第58話 やっぱり暴走しました
【ホマレ視点】
俺が扱っている『獅子の爪』は俺自身の『闘気』をリリィ姉さんから継承している『創造錬金』の力で形にしたものだ。
なので再構築はすぐに出来る。とは言え……1本とは言え爪を折ってしまうとは厄介な威力だな。
いつもより多めの闘気で再構築しないといけないみたいだ。
「なるほど、『闘気』を扱いますか。私も数人しか知らないがいずれもかなりの手練れ。どうやら気を引き締める必要がありそうですね」
ダメージなんか微塵も受けていないのに気を引き締めるとか鬼かよ。
ちょっとくらい油断して余裕こいてくれてる方が楽なんだけどなぁ。
とりあえず一度距離を取って『レグルススクリュー』の回転力で一気に攻めさせてもらうとしよう。
そう思った俺はライトと距離を取ろうとするのだが……
「崖壁ッッ!!」
俺の背後に石壁が現れ後退を阻んだ。
「魔法!?」
「崖槍ッッ!!」
更に地面から尖った岩がせり出し炸裂すると共に俺の動きが止まる。
魔法の発動と同時にライトはこちらへ急接近してきておりその手で俺を貫かんとしている。
「オラァァッ!!」
俺は咄嗟に右足を上げ注意を引くと逆の左膝を相手の顎に叩き込む。
怯んだライトの喉元を掴むとチョークスラムで地面へと叩き付けた。
なるほど、少しだが弱点が見えた気がするぞ。
彼はセシルと同じく体の一部を武器の様に硬化させて技を繰り出す系統の能力者だろう。
大きな違いは恐らく『適用範囲』。
セシルは身体全体を『刃物』に変えることが出来るのに対し彼は恐らく『両手』のみ。
但しその分セシルの能力より攻撃力が非常に高くなっているのだ。
ならばその両手に気をつけさえすれば勝ち目はある。
俺は追撃はせずライトから距離を取る。
「丸刀……スプーンショット!!」
ライトは起き上がると同時に地面の一部を抉り岩の塊を投げつけて来た。
恐ろしい切れ味だが威力的にもけん制程度でしかないだろうからこれはサービス攻撃だな。
「崖爆!!」
岩を避けようとした瞬間、ライトの魔法により岩が爆発し破片が飛び散り俺へ襲い掛かる。
「チィィィッ!?」
まるで散弾攻撃だ。
致命傷ではないにせよ喰らうのはよろしくない。
「獅子の息吹ッ!!」
爪を力の限り振るい起こした突風で破片を巻き上げて防御するがしまったな。隙を見せてしまった。
見ればすでに俺の懐へ飛び込んできてやがる。
あれだよ、オッサン系はクソ弱いかガチでヤバいかの両極端なんだよな。
親父なんかはガチでヤバイ系であって、このライトって聖女もそっち系にカテゴライズされるパターンだ。
回避は難しい。ならば『防御』だ。
重要なのは『イメージ』だ。姉さんから継承した力ならそれが出来る。
普段は攻撃に使っている爪。これを『盾』としてイメージすれば!!
「獅子の盾!!」
イメージにより爪が盾へと変化していく。
あらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の盾。それが俺のイメージだ。
激突の瞬間、ライトは一瞬眉を顰めたが……
「ノミィィッッ!」
突き出された右腕は『獅子の盾』に突き刺さる。さらに強力な技だった様だが止まってくれたか。
いや待て、こいつ今『ノミ』って言ったよな?『ノミ』をイメージした一撃って事は……
見れば『ノミ』として突き刺した腕を曲げ、肘にもう片方の手を当てている。まさか……
「ハンマー!」
ほらやっぱり!
追加の一撃により『獅子の盾』が破壊されてしまった。
さらに追加で繰り出される突き。再構築が間に合わないと判断した俺は咄嗟に抜いた剣でいなすが完全にはいなし切れず僅かに被弾した。
被弾した箇所が切り取ったかのように抉れてしまい血が噴き出す。
「ホマレさん!!」
セシルが背後で叫ぶ。
悪いけど今はこっち来るなよ?流石に守っている余裕が無いぞ?
