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第55話 イリス王国の異変

【ホマレ視点】


 メールが行き倒れていた所を拾い、もとい助けたセシルを連れてとりあえずは実家へ連れていく事になった。

 実家なら治療に長けたメイママがいる可能性が高いからだ。

 予想通り家に居たメイママにセシルを診せた所、少し衰弱してはいるが命に別状は無いという事で簡単な治療をして休ませていた。

 そして……


「うぅ……ううーん……」


 目を覚ましたセシルが身を起こして辺りを見渡す。


「あれ?ここ……は、一体?」


「目が覚めたようだな」


 声を掛けられたセシルは目を白黒させ俺を見つめていた。


「ホマレさん!?え、じゃあここは」


「ノウムベリアーノにある俺の実家だ。行き倒れになってる所を俺の最高に優しい妹が助け出して運んでくれたんだ。ウチの母親によると軽い脱水と過労が重なった結果らしいぞ。とりあえずこれを飲め、特殊な配合をした『経口補水ポーション』だ」


 水差しからグラスに注がれたポーションをセシルは恐々と口にする。


「な、何か聞いた事のないポーションですね……ちょっと苦いです」


「異世界の飲み物に似たようなものがあってな。それをポーションと混ぜてみたんだよ。後は治療が得意なウチの母親が治癒素材を色々と混ぜている。だから体力も回復するだろうよ」


「な、なるほど。ナダ共和国には凄い飲み物があるんですね。それならしっかりと飲まないと」


 セシルはゆっくりとポーションを飲み干し、お代わりもした。


「ああ、ちなみにそれグラス1杯で約1000キロカロリーある超高カロリー飲料だから飲み過ぎると超太るぞ」


「なっ!?」


 いかんいかん、すっかり言い忘れていた。 

 超絶再生を目的としてメイママとリリィ姉さんが調子に乗って色々詰め込み過ぎたせいでカロリーが『ロマン砲化』してしまったんだよな。


「ち、ちなみにその1000キロカロリーってどれくらいなんですか?」


「えーと……豚の脂あるじゃん。あれよりも高い」


「何てもの飲ますんですか!!?」


 怒るだけの元気は出たようだな。何よりだ。


「お、どうやら気が付いたらしいな」


「早速叫んでるねー。本当にうるさい娘だね、キミ」


 フリーダとナギが部屋に入って来る。


「だって、この男。あたしに超絶太る飲み物を飲ましたんですよ!?」


「ホマレ、まさかあの『超カロリー飲料』飲ませたのか?あの失敗作」


「失敗作!?今、失敗作って言いましたよね!?」


「いやいや、何を言うか。リリィ姉さんが関わっている段階で失敗作なんて『存在しない』んだよ」


「このシスコン!何ですかその姉に対する絶対的な信頼は!?というかそっちの2人は何で注意しないんですか!?」


 やっぱりこのポーションすげぇな。

 あれだけ衰弱してた人間がここまで元気になるなんて、流石は姉さんが関わっているだけの事はある。


「いや、何ていうか……まあ、日常の光景だし」


「日常なの!?」


「ていうかさ、そろそろ本題に移っていいかな?何でキミ、倒れてたの?しかもウチの旦那に用があるらしいし」


「ああもう、色々と抗議したいことがあるのに……え?ちょっと待って、旦那!?今、旦那って言いました!?え?えーーーー!?」


 勝ち誇ったような表情でセシルを見る元聖女。そして色々と理解が追い付かずパニくる現役聖女の対比がそこにはあった。


 

 色々と煽ろうとするナギを制しながらフリーダが俺達の関係を簡単に説明する。


「まさかあの段階でそんな事になっていたとは……一人の男性が複数の女性と結婚だなんて……ふ、不埒すぎですよ!?」


「そう言われてもな。俺にとって大切な女性が二人だった。ただそれだけの事だ」


「で、ですけどイリス王国の聖女としてそういった価値観は受け入れられるものでは……やはりそういうのはいけない事だと」


 面倒くさいな。しかも話が全く進まない。

 ああ、ここは『あいつ』を呼んで来よう。


「あー、ちょっと話をさせたいやつがいる。待っててくれ」


 立ち上がった俺が部屋から出てある人物の所へ。

 そして……


「女神様はそれが真の愛であるなら手を取り合って生きることを教えとして残しているよね?」


「で、ですが1夫1妻がイリスでは基本で……」


「ここはナダ共和国だよ?イリス王国が全ての基準じゃないよね?大切なのは女神様の教えをあたし達がどう受け止め共存していくかだよね?異なる価値観を間違っていると勝手に決めて排除するのは女神様の教えに反していないかな?」


「うぅ……」


 我が家で最も信仰心が厚い四女メール。

 勉強は苦手で脳筋な癖に女神教に関してはその限りでは無く教典はそらで全部語れるというとんでもないスペックを誇る。

 思うに親父達はこいつを普通の学校じゃなくて神学校みたいなところに入れたらよかったんじゃないかな?

 現役聖女であるセシルだがメールの説教にたじたじとなって反論が出来ず呻くのみだった。

 正直、ここまで完封してしまうとは思わなかった。


「すいませんでした……あたしの負けです」


 がくりと項垂れ、セシルは負けを認めた。


「勝ち負けとかじゃないよ。あたしも現役の聖女様とお話しできて楽しかったし凄く勉強になったよ。またお話しようね!!」


 妹よ、どう見てもお前の完全勝利だ。

 メールは満足した様子で部屋から出て行った。

 今度美味い焼き肉屋にでも連れて行ってやろう。


「それで、大分遠回りしたが、何で俺を探していたんだ?」 


「はっ!そ、そうでした。じ、実は殿下の帰還直後、イリス王国で反乱が起きたのです」


「反乱だと!?」


 待て待て。かなり深刻な事態じゃねぇか。

 一夫多妻が不埒だとか言い合いしている場合じゃねぇだろ!!


