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第72話 封印された『トモダチ』

【ホマレ視点】


 俺は作業を手伝いながら絵本の読み聞かせをしているセシルに目をやった。


「どんぶらこっこ、どんぶらこっこ。それでもラプラムは抜けません」


 セシルが読んでいるのは『異世界版大きなカブ』だ。

 親父から聞いた話をおふくろがアレンジした上で姉さん達に聞かせていたのだが意外と好評だったのでそのまま絵本化された。

 何というかおふくろはこういうビジネスチャンスに対する鼻効きが半端ない。

 レム・リゼット作『大きなラプラム』は今ではベストセラーみたいな感じになっている。

 元のネタを知っている俺やナギからすると『何か変なの混じってる』なんだがな。

 

 それにしても自分で『知的』と言うだけの事はあって確かに笑み聞かせは上手だ。

 ちなみにフリーダは文字を読むのが苦手で大胆なアレンジを加えながら『語る』。

 ナギはそもそもあまり本を読まない。音読は特に苦手で途中で飽きるタイプ。『現文の授業とかホント苦手だった』と言っていたからな。

 ちなみにナギは家庭の事情で高校を中退していたりする。

 どうも嫌な思い出があるらしく多くは語りたがらないのでこちらも敢えてそれ以上聞こうとは思わない。


「やれやれ、ようやく見つけたよ。私の可愛い息子ちゃん」


 その声に一瞬で総毛立った。

 愛する女性のひとり、ナギとよく似た声。その持ち主は……


「た、隊長」


 ナギの母親、ウィーグレイブ隊長だった。


「いやん。今日は『お義母さん』って呼んでくれないの?あれ、結構気に入ってるんだけどなぁ」


「えーと、どうも。おはようございます、お義母さん…… 


「うんうん。何度聞いてもいい響きだね。あれ、何で腰が引けてるのかな?」


 だってなぁ。正直この人が現れると割とロクなことが無い。


「えーと、俺を探してたみたいだけど」


「そうだよ。ちょっと緊急事態があってウチの隊は全員招かけたんだ。君は非番だったし義理の息子って事もあるから私が直接拾って行こうと思ったんだけど不在だったんだよね。それでナギに呼び出ししてもらおうと思ったら疲労&睡眠不足で『声を飛ばせない』ときた。どうしたんだろうね。あの子があそこまで消耗しているなんて珍しいなぁ」


 ぎくぅぅぅ!!?

 いや、まあ心当たりは……あり過ぎなんだけど。


「そ、それは非常にプライベート且つセンシティブな問題でありまして……」


 俺の視線はあちこちを泳いでいた。

 さながら止まったら死ぬというマグロの如く。

 義母は真顔で俺の顔をじっと見つめている。


「まだまだ若い方だけど君よりは6つも上なんだ。無理をさせないで欲しいね」


「す、すいません」


 義母は俺の返事に『よろしい』と笑顔を見せた。


「あの、ところで緊急事態って?」


「実はね。ある金持ちの家で盗難事件があったんだ。それで、ウチが担当したんだけど持ち出された品というのが中々に厄介なものでね。『パンドラ』って言えばわかるよね?」


「マジですか……」


 彼女が口にした『パンドラ』というのは古代のモンスターとかを封印してある危険アイテムの事だ。

 RPGなんかで時々見られる、特定のアイテムとかを持って近づいたりして封印を解くと飛び出してきて襲い掛かって来るアレだ。

 ああいうのは大概が回収されて冒険者ギルドとかで厳重に保管されたり、凄腕の冒険者数人によって中身を討伐するような対処をしている。

 危険なものだが見た目が美しかったりするので金持ちがこっそり所有しているケースがあるのだ。

 

 ちなみに地球(いせかい)にも恐らくはそうであろうと推測されるようなアイテムは存在する。

 有名どころで言えば持ち主が次々と不幸になるという『ホープダイヤモンド』なんかがそれだ。

 あっちの世界にあるものなのでどうしようもないが……


「今回盗まれたのは『クリスタル・ビースト』。名前の通りクリスタルの中に封じ込められた小動物型の『パンドラ』でコミュニケーションが取れるのでペットとして可愛がられていたらしい」


「えーと、それって何らかの形でクリスタルから出てきたら豹変する系のヤバイやつですよね」


「そうだね。ついでに言うとそいつは持ち主に『ご主人様と触れ合いたいよー』とか媚びて何とか封印を解かせようとしていたらしい」


 うわ、意外と狡猾だな。


「下手人は捕らえたんだけどね。『パンドラ』は持っていなかった。それで軽く拷……優しーく聞いたところ」


「待て。今、『拷問』って言いかけたよな!?な、何やった!?」


 義母は俺の下半身に目をやりながら呟く。


「え?聞きたい?男としては死ぬほど辛い話になるけど?まずこれくらいの針金を用意して……」


「すいません。やっぱいいです。続きをお願いします」


 ウチの隊に関わったことを後悔してくれ、泥棒君。


「そいつはこの孤児院の周辺で『パンドラ』を捨てたらしい。意外に重くて逃げる邪魔だったらしくて他の盗品を優先させたんだね。まったく、そんな事をしなければ楽に終わったのにね。封印はほぼ解けかけている状態らしい。素早く確保するよ」


「了解!」



【セシル視点】


 ジェス君が仕事という事で途中で離脱した。

 詳しくは教えてくれなかったが、少し警戒しておくよう言われた。

 もし『クリスタルの中に小動物が入っている』ものを発見したらすぐに連絡するようにも。

 明らかにヤバイ状況っぽいけど……大丈夫だろうか?


