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第66話 最後に見る景色

勝手に妹の方ががボス戦みたいなことを始めてます。

尚、今話は終始いつもと違う三人称視点で書かれています。


 王都へパレオログ公爵をはじめとする増援部隊が到着しつつある中、王城内でひとつの決着がつく。

 レム家末妹リムとキュレネのゴーレム使い同士の戦い。

 

「バクレツ狼牙ドリル!!!」


 キュレネのゴーレムにドリルが叩き込まれ激しい火花を噴出。


「そんな、私の、私のゴーレムがぁぁぁ!!?」

 

 悲鳴をあげつつ、キュレネは倒れ込んだゴーレムと共に爆散してしまった。

 ゴーレム内で息を整えるリムはめちゃくちゃになった王城内を見渡し思う。


 しまった、超絶やり過ぎた!と。もう色々とめちゃくちゃになっている。

 壁なんかあちこちひびが入っているし階段の手すりも1周回って芸術性を感じるまでにボロボロ。

 弁償しろと言われたら国外逃亡しかない。そんなレベルだ。

 農作業が出来るから百姓に転職は出来るだろうが逃げ回りながらというのは中々に難易度が高い。


「ま、まずは速やかに離れましょう。お兄様の方は……まあ、あの方なら何とかするでしょう」


微妙に薄情な妹はゴーレムを異空間に還すとその場からそそくさと逃げ出した。


 王都の広場ではレム家四女メールは魔人カミラと激闘を繰り広げていた。


「雷天馬のいななきーーっ!!」


 サンダーペガサススタイルにスタイルチェンジしたメールは魔人目掛けてフット・スタンプを連続して放つ。


「シャドーシャッターッッ!!」


 魔人カミラが影で出来た翼を折りたたんで前面に盾を張り攻撃を弾く。


「足掻こうが無駄な事さ。間もなく増援が王都へなだれ込んでくる。その先に待っているのは一方的な蹂躙でしかない。馬鹿げた希望を持ったが故にそれ以上の絶望を味わうことになるのさ!あんたも、バカ兄貴に何か協力せずどこか遠くの国へ逃げてたら助かったかもしれないのにね!!」


「黙れ!あたし達は負けない。戦争だって起こさせやしない!戦争なんか間違ってる!!」


 空中を飛び回りながら連続して放たれる打撃を魔人カミラは悉く防御していた。

 

「青臭いよ!世界は常に勝者が正しいのさ!お前達は闇に蝕まれ、その犠牲となっていくだけだ!安心しな。すぐには殺さない。女で、しかもそこそこの美人だ。捕虜として使い様は幾らでもあるんだからねぇ!!」

 

「サンダーブランディングッッ!!」


 メール最大の大技ですら影の盾には防がれてしまう。

 反撃とばかりに宙を舞う影の刃たちが鉄壁の防御を誇るはずであるメールの身体に傷をつけていく。


「おっと、あんまり傷つけたら価値が下がっちゃうからね。まあ、でも、多少は痛めつけて心を折っておかないとねぇ!!」


 鋭い爪を構え突撃していく。

 メールは魔人カミラの腕を取るとそのまま空中で回転し一本背負いの要領で地面に叩きつけた。


「あたしの心は折れたりしない。負けるのはあんた達だ!!」


 追撃のボディプレスを行おうとするが魔人カミラはスパイクのついた膝で飛び膝蹴りをメールの額に叩き込んだ。

 

「うぁ……っ」


 血を出しながらメールが地面に倒れ込む。


「現実を見ろぉぉ!!間もなく陰惨な殲滅戦が始まる!守りたかったものも何もかも奪われていく様をたっぷり見せてあげる!!!」


□□



 正門より増援軍がなだれ込んで来た。

 未だに意識が戻らないセシルを抱えながらフリーダ達は戦慄した。

 自分達の負けだ。折角セシルが命を取り留めたのにこれでは……

 

「フィリー!ナギが支援するから何とか逃げて……あれ?」


 だが増援の兵士達は二人に襲い掛かる事はなく進軍。

 しかも攻撃を加えている相手は……


「えっと、何かナギ達に味方してくれてる?」


 増援が攻撃を加えているのは突入部隊では無く防衛部隊の方だった。

 唖然とする中、侍女服を纏った女性が近づいてくる。


「フリーダ様にナギ様、ですね。私、『パレオログ侍女隊』のフルーレと申します」


 戸惑う二人にうやうやしく礼をするとフルーレは告げた。


「パレオログ公爵はディズデモナ公爵に対し反旗を翻し、王国を奪還することを決意なさりました。他の諸侯たちも同じです。そして私の使命は奥様の縁者であるお二人を護衛する事」