「なるほど、中々の動体視力ですな」
「へへっ、母親譲りで昔から目は良くてね」
ちなみにおふくろの動体視力は異次元レベルだ。
飛び回るハエだろうが補足してナイフで切り捨ててしまうし自分目掛けて飛んでくる矢なんかだって止まって見えているらしい。
「なるほど。ならば親に感謝する事だ」
「いつだって感謝しまくってるよ!」
マズいな。『爪』も『盾』も再構築する暇がない。
この剣ひとつで防ぎきれるような相手でもないしまだフリーダ達に『頼んでいる事』は完了していないらしい。
格闘戦に持ち込もうにも腕を掴まれない様に緩急をつける対策を取られながら動かれていた。
チョークスラムじゃなくて大技に持ち込んでダウン取ればよかったかもしれん。
とは言えなぁ。格闘に関しては姉さん達みたいな一発KO出来る大技無いんだよなぁ。
「刻雨!!」
一気に決めるべく連続した突きが繰り出された。
瞬間、俺の懐からアリス姉さんから継承した魔道具が飛び出し衝撃波を放ってライトを吹き飛ばした。
「なっ、何だそれは!?」
ナイスタイミングって奴だけどこれって……俺の知る限りヤバイやつだよな?
これ手に取ったら絶対ヤバイ事になるよな?
だが魔道具から放たれる怪しい光に魅入られた俺は自分の意志に反し手を伸ばし魔道具を掴んでいた。
ほら見た事か。もう完全に『暴走フォーム』の流れになってるじゃないか!!
姉さん、ちょっとこの力、『自我』まであるっぽい危険な子ですよ!?何てもんを継承してくれてんのさ!!
「獣纏!!」
何かが俺の中に入って来て魔道具を起動させる呪文を口にさせた。
「スプーンショット!!」
両腕で岩を抉り何個も投げつけてくる。
もれなく魔法で炸裂し散弾の雨が降り注ぐが魔道具発動に際して放たれたエネルギーがそれらを遮断。
冷気を帯びた剣を逆手に持った『俺』は咆哮を挙げた。
「ウガァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
ちょっと待って。練習の時みたいに動けないなんてことはない。
だけど俺の身体は意思に反して勝手に動いてるし喋ってるし完全に『暴走状態』じゃん。
何で獣みたいに唸ってるの!?ギラついてるんじゃないよ『俺』。
がっつく男は嫌われるぞ!?
「気配が変化した?だがすべきことは同じ!!」
ライトは更に気を引き締め『ノミ』による突きを繰り出すが『俺』は片腕でそれを掴み止める。
「!?」
「ウラァァッッ!!」
引き寄せ、鼻に頭突きを叩き込む。
突然のラフファイトに驚きつつもライトは攻撃を繰り出すが無茶苦茶に振り回す剣が全ていなしライトに一撃を叩き込む。
更にはタックルから相手を倒すとマウントポジションを取り顔面にパンチを連打する。
「ぐぬぬぬっ!!?」
やり過ぎ!やり過ぎだから!!
とりあえず俺の身体で無茶苦茶するなよ。
痛いからね。多分殴ってる手、ひび入ってるよ!?
とか思ってたら剣を振り上げてるし、ダメだってそれ!絶対ダメな奴。
「ホマレさん!?もうそれ以上したらライトさんが死んじゃいます!!!」
セシルの叫び声で『俺』は手を止めた。
止めたんだけどね。これってまだ終わってなパターンなんだよな。
「グルゥゥゥゥッッ……」
ゆっくりとセシルの方を向く。
ほらね、やっぱりそうだよね。そう来ると次に起きる事と言えば……
「ウガァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
やっぱりかよぉぉぉ!何でこういう時はテンプレートなのよ俺!?
『俺』は咆哮を挙げながらセシル目掛け飛びかかる。
「ひぃぃっ!?」
ああもうっ、何やってるんだよ『俺』は!!
取り合えず避けてくれ。もうこの際全力叩き込んで気絶させてくれてもいい……と言いたいところだけどこのどう猛さだとちょっと無理か。
俺の剣を両腕をクロスさせて受け止めるセシル。ちょとセシルさん、全身でお願いします。
全身を刃物にして防御してください。消費が激しいかもしれないけどお願いです。そうでないと……
「ガァァァッ!!」
セシルは刃物にしていなかった場所を蹴られ地面に倒されてしまった。
待て待て待てぇぇぇ!!!まさか、この次って……
予想通り、『俺』は剣を振り上げセシルを串刺しにしようとしていた。
止めろ!止まれよ。何でこんな『傷つける』能力なんだよ。俺の身体なんだから言う事聞きやがれぇぇ!!!
セシルは防御が間に合わないと腕で自分の身を庇う様な姿勢になり目を瞑り叫ぶ。
「ジェス君っ!!」
その言葉に少し身体のコントロールが戻る。
だがそれでもまだ……
「ホマレ、あんたいい加減にしろぉぉぉぉっ!!」
大気を震わせるほどの大音量でフリーダの声が響き渡る。
それによりコントロールがギリギリで完全に戻り、俺は剣を投げ捨て魔道具解除の意志を示す。
「え?」
「ご、ごめん。セシル……ちゃん」
獣纏が解除された俺の身体に一気に疲労の波が襲い掛かり、地面に倒れると視界が暗転した。