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第75話 未来への投資

【ホマレ視点】


「痛たたたたぁぁっ!!」


 アリス姉さんの力を制御した上に変身を果たした『ランペイジ・デュランダル』。

 強化フォームに相応しい力だったが……変身解除と同時に凄まじい反動が襲ってきて俺はぶっ倒れた。

 

 とりあえず、今の俺は施設のベッドを借りて休んでいる。

 傍らには義母さんに呼ばれて駆けつけたナギが聖女の力で俺を癒してくれていた。

 やっぱり無事だったよあの人。爆散くらいじゃ死にはしないからな。

 逆にどうやったら死ぬか教えて欲しい。


 アトムに関してはかなりやり過ぎた感があったが恐らくは生きているだろう。

 そんな感覚が俺の中にあった。そうするとまた戦う事になるんだよな……仕方ないが生きていてくれればいつかは……


「いっつも思うけどさー、ヒーローものって強化変身してもしれっと普通の状態で『やったぜ』とかやってること多いよねー。変身者タフすぎない?」


「いい目の付け所だな、ナギ。俺も正にそう思ってたところだ」


 流石は同じ世界の出身。話が分かるのは何か嬉しい。


「ていうかセティどこ行ったの?あの子も元聖女なんだから回復出来るじゃん。二人でやったら早いじゃん」


「何かやる事あるって言ってたぞ」 


「ナギ、ホマのお姉さんが作ってくれたポーションでようやく回復したばっかりなんですけど?」


 ポーション作りと言えばリリィ姉さんだな。

 ただ、色々と突き詰める癖がある人なのでかなり尖った性能のものが出来る事が多いのだがそれでこそ我が姉だ。

 

 昨日の晩無理させたからなぁ。凄まじく反省してる。

 少しぷんすかと頬を膨らませている年上妻をなだめなくては。

 俺は手を伸ばしナギの手に重ねた。


「無理ばっかさせてごめんな。お前にはつい甘えちゃうんだよな」


「っーーー!べ、別にこれくらい元聖女なんだし問題ないから!」


 顔を真っ赤にして俯く年上。

 

「うわ……何か少し離れてみてたらあんたがたらしなのがよくわかるシーンだったぞ。しかも、割と天然にやっている感じなのがタチ悪いな」


 年下妻が呆れながら部屋に入ってきた。


「え?フィリー?いやその、これはね」


「大丈夫だ。わたしだってそれにやられたクチだしな」


 フリーダは何かを引っ張ってきていた。


「あれ?フィリー、それって台車?」


 台車!?

 今なんか嫌な単語が出てきたぞ!?


「全身激痛で動けなくなってるって聞いてさ。どうしたらいいものかってリリィ義姉さんに相談したんだ。それで、こいつの実家へ行って借りてきたよ」


 間違いない。

 あれは病院嫌いで抵抗する親父を受診させる為に作られた台車だ。

 抵抗する親父を皆で台車に寝かせて特殊な鎖で縛り付け病院まで連行する。

 ある意味公開処刑とも言える鬼畜の所業。

 あれを見て、風邪を引いたら嫌がらず素直に受診すると心に決めたものだ。 

 

「待ってくれ。話し合おう。あれは、あの台車は罰ゲームみたいなものだぞ!?俺、頑張ったよな?頑張ったのにそんな仕打ちか!?」


「ゆうべこっそりナギの部屋に夜這いしただろ?ルールは決めてるんだから、その辺は守ってもらわないとな」


「待て。それは悪かった!話し合おう。あの台車はダメだ。後生だから!ナギ!お前からも何か言ってくれ!!」


「……台車にくくりつけられたホマとか面白いかも」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁ!味方いなかったぁぁぁぁ!!


□

【セシル視点】


 ジェス君の治療をナギに任せてあたしは施設内を歩き回り『彼女』を探した。

 そして、薪割り場で膝を抱えて座り込んでいるクリスちゃんを見つける。


「クリスちゃん……」


 声をかけると彼女はいつもやっている様にスケッチブックに文字を書く。


『セシルさん?』 


「そうですよ。『遅れてやってきた3番目の超新星』ことセシルです!!」


 クリスちゃんは無言だった。

 しまった。和ませようとしたけど滑った!!

 ダメだなぁ。聖女宮のかくし芸大会ではいつも滑り倒してたからなぁ。

 クリスちゃんは目を合わせようとせず黙っていた。

 やっぱり魔人の件がかなりショックだったのだろう。


「…………みんな居なくなってしまう。大切になればなる程、自分の前から居なくなって、辛い思いをするばかりだ。こんな事なら、自分もあの時死んでいたら良かったのに」


「!」


 あたしの言葉にクリスちゃんは驚いて顔をあげていた。


「大方そんな事を考えてたんでしょう?それにこれからは一人で生きていこうって。そうすれば、誰も失くさないで済みますもんね」


 苦虫をかみつぶしたようなそんな表情で彼女はあたしを見ていた。


「あたしも同じなんです。あたしもモンスターに両親や村の皆を殺されちゃったんです。自分だけ違う所に居たから無事だったけど……それによくしてくれた先輩も……」


 彼女は驚くほどあたしに似ていた。

 だから、放っておけない。


「ひとりで生きていれば、悲しい思いなんかしないでしょう。だけど、それではダメなんです。人は、一人で生きているわけじゃない。あなたも見たでしょう。彼の戦う姿を」


「!」


 この娘はジェス君がデュランダルに変身しても認識出来ていた。

 あたしも最初聞いた時は腰を抜かしそうになったものだ。

 どうも彼とデュランダルが同一だと認識できる人間は限られているらしい。


「彼は強い。だけど一人で戦っているわけじゃない。ピンチだったけど、あたしやクリスちゃんの応援があったから自分の心に輝く勇気を持って力を制御出来たんです」


 その言葉で黙り込んでいた彼女は決壊し、言葉が溢れてきた。

 スケッチブックは要らなかった。


「だけどさ……だけど、辛い……んだよ。ああいう人だからきっといい人がいるって、自分なんかじゃダメだって。男の子と勘違いされてるけど、子ども扱いされてるけどそれでもずっと私の事気にしてくれて…………もしかしたらとか思っちゃうんだよ。だけど彼女とか連れてきたり」


