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第70話 3人揃えば何とやら

第9章スタート

キーワードは『強化フォーム』です。

【ホマレ視点】


「ぬあー、暑いぃ……溶けるぅ」


 ソファに腰掛けて新聞を読んでいる俺の膝に先週結婚したばかりの幼馴染妻が伸びて頭を置いていた。

 これが元聖女の現在…………まあ、何か新婚感はあるけどな。

 というか二人目になるナギも元聖女なので『聖女マニア』と言われても仕方ない。

 現に近所に住むリリィ姉さんからは『あんた、聖女が好きなのね』と白い目で見られた。

 いや、違うんだ。好きになった相手がたまたま聖女だっただけだからな? 


「異常気象です。これは何か陰謀の臭いがしますよぉ……」


「いや、これってこの時期だと割と普通の暑さだぞ?」


 ちなみに今は9月でこの国では『橙猿の節』と呼ばれている。

 夏は割とあっさり過ぎ、ほんの少し暑さが残っているくらいの気候なんだがな。


「イリス王国は割と寒冷気候でしたから。人生の大半をあっちで過ごしてたのであっちの気温に慣れちゃってるんですよ。ていうかジェス君もナギも暑さに強すぎです」


「まあ、俺とナギは元々日本人だったからな」


 じめじめした梅雨やらやたら暑い夏を乗り切っていたような人種だ。この程度の暑さくらいどうということはない。


「それ、軽く衝撃でしたよ!まさか二人とも異世界出身だったなんて。異世界人の存在は知っていましたがまさかこんな身近にいるとは思いませんでした」


 まあ、そりゃなぁ。

 というか、『軽く』なんだな。

 確かにこの世界って割と異世界人多いからなぁ。

 パターン考察をすると輪廻転生の枠組みに入ってるんじゃないだろうかと思うくらいだ。

 つまり、元居た世界とこの世界は輪廻の輪で繋がっているって感じだ。


「ぬはーっ、それにしても暑いです」


「思うんだが、くっついたら余計暑いんじゃないか?」


「あー、これはいいんですよ」


 何がいいんだよ。

 こいつ、今まで離れていた分の時間を取り戻そうと結構イチャついてくる。

 フリーダとナギもそこそこくっついて来ていた方だが恥ずかしさやお互いへの気遣いもあって遠慮がちだった。

 そんな様子を見たセシルは『勿体ない!それならあたしがその分イチャイチャします!』とこんな様子なのだ。


「あっ、あたしの『死亡記事』発見。何か変な感じですねー」


 俺の膝枕でセシルは新聞の隅にかかれた外国のニュースから『斬滅の聖女逝去』という記事を見つけた。やはり外国のニュースだと結構遅れて入って来るな。


「おやや?あー、はいはい。了解!」


 急に一人で話を始めた。ああ、遂に暑さで頭がおかしくなったのか。

 セシルは膝枕から転がり落ちて素早く身を起こし直立。


「ナギが『手伝って』って呼んでますね。ちょっとお料理行ってきます!!」


 ビシッと敬礼しセシルは掛け足でキッチンへと向かった。

 ああ、なるほどナギが『声』を飛ばしていたのか。

 それにしても何てアクティブな嫁なんだろうか。

 というかあいつ、本当に俺と同い年か?

 

「セシルってさ、本当に元気だな」


 妻達の中で最も若いフリーダが苦笑していた。

 19歳である彼女とセシルとの年齢差は5歳。


 そして一番年上のナギとは11歳も違う。

 ただ、フリーダは時々年相応の顔を見せる事はあるが何処か落ち着いていている。

 フリーダとセシルの年齢を入れ替えた方がしっくりくるくらいだ。


「最初に会った時は眉間にしわを寄せていて、気難しそうな感じだったけど今じゃムードメーカーだもんな」


「あいつはさ、本来はああいう性格だったんだよ」


 イリス王国への移住によって俺と離れた事や聖女としての使命、家族を失った事なんかで強いストレスを抱えていたんだろう。


「お前みたいにもう少し落ち着きが欲しいものだけどな」


「何かそれは『老けている』って感じに見られてるみたいで凹むな。わたし、一番若いんだぞ?」


「いやいや、お前は『落ち着いて』いるんだよ。流石は3人のリーダーだ。それに、俺に対するツッコミ力の高さは随一だぞ?」


「喜んでいいのかな、それ……」


 年下妻が苦笑した。

 

「なぁ、これからどうする気だ?お前の、前世の家族や謎の敵について……」


「ああ。そうだな」


 キララは戦いの末死亡した。

 だがまだ弟である『アトム』が残っている。

 キララの死を知って何かしら仕掛けてくる可能性は十分にある。

 それにイリス王国での事件を裏で操っていた謎の連中の存在も気になる。

 『魔人化』と呼ばれる変身能力を持つ闇の勢力。

 奴らとの戦いがいずれ再開するかもしれない。


「親父によるとあいつらは『自然災害』みたいなもので一度出てきたらしばらく息をひそめるらしい。場合によっては数十年単位でな」


 だから出来る事なんかは限られている。

 とりあえず今すぐどうとかそういうレベルでは無い。

 まあ、『アトム』に関しては注意しておくがな。


「まあ、何があろうとお前達と『姉さんや妹』の事は守って見せるさ」

 

 フリーダは少し複雑そうな表情をしつつ苦笑。


「3人も妻にしておきながらそのシスコンぶりは変わらないんだな……」


 シスコンじゃ無くなったら俺のアイデンティティーが崩壊するぞ?

