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第56話 ポンコツな覚悟

【ホマレ視点】


 俺達はセシルと共に共和国と王国の国境沿いにあるエリ・ドゥアラ山へと向かっていた。

 ここにある『竜の墓場』と呼ばれるダンジョンを抜けて王国へと入る事にした。

 魔物が多く内部が非常に入り組んだこの場所なら国境周辺に展開された軍との交戦を避けられるだろうという算段だ。

 他にもいくつかルート候補があり、それらは今回の戦いに参加するという他のメンバーが使用する事となった。

参加メンバーやについては『秘匿』らしい。


 このルートを俺達が選択したのはフリーダの『糸』とナギの『索敵』で迅速に抜けられると踏んだからだ。

 かつて良くないモノまで引き寄せていたフリーダの『糸』は今や高精度の危険回避が出来る様にまでなった。

 そこにナギの『索敵』が加わる事で消費を極力抑えてダンジョンを抜けることが出来るわけだ。


「無茶苦茶に入り組んだダンジョンをスイスイ進んでいく……しかもモンスターの少ないルートを選んでるっぽいし……」


 セシルはダンジョン攻略の速度に唖然としていた。

 まあ、それでもモンスターに全く遭遇しないわけでは無い。

 紫炎を纏った骸骨型モンスター、『オーバーワイト』とその部下『スケルトンウォーリア』が行く手を阻む。


「アンデッド系ですね。ここは現役聖女であるあたしの出番……」


「あのさぁ、セシル。やる気出してて悪いけど……もう終わってるから」


 ナギの言う通りだ。

 接敵と同時に動き出した俺は開幕の『レグルススクリュー』でモンスターの群れを一掃していた。

 モンスターの中には同族などを呼ぶ厄介な連中もいる。そうなる前に潰すのが鉄則だからな。


「え?だって、アンデッドですよ!?物理耐性とかあって普通の冒険者は苦戦する様な相手なのに……えっと、瞬殺!?」


 まあ、そこは物理耐性も魔法耐性も関係ない『ビーム』属性ついてるからなこの攻撃。


「前も言ったじゃん。わたし達は割と『普通じゃない』って。あいつはその筆頭だよ?」


 ちなみに結婚して絆がより深まってから、俺達は更にレベルアップを果たした。

 親父によると絆による成長限界の突破は『割とある事』らしい。

 身近で言うと我が家のアンママがその極端な例だ。

 

