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第69話 3人目

【ホマレ視点】


 翌日、俺達はパレオログ公爵の屋敷に招かれていた。

 ちなみにセシルは偽装工作の為、棺に入っての移動という中々シュールな状態だった。

 一応、公的には死んだという事で訃報が出されているしな。

 生前の希望により亡骸は故郷の地に埋葬するという名目で棺に入れた状態で国外へ逃がすという作戦だ。

 その過程でここへ立ち寄る事となったのだが……


「ようこそ、おいでくださいました」


 俺達を迎えたのは着飾り丁寧な挨拶をするパレオログ公爵夫人こと我が妹、メールだった。

 ああ、本当にこいつ結婚してたんだぁな。と少し寂しさを感じた。

 だが同時に愛らしくも気品に溢れた姿に対しこれだけで白飯5杯はいけるとも感じた。

 まあ、そんな事を考えていたらフリーダに足を踏みつけられた。

 どうも彼女は『何となく考えている事がわかる』らしい。何か熟年夫婦の域に達してるぞ?

 

 屋敷内には色々と諦めた表情の『抑止力』ことアンママ。そしてその隣にはげっそりとしたケイト姉さんが居た。

 同じく屋敷に招かれていたリムによると国境の街ですさまじい『怒気』を放っていたアンママを迎えに行ってずっとなだめていた結果らしい。

 流石我が家の長姉。頼りになる。まあ、『妹が……また妹の方が先に……あたし、完全に行き遅れてる……』とか呟いていた。

 母親をなだめていたこと以外にも精神をすり減らす要素があったのは確かだ。

 

 仕方ない。こうなったら法律的には認められないけど俺が一生面倒を見てあげよう。

 だから姉さん、どうか安心して……


『はい、シェイクゥーッ!!』

 

「あばばばばばばばっ!?」


 ナギの『声』が脳を揺らした。殺す気か!!?

 見ればフリーダがナギに指示を出し声を飛ばさせていた。


「お前らなぁ……」


 何だよ、某アニメの主人公みたいなポーズで『行け、ナギ、10連シェイク!』って!


『威力は押さえてるから、問題ナシッ!!』


 くそ、完全に手綱を握られてる感があるな。

 まあ不快ではない。むしろこんな風な関係もまた楽しく感じる。

 

 窓の外を見ると屈強な体つきをした男が親父と戦っていた。

 多分あれがメールの旦那なのだろう。

 察するに『挨拶が遅れて申し訳ありません、娘さんをください』『娘をやれるかぁぁ』的な奴だろう。

 最終的に筋肉で分かり合おうとしているに違いない。なるほど、妹にピッタリの男だな。

 親父もクマと殴り合いをして分かり合うような人なので仲良くなれそうだ。

 ちなみにその時分かり合ったクマの子孫はアリス姉さんの家で番犬ならぬ番クマをしているらしい。

 どこからツッコんだらいいんだろうな。


 ただ、親父が戦うのを見て『楽しそう』と感じてしまっている辺り、俺の性格は本格的に親父に似てきたわけだな。性癖も大体同じだし。

 うん、『転生したけど何やかんやで親そっくりです』だな。


「ちょっとジェス君!何であたしを馬車の中に置いていくんですか?」


「死人が生き返るな、ゾンビか!」


「酷い!ちょっと驚かそうと思っただけなのにこの扱い、さては根に持ってますね!?」


 棺に置いてきたセシルが抗議の声をあげながら入ってきた。

 おいおい、生きてる事がバレたらややこしくなるだろうが。


「大丈夫だって、ウチで働いている子達含め、チクるようなのはいないよ」


 相変わらずお気楽な妹奥様に苦笑。俺が気にし過ぎなのかな。

 まあ、グレースによるとマントル子爵とやらは色々と不正に手を染めていた疑いもありその内失脚することになるらしい。

 うん、セシルがそんなやつの毒牙にかからなくて良かった。



「うーん、困ったなぁ」


 俺達が屋敷に到着してから半時間ほど経ち

 メールが頬杖をついて呟いた。


「どうした?」


「何かさ、お父さんとダーリンが意気投合しちゃったみたいで狩りに出かけちゃったんだよね。せっかくみんなに紹介しようと思ったのに」


 あー、何かすげぇ想像つく光景だな。

 というかこいつ、旦那の事を『ダーリン』って呼んでるのか?

 控えめに言って可愛すぎだろ!!