「え?奥様?縁者?」


 フリーダが目を白黒させナギを見る。

 当然ナギも何のことかわからず首を横に振る。


「あのさ、ちょっと教えて欲しいんだけど。ナギ達の縁者だっていう奥様って……誰?」


 フルーレは力強く答えた。


「パレオログ公爵夫人、パレオログ・レム・ラメール様でございます」


 その名に二人は顔を見合わせ、叫んだ。


「「えぇぇーーーーーーーっ!?」」


□□□

 

 魔人は困惑していた。

 増援による一方的な殲滅、悲鳴と絶望の地獄絵図が広がると思っていたがそうはならなかった。

 

「何よこれ!?何であいつらが反乱軍に力を貸してるのよ!?どいつもこいつも、協力する代わりに穏健派の聖女を褒美にくれてやった連中も何で裏切ってるのよ!!?」


 魔人は咆哮した。

 その頃、戦場ではこんな会話交わされていた。


「おお、ゼルト男爵。あなたも『こちら側』ですか」


「ええ、ジーラッハ子爵。妻からパレオログ公爵側に協力するよう強く勧められましてね。やっぱり惚れた弱みというやつですな」


「ウチもそんな感じです。ディズデモナ側につくなら自害すると言われましてそれは流石にねぇ。いっそ駆け落ちでもしようかと思いましたがそこにパレオログ公爵からの提案が来まして乗る事に決めたんですよ」


 この二人はいずれも穏健派の聖女を返礼品として受け取って妻にした貴族であった。

 穏健派の聖女を無理やり妻にしたはいいが結局のところ妻達に説得され、そこにパレオログ公爵の作戦を聞き賛同することとなったのだ。

 このちょっといい加減な所もまた、イリス人の特徴だったりする。

 

 戦場を華麗に舞う侍女服の乙女たちが居た。

 彼女らは『パレオログ侍女隊』。パレオログ領きっての武闘派女性で構成されている。

 侍女達は倒れ込んだメールに襲い掛かろうとしている兵士達をことごとくなぎ倒していく。


「ああっ、ポーリー、ヴァイオレット、ジョステル、リザベルタ、カロリア、み、みんな。来てくれたんだね!!」

 

 かつて自分と拳を交えわかりあった侍女達の姿にメールは身体の底から熱いものがこみ上げて来た。


「奥様が戦っておられるわ!」


「私達の名を呼び、労ってくれているわ!」


「何という僥倖(ぎょうこう)!皆、鼓舞の準備を!侍女隊の誇りにかけて奥様にコールをおくるのです!!!」


「応っっ!!」


 一列に並んだ侍女たちが一斉に声を張り上げた。

 

「メールッ!メールッ!メールッ!メールッ!」


 異様な光景に周辺の兵士達も戦いを止めメールと魔人の戦いを見守る。

 いつしか兵士達もメールへのコールを行っていた。


「か、歓声だと!?そんな、アイドルだった時代が、あの頃があるからわかる!これは、これはマズイ!!」


「へぇ、わかるんだ。思わぬところで分かり合えたんだね。このコールを聞くとさ、身体の奥から力がみなぎって来るんだよね!こんな所で負けてたまるかぁぁっ!!」


 立ち上がったメールが輝かんばかりの闘気を放つ。

 闘気はやがて緑色へと変化しメールの身体のあちこちに小型の盾の様な装甲が出現。


「テクニカルドラゴンスタイル!ここからが、あたしのステージだぁぁぁぁ!!!