 元々は平凡な町娘で血統も成長限界が低い平民だった。

 親父に出会って強烈な恋をして絆を深めていき何やかんやあってどんどん成長限界の壁が破られていったらしい。

 人の数倍努力するという性質も相まって『この人実は転生者なんじゃね』と思う程にチートじみた能力になっていった。


 俺がチートスキル『鑑定EX』を所持していた時に鑑定した所、その段階でレベルが90くらいあったので軽くひきつった笑いが出たのを覚えている。何だよ90って。

 ちなみにスキルを神に返却する直前の俺がレベル40前後。十分に無茶苦茶なレベルだがあの人はそれを軽く凌駕しているのだ。そりゃ『抑止力』扱いもされるわけよ。

 家族が増える度に成長限界が上がってた節があるので今はどれくらいあるのだろう?想像しただけで寒気がする。


「3位なのに……現役3位の聖女なのに……2番目の次に強い聖女なのに何の役にも立っていない……」


 ダンジョンの途中、休憩出来そうな場所があったので野営をすることになった。

 セシルは『3位』を連呼しながら落ち込んでいた。

 こいつ、本当に『3』が好きだなぁ……


「まあ、王国内に入ってからの案内に期待って事で」


「それだってナギにも土地勘はあるしマッピングも出来るからあたしなんか不要じゃないですか!」


 気づかれたか。

 確かにナギが居れば国内の案内も事足りちゃうんだよな。

 とは言え、あんまり酷使しすぎると『声』が枯れるから無理はさせられない。

 だから活躍の場はあると思うのだが…


「助けを求めておいて全く役に立たないなんて不甲斐ない!こうなったら、あたしも覚悟を決めます」


 何やら覚悟したらしいが別に決めんでよろしい。 

 だって、そこはかとなく嫌な予感がするもの。


「ホマレさん、お役に立っていない以上、あたしに出来る事はひとつしかありません。どうぞ、あたしのこの身体を好きにしてくださって構いません!!」


「「はぁぁっ!?」」


 フリーダとナギ達が思わず声を叫んでいた。

 ほらね、嫌な予感当たったよ。あー、面倒くせぇ。


「セシル、ちょっとこっちへ来い」


 俺はため息をつきながら手招きをする。


「さ、早速ですか……ケダモノじみてますね…………わ、わかりました」


 緊張した面持ちで近づいてきたセシルの額へ目掛け俺はチョップを叩き込んだ。


「痛ぁっ!ちょっ、何でおでこにチョップ食らわすんですか!?」


「当り前だ!こっちは新婚なんだぞ!?妻達の前でいきなり不倫を勧めて来るとか頭おかしいのか!いや、妻達の前じゃないならいいとかじゃないけど、とりあえず不倫なんぞしてたまるか!!」


「ッ!何でですか!男の人はそういうのがお好きなんでしょう!?書物で読みましたから!都合のいい時に呼び出して欲望を発散すればいいじゃないですか!多目的でしょう!?」


 おい、聖女様はどんな凄い書物を読んだんだ?

 薄い本とかなのか?イリス王国ではそういう文化が盛んらしいからな。


「人聞きの悪い事を言うな!まるで人を性欲の塊みたいに!!」


「いや、言っちゃ悪いがあんたは結構強いと思うぞ」


「そうだねー。気がついたら朝とかあるもんねー」


 悲報。俺氏、新婚2節目にして妻達に性欲の強さを他人に暴露されています。 

 いやだってさぁ、こんな魅力的な嫁がふたりもいてしかも新婚だぞ?そりゃなぁ……


「やっぱり!欲望の権化じゃないですか!ほら、あたし聖女ですよ!?レア職業ですよ!?それを好きにしていいなんてこんな機会滅多にないですよ!?背徳的ですよ!?」


 背徳的なのは『お前の思考』だと思う。

 やれやれ。この聖女、こんなポンコツだったとは……


「いや、忘れてるみたいだけどさ。そもそも俺の嫁、片方は元聖女だからね?」


「げ、現役ですよ。こっちは現役聖女です!上から数えて『3番目』に強い聖女ですよ!!」


「だからどうした!?俺を聖女マニアみたいに言うな!後、いい加減その『3アピール』を何とかしろ!!」


 口をへの字に曲げ唸り声をあげえる現役3位。

 ガキかこいつは!?


「あのさ、セシル。キミにひとつ言っておきたいことがあるんだよね」  


「ナ、ナギ……何ですか急に真面目な顔になって?」


「焦るのはわかるけど自分を大事にしようか。聖女って言ったっていつかは引退して、誰か大切な人に出会うことになるんだよ?『何であの時あんな事したんだろ』って後悔する事にはなって欲しくないな」


 ナギの隣に居たフリーダも頷く。

 そう、ナギは異世界(ちきゅう)に居た時、男女関係で色々と辛い思いをしている。

 人間嫌いもその辺に起因しているところがあり、その事は悩んだ末に俺達に話してくれた。

 その事を考えると確かにセシルがやろうとしたことは止めたくなるだろう。

 

「そ、そうですね……すいません。色々と軽率でした」


「まあ、お前もまだまだ若いわけだし恋だってこれからたくさんするだろう」


「若いって人を子ども扱いしてますけどね。あたし、24歳ですよ?」


「マジか、お前って()()だったのか!?」

 

 言動がかなりガキっぽいからフリーダと同じかもう少し下だと思ってたよ。

 

「そうですよ。大人の女性なんです!それに恋だってしたことあるんですからね」


 それならますます俺なんぞに身を捧げるとかしちゃダメだろ。


「へぇ、どんな人なのか聞かせてくれよ」


「うーん、ナギもちょっと興味あるかも」


 フリーダとナギは興味津々な様子でセシルを見ている。

 女って本当に恋バナ好きだなぁ。


「あたし、小さい頃はナダに住んでいたんです。ノースベリアーノにあった貧民街の生まれなんですけど、そこで悪い人からあたし達家族を守ってくれた幼馴染みたいな男の子がいたんです。『ジェス君』って名前でカッコいい男の子でした。その後、あたし達家族は色々あってイリス王国へ移住したんですけど、離れてしばらくしてからようやく気付いたんです。ああ、あたしは『ジェス君』の事、好きだったんだなぁって。それがあたしの初恋です」


