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第61話 死亡フラグ

【ホマレ視点】


 俺は『ジェス君』としてセシルと対峙することになった。

 幼馴染の女の子。他国へ引っ越してからも俺の事をずっと想い続けてくれていた。

 だけど再会は嬉しいものというわけではなく……


「やっぱり……あなたが、ジェス君だったんですね。ははっ、まさかライバル視していたナギが恋仇でもあったなんて思わなかったな」


「ああ。最初はわからなかったけどダンジョンで君の話を聞いて思い出したよ……セシルちゃん」


「あの頃、ずっとそう呼んでくれてましたよね……あの街を離れてから片時も忘れた事は無かった。立派な女になっていつかあなたに会いに行って……そう思っていました。だけど……」


 セシルはうつむいて軽く唇を噛む。

 その間に俺はフリーダやナギと出会い、そして彼女たちと結ばれた。

 『済まない』と言いかけた俺の言葉を彼女はさえぎった。


「謝らないでください。あたしは、勇気が無かった。ナギみたいに国から追われることになってでも会いに行くくらいの気概が無かったんです」


 まあ、ナギの行動は中々に破天荒だと思う。

 あれはあんまり真似しない方がいい。


「あなたのおかげで仇である災禍獣を討つことも出来たし、命まで助けて貰った。そして、闇に蝕まれようとしているこの国を救う手を打つことが出来た。やっぱり、今でもジェス君はあたしのヒーローですね。あなたともう一度会えて、本当に良かった」


「セシル……」


「あの、お願いがあります。あなたがあのふたりを愛しているのは理解しています。ですが、その……無事殿下を救出して戦争を止めることが出来たら……一度だけでいいからデートしてくれませんか?」 


「それは……」


「考えていてください。本当に一度だけ、想い出が欲しいんです。昔、あなたの後ろについてあの貧民街を探検したあの時みたいなドキドキを、もう一度……それで、あたしはこの気持ちに決着をつけます。だから……お互い生き残りましょう。おやすみなさい」


 足早に去って行くセシルの後姿を見送ることしか出来なかった。

 まずいな。今のはちょっと、シャレにならないぞ。

 本当にどうしたものか。

 あいつ、無茶苦茶『死亡フラグ』を立てているぞ?

 

【フリーダ視点】


 わたしの横でナギが苦い顔をしていた。

 どうやらふたりの会話をその聴力でしっかり聞いていたらしい。


「あー、セシル、マズイよ。それって完璧にダメな奴じゃん」


「ナギ、盗み聞きするなよ。いや、まあわたしも何を話していたか気になるけどさ……」 

 

「フィリーさ、例えばセシルが死んじゃうかもしれないってなったらどうする?」

 

 いきなり物騒な言葉を口にしたナギにわたしは困惑を隠せなかった。


「な、何だよ急に。縁起でもない冗談はやめてくれ」


「冗談、だったらいーんだけどね。それじゃ済まない事を言ってるんだよね、あの娘」


 ナギが盗み聞きした内容と『死亡フラグ』というものについて説明してくれた。

 本当にそんなものがあるのかと疑問だが、ナギによると結構当たるらしい。

 

「そんな……なぁ、わたし達はどうすれば……」


「正直、ナギもわかんないんだよね。だけど、嫌な予感が無茶苦茶するんだ。このままじゃ、セシルは……」


 だとしたら……何とかしないと。


【グレース視点】


 王城内に設けられた『特別室』。

 名の聞こえは良いが、ここは私を閉じ込めておくための牢獄でしかない。

 部屋の各所には私の能力と相性が悪いクリスタルが埋め込まれ、私の力を阻害し続けている。

 

 今回の反乱を招いたのは自分のミスだ。

 『影の聖女』についてはその人格について問題視される事が度々あった。

 だがまさか、宰相と組んでこの国を乗っ取ろうとするなどという大それた真似はしないだろうと楽観視していた。

 多少の問題はあろうとも平和を愛する聖女なのだ。そう勝手に思い込んでいた。だが現実には……

 

