第83話 転生者の光と影
今回登場するひょろメガネこと相馬ユウトは短期連載『ジャガイモから始まるかもしれない恋~異世界行ったらレアアイテムになっていた根菜~』の主人公です。
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【ホマレ視点】
リリィ姉さんは俺達と別れ、自分の職場へ帰って行った。
俺はおふくろと並んで歩く。
おふくろは俺の方を見て『うんうん』と満足げに頷いていた。
「どうしたんだ?何か俺の顔についてるか?」
「あー、違う違う。えーとね」
おふくろは足を止めると少し背伸びをして俺の頭に手を置いて撫で始めた。
「あの小さかった坊やがもうすぐ父親になるんだね。こんなに大きくなってくれてさ、お母さんは嬉しいなぁって」
「ちょ、恥ずかしいだろ!」
「ふふっ、いいじゃない。どれだけ大きくなったって君は母さんの息子だからね」
やべぇ、それちょっと俺にはウルっとくる奴だから。
とんでもない殺し文句だからな。
「……母さんだって、いつまでも君の傍に入れるわけじゃ無いからね」
「おいおい、そんな事言ってもおふくろはまだ49だろ?」
「女の人の年齢を言うのはダメだよ?お父さんと似てデリカシーが無いなぁ」
「わ、悪い。でもさ、おふくろは気が早いんだよ。これからどんどん孫が出来ていくんだからそんな気弱な事言うなよな」
女性は長生きだからな。
何やかんやあって地球からこっちに連れてきた祖母さんも81歳まで生きたわけだからおふくろもあと、30年くらいは余裕だろう。
「……あはは、そうだね。特に君の所はウチと同じで奥さん3人いるから賑やかになりそうだものね。その分大変さもあるだろうけど、君達なら乗り越えられるよ」
「ありがとうな、おふくろ」
この人の息子で本当に良かった。
俺はしばらくおふくろと立ち話をした後、家へ帰る事にした。
そろそろリムの相談とやらも終わっている事だろう。
出来れば彼氏について色々問いただしたいところだがおふくろ達からは『嫌われるから絶対止めろ』ということだった。
嫌われるのは困るなぁ。仕方ない。大人しくしていないとな。
その帰り道の事だった。
「あの、すいません。リムのお兄さんですよね?」
話しかけてきたのはひょろっとしたメガネ男。
そう、リムの彼氏だという男性。
「君は確か……」
「あっ、はい。相馬ユウトです。その、リムさんとお付き合いを……」
彼は俺と同じ地球出身者。
この国では割とメジャーな『転生者』のひとりだ。
リムが執心していた『ジャガイモ』の栽培環境確立に手を貸し、そこからの付き合いになるらしい。
予想はしていたよ。こいつが妹と付き合う事になるだろうとは。
妹が選んだのなら兄としては応援するしかないと思うのだがなぁ。
「実は彼女の事で相談があって」
これはあれだな。
ウチで嫁たちに相談しているリムの様子と併せて考えたら……喧嘩したんだろうな。
兄としてはリムに100%肩入れしてやりたいところだが……
「悩んでるみたいだな。話聞こうか?」
「はい!お願いします!!」
もうすぐ父親になる男だからな。
彼の言い分も聞いて色々判断をして、上手くいくようなアドバイスを送ってやるか。
ヤバイ!俺の成長が留まるところを知らないぜ!