 まあ、セシルは何というか勘違いから結婚に至ったわけだが結果オーライな気はする。


「まあ、私達の事が先に出てきた辺り、以前よりは大分成長しているな」


 おお、わかっているじゃないか。

 俺にとって姉と妹はもちろん大事だが、最優先は今や妻たち3人だからな。

 うん。確かに成長したと自分でも思うよ。


 昼食には我が家では珍しく魚料理が食卓に並んだ。

 これまではフリーダもナギもあまり自信が無いという事で魚は避けられていた。

 ちなみに俺はと言うと……基本的に料理なんぞ出来ない。

  

 簡単な焼き物とかは出来るが手の込んだ料理なんぞお手上げだ。

 せいぜい皿を並べたり、後は『美味しかった』と感謝を伝える事でしか貢献することが出来ない。


 子どもの頃に姉や妹達はきっちりと料理を教わっていたが俺はと言うとチートスキルのせいでクエストに出かけるのが楽しくて仕方なくそんなものは教わらなかった。

 更に言えば姉達が『鬼かわいがり』してくれていたので後片付けなんかも結構してくれたりしていた。 ケイト姉さんも『初めての弟が可愛すぎで相当甘やかした』と反省していた。

 というわけで俺の家事能力なんてはっきり言って『家事なんかできない昭和のお父さん』状態だ。

 家事が出来る昭和のお父さん達ごめんなさい。


「ミラトラウトをソテーにしてみたんですよ。つけ合わせはリムさんから分けていただいた『ジャガイモ』です」


「セティは魚の処理とか出来るから助かるよね。ナギもフィリーも魚は串に刺して適当に焼くくらいしかできなかったからね」


「だって、村に居た時は魚はそうやって食べてたからな。下処理なんて考えてなかったよ」


 フリーダが苦笑した。


「まあ、豪快塩焼きはあれで美味いから好きだが、こういうのもいいよな」


 食卓が華やかになった感じだ。

 一応断っておくがフリーダもナギも料理は得意だ。

 フリーダは単純ではあるが豪快な料理。炒め物とかが得意だ。

 ナギは地球(いせかい)の知識を基に作る料理。さらっと和食を作ってくれたりする。

 そしてセシルはちょっと手の込んだ料理。色々と栄養なんかも考えてくれる。


 やばいな。俺、恵まれすぎてないか?

 

□□


 昼食後、俺の両側をフリーダとナギが挟み、セシルは椅子に逆向きで座って談笑していた。

 最初、『それじゃああたしは膝の上で』とか言い出したが却下しておいた。


 そして、今後の事について話し合う事になった。

 てっきりセシルも俺達と一緒に冒険者になると思っていたが……


「あたしは冒険者として活動はしません。ライセンスも無いですしね。仕事を見つけて働こうと思います。実はお義母様から声をかけていただいてるんですよ」


 セシルはリーゼ商会で働くことに決めたらしい。

 確かに事情を考慮したらおふくろの息がかかった所に居るのが安全牌な気がする。

 一緒に冒険へ行くの、少し楽しみにしていたんだが仕方ないな。


「それで、明日はリーゼ商会運営の孤児院への訪問に参加することになったんです。『おやゆびの館』ってところです」


 警備隊でも定期的にやってるあれか。

 親を亡くした子ども達を支援している施設だな。

 そして……

 

「そうか。それじゃあ、俺もついて行っていいか?ちょっと気になる子が居てな」


「気になる子?まさか女の子ですか!?」


「急に対抗心を燃やすな。相手は『10歳』の子どもだ」


「ホマ……まさか……小さな女の子を自分のハーレムに入れようと狙ってる!?」


 ナギが顔を青くしてこちらを見ている。

 いや待て。それは違う。


「何か色々と最低ですね」


「ああ、最低だな。流石のわたしもびっくりだよ」


 話が勝手に独り歩きをしている。

 いかん、情報を素早く訂正せねば風評被害が恐ろしい事になっているではないか。


「待て。とりあえず誤解だ。そういう意図は一切ない。ついでに言えばその子は『男の子』だ」


「ホマレ、あんたまさか『そっち』も……やっぱり男の方もイケるのか!?」


 今度はフリーダが顔を青くしていた。

 いや、『やっぱり』って何だよ!


「何か色々と最低だねー」


「ええ、最低ですね」


「だから違う!!」


 いかん、こいつら3人揃う事で恐ろしいコンビネーションを発揮しているぞ。


「というかお前ら、自分の夫を何だと思っているんだ!?」


 するとセシルが笑顔で答える。


「意外と性欲が強い幼馴染」


「何だかんだで女好きなシスコン転生者」


「そう言えばホマってナギと初めての時にね……」


 やべぇ、ナギの言う『初めての時』って言うのは結婚前のあれじゃなくてその数年前、ナギと一線超えかけた時の話だ。

 三人の間では様々な情報共有がされているが『アレ』に関してはされていない。

 

「ぬあぁぁぁぁ、ダメ!後生だから『アレ』は秘密にしといてくれぇぇぇ!!」


 だ、ダメだ。三人揃うとマジで太刀打ち出来ん。

 完全に掌で転がされているぞ。

 先が思いやられる……

 

余談

第15話でホマレがフリーダにぶちかました『大人のキス』について。

ホマレにこれを仕込んだのは聖女になる前のナギです。

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