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第54話 暴走フォーム臭い力を継承した件

【ホマレ視点】


 冒険者ギルドの訓練施設。かつてリリィ姉さんと全力で戦った場所だ。

 俺の手の中にあるのは狼の頭部が象られた彫像。

 先日、俺の結婚祝いに来てくれたアリス姉さんから受け取ったものだ。

 

 かつて姉さんが剣を手にしていた時に使っていた魔道具。

 これを起動させることで我が家のきょうだい達は特殊な力を発現させていた。

 つまりは姉さんから俺への力の継承。


『ボクも身体が万全ならホマレと本気で斬り合いたかったけどなぁ』

 

 そんな風に呟いていた。

 確かに俺も残念に感じるが同時にホッとしてもいた。

 何せアリス姉さんは剣聖という点を考慮すれば殺傷力はぶっちぎりのきょうだい1位。

 一度だけブチ切れ状態になっている姉さんの剣を決死の覚悟で受け止めた事があるがあの時はガチで死ぬかと思った。


 そう言えばあの時、リリィ姉さんを長年苦しめてきた因縁の男を始末したのは先ほど散々俺達をからかった義母(かあ)さんだったな。

 正直、前世で彼女がやった事、更に言えば警備隊に入る前にも色々しでかしておりそれに関しては許されるものではない。

 だけど何だかんだで俺達きょうだいを子どもの頃から見守ってくれていた人でもあるんだよな。

 まあ、何回かガチでやり合ってたから割とプラマイゼロになってるけど。


「ホマレ、準備はいいぞ」


 フリーダとナギが配置についた。

 俺は姉さんから受け継いだ魔道具を起動させる。


獣纏(じゅうてん)!!」


 起動と同時に俺の持っていた剣が冷気を帯びた剣へと変化していく……が!


「うおぉぉぉぉっ!!?」


 冷気の影響で一瞬にして吐く息は白くなり、全身に激痛が奔った。

 更には剣を持つ腕が凍り付こうとしている。


過熱緋糸(オーバーヒート)!!!」


 ナギの『エンチャントソング』で炎属性を付与されたフリーダの糸が氷を溶かす。

 同時に俺は剣を投げ捨て獣纏を解除すると同時に膝から崩れ落ちた。

 その様子を見てフリーダとナギが駆け寄って来た。


「ホマレ、大丈夫か!?」


「くそっ!やっぱりダメか!!」


 アリス姉さんから貰った『冷気の力』。

 貰ったはいいがあまりにも強力な冷気のせいでまともに使えやしないのが現実だった。

 すでに何回か試してその度ふたりに助けて貰っている。

 こんなとんでもないものをアリス姉さんは使っていたっていうのかよ。


「仕方ないよ。昔のアリシーは、とぼけたフリして誰よりも冷たい『音』を出してたからね」


 確かにこの力を使っていた頃の姉さんの心には吹雪が吹き荒れていた。

 自分の家族に消えない深い傷を刻みつけた男への復讐、そして自身への罰があの人の原動力だった。

 しかも自分の中に『もうひとりの自分』を作った上で制御していた。

 何だろう、この力って微妙に『暴走フォーム』臭がするんだが……ほら、あれだよ。力を使うともれなく暴走しちゃうあれだ。


『ホマレならきっと正しく扱えるよ…………多分。うん、大丈夫…………恐らく…………だったらいいなぁ』


 ちょっと不安になる言葉と共に俺に力を継承してくれたわけだが頼むからそこはもう少し自信を持って欲しかった。

 

 そして現実問題として扱えていないんだよなぁ、この力。

 母親が同じだからあっさりいけると思ったんだけどなぁ。

 リリィ姉さんの時だって実は結構苦労したのは秘密だったりする。

 

 後、この流れで行くと何となくだがケイト姉さん、メール、リム達からも何か継承しそうな気がするんだが……どう考えても全員暴れん坊な力っぽいんだよなぁ。

 特にケイト姉さんの力なんて想像しただけでも恐ろしい事この上ない。絶対『最終フォーム』的な力だと思う。


 アリス姉さんの力は消費がデカすぎて襲ってきた強烈な反動により俺はフリーダとナギの肩を貸してもらいながら訓練施設を後にした。

 広場のベンチに腰を下ろし、休憩する。


「アリシーの力、モノにするには時間かかりそうだね」


「ああ、正直扱い切れる自身はあんまり無いんだけどな」

 

 思わず弱音が漏れた。

 同じ母親から生まれ、大切にしてくれた姉だったが俺はあの人の事をほとんどわかっていなかった。


「大丈夫だよ。あんたなら絶対に制御できるさ。何たってわたし達の旦那なんだからな」

 

「だね。ホマは何だかんだで出来ると思うよー。ナギ達にとってヒーローだしね」


 フリーダ達が勇気づける言葉を贈ってくれる。

 やれやれ、少し恥ずかしいが嬉しい事を言ってくれる。

 恐らくアリス姉さんが俺に力をくれたのはこの先大切なものを失わない様にする為にだろう。


「そうだな。二人とも、ありがとうな」


「うわー、何かそこだけ温度が高くて近づきにくいなぁ」


 声のする方を向くと背中に誰かを背負っている1歳下の妹、メールが居た。


「やっほー、フリーダちゃん。それにナギ姉ちゃん」


「何かメリーに『お姉ちゃん』って呼ばれるのこそばゆいけど、いいなぁ」


 ナギが嬉しそうに微笑む。どうやらナギの中でメールのあだ名は『メリー』になったらしい。

 

「あたしも姉ちゃんが増えて嬉しいよ。それに思ってた通り妹も増えたしさ」


「そうだな。今やわたしにとって義理のお姉さんだもんな、メール義姉さん」


「うひゃぁ、何回聞いても顔が緩んじゃうなぁ」


 楽しそうに会話する妻達と妹なのだがさっきから気になる事があった。


「なぁ、メール。その、背負っているのは何だ?」


「え?ああ、教会へお祈りに行った帰りにね、倒れてたから拾って来たんだ」


 いや、そんな子犬を拾う感覚で人を拾うなよ。

 というか言い方だな。普通に『倒れてた人を助けた』でいいのにわざわざ『拾った』って言うなんて。


「そうそう、丁度良かった。この人、兄ちゃんたちを探してたみたいなんだよね」


 えっ、俺達を探してた? 

 そこでナギがメールが背負っている人物の正体に気づく。


「ホマ、この人……セシルだよ!!」


「何だって!?」


 慌てて確認すると確かにそうだった。

 イリス王国に所属する『斬滅の聖女』セシル。

 一体何でこんな所に!?

 

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