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第5話 一応、元プロです

 姉宅の夕食を確保するため、俺は冒険者見習いのじゃじゃ馬娘と共に森の奥にある『ミラ湖』を訪れていた。

 一応護身用に警備兵としての仕事でも使っている『アイアンサーベル』を腰に差していった。

 Eランクのの鉄製武器だがまあ、今の俺には分相応だ。


 一方、じゃじゃ馬ことフリーダの武器は『組み立て式スピア』。

 普段は幾つかのパーツに分かれており使用する時に組み立てるといった形式だ。

 持ち運びが楽であるというメリットがあるものの耐久性が非常に低く、組み立てる時間を考えれば実践的とは程遠い性能だ。

 もう少しマシな武器は持っていないのだろうか。

 当然Eランクに分類される武器だがその中でもかなり下位にあたる。

 RPGなんかで最初の街で店売りしている中途半端な性能の武器みたいなものなのである。


 確か初めて会った時は大型獣の骨を削り出して作ったボーンサーベルを持っていたはずだ。

 同じEランクでもあちらの方が幾分かマシな性能なのだが聞いたところによるとどうも得意武器は槍らしい。

 準備不足については『冒険者なめんなよ』と注意してやりたい。

 ただ、ウチの親父は初めての仕事では確か『素手』で挑んでいたので下手な事を言うとブーメランになりかねないから止めておく。


「よし、それじゃあこれから魚を釣っていくわけだがとりあえず釣竿は持ってきたか?」


 俺の言葉にフリーダは『あっ!』と口元を手で押さえた。

 やれやれ、本当に準備不足が甚だしいな。もしかして現地で適当に木を削るなるして自作するつもりだったのかもしれないがはっきり言ってそんな簡単に釣竿など作れるものではない。

 

「そう言うと思ってな。釣竿についてはこいつを貸してやる」


 こんな事もあろうかと思って持ってきた青く輝く釣竿をフリーダに手渡した。


「これは?何か重厚な感じがわたしが知っている釣り竿とは違う気がするけど」


「ああ、そいつは剛腕魔獣ブルーキングの骨を加工して作った釣竿だよ。見た目に反し結構軽いし高い剛性も備えている。中々に釣り易いぞ?」


「ちょっと待った。ブルーキングって……」


 ああ、なるほど。こいつが驚くのも無理はない。

 ブルーキングは危険度が中級でも上のレベルにカテゴライズされるモンスターだ。

 これでも元一流の冒険者だからな。ブルーキングはよく狩ったものだ。


「何か凄い物使ってるな。あのさ、これ一本でどれだけするんだよ!?」


「値段の事か?えーと、それ作った時は幾らだったかな?確か30万ゴルトくらい?」


「釣竿で30万!?さらっととんでもない物取り出してくるなオイ!!」 


 フリーダは驚きを隠せない様だがやはり甘い。

 いつだっていい獲物というものは高いと相場が決まっている。


 これを作った頃はダンジョンに潜ったりもしていて金も有り余ってたから本当にはした金だった。

 ただ、おふくろからは『お金の使い方がおかしい』と小言を言われたものだ。懐かしい。


 親父はと言うと『まあ、趣味に金をかけるのは悪い事じゃない』って笑ってくれてていた。

 やはり同じ男同士、分かり合えるところが多い。


 ただ残念な事にガキの道楽に過ぎず何度か使って飽きてしまった。

 その後は倉庫に放り込んでいたんだがまさかそれがこうやって愛する姉の為に役立つ日が来るとは面白いものだな。


 そうして釣りを始めてしばらくしての事だった。

 何処からか紫色の髪をした若い女性が姿を見せ俺達に話しかけてきた。

 年齢は20歳ちょっと過ぎといった所だろうか?

 

「ねぇ、そこのカッコいいお兄さん。もしかして釣りに来たの?」


「ああ。まあ、釣るのは俺じゃなくてこっちの子だけどな」


「へぇそうなんだ。凄いなぁ。ねぇねぇ、そんな生臭い魚釣りより私とご飯に行きましょうよ?」


 唐突なお誘いがかかった。横に居るフリーダの存在は完全に無視している。

 チラッと見れば少し不機嫌そうな表情をしている。やれやれと思いながら女性を改めて観察する。

 なるほど。出るところは出て締まる所は締まっている。

 客観的に評価するなら『セクシー』な女性なのだろう。

 

「私はキュレネっていうんだけどさ。実はさっきお兄さんを一目見て心が奪われちゃって……もっとお近づきになりたいかなぁとか?」


 女は時折身体をくねっとさせてこちらを上目遣いで見てくる。

 明らかに誘っている感じだな。普通の男性なら目をハートにさせながらフラフラとついて行ってしまうだろう。だが俺は違う。


「えーと、悪いけどさ。俺、女性にあんま興味無いんだよね。魚に逃げられると面倒だし、正直邪魔なんで男をひっかけて食事を奢ってもらいたいなら街の方でどうぞ。お姉さんならきっといい通事見つかるよ?」


