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第78話 嘘つき

【ホマレ視点】

 

 通報があったのは1時間前。

 トラロック旧街道を移動していた商隊がモンスターに襲われ、メンバーの一人が命からがら街まで来たという事だ。


 商隊と聞いて真っ先におふくろのリーゼ商会関係が思い浮かんだがよく考えればあんな危険地帯、普通は通らない。

 話を聞けばやはりリーゼ商会関係では無くそのライバル商会所属だった。

 どうやら素早い輸送とコスト削減の為に危険なルートをろくな護衛をつけず移動させていたらしい。

 旧道を使えば確かに大幅な時間短縮が出来る。

 ただなぁ、何の為にわざわざ柵までしてエリアを区切ってるのか理解して欲しいものだ。

 トラロック旧道のモンスターは上級ランクに所属するモンスターがゴロゴロしている危険地帯だからな。


 旧道近くの管理事務所に馬を止め、旧道へ入って行く。

 管理事務所の方には既に隊員たちが到着しており監視員から事情を聞いている。

 恐らく日常的に無許可で利用している商隊を見逃していたのだろう。


「ねぇ、ホマ。何かそんな黙ってられるとナギ居心地悪いんだけど」


 ナギが不安げに俺を見つめている。

 馬で移動中、ナギは同乗していたのだが会話は一切なかった。

 やはり朝のあの言葉について色々考えてしまいつい会話レスになっていたのだ。


「ああ、済まない。ちょっと考え事しててな」


 恐らく何を考えているかとか心音やら何やらで察知されてしまってるだろうな。


「やっぱり、ホマも気になってるんだね、アルの事」


「へ?」


 意外な発言に変な声が出た。

 アルの事が?

 俺は結構先を歩く同僚へ目を向ける。


「あの人、ホマの同僚だよね?ナギ、何か彼の事苦手なんだよね」


「苦手かぁ。まあ、あいつは俺様キャラだからな。人によっては尊大に感じたりするかもしれないな。でも実際話してみるといい奴だぞ?」


「あーいや、そういうのは別にいいの。あのさ、彼ってずっと『嘘の音』がしてるの。だからナギは苦手」

 

 嘘の音?

 ナギは心音とか声の強弱など様々な要素から相手の嘘を見破ることが出来る。

 その能力と元々の人間不信が重なって交友関係は限られる。


 フリーダは心がある程度読めるのなら隠し事しても仕方ないと正直にズバズバ言うようにしている。

 そしてセシルはストレート直球かつ楽しい事大好きな性格なので特に隠し事はしない。ナギとも上手くいっている。

 ただ、あいつの場合はもう少し隠し事をして欲しい。頼むから夜のプレイ内容を翌朝の席で話すのは止めて欲しいものだ。


「あいつが嘘ね。まあ、誰だって少しくらい噓つくと思うぞ」


「アルは何か次元が違うんだよね。何というか根本的に自分を隠してる感じが気持ち悪いの」


 酷い言い草だ。

 とは言え、ナギがそう感じている以上、何か大きな隠し事があるのは確かだろう。


「根本的に隠しているか……ハッ、まさかあいつ……実は女とか?」


 すると前方を歩いていたアルが返事した。


「聞こえてるぞ馬鹿。俺様は間違いなく男だ。この前一緒に風呂行った時に比べっこしただろ。あれはガキかよと呆れたぞ?」


 ああ、そうだった。

 仕事終わりに浴場へ行って、その時に何か比べっこしたな。

 何がって?そりゃ……な?


「ホマ、いい歳して何やってんの?」


「男はいつも心に少年が住んでるんだよ。っていうかアル、お前耳が良いんだな」


 結構距離が離れてるんだがあるには聞こえている様だ。


「母親譲りの地獄耳でな。おかげで余計な事も聞こえちまうから好きじゃねぇんだがな」


「あー、という事はさっきの全部聞かれてたよね。何かその、ごめんね」 


 ナギの謝罪にアルは肩をすくめ笑った。


「別にいいさ。あんたの言う通り、俺様は大きな隠し事をしてるからな。ただ、その事でお前らに害を与える気は無いからそこは信用してくれ」


 ナギの方を見ると小さくうなずいている。

 どうやら『本当の事』らしい。


「一応誠意を見せようか?隠し事のひとつについて、それは俺様の名前だ。アルシャトっていうのは本名じぇねぇ。罪人ってわけじゃねぇがあるやつから逃げててな。それで、偽名を使ってるんだ。本名については……聞かないでくれよ」


 笑いながらアルは再び歩き出した。

 そうか。あいつの名前は偽名だったか。

 まあ、義母さんもバリバリの偽名だしナギに関してもこの世界での旧姓の方は偽りのものだしな。


「やっぱり彼、『嘘つき』だね」


「え?」 


「本当の嘘つきはわずかな真実の中に噓を散りばめるの。でもどれが嘘かわからないのがまた腹立たしいかな」


 ナギが索敵範囲を広げながら移動する。

 この危険地帯で生き残っている可能性があるとすれば『セーフティーゾーン』だ。

 『セーフティーゾーン』はモンスターに襲われることが無い特殊な磁場を放っている場所で避難所とかが設置されている事もある。

 あれだよ。ハンティングゲームなんかのスタート地点とかそうだよな。何であそこ襲撃されないんだろうな。まあ、システム上の問題だろうけど。


 雨が降り始めた。

 このトラロック旧道は雨が非常に多く地面が不安定だ。

 それも使われなくなった原因だったりする。

 

