第63話 凶刃
【????】
戦いの混乱が渦巻く中、密かに王都へ入り込んだ者達が居た。
フードで顔を隠したその人物達は『誰か』を探し王都を駆け抜けていた。
「急がないと……急いで見つけないと」
フードを被った『少女』が呟いた。
【フリーダ視点】
何とか生き残るんだ。
ホマレが王女様を助け出すまで持ちこたえなきゃ!!
そんな中、わたしの『糸』がこれまでにないレベルで震えだす。
今までで最大級の危険が迫っているという合図だ。
どこから来る!?周囲を警戒する中、『それ』は来た。
わたしの背後から気配がした。
振り返るとわたしの影が盛り上がり黒いナイフを構えた女が立っていた。
こいつは、確かホマレにとって前世の妹。
この事件の首謀者のひとり、『影の聖女』キララ!?
「フィリー!?」
「きゃははっ、あんたはこれで退場!あいつが悔しがる顏が目に浮かぶなぁ」
マズイ、あまりに近すぎて『糸』が間に合わない。
「爆ぜろ、花火殺影ッ!!」
黒いオーラを纏ったナイフが突き出される。
あれに当たるのはマズイ。絶対にダメな奴だけど……防ぐ手段が無い!!
「危ないっ!!」
凶刃は体当たりしてわたしを突き飛ばしたセシルの胸へと沈んでいき、爆発。
セシルの身体が吹き飛び地面に叩きつけられた。
「セシルッッ!?」
「嘘!?セシル!?」
ナギも異変に気付き叫ぶがその時には終わっていた。
「ああくそっ!!?とっておきなのに何でこんなくだんないやつ相手に!!」
キララは毒を吐きながらナギの『ランチャーソング』を回避。
近くに居た兵士達と交戦を開始して離れて行く。
わたしは慌ててセシルにかけ寄り『癒雷糸』を出す。
大丈夫だ。1年前のリゼットさんの時よりも回復能力は上がっている。
ナギもいるんだから絶対に助かる。
だけどセシルはわたしの手を握り首を横に振る。
「あたしはもうダメみたい……です。だからその力は……彼の為…に、彼が愛する……あなたが……生き残る為に使って……ください」
「何言ってるんだ!?そんなの絶対に」
「彼の事…………お願いします……ジェス……君……………」
言い終えると共にセシルの手が力なく地面に落ちた。
嫌だ。こんなの、受け入れられない。受け入れていいはずがない。
「嘘だろ!?ナギ!あんたも早く治癒をしてくれよ!!」
ナギは血が出る程に唇を噛みしめ、兵士達を斬り捨ててこちらへ戻って来るキララを睨みつけていた。
それが意味することを理解し、無力さと共に激しい怒りがこみ上げて来た。
ようやく初恋の人と再会できたのに。もし少し運命が違っていれば、あいつの隣に居たのはセシルだったかもしれない。
自分の気持ちに決着をつけて、前に進もうとしていたのに。
「あーあ、死んじゃったの、『それ』?他人を庇って死ぬなんて馬鹿な女だね。でも安心しなよ。あんた達もすぐ同じところへ行けるからさ。あんた達の首をあのバカ兄の前に置いていたぶってやるっていいよね。あはは、楽しそうだなぁ」
「あんたは……あんたはぁぁ!!!」
槍を構え殺意を以てキララを睨み臨戦態勢に。
ナギも同様に構えふたりで並び立つ。
「ダメだよ。そうやって怒って冷静さを無くしたらあっちの思うツボだから」
背後からわたし達の首根っこを掴み後ろへ引き戻した人が居た。
「メリー!?」
「義姉さん!?」
それはさっきから戦場を飛び回り戦っていたメール義姉さんであった。
義姉さんは地面に横たわるセシルに目をやり小さく息を吐く。
「ここはあたしがやるからさ。お姉ちゃんに任せなさい。だからあの子をこんな所に寝かしておかず後方に連れていってあげて」
「でも……」
「…………連れて行ってあげて」
低い声で、そう告げると彼女は前へ出てキララに問いかけた。
「あなたってさ、兄ちゃんの、前世の妹なんだよね?何で兄ちゃんが困る事ばっかしようとするのかな?何か兄ちゃにされた?」
「はぁ!?何でだって?あいつは昔から愚図でノロマで、足ばっかり引っ張るやつだったんだよ。あいつのせいでアイドルも引退しなきゃならなくなったんだ。あいつが病気になんかなって死ぬからさ。どこまでも使えない男だよ」
「そっか。あたしさ、妹同士でいつかはわかり合って仲良くなれるんじゃないかなって、いつかは皆が笑い合えるんじゃないかってちょっぴり期待してたんだよね。だけどさ……どうやらこれは『交わらない路』だったみたいだね」
義姉さんが構えを取った。
「あの人は、あたしの兄ちゃんは愚図でもノロマでも無い!シスコンが過ぎるけど家族思いの世界一優しい兄ちゃんだ!!」
「何よ、あんたブラコンなの?クソダサ!」
「卑怯者のあなたの方がよっぽどクソダサだけどね」
「青臭いお嬢ちゃんが!なら後悔させてやるよ!!」
キララの足元から黒い煙が噴き出し身体を包み込む。
「私達、『邪審の祭壇』に所属しているメンバーは己の身体を変質させ強靭な肉体となる『魔人化』が出来るのよね。そして魔人化した際に私が得た名前は……」
キララを包んでいた煙が飛び散るとマントを羽織ったコウモリの様な姿を持つ魔人が立っていた。
「カミラ!!それが美しく強く戦場を舞う私の新たな名前!さぁ、地獄に落としてやる!!」
「あたしの事、別に許さなくてもいいよ。だから、その命、天上の女神様に還してもらうよ!!」