第53話 甘酸っぱい朝
一晩悩んだ末に恐ろしくグダりそうだったので予定していた内容スキップして話を一気に進めました。
【ホマレ視点】
「おいー、ホマ~、起きようよー」
少し間延びした聞き慣れた声が頭の中で反響し大きくなっていく。
そう、まるでメトロノームの様に……
「ってうおぉぉぉぉぉ!!?」
だんだん大きくなっていく声に俺は思わず飛び起きる。
視線の先には右手を腰に当てて立ち微笑む女性、ナギの姿があった。
「やぁ、おはよホマ。今日は『4連』で起きれたね」
今のはナギが開発した新技。『目覚ましメトロノーム』だ。
先ほど経験した通り、段々と増幅され大きくなり頭の中に響き渡る『声』によるモーニングコール。
「お前なぁ、殺す気か!」
「大丈夫だって。威力は大分絞ってるよー?」
「だとしてももう少し優しい起こし方を俺は希望したい」
「ふーん、優しいねぇ。それってさ、どういうのかな?」
人差し指を唇にあてて妖しい笑みを浮かべる。
滲み出る色気に思わず息を呑んでしまった。
「ふふっ、ホマったらドキドキしちゃって可愛いなぁ。まあ、どういう起こし方をするかは今後考えるとして、ご飯できてるから起きよっか」
年上元聖女に促され起きた俺は洗面所で顔を洗っているといい匂いがキッチンの方から流れ込んでくる。
俺はその匂いに期待を膨らませながらリビングへ。
そこではフリルがあしらわれた可愛らしいエプロン姿の年下村娘が3人分の朝食を用意していた。
「ああ、おはようホマレ。あんたって相変わらず朝は弱いな」
やべぇ、可愛すぎてショック死するかと思ったぞ。
「おはよう。いやいや、お前らが早起きなだけだよ」
俺が起きる時間は大体が6時。対して彼女らは日の出と共に起きる。
フリーダは少しムッとした表情で反論する。
「わたしはあんたが実家暮らししてた時から何回か起こしに行った記憶があるぞ」
いかんな。やや形勢が不利だ。
「おぉ……今日はオムレツか。美味そうだな」
ダイナミックに話題を反らしてみる。
フリーダが作っていたのはいわゆる『スペイン風オムレツ』と前世の世界で呼ばれていた料理だ。
ちなみにこの世界においては『オムレツ』というのは『レアオムレツ』に分類されるものが一般的だ。
『美味そう』と言われて気をよくしたのかフリーダがニヒヒと微笑む。
いかん、可愛すぎて思わずいつかの如く口を塞ぎに行きたくなったではないか。
あの時は『何てことしてくれたんだ俺』と自分を責めたものだ。だが今ならこう言うだろう。『よくやった俺』とな。
「ナギに教えてもらったんだ。えーと何だっけ、『スペーンフ・オムレツ』だっけ?」
多分、『スペイン風オムレツ』の聞き間違いだろう。
この世界には『スペイン』が存在しないから料理名を聞いてもピンと来ないのだろうな。
「ふふふ、フィリー、『スペイン風』だってば」
「難しいなぁ。わたしには『スペーンフ』って聞こえちゃうんだよな」
「いっそその名前で広めちゃってもいいかもねー。あれ?フィリー、ナギが教えてあげた格好しないの?」
ナギの言葉にフリーダが顔を真っ赤に染める。
おいおい、嫌な予感がするぞ。年上としてナギは色々な事を日々フリーダに吹き込んでいる。
その中にはちょっとアレなものも含まれていて『悪い遊びを教えるお姉さん』になっていることも多々あるんだよなぁ。
「だ、だって流石にあれは……恥ずかしいよ」
「ナギ。正直に話してみろ。今度は一体何を教えた?」
「ん?裸エプロン?」
割と軽い感じで凄まじいパワーワードが飛び出し俺はコーヒーを吹きかける。
「がはっ!?」
な、何てものを教えるんだこいつは!
背徳的過ぎる。そんなのフィクションの中でしか起こらないイベントだと思ってたぞ。
「えー、だってそういうのって定番じゃん」
「定番ってお前なぁ」
「それじゃあさ、ちょっと落ち着いてフィリーが裸エプロンしてる姿想像してみようか」
「想像ってお前……うーん、うん。うん…………うん!?お、おおっ!?」
やべぇ、悪くないかもしれん。いや、正直言うと……凄くいい。
いささか刺激が強すぎる気がするが何というか、見てみたい。
「ちょっ、ホマレ。そ、その顔、あんた何を想像してるんだ!!」
「いや、その……見たいなぁって。フリーダの裸エプロン」
「ええっ!?ホマレぇぇっ!?」
焦る村娘。してやったと笑みを浮かべる元聖女。
だがここで彼女が想像していなかった言葉が俺の口から飛び出た。
「ナギと二人で裸エプロンして並んでいる所を、見たい」
「ええっ!?ホマ、ちょっと流石にこの歳でそれは、ナギ超恥ずかしいんだけど?」
今度はナギの顔が紅潮していた。
完全に墓穴を掘った感じだな。言い出したのはお前だぞ?