「ナギ、ほら」


 俺はレインコートをナギに手渡す。


「ありがと。あれ、ホマは?もしかして持ってくるの忘れたとか?」


「そういうわけじゃ無いよ。ただ、レインコートつけていたら『動きにくい』からな」


 剣に手をかけ警戒態勢を取る。

 見ればアルも同じ様に警戒していた。


 モンスターが近くにいる。

 どこから来る?森の中?右か左か?


「ホマ、下!水たまりに潜んでる!!」


 水しぶきが上がり水たまりから巨大な蜂が数匹飛び出してきた。


「こいつは、『ダイバーワスプ』!水中に適応した毒蜂だ!!」


 水中に潜み獲物を待ち伏せする獰猛な昆虫モンスターだ。


「スプリットソング!」


 ナギが拡散型の声弾を放つ。

 だがダイバーワスプ達は驚異的な動きで弾の間を抜けてナギへと迫る。


「ナギ!」


 咄嗟にアリス姉さんから継承した力を発動。

 身体から迸った衝撃でダイバーワスプを薙ぎ払った。

 それでも一匹が急上昇してナギに狙いを定めている。


「おっと、それは悪手だったな!」


 飛び上がっていたアルが剣を振るいダイバーワスプを両断する。

 だがそれでも上半身だけで蜂は動こうともがく。


「あーそっか、虫ってしぶとかったわ。クソめんどくせぇ」


 アルは素早く納刀すると両手を広げパンッと蜂を叩き潰した。


「蜂を素手で潰すなよ。ましてやモンスターだぞそれ」


「いーんだよ。ガキの頃からこういうのは慣れてる。きちんと刺されねぇように潰したぜ」


 どんな子ども時代だよ。

 まあ、俺もガキの頃にチートスキルマシマシ状態でドラゴンとか狩ってたけどさ。


「ほれ、まだ来るぞ。気を引き締めろよ!!」


 見ればモンスター達が集まって来ている。


「ストロングリザード、アカメクック、バブルヘッジホッグ……うざそうな連中が集まってやがるな!!」


 2足歩行のムキムキトカゲがこぶしを握り締め飛びかかって来る。

 丁度制御できるようになったアリス姉さんの力で相手させてもらおうかね。

 相手の突撃する力を利用して……


「重要なのは恐れず踏み込み断つ!『粉雪一閃(こなゆきいっせん』!!」


 剣を振るいストロングリザードを正面から両断。そのボディは凍り付き地面に叩きつけられると砕け散った。

 うえぇ!?ちょっと姉さんの力殺意マシマシ過ぎないか!?

 絶対に敵を殺すマンな技じゃんか。後、氷属性の技は何というか使ってると寒い。

 とりあえずあと2種類。他のモンスターが現れる前に対処して……


「あれ?」


 何かおかしいな。

 森の中に三日月形の岩があるんだが少し動いている気が……


「おいナギ!何かヤバいの居ないか!?」


「え?えぇぇ!?」


 気づいていない!?

 だけどこれは確かに……

 瞬間、岩が動き出し下からワイバーン型の巨大ドラゴンが姿を見せた。

 どうやら岩と思っていたのはこいつの角だった様だ。


「な、何だよこいつ!?」


「ウソ!出て来るまで全然気付かなかった!?」


「そいつは三日月竜シディムだ!クソ、とんでもねぇのが潜んでやがったぞ!!」



---------モンスター名鑑---------


ダイバーワスプ

種族:昆虫類

体長:40cm

危険度:上級Lv1


水中に適応したスズメバチ。驚異的な運動性能を誇り敵を追い込む。



ストロングリザード

種族:爬虫魔獣類

体長:1m60cm

危険度:上級Lv3


全身筋肉の塊であるムキムキなトカゲ。

亜人種であるリザードマンとよく間違われるが服は着ていないのでとんでもない風評被害である。


アカメクック

種族:鳥魔獣類

体長:1m10cm

危険度:上級Lv6


非常に好戦的な血走った目の鳥。

鋭いかぎづめを持つ脚で飛びかかって鉄製の鎧にすら穴を開けてしまう。


バブルヘッジホッグ

種族:哺乳魔獣類

体長:50cm

危険度:上級Lv2


鋭い棘を背中に持つハリネズミ。

腐食性のある泡を噴射し防御力を下げた上で攻撃してくる頭脳派。


三日月竜シディム

種族:飛竜種

体長:10m

危険度:上級Lv20


あらゆる攻撃を弾く強固な甲殻と三日月形の巨大角を持つ飛竜。

飛竜であるものの殆ど飛ばず飛行能力は低い。

普段は高度なステルススキルで隠れているが自信を脅かすほどの力を持つものが縄張りに踏み込むと暴れまわって排除する。


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