「ち、違う!ステージに立つのは、最後に立っているのは……わ、私だぁぁぁ!!!」


 カミラはメールに組み付き脇の下に頭を入れるとそのままエクスプロイダーで投げる。

 

「ど、どうだ。あんたの得意な格闘戦ですら魔人は凌駕する!!」


「誰が凌駕してるってぇぇぇっ!」


 メールは素早く立ち上がると魔人カミラをリフトアップして飛び上がるとバックフリップで投げつける。


「ワイバーンフリップ!!」


 更に飛び上がると追撃のギロチンドロップ。

 

「まだだぁぁぁっ!!」


 ギロチンドロップを受け止めた魔人カミラはドラゴンスクリューでメールを投げ逆に追撃のカンガルーキックを決めた。


「ククク、な、何だこの高揚は。久々だよ。研修生だった頃のあのがむしゃらな毎日。あの時みたいに心が躍る!もっとだ、もっと私にぶつけてこい!!」


「言われなくても遠慮なく、行かせてもらうよッッ!!」


 メールは叫ぶと飛び上がりフライングヘッドシザースで魔人カミラを投げる。

 負けじとカミラは翼でメールを打ち上げると背後から組み付き四肢を固定。地面へと叩きつけた。


「カミラ・フープシュラオバー!!!」


「がはっ!」


 血を吐くメールだがすぐに立ち上がる。


「きゃははは、こいつまだ立ち上がってくる!本当に面白いじゃないさ!あんたの全てを受け止め、力でそれを打ち砕いてやる!!」


「まだまだぁぁっ!この身がいくら砕けようとも、響き渡る仲間の声援。それこそがあたしの最大の武器だぁぁッ!!」


 メールは魔人カミラを飛び越えて背後からうつぶせに倒すと左手を捕らえて捻る。

 更に左脚は小脇に抱え込みエビ反り状に引っ張ると右脚を踏みつけながら股裂きを極めた。


「新技、ドラゴニック・ツイスターッ!!!」


「ぐああぁぁっ、な、何よこの技!?」


 ミシミシと音を立て骨がきしむ。


「どうだ!いつか姉ちゃんに勝つために編み出したストレッチ技だ!」


「くくく、凄い!凄いよラメール!!あんたは最高だッ!!」


 メールはさらに力を込めていきやがて魔人カミラの左手、左脚が破壊された。


「ぎゅ、ギュァァァ!!」


「まだだ、ここからが、フィナーレだぁぁっ!」

 

 技を解いたメールは魔人カミラを抱えて上空へ放り投げると自身も追随。

 そして逆さまになった魔人の背後から両腕を掴んだ。

 更に自身の両脚を相手の両脚へ引っかけ身動きが取れない状態にしながら落下していく。


「あたしの必殺技(フィニッシュアーツ)!ドラグーン・ヴィクトリーーーーッ!クラッーーーシュッ、エンドォォォッッ!!」


 技名を叫ぶと共に魔人の頭部が地面へと叩きつけられると口から大量の血反吐を吐き全身へとヒビが奔った。


「キャ、キャハハハハ。ああ、チクショウ。楽しかったなぁ。誰かを踏みにじったりするよりも、こんな楽しい事、あったんだぁ……」


 メールがホールドを解くとゆっくりとカミラの身体は地面に叩きつけられ完全にダウンした。


「あはっ、な、何かさぁ思い出しちゃった。私が、アイドルを目指した理由。お兄ちゃんがさ、私の歌やダンスがすっごく上手だって言ってくれてさ……それで嬉しくて……何で忘れたんだろ、お兄ちゃんは、私の……最初のファンだったのに……」


「キララ……」


「……そ、そんな顔しないでよ。私は、いつの頃からか目的も忘れて『色の無い景色』ばっかり見て来て……でも、あんたと戦って本当に久しぶりだけど、すっごく『輝いている景色』が見れたんだ。最高に楽しかったよ。心残りは、ちゃんとお兄ちゃんに謝れなかったこと、かな……あーあ、何で最後に思い出しちゃったのかなぁ、きゃはは……は……あんた、最高の幸せもんだね。あの人が、お兄ちゃ……ん……な……んだから」


 魔人カミラは一度ニヤッと笑うと全身のひび割れがさらに広がりガラス細工が壊れる様に砕け散り、砂へと変わって行った。


「キララちゃんッッ!」


 かつてキララであった砂をすくいあげるがそれは広場へ吹き込んだ風に舞いあげられ霧散していった。


「……笑い合いたかった。前世の妹と、今の妹同士で兄ちゃんにわがまま言ったり……キララちゃん、許されない事ばかりしてきた君だけど、せめて天上の女神様の下では安らかに」


 こぶしを握り締め大きく天へと突き出し勝利を宣言する。

 歓声の中、メールは天へと還って行ったライバルの為に静かに涙を流していた。


 ◯パレオログ公爵夫人メール VS 影の聖女キララ ●<死亡>


 試合時間:35分

 決まり手:ドラグーン・ヴィクトリー

 

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