爪で作ったものなので僅かな隙間が出来きてしまいそこから入り込んだ矢が俺に命中してしまう。
「お前に……俺の気持ちがわかるか!」
わかるよ。
俺も転生する家が違ったら、フリーダ達みたいな理解者が居なかったらもしかしたら……ボタンが掛け違っていたら、心の闇を開いてのみ込まれていたかもしれない。だけどな……
「それでも、俺はリムの兄としてお前を肯定するわけにはいかない!」
「くそぉぉぉぉ!」
パレットの色が混ざり合い何とも言えないどす黒い色へと変化していく。
放たれたどす黒い矢は俺の方へは飛んでこずユウトの周囲を飛び回り、その口腔へと侵入した。
「おいおい、何を……」
「全部壊してやる!俺を好きになラないこの世界ナンて、全部コワしテやる!!」
地獄から響くような怨嗟の声と共にユウトの身体が巨大な翼に似た突起を背中に持つ魔獣へと変化していく。
更に肩や口からは無数の触手が飛び出しておりかなりグロくて気持ち悪い。
「一度は幸せを掴みかけたのに……何で道を間違えちまったんだよ!この大馬鹿野郎!!」
叫びと共にデュランダルへ変身。
変身できたという事は、もうこいつは人間として認識されていないって事なのか……
触手をうねらす魔獣ユウトへと突撃していくが口から放たれた黒いブレスが直撃。
大きく飛ばされ木に激突して止まった。だがそこへ更に追いブレスが着弾する。
「ウガァァァ!!!」
大地を踏みながらしながらこちらへ向かって突進して来る魔獣。
「ゼピュロォォォスビィィィィィィム!!!!」
暗紅色のビームを放つがそれをものともせずに受け止めながらこちらへ進軍。
逞しい両腕で俺を掴むと力任せに何度も地面に叩きつけ、投げ捨てる。
更に肩の触手から人間の時みたいに無数の矢を発射。
地面へ叩きつけられた俺へ次々と矢が着弾していった。
「この野郎!!」
冷気の刀を具現化させ懐へ飛び込む。
だが振るわれた剣は簡単に避けられてしまった。
もう一度と振るうも今度は刀身を掴まれ顔面にカウンターパンチを叩き込まれた。
「ドうシた!?コんなもノか?」
「まだまだぁぁ」
ランペイジにパワーアップして突撃。
「ランペイジ・ハリケーンラリアット!!!」
だが攻撃は受け止められ逆に背後へ放り投げられてしまう。
そして翼型の巨大な突起が動き俺の身体をプレスする。
「な、なんのこれしき~!!」
両腕で突起をこじ開けると脱出。
同時に後頭部へ回転しながらドロップキックを放ちわずかに怯ませる。
そのまま素早く首に組み付くとヘッドロックをしながら倒れ込んだ。
「ガァァァ、ユルサナイ、オマエ〇$ι△&μ」
闇に飲まれ自我まで無くなったのか。
本当にバカ野郎が!!
距離を取りエネルギ-収束させ起き上がった魔獣目掛け放つ。
「ランペイジブラスタァァァァァァァッ!!」
対抗して吐かれたブレスを打ち破ったビームが魔獣の身体に着弾。エネルギーが全身を駆け巡り破壊していく。
「!!!?」
魔獣の全身が灰色となり、そして崩れ落ちていった。
崩れ落ちた灰の中には倒れ伏すユウトの姿があった。
俺も膝から崩れ落ち変身を解除した。
「おい!ホマレ!!」
声がした。フリーダだった。
「フリーダ……俺……」
「そいつはリム義姉さんの……」
やがてユウトの肉体も灰化していき風に乗って飛んでいった。
「俺、こいつを救えなかったよ。何かが違えば俺がこいつみたいになってたかもしれないのに……救えなかったんだ」
フリーダが駆け寄り俺の身体をぐっと抱きしめた。
「大丈夫だ。あんたは違うんだ。あんたはわたし達と向き合ってくれた。こいつとは違うんだ。それに妹を守ったんだろ?だからさ、あんたは悪くない。わたしやナギ、セシルがついてる。だから、な?」
泣くんじゃない。言葉にはしなかったがそう伝わってきた。
「……すまない。ありがとう」
「ホマレ。急ごう。実はナギが……」
「え?」