 はっきり言って俺から見ればこの女は『ただの痴女』である。

 ただ、それを言って逆上でもされたら困るから大分オブラートに包みながら退場を促す。


「なっ……」


 追い払う仕草をする俺に女は絶句し後ずさりしながらその場から離れて行く事になった。

 恐らく自分の容姿にそこそこ自身があるのだろうが相手が悪い。


 まったく。こっちは姉の夕食を守る為、この新人に魚を釣らせなければいけないんだ。

 愛する姉妹以外の女性と食事なんぞに行っている場合じゃないのだ。


 フリーダは釣りのセンスはそこそこあるようで1時間もすれば目的のミラトラウト2匹を吊り上げることに成功していた。

 それまでに『アーモンドフィッシュ』と呼ばれる独特の風味を持つ小さな魚も数匹釣れた。

 こいつは高くはないが換金すれば小遣い稼ぎになるだろう。


「……あのさ。ごめん、知らなかったよ」


 釣りの最中、フリーダが何度かチラチラとこちらを覗き何かを言いたそうで会った事には気づいていた。

 ただ、聞かれずにそのままだったので敢えて触れずに今までいた。


「何がだ?」


「あんたがその……男性に興味ある人だったなんてさ」


「いや待て。何故そうなる?」


 世の中には同性同士の恋愛というものが存在する。

 当方、そういった概念には一定の理解は示しているが自分はどうかと聞かれるとそうではない。


「だ、だって今、『女性に興味ない』って……それってつまり……」


 こらこら何て危ない勘違いをしてくれるんだよ。

 そういう意味で言ったわけじゃないんだぞ!?


「違う!色仕掛けしてくる様なああいう女に興味無いんだ。そもそも俺の恋愛対象は姉さんや妹だ。そこ、重要だからな!!」


「本当にシスコンなんだな……というか血の繋がった家族は恋愛対象にしたらダメだろう……」


 いやいや、姉と妹の魅力ってのはそれ程すごいものなんだよ。

 偉い人にはわからんのです!まあ、こいつは別に偉い人じゃないけどな。


「でもさ、あんた昔はすっごくモテてたじゃん。常に女の人を周りに侍らせていて楽しそうにしてたぞ?」


 そうか。こいつは神に貰ったスキルで調子こいていた頃の俺を知っているんだったな。


「あれは何というか……あの頃の女性遍歴を思い出すとちょっと死にたくなるからあんまり触れないでくれ」


 何せかなり好き放題をしていた。

 俺がモテていたのは転生時に神から貰ったチート級スキルが影響しているだけだったんだがな。

 それが亡くなった後、周りにいた人達の心は俺から離れていった。大切な家族以外はな。

 しかし、客観的に見ればあの頃の女癖は無茶苦茶悪くクズな男だったと思う。

 何せ毎日別の女性を連れて歩いていたからな。よく姉や妹に嫌われなかったものだ。

 

 一応断っておくとそれらの女性と一線を越えたことはない。

 何せ俺の初めては姉か妹に捧げると決めていたからな。

 まあ、結果としては……いや、『あの事』には触れたくない。忘れよう。


 さて、その時に侍らせていた女が実は人妻で旦那に刺されかけたというトラブルも起こしていた。

 あの時は親父達が謝りに行ってくれて事なきを得たが本当にあれは申し訳なかった。


「ああ、そうだ。大切な事を言い忘れていた。釣りクエストで重要な事は魚を釣り上げるだけじゃあない。釣り場周囲の環境を見極め危険を察知する能力も大切だ。のんびり釣っているだけじゃあだめだぞ?」


 言うと剣を抜き草むらから飛び出してきた濃緑の体色をした体長2m程の二足歩行竜、『爆走トカゲ』を斬りつけ倒す。


「ほら、こんな風にな?」


「え?モンスター!?」


「この辺に生息しているモンスターだな。発達した後ろ足で森の中を駆け回る小型ドラゴンだ。草食性なんだが猛スピードで爆走するので下手にぶつかると大怪我をしてしまう。比較的安全なこの地でもこんな危険が潜んでいるし、時々生息地から外れて強力なモンスターが現れることもある。だから危険察知と逃げるか否かの見極めは大切だぞ。だからいつでも対応出来るよう武器は手元に出しておくべきだ」


 俺の見事な解説にフリーダは『ほぇぇぇ』と感心している様子だ。


「いや。何ていうか、プロの冒険者みたいだなって驚いたよ」


「一応元プロなんだけどな……それにしても…………」


 退治した爆走トカゲの身体を見て思わず『厄介だな』と言葉が口から出た。


「厄介って?どうしたんだよ?」


「こいつの体表を見ろ。樹状の図形みたいなものが浮き上がっているだろ。これは放電を受けた時なんかに現れる現象なんだが……」


「放電?雷属性の攻撃をする何かがいるっていうのか!?」


「この辺一帯ににそんな器用なモンスターは居ないはずだがな。だとすればこいつは雷魔法を使う魔導士が撃ち漏らした個体か?いや……何か悪い予感がするな。フリーダ、予定変更だ。とりあえずこの場から……」


 その時だった。

 湖の中央から水柱が上がり、奇怪なモンスターがその姿を見せた。


「まったく。冒険者を引退してもこういう勘だけはしっかり当たっちゃうもんだね」



---------モンスター名鑑---------

爆走トカゲ

種族:ドラゴン系

体長:1.5m~2m

危険度:初級レベル2


草食性のドラゴン。発達した後ろ足で大地を駆け抜ける。

自分より早いものを見つけると追いかける癖がありそのせいで狩猟されることもある。

体内からは強壮効果のある『スタミナエキスLv1』が採れる。

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