「反乱を起こしたのはディズデモナ公爵。公爵は重臣、そして聖女宮を抱き込み病気で倒れた陛下に代わって実権を握りました。そして、陛下、そして王都に暮らす民を人質にする形で王位継承者である殿下を軟禁したのです」


「民を人質にって随分と物騒な話だね。そもそも民の平和を守る聖女宮が何で反乱に手を貸しちゃうかなー?」


「イリス王国内にはかつての様に他国へ戦争を仕掛け領土を拡大す方針を取るべきと主張する派閥があります。そして聖女宮内にもそういった過激派はいます」


 確かイリス王国はかつては戦争国家だったからな。

 現在のラムアジン王、つまりおふくろの兄貴が王座に就いてからは防衛以外での戦争をしない方針へと転換したんだったな。


「殿下は勿論、穏健派です。『3位』のあたしもそちら側なのですが新しく『2位』になった聖女が過激派で、聖女宮内でもその考えは少しずつ広まっていたのです。また、穏健派の聖女が引退したり、行方不明になっていたのも過激派の台頭を後押ししました」


「ねー、何かきな臭い感じなってない?ていうかそこまで過激な聖女っていたっけ?ナギは思想的なもの嫌いだからどっちにも属してなかったけど」


「現在2位になっている聖女は、ナギが離脱した後にイリス王国に現れたんです。丁度、1年位前だったと思います。そこから一気に順位を上げていき2位に。現在では実質聖女の筆頭ですね」


 その『2位』が過激派の肩を持っているというわけか。


「その聖女は殿下を軟禁して聖女宮のトップに立つと自分達に従わない穏健派の聖女たちを排除していきました。自分達に協力した貴族への返礼として無理やり婚姻を結ばせる形で聖女宮から追い出したんです」


「何だよそれ。無茶苦茶すぎるじゃないか!」


 フリーダが怒りの声を上げた。


「あたしも、出身地であるマントル領の領主へと無理やり嫁がされそうになりましたが殿下が身を挺して逃がしてくれたんです。全てはあの聖女、『影の聖女』ヴァルデマー・ベル・キララのせいです」


「なっ!?」


 キララだと!?

 突如出た名前にフリーダとナギも顔を見合わせている。

 名前、そして『影の聖女』という二つ名からその正体が容易に想像できた。

 前世での俺の妹、希星(きらら)で間違いないだろう。

 

「セシル、確認だけどそのキララって聖女、口が悪くて人をあざけるような笑い方をしないか?」


「え、ええ。確かにそうです。残忍な性格でおおよそ聖女らしくない女なんですが……知っているのですか?」


 確定だな。

 まさかあいつ、姿を消した後にイリス王国に渡っていたとは。


「そいつさ、ホマのお母さん殺そうとしたやつなんだよね」


「え!?」


 あいつを放っておけば何をするかわからん。

 誰よりも自分が可愛くて自分が楽しむ為なら他を幾ら犠牲にしても平気なやつだ。

 俺が止めなくちゃいけない。だけどフリーダとナギを巻き込むわけにはいかない。


「フリーダ、ナギ。その……」


 そこまで言いかけた時、部屋の扉が開き家長であるアンママが入って来た。


「アンママ!?」


 アンママは何かを部屋の中に投げ入れる。

 ボコボコに殴られ顔面が変形した女性だった。


「え!?こいつ、過激派の聖女ですよ。聖女ランキング4位『魔毒の聖女』ピネシア!!」


 セシルが驚きの声を上げた。


「何か表をうろうろしててウチに魔法を撃ち込もうとしてたわ。声を掛けたら毒をぶっ放してきたから正当防衛で叩きのめしたのよ」


 よりによって我が国の『抑止力』であるアンママに喧嘩を売ったのかこの女。

 あまりにも相手が悪すぎるぞ。命があっただけよかったな。


「表で事情は聞かせて貰ったわ。とりあえず……」


 アンママは俺に近づくと拳骨を頭に落とした。


「痛ぇぇぇっ!?」


「ホマレ、あなたこの娘達だけ置いて一人で行く気だったでしょ?そんな子に育てた覚えはありませんッッ!!」


「だ、だけど……」


 キララは何をするかわからない女だ。

 こいつらを危険に晒したくは……


「大丈夫ですよ、アンジェラさん。わたしは無理矢理でもついて行く気でしたし」


「まあ、逃げてもナギの索敵でどこまでも追跡できるしね。大方、ナギ達を危険に晒したくないとか思ってるんだろうけどさ」


「そもそも今までだって散々危険な目に遭ってるからな」


 ふたりの答えにアンママは満足した様子で頷く。


「それでこそ、レム家の嫁ね。見事な染まりっぷりだわ!!」


 染まり過ぎだ。というか元から素質があったんだろうなこのふたり。


「現在、国境沿いで王国が挙兵しているという情報も入ってきている。この国を再び戦火に包ませるわけにはいかないわ。戦争を止める為にもグレーシズ王女を奪還しなさい。そして、1年前にリゼットを殺しかけた前世の妹に対してきっちり落とし前をつけてきなさい!!」


 こうして、俺達とイリス王国過激派の戦いが幕を開けたのだった。

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