 戦争反対派の聖女達は反乱に協力した貴族たちへ無理やり嫁がされてしまった。

 嫁がされた、というが実態は『返礼品』の扱いだ。

 好色で知られるマントル子爵に引き渡されそうになったセシルだけは何とか逃がすことが出来たがその後どうなったかわからない。


 このままではこの国は他国へ戦争を仕掛ける侵略国家へと逆戻りしてしまう。

 そんな事になれば多くの人達が血を流し、憎悪が世界を支配することになる。

 

 10歳の頃、私はとある方法で王国が別の歴史を辿った『平行世界』を垣間見た。

 王国は『イリス帝国』へと名を変え、女帝に君臨していた人物が世界を巻き込む大戦争を引き起こした。大地は焼かれ、おびただしい亡骸を踏み越えながら滅亡へ向かい進んでいく。

 筆舌に尽くしがたい世界の状況を見て、その後何日も寝込んでしまった。

 ターニングポイントがどこなのかわからない。だが、こんな世界だけはしてはならない。

 その後、聖女の力に目覚めた私はそんな想いを胸に次期国王となるべく己を磨いてきたのだが、今や恐れていた世界への扉が開こうとしている。


「やぁ、グレース。気分はどうだい?」


 部屋に入り口にウェーブがある長髪の男が立っていた。

 彼の名はディズデモナ・メンテ・ギリアム。

 ディズデモナ公爵のひとり息子であり、私にとってはホマレお兄ちゃんと同じく従兄弟にあたる。 


「気分がよい様に見えるかしら?だとしたら随分と節穴な目なのね」


「……君をこんな形で閉じ込めることになってしまい済まないと思う」


「あなたの父親が何をしようとしているのかわかっているの?このままではこの国は侵略国家へと成り下がって行くのよ?」


「わかっている。だが、今の僕ではどうしようもないのだ。父の持つ権力は非常に大きなものだ。彼を無理やり排したとしても国王が伏せている現状、貴族達をまとめ国を維持させていくには彼が必要なのだ」


「そうやって彼の野心を、悪事を見逃し続けた結果がこれじゃない」


「その通りだ。だが、だからと言って現状で何が出来る?まだ若い君に味方して宰相に反意を持ち改革に賛同してくれるものがどれほどいる?君は王位継承者だが、『王の娘』でしか無いのだぞ?」