「ああ、長年一緒に住み続けてきたのに少しも気づかなかった自分が情けないですわ……」


 末妹はメールが結婚していた事にかなりショックを受けていた。


「リム義姉さん落ち着いて。メール義姉さんがあまりにも自然体過ぎるんだよ。気づける人なんていなかったって」


 本当に自然体だったんだよなぁ。

 何ともまあ、末恐ろしい妹だ。


「あははは、いやぁ、一時期あたし自身も公爵夫人だってことを忘れていた事もあったくらいだからねぇ」


 それはどうかと思う。笑いごとで済ますな。

 違う意味で末恐ろしいわ。

 そんな中、3歳くらいの女の子がメールに近づいてきた。


「あっ、ユリリィだぁ。元気してた?」


 笑顔でその子を抱き上げた妹だが俺達はその光景に凍り付いた。

 待て待て待てぇぇぇ!!!それはダメだ。流石にダメだ!!


 視線を動かしてみれば引きつった笑顔のアンママが見える。

 怖い怖いマジで怖いぃぃぃ!慎重に、慎重に事を運ばないといけない。

 下手な真似をすればここら一体が更地になるぞ!?

 今、そこに着火寸前の『抑止力』が立っているんだ。

 本気でヤバいぞ!!?


「あれ、もしかしてあの子ってメールさんの子どもですか?」


 セシルゥゥゥ!?

 慎重が、慎重が事故死したぞ!?

 一気に緊張が高まった!世界崩壊の危機だぞ!!? 


『だ、大丈夫。安心してホマ!』


 ナギが声を飛ばしてきた。

 という事はまさか……


「この子はウチで働く使用人の子どもだよ?あたしに懐いてくれてるんだよね」


 良かったぁぁぁぁぁ。

 見れば皆が胸をなでおろしていた。


 メイママが気分の落ち着くハーブを焚いてアンママの興奮を落ち着けようと試みていた。


「大丈夫ですからね。ほら、今日は純粋にあの子の結婚を喜びましょう」


「そ、そうだよ。公爵夫人になるなんてすごいよ。いい人を見つけたよね」


 おふくろもアンママをなだめていた。

  

「そ、そうね。確かに黙って結婚して、隠していたことは腹が立ったけど結果としてそれが最善に働いたわけだし」


 ああ、良かった。

 どうやらアンママの怒りが収まったようだ。


「ああ、良かったよ。わたし、生きた心地がしなかった」


「あはは、ナギも」


 俺の隣に来たフリーダとナギは苦笑しながら俺に軽くもたれかかる。

 そんな中、一人の侍女が小さな赤ん坊を抱きかかえてやってきた。

 ああ、なるほど。ここではああやって使用人の子どももメールが可愛がってあげてるんだな。

 面倒見のいい立派な妹だなぁ。


「そうそう。紹介するね。この子があたしの息子、レオポルドだよ」


 直後、『抑止力』が爆発した。


□□

 

 それからは全員で怒り狂うアンママを抑え込むのが大変だった。

 魔法こそ撃たなかったが何というか、この歳で漏らしそうになるくらい怖かった。

 最終的には狩りから仲良く戻ってきた親父とメールの旦那による説得で矛を収めてくれて良かった。

 一応、国内で何やかんやあって政治的な理由からウチとの関係性を敢えて隠すことになったらしい。

 重ね重ねの謝罪の末、今は初孫に顔を緩ませまくっている。同一人物とは思えない変わり様だ。

 

 しかしなぁ、子どもまでいたとは。

 そう言えば半年以上イリス王国へ修行に出てた時期があったな。あの時に産んだな?

 思えばあの時は定期的に手紙なんぞを送ってきてたから何も疑わなかったわ。 

 本当に色々と末恐ろしい。

 

 そして益々落ち込む長姉。

 妹よ、これ以上は隠し種無いよな?もうケイト姉さんのライフはゼロだぞ?


 さて、色々と落ち着いてきた。

 これ以上何も起きはしないだろう。いや、起きたたまるか。

 そんな時、フリーダがセシルに話しかけているのが聞こえた。


「なぁ、セシルってこれからどうするんだ?だって、もうこの国では死んだことになってるんだろ?」


 そう。セシルはイリス王国の公的記録では死亡扱いとなっている。

 急であった為、ナダ共和国へ亡命した後の事まではあまり詰めて考えられてなかった。


「まあ、両親はこっちで亡くなっていますし親戚も居ないから根無し草みたいなものですね。聖女としても『死亡扱い』なので活動は出来ませんし困ったものです」

 

 それでも好色子爵の妻になるよりは百倍もマシとのことだ。

 まあ、多分その辺はおふくろの『リーゼ商会』辺りが色々と手を差し伸べてくれるだろう。

 慈善事業とかも色々やっているようなところだからな。

 とは言え、当面は住むところか。彼女が昔住んでいた貧民街も今は再開発されてしまっている。

 

「そうだな。とりあえず『ウチ』にでも来ればいいだろ。部屋も余ってるし」

 

 ふと、そんな言葉が口から出た。


「え?」


 セシルが目を丸くする。

 いやだって、今回の件でメールも今までみたいなことは出来ず実質家を出ることになるだろうから、『実家』はますます寂しくなる。

 元々賑やかな家だったから、割と騒がしいこいつが居たら親父達も寂しくは無いだろう。


「ジェス君、それって……あの、でも」


「まあ、お前さえよければ『ウチ』に来てくれたら安心だし、嬉しいんだがな」


「えっと……」


 何だ、セシルの顔が妙に赤い気がするが……熱でもあるのか?