これでリムが『やっぱりお兄様。素敵です』とか言っちゃったらどうしようなぁ。
「あの、あんまり人に聞かれたくないから場所を移してもいいですか?」
「そうか?まあ、君がそう言うなら……」
俺達は場所を移し話をすることになった。
□
【フリーダ視点】
リム義姉さんからの相談を受け、私達は押し黙った。
やはり想像通りというか、内容は彼氏に関する事だ。
その男性には以前会った事がある。
リム義姉さんが『ジャガイモ』の研究で悩んでいる時に手を貸していた。
そして同じように悩む彼にわたしは『流れに逆らうな』とアドバイスをした。
いつか、道が交わる事になるかもしれないと思って。
「あの時、ホマが言ってた事が的中したね」
彼に対し好意的なわたし達と対照的にホマレは言った。『心の中に獣を隠してる』と。
いつものシスコンだろうと思っていたがどうやらそうでもなかったようだ。
リム義姉さんによると付き合い始めて最初の頃は純朴な青年といった感じだったという。
絵を描くのが好きで旅先での風景などを絵にしてよく見せてくれた。
この人が運命の人なのかもしれないと思い始めていた矢先、異変が起きた。
元々、彼が自分をモデルにこっそりと絵を描いていたのは知っていた。
彼の絵はとても上手だったし、悪い気はしなかった。
だが彼の家に行った時、自分のヌード姿が描かれたものを発見してしまった。
ちなみにそういった姿を彼に見せた事は無いので完全に彼の想像だ。
彼女の中では結婚するまでそういう事はしない、という価値観があるからだ。
ごめん、わたしは結婚前にやっちゃいました。
さて、義姉さんは少し嫌な気分になったが一応見なかったことにした。
芸術とはそういうものなのだろうと割り切ったし、それだけ彼が自分を想ってくれているのだと。
しばらくして、一緒に住まないかと提案された。
だけど義姉さんは首を縦に振らなかった。
彼の事は好きだったが何か感じるものがあったのだ。
そこから、彼の態度が段々変わってきたという。
少し怒りっぽくなって口喧嘩をするようになった。
遂には暴力を振るうようになってきたという。
しかもあざが見えにくいところとかを狙って殴られていたらしい。
かなり悪質じゃないか、それ。
「でも、リムちゃんならひょろいメガネ男くらい軽くのせたりしません?」
「セティ、確かにリーエはあの家の子だからもれなく強いよ。だけど……」
ちなみに『リーエ』とはナギ恒例のあだ名だ。
本名がリュシトーエ。愛称の段階で色々完成されているがナギとしては意地でも自分独自のあだ名をつけたかったらしく『リーエ』と呼んでいる。
「相手の男はホマと同じ『転生者』だからね」
「あっ……」
「転生者であることが悪いベクトルに向いたパターンって事ですか」
そう言えばホマレから転生者が事件を起こすことが時々あるって聞いた。
彼が言うには転生者が悪いのではなく、悪い奴が転生してしまっただけの事。
但し、転生者というのはもれなく何かしら特殊能力を持っていたりするので犯罪者になった場合は厄介な事になる。
「リーエ、この事パパさん達には?」
リム義姉さんは首を横に振った。
「抵抗はあるかもしれないけど言った方がいいよ。ナギが地球にいる時の知り合いがそーいう男に引っかかった事があるんだけさ。結論から言うと、暴力受け続けた末死んじゃったからさ」
「そうだな。個人でどうこう出来る問題じゃないかもしれない。ホマレにも言っておいた方がいいよな」
「何かジェス君、聞いた瞬間に逆上して相手を殴りに行きそうですけどね。ナギ、ジェス君に戻って来るよう『声』を飛ばしてくれますか?」
ナギは頷き集中するが……
「あれ?ホマの傍に居るのってもしかして……『彼』じゃないの!?しかも何か人気のない場所に向かってるし……」
「「「なっ!?」」」」
嘘だろ。
これは絶対マズイやつだろ!?
「ナギ!」
「わかってる!すぐに『声』を……あっ!」
ナギが目を見開きその後表情が苦痛に歪んだ。
「う、嘘ッ!こんな時に!?」
「ナギ義姉様!?これは……リリィ姉様の時にもあった『アレ』ですよね」
「え?まさかナギ、来ちゃったんですか!?ええっ!?ちょっと予定より早いですよ!?」
セシルが慌てふためく。
まさかこれ、『産まれそうになってる』!?
「あああっ!ダ、ダメ!集中が……『声』が……飛ばせない!!」
苦悶の表情。
ちょっと待てよ。これどうするんだ!?
□□
【ホマレ視点】
込み入った話という事で俺達は人気のない場所、ケイト姉さん達が通っていた学校の裏山へ移動した。
「すいません。酒場とかだと人に聞かれちゃったりするかもしれないと思って」
「ああ、構わないよ」
「それにしても驚きました。お兄さんも『転生者』だったんですね」
お兄さんって言うな。
まだ認めてないからな。話の内容次第では認めるかもしれないけど……
「まあ、色々あったけどこの世界に転生出来て良かったと思うよ」
優しい両親。
麗しい姉達。
可愛い妹。
俺の心の支えである妻達。
本当に恵まれている。
「いつもそうだった。他の人達は欲しいものを手にしているのに、俺はいつも、手に入らなかった。いつだって、いつだってそうだった……夢なんか叶いやしないんだ……」
ユウトがうわ言の様に呟く。
俺もかつてアトムと競い合って俳優になろうとして挫折した過去があるからな。
何かシンパシーって奴を感じるな。
「お前も辛かったんだな。だけどさ、諦めなければ夢はいつか叶うって……」
俺の背中に何かが押し当てられた。
確かリムから、彼は『弓』を使うと聞いた事がある。
まさかこれは……
「ユウト君?」
「何であんたは、何もかも手に入れられるんだよ!ずるいんだよ!!」
俺の身体を衝撃が貫いた。