「それであの娘に、フリーダに寄せてたんだよね」


 やっぱりいじらしいな、この子。

 あたしは彼女の肩をそっと抱いていた。


「いくら頑張ったって、私はあの人にとっては何もかも誰かの二番煎じなんだって思い知らされるんだよ。私なんか……」


「あのさ、無理に誰かの真似をしなくていいの。あなたは、あなた。あなたにしか無い魅力があるんだからさ。それを見つけないと。それに、彼が力を制御したあの瞬間。あなたの声援が決め手だったのは、ちょっと嫉妬しちゃったかな。後、あなたの声ってかわいいよね」


 あたしの声援で制御できてたら後で2人を煽り倒してあげようと思ってたのになぁ。ちなみに悪意とかは全然無い。ただのコミュニケーションだ。


「クリスちゃん。今は辛いかもしれない。でもあなたには自分を見つめ直して。本当の自分見つけて素敵なレディになって欲しいな。それでね、今14歳でしょ?そうだなぁ、後2年か3年、その時にまだこの胸の中にあの人への気持ちがあるなら……その時はあたし達の所においでよ。力になってあげる」


「それって……」


 勝手にこんな事して、怒られるかなぁ。

 後でフリーダとナギには話しておこう。


「もしその時は、よろしくね」


□□


【ホマレ視点】


 茜色の空が目に染みるぜ。

 俺は為すすべなく台車にくくりつけられ妻達に引かれながら帰宅することになった。

 何だろう、ドナドナ的な気分だ。親父もこんな気持ちだったのだろうかな。

 これはある意味人権侵害だぞ?今後改善の余地があるシステムだ。


「ごめんごめん、ちょっと遅くなっちゃって」


 姿は見えないけどセシルが合流した様だ。

 よし、俺のこの姿になにかしら抗議をしてくれ。


「ジェス君のその格好……ナイスアイデアですね!運ぶのも楽でいいですね!!」


 うん。わかってた。

 俺の妻って基本こういうやつばっかだよ。

 

「というかセシル。あんたどこ行ってたんだ?」


「そうですね。未来への投資をしてました」

 

 意味が解らんぞ。


「ごめん。意味わかんないんだけど……」


 困惑するフリーダだがナギがクスッと笑う。


「後で教えてあげるねー」


「あっ、ナギまさか『聞いてた』んですか?」


「まー、地獄耳だからねー。でも、ナギはセティに賛成だよ」


 何だ。俺の知らない所でまた何か悪だくみしてないか?

 気になりはするがこいつらが結託するともう止められないからな。

 俺に出来るのは平穏であることを祈るだけだ。


「それにしてもクリスが失恋していたとはな。乗り越えて、素敵な彼女を見つけてくれたらいいんだが……だけどあいつ、どんな子が好みなんだろう?わかったら色々探してやれるんだがな」


 呟いた俺の言葉に妻達が黙り込んだ。

 あれ?俺何か言っちゃってたか?


「ジェス君、でこチョップです!」


 3番目にこだわる幼馴染のチョップが額に直撃した。


「痛っ!お前本当に何をするんだ!?」


「わたしは事情がよく分からないが今のはホマレが悪い気がする」


「あはは、フィリー大正解」


 ああもうっ、本当に何なんだよ!!!



 クレイン・クリスティーナ

 年齢:14歳

 身長:141cm

好物:マヨの実

 性別:『女性』

 現在、声を取り戻し自分探し中。

 

□□□

【???】


 市内の路地裏をボロボロになった身体を引きずりながら移動する男が居た。


「くそっ、何だよあいつ。あの力……」


 ホマレにとって前世での弟、アトムである。

 必殺技を受けて爆発はしたもののギリギリの所で持ちこたえ逃げ出したのである。

 

「俺は絶対にキララの仇を討ってやる。その為ならどんな汚い事だって……がはっ!!」


 限界が来て地面に倒れ込んだ。

 そこへぶつぶつ呟きながら近づく女性が一人。


「あーもう、今回も惨敗じゃない。妹達や弟が結婚していく中、あたしだけ売れ残り続けるなんておかしいじゃない。筆頭受付嬢兼ギルドのエリア長よ!?超絶優良物件じゃない!!」


 異次元の恋愛偏差値を誇る事で有名なレム家長女、レム・ケイトリン。ホマレの、姉である。

 彼女は今日も合コンで惨敗して帰宅するところだった。

 そんな彼女がぼろ切れに倒れるアトムを見つけ慌てて駆け寄る。


「ちょっ、嘘……あなた大丈夫!?」


意図せずホマレの姉と接触してしまったアトム。

長姉の運命は!?という引きにしてみました。

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