「へー、意外とロマンチックでびっくりしたかも」


「そうだな。でも、何かそういうのってキュンキュンするよな」


「うんうん。何かその初恋の人、探してあげたくなるねー」


 恋バナに華を咲かせる女性3人を眺めながら俺は無表情でスープを啜る。

 うーん、セシルが言っている『ジェス君』ってさ……凄く気まずいんだけど間違いなく『俺』だわ。

 ナギ、探すも何もそれって目の前にいるよ。お前の旦那だからね?


 ガキの頃、俺はよく貧民街へこっそり行って自分のスキルを試し切りしていた。

 その過程で貧民街を根城にする連中とやり合って壊滅させたことがあったんだよな。

 

 あいつら『外敵から守ってやるぜぇ』とか抜かして住民から金を巻き上げたり色々と好き放題してたからなぁ。ムカついたのもあって潰したんだよ。


 その時助けた家に同年代の女の子が居て、その女の子は俺を『ジェス君』って呼んで慕ってくれていた。報復されない様にと貧民街を見回って来た時によく後ろをついて来たんだよな。

 しばらくして彼女は家族とどこかに引っ越して俺の前から姿を消してしまった。



 俺の本名は『ジェスロードホマレ』。

 家族を守って死んだ勇敢な少年『ジェス』。

 王族らしい名前をと考えた『ロード』。

 そして日本人的な名前をと考えた『ホマレ』。

 他にも候補はあったが親父は絞ることが出来ずあろうことか『すべて合体させ』て名前をつけた。


 ほとんどの人が俺を『ホマレ』と呼ぶ中でその女の子は数少ない『ジェス』と呼ぶ人物だった。

 参ったなぁ、セシルって名前自体は珍しいわけじゃ無いから気づかなかったわ。

 あっちは気づいていないだろうが間違いなくあの時の女の子『セシルちゃん』だ。

 

「どうしたんだホマレ、苦い顔して?スープに変なものが入ってたのか?」


「あーいや、ちょっと考えごとをしてただけだ。うん……」


 というかお前らも気づけよ。

 確かに普段から『ホマレ』で通しているけどお前らの旦那の本名にも『ジェス』が入ってるだろ?

 ガキの頃からごろつき相手に大立ち回りする様なイキった奴なんてそうそう居ないだろ?

 俺だよ!俺がその『ジェス君』なんだよ。


 いや待て。冷静に考えれば気づかれていない方がいいのか。

 セシルには悪いが今の俺はフリーダとナギの夫だ。

 新婚なわけだし無用なトラブルは避けたい限りだ。


「なぁ、ホマレ。あんた生まれた時からあの街で暮らしてるんだろ?セシルの『初恋の男の子』に心当たりとか無いか?多分あんたと同い年くらいじゃないのか?」


「さ、さぁなぁ。ほ、ほら。人口も多いし再開発とかもあったわけだしさ。うーん、残念だなぁ」


 すまんセシル。その初恋はずっと想い出の中に留めておいてくれ。


-----------モンスター名鑑----------


オーバーワイト

種族:アンデッド系

体長:1m60cm

危険度:中級Lv7


ダンジョンで息絶えた聖職者の怨霊が骸骨に宿って誕生したモンスター。

闇魔法の使い手で部下であり、スケルトンウォーリアを使役するがホマレにはあっさり撃破されてしまった。


スケルトンウォーリア

種族:アンデッド系

体長:1m70cm

危険度:中級Lv4


ダンジョンで息絶えた冒険者の骨に怨霊の力が宿って誕生。オーバーワイトの命令で使役される。

アンデッド系やゴースト系は『物理耐性』スキルを持ち高い耐久力を誇るのだがホマレにはあっさり撃破される。

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