 こういう時、探索能力が無いあたしはお荷物状態だ。

 フリーダやナギみたいにサポート出来たらなぁと少し羨ましい。


 とは言え、足りないものを求めても仕方ない。

 あたしは気になっていた事をウェンディちゃんに確認する事にした。


「ジェス君が気にかけているクリスって子。あの人は弟みたいだって言ってたけど……クリス『ちゃん』ですよね?」


 あたしの言葉にウェンディちゃんが苦笑する。


「あ、やっぱり気づきましたか。クリスは女の子ですよ。ちょっと見た目男の子っぽいからホマレさんは未だに誤解してるみたいですけど」


 あー、やっぱりかぁ。


「結構女の子らしいところもあるんですよ?」


 なるほど、これはつまり聖女ランキング『元3位』であるあたしに近いレディって感じか。

 

「でも、最近少し荒れてるんです。丁度ホマレさんが彼女さんを連れてきてからかな?口調も粗雑な感じになって。ホマレさんが来るってわかった時はスカートじゃなくてショートパンツ履いてたり、髪も敢えて伸ばさず男の子っぽくしてるんですよね」


 あの子を見た時、何となくフリーダに似た格好をしているなと感じた理由が分かった。

 フリーダに寄せているんだ。フリーダは動きやすさを重視していてショートパンツで動くことも多いし女性としてはやや粗雑な口調である。


「そんな事をする理由は……まあ、あれですよね」


「あはは、本人は否定してますけどね。その認識は間違ってないと思いますよ」

 

 何ていじらしい。

 ジェス君が『今日は機嫌が悪いみたいだ』って言っていたけどそりゃそうだよ。

 長い事顔を見せないと思ったら結婚していて奥さんが3人もいるって……同じ立場ならあたしでも拗ねる。

 ジェス君=初恋の人ってわかったあの時は結構ショックだった。

 だって初恋の人と再会した瞬間には既に失恋してたんだから。


「はぁ、罪な人だなぁ……」


 あの子は自分に起こり得た未来かもしれない。

 大切な人をモンスターに殺され、恋心を抱いていた相手に関しては残酷な現実を突きつけられて……

 しかもまだあんなに幼いというのに……


「あの子、今どこに?」


「部屋にいると思いますよ。お年頃だし、女の子だっていうのもあってふたり部屋なんです。だけど同じ部屋の子が先週出て行ったから今はひとりなんですよね」


 聞けば年齢も10歳どころか14歳。無茶苦茶繊細なお年頃だー!!

 結構雑な覚え方してるなぁ、ジェス君。

 

「ちょっと会いに行っていいですか?何か、自分と重なっちゃって放っておけないんですよ」

 

□□

【クリス視点】


 はぁ、『私』ってダメだなぁ。

 いつだってそう。

 父さんも母さんも、友達も大切な人はみんな私の前から居なくなってしまう。

 仲が良かったクロエだってそう。先日、ここを出て行った。

 そして…………


 わかってたよ……こうなるのは。ダメだって思ってた。

 子どもだって思われていた。

 男の子と勘違いされていた。

 それでも、『彼』はわたしにとって拠り所のひとつだった。

 

 『彼女』だっていう人を連れて来てたことがあったがあの時はかなりショックだった。

 綺麗で快活な、少し男勝りな所がある人だった。

 ああいう人がいいのかなって思って髪は伸ばさずにいたり、口調とか格好を真似をしてみたり。

 そんな事に何の意味もないことくらいわかっていた。発育的に明らかに負けている所があるし。

 それでも、もう少し夢を見ていたかった。


 だけど結局、今日壊れてしまった。

 やっぱりあの人と結婚してた。しかも他にふたり。

 今日連れて来ていたのは『3人目』の人らしい。

 

 やっぱり胸が大きかった。この調子だと『2人目』も恐らく……

 最初から、勝ち目とか無かったのにな


 気が滅入る。

 ずっと彼の中では『10歳の男の子』だ。

 出会ってもう4年経つのにその辺には微塵も気づきやしない。

 結局はその程度だったってことだよね……


『落ち込んでいるの?』


 声の方向に視線を向ける。

 机の上に置かれたクリスタル。その中に閉じ込められている小さな動物が語り掛けてくる。

 昨日、たまたま庭で見つけて部屋に持って帰った。

 何でも妖精の一種らしく、悪い魔法使いに閉じ込められて金持ちの家に飾られていたらしい。非道ことをする奴がいるものだ。


『そうかも。ちょっと色々あってさ。頭の中ぐちゃぐちゃかな』


 便利な事に頭で考えればこの動物、『ちび』に伝わる。

 

『ボクがここから出られたら、クリスの涙を拭いてあげられるのにね』


『ありがとう。ちびは優しいね』


『多分、封印が解けかけているからもう少ししたら出られると思うんだ。だけど怖い人たちがボクを探してるんだ。だから……』


『わかってるよ。君の事はナイショでしょ?』


 悪い人が来たらこの子は連れて行かれる。

 そうなったら私は一人ぼっちになってしまう。それだけは、それだけは嫌だ。

 ガタッ!何か音がした。

 誰か来たのだろうか?そんな事を考えて窓の外を見ると……知らない男が窓に張り付いてこちらを凝視していた。


「…………見つけた」

 

余談

作中でクリスがホマレの妻達の胸について言及しています。

ランク的にはナギ>フリーダ=セシルみたいな感じになっています。


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