 棺に入って移動してて風邪でも引いたか?


「フィリー、これは意外な展開になったね」


「ああ。まさかホマレも同じような気持ちだったなんてね」

 

 ほう。どうやらふたりも同じことを考えていたらしい。

 そうだな。やっぱり行く場所が無いなら『実家』に来たらいいんだ。

 親達も段々と高齢になっている。この世界の平均寿命は地球(いせかい)に比べればやはり短いのでそういった面からしても一緒に暮らしてくれていたら安心もする。

 面倒見のいい家なので最終的には就職の手伝いなんかもしてくれて割とウィンウィンになるのではなかろうか。うん、俺って頭いいな。


「それじゃあ、フィリー。お願いね」


「そうだな。それじゃあさ、セシル、あんたに頼みがあるんだ」


 フリーダが軽く咳ばらいをして襟を正す。

 ナギも微笑みながら頷く。

 ほう、フリーダが提案してくれるのか。よく出来た嫁で嬉しい限りだ。


「あんた、わたし達と家族になろうよ」


 え?

 今、年下妻の口から妙な言葉が出たぞ?

 えっと、家族?あー、そうか。確かに『実家』に住んでくれたらそれはある意味『家族』に近い付き合いになるよな。


「い、いいんですか?でも……」


「ホマもいいって言ってるしさ。命がけでフィリーを助けてくれたよね?最初はあんま好きじゃなかったけど、ナギも何だかんだでキミとなら上手くやれそうな気がするんだよね。どうかな、『セティ』?」


 おや、ナギが遂にセシルを『あだ名呼び』したぞ。

 だが待て。『上手くやれそう』?本当に何か俺の意図とは違う事が起きている様な……


「あたしが……ジェス君のお嫁さんに……」


 えええっ!?

 待て待て。何故そうなる!?

 どういう事か考えるんだ。『素数』を数えながら冷静になって思考すばいいんだ。よし、息を整えてよう。うん。うん……


「あっ!?」


 気づいた。そうだ、俺は『ウチに来い』と言った。

 意図としては『ウチ』=『実家』だったわけだが冷静に考えれば現状で『ウチ』になるのは新婚生活を送っている『新居』じゃないか。

 つまり俺ったら、意図せず『プロポーズ』してた!?

 あらやだ、ナダ男子として恥ずかしい。本当は転生した日本人だけどさ。

 

「なぁ、セシル。あんた『3』が好きだろ?わたし達と家族になったらもれなく『3番目』だぞ?」


 その言葉にセシルは大きく目を見開き叫ぶ。


「なります!あたし、ジェス君の『3番目』に!!」


 いや、『3』で即答かよ!?


「ふふっ、けってーい、だね」


 待て、誤解だ。早まるな幼馴染よ!!

 そして誰かこの流れを止めてくれ!!

 とは言え、もうこんなの『誤解です』とか言える雰囲気では無い。

 

「というかさ、気になってたけど何で『3』が好きなんだ?」


「そ、それは……小さい頃、ジェス君が『3番目って何かカッコいいよなぁ』って言っていて、それで……」

 

 それって俺のせいじゃねぇか!!

 そうだよ。俺馬鹿だったから、『ナンバー3って強キャラ感あるよなぁ』とか勝手に思って色々こいつに語ってたわ。

  

 見ればセシルが不安げな表情で俺を見ており更に周囲では姉や妹、そして母親達があきれた様子で俺を見ていた。

 まあ、よく考えればセシルもまた、変わらず俺に対して想いを持ってくれていた人なわけだしそう考えると……


「兄ちゃん、覚悟決めちゃいなよ」


 メールがにかっと笑顔を見せた。

 あーもう、確かにこれは覚悟を決めるしかないな。


「みんな、聞いてくれ。そして認めて欲しい。俺は彼女を、セシルを3人目の妻として迎え、ナダ共和国へ連れて帰る事にするぞ!いいよな、セシル?」


「はい!よろしくお願いします!!」


 セシルの返事に歓声が巻き起こる。


「ああ、息子が。ホマレが遂に父親と同じレベルに達したぁぁ」


 おふくろがふらつきそれをメイママが苦笑して支えていた。

 こうして俺は、幼馴染のセシルを3人目の妻として家族に迎える事となった。



 レム・セシル ※ナダ共和国に帰国後戸籍を取得

 旧姓:ビスケーン

 年齢;24歳

 肩書:『元』斬滅の聖女 ※イリス王国の公的記録では死亡扱い

 ナギによるあだ名;セティ

 好きな数字:3

 

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