「ギリアム、私は……」


「事前に言っておこう。近々、父は僕と君の婚姻を発表する事になるだろう」


「なっ!?」


 つまりはディズデモナ公爵が次期国王の後見人となり、名実ともに権力を掌握する事となるわけだ。

 そして、恐らく私の拒否権はない。何かしらの『人質』なりをちらつかせてくるはずだ。


「今は耐えてもらいたい。反抗するには色々なものが『足りない』のだ。それが流れだとしたら……」


「だけど……」


「提示される条件は『ナダ共和国』への侵略の停止。わかっているだろう?あの国が戦火に巻き込まれれば『あの人達』もまた、犠牲になるだろう」


 ギリアムが言う『あの人達』とはホマレお兄ちゃん達の事だ。

 あの国には叔母様が居る。その事実を侵略の適当な口実にするつもりなのだろう。

 そして同じく従姉妹にあたるアリスお姉ちゃんは結婚して子どもが生まれたという。

 そんな幸せな人達の運命を天秤にかけているのだ。


「卑怯な……」


「僕もそう思う。だけど、今は……君のいい返事を期待しているよ。それじゃあ。おやすみ」


 ギリアムが去った後、私は怒りに任せて壁を殴りつけていた。

 血がしたたり落ちる中、歯を食いしばり自身の無力を嘆くしかなかった。


【ホマレ視点】


 セシルが盛大な『死亡フラグ』を立てている。

 いや、でもあれは迷信みたいなものだ。実際に起きるはずがない。

 悶々とした気持ちを抱えながら深夜にオルレアン領を出た俺達は王都へと近づいて行った。

 そして夜明け前、俺達は王都前にある門が見える位置で待機していた。

 門前には兵士たちが警戒姿勢を取っていた。


「流石に厳重な警備だよなぁ」


「殿下の『音』はお城の方から聞こえるから中にいるのは確かだよ」


「『糸』も城の方を指してるな」


 時間になればナギが声を飛ばし合図を送る。

 それと同時にまだ見えない他のメンバー達も多方向から王都へ攻め入り防衛している兵士たちを混乱させる。

 その気に乗じて一気に正門を突破して制圧していく流れだ。


「セシル。渡しておきたいものがある」


 昨夜、フリーダ達とセシルの『死亡フラグ』について話し合った。

 一番いいのは参戦させない事だろうが現実的ではない。

 それに置いて行ったとしてもそれがフラグになる事すら考えられた。

 悩んでいた所、フリーダの『糸』がある答えを示した。

 

「何ですか、急に」


 俺はセシルに真っ赤な『ブローチ』を差し出した。

 それはかつて『ローゼンドール』の納品クエストを達成した時に追加報酬として受け取ったもの。

 未だに『性能解放』されていない魔道具でもある。


「これは?」


「昔手に入れた魔道具だ。性能解放はされていないがお前に渡していた方がいい気がしてな。お守りとして持っていてくれ」 


 元々は『携帯倉庫』に入れていたものだ。

 結局、今に至っても使い道がわからない。だがフリーダの『糸』を信じるならこれが何かの役に立つはずだ。


「お守り、ですか。まあ、いいですけど……」


 この選択が良い方向に転べばいいんだがな。

 それにしてもやっぱり正面の門は厳重な警備がしているなぁ。


「我々が囮として先行させてもらおう。君達はなるべく力を温存しながら進んでくれ」

 

「だけど……」


 身を案じる俺の言葉に騎士団の団長が笑った。


「この国を守る為さ。戦争で多くの血や涙が流れるのを止めることが出来るならこれくらい屁でもない」

 

 力強くこぶしを握りながら彼が言ったその時、ナギが『うー』と唸る。

 見れば眉を曲げて困惑した表情を浮かべている。嫌な予感がする。


「あー、ホマ、ごめん。突然だけど問題発生しちゃった」


「問題だって?まさか敵に挟まれているとか!?」


 部隊に緊張が奔る。


「いや、そうじゃないんだけど…………えーとね、あれ」


 ナギが指さす先を見た皆が『あっ』と声を上げた。

 正面の門、十数メートルの所へ無防備に近づきあろうことか兵士に手を振っている人物が居た。

 昨夜、フリーダがこの戦いの『カギ』となるかもしれないと言っていた愛しい我が妹、メールではないか。


「あ、あいつ何やってんだ!?」


 突然現れた人物の奇行に衛兵たちも困惑した様子で顔を見合わせている。


「ちょっと、義姉さん!?ナギ!」


「わ、わかってるよ。い、今『声』を飛ばす!!」


 流石のナギも義妹が取った予想外の行動に慌てていた。

 だが、そこは我が妹。我が家で意外性ナンバーワン。予想外はさらに続く。


「おーい、兄ちゃん達何でそんな所に隠れてるの?早くおいでよ―」


 あろうことか今度は俺達が隠れている場所へ手を振りやがった。


「誰もあいつに作戦を説明してなかったのか!?」


「えーと、軍議の時居たような居なかったような……」


 騎士団の団長も困惑している。

 同じくらい困惑している衛兵たちは俺達が潜んでいる方向を凝視、そして……


「け、警戒態勢!敵襲だぁぁっ!」


 力強くラッパを吹き鳴らした。

 同時にメールが衛兵を殴りつけそのまま正門へ突撃してぶち破った。


「あっ……」


 皆が再び声を上げ……


「さ、作戦開始!あのバカに続け―!!!」


 王女救出作戦が、無茶苦茶な幕開けをした。


「ちょっと待て。バカって失礼だぞ!あれ俺の妹だからな!確かにちょっとというか結構なバカだけど、愛すべきバカなんだぞ!?」

 

 その辺は兄としてしっかり抗議しなくちゃいけない。


「ちょっと何をぼけーっとしてるんですかシスコン!早く行きますよ!ああもうっ、無茶苦茶です!!!」

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