「いや、だって俺にとって大切な二人だしさ。そんなの今しかできない事だろ?恥ずかしいだろうけど検討を頼むよ」
「ううっ、し、しまった。ホマのすっけべ心がそこまで強い点は考慮してなかった」
「ナギ、言い出しっぺはあんただぞ?もうこいつの頭の中は裸エプロンで一杯になってるぞ?これは責任を取って貰わないとな」
いやいや、一杯になってるだなんて人聞きが……うん、割と一杯だな。だってなぁ……
何せ前世含めて40数年の人生。童貞を拗らせてきて迎えた2節前、初めて愛する人と肌を重ねたのだ。
色々と溺れるのも致し方ないという事。
「ま、まあホマがそこまで言うなら前向きに検討するかも……」
「よろしく頼む!!」
これが俺達にとって新しい日常となった朝の風景だ。
水上都市の1件を経て2節。各所に挨拶を済ませた上で俺達3人は結婚した。
この国では女性の家に入る事が一般的なのだが話し合いの結果、ふたり共レム家に入る事となった。
【夫】
レム・ジェスロードホマレ 24歳
【妻】
レム・フリーダ 19歳。
レム・ナギ 30歳。
こんな感じで俺達は3人で家を借りて新婚生活を送っている。
まさか俺にこんな日が来るとは思わなかった。
かつては姉や妹達と結ばれることが許されないが故に一生独身という宿命を背負っていると思っていた。
だが今はこうやって愛する女性に出会い結ばれたのだ。正に奇跡の御業と言えよう。
ちなみに今借りている家はフォンティ地区にあり、リリィ姉さんの家まで徒歩5分。
何とふらっと散歩ついでに会いに行けるのだ。
物件を選んだ基準に気づいたふたりは苦笑していた。『やっぱりシスコン』ってな。
いやいや、それでも今の俺にとって1番はお前らだからな?
恥ずかしいから滅多に言わんがこれは凄まじい偉業だ。
何せ、姉や妹を『超えた』んだからな、
「うんうん、甘酸っぱいねぇ。このままいい雰囲気になって1戦おっぱじめるかと思ったんだけどそれは無さそうだね。若いんだからそれくらいいいと思うんだけどねー」
唐突に聞こえた声に視線を向けるとそこにはナギの母親、ウィーグレイブ・クリスティン隊長こと『イシダ・シラベ』が来客用の椅子に腰かけ何処から出したのか紅茶を啜っていた。
「お、お母さん!?全然気づかなかった。まさか『隠密スキル』!?」
「いやいや、ただの『超精度ステルス』機能さ。身体をいじくって新しく実装してみただけだよ」
さり気なくとんでもない事を言うなこの人は。
基本的に何でもありなのであまり驚かなくなっている。
多分、俺の感覚は麻痺していると思う。
「おはようございます。その、お義母さん」
我が家にちょっかいをかけ続けた『頭のおかしい知り合い』は今や俺にとって義理の母親だ。
「あーん。オムツを替えてあげた子に『お義母さん』って呼ばれるなんて!もうキュンキュンしちゃうなぁ!!」
恥ずかしい。すっごく恥ずかしいぞ。
この人、俺が赤ん坊の頃から知ってるからなぁ。
「あの、ナギのお母さん。いつから居たんですか?というかどの辺りから聞いていました?」
まあ、あれだよ、『どの辺りから聞いていた』って質問は答えの相場が決まっている。
そんなの『比較的最初の方から』が定番だ。間違いない。
「うーん、『俺、色々と先走り過ぎてもう限界だ』ってあたりからかな?」
予想外の言葉が飛び出した。
ちょっと待て。それって今朝の会話じゃなくて……
俺たち3人は顔を見合わせ同時に叫んだ。
「「「それ、昨夜のだ!!!」」」
え、マジかよ!?
この人そんな時間から家に潜んでたの!?
ていうか色々とアレな営みを見られた!?
「なるほど。つまり君達はしっかりと昨夜励んだわけだね。うんうん、若者らしく健康的でよろしい」
しまった!思いっきりカマかけられた!?
昔からこういう人だった。流石はナギの母親、そっくりだ。
「これは私がおばあちゃんになる日もそう遠くないだろうね。楽しみだねぇ」
「お、お母さん!!」
ナギを完全に自分のペースに持ち込んでいる辺りやはり一枚上手だな。
それにしても……チクショウ、やっぱりこの人苦手だー