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第52話 『これから』と焼き菓子

【ホマレ視点】


 戦いを終え俺達はウィグホーケンに帰還した。

 セシルはかなりの傷を負っていたが幸いにも聖女と元聖女がいるので命の別状はなかった。

 今、俺達は帰りの馬車が停留している馬車乗り場に居た。


「私の『火入れ』時間の長さは今後改善しないといけない課題ね。危うくセシルを喪う所だったわ。お兄ちゃん達には感謝するわね」


 グレースは冒険者ギルドを通じて謝礼を払う約束をしてくれた。

 後は中央に戻る際の馬車の手配だ。いつもよりグレードが数ランク高いものを手配してくれていた。


「ところで、先ほど災禍獣と対等に渡り合っていたところ見ると……もしかしてお兄ちゃんも『聖女』の力が!?」


「いやいや、よく考えてくれ。男だからな?」


「あら、でも『木彫りの聖女』は60過ぎの男性なのよ?しかも妻子持ち」


 衝撃的な事実発覚ですよ。え?男も聖女になれるの?

 どうなってるんだ『聖女』の世界って。多様性の波が押し寄せてきているぞ?


「まあ、お兄ちゃんは聖女では無さそうよね。やっぱりイリス王族の『血』かしらね。お兄ちゃんなら災禍獣と戦えることがわかったわ。もしかしたら今後、何かしら依頼することがあるかもね」


「出来れば俺は慎ましく、愛する人達と暮らしたいんでな。程々に頼むよ」


 馬車を見ながら興奮して話をしている二人へ目をやる。


「お兄ちゃん、何だかとても幸せそうね。それに、凄くかっこよくなってしまって。相手が居ないなら私の婿候補として国に連れて帰りたいくらいなのにね」


「はいはい。からかうんじゃないよ。まぁ、王女様に評価して貰えたことは素直に喜んでおくよ」


「別に……からかったわけでは無いけど………やっぱり、私では……ダメなのかな」


 グレースが何かぼしゅぼしゅと小さく呟いた気がするがはて?よく聞こえなかったな。

 さて、そろそろ帰る事になるのだがその前に……

 

 俺は離れた場所で補助用の杖で身体を支えているセシルの傍へ行って声をかけた。


「よぉ、大丈夫か?」


 セシルは少し俯き答える。


「命は助かってます。ただ、傷を高速治癒させた代償でこのザマです」


 まあ、おふくろも死に至るレベルの傷を治癒させた反動でしばらくあまり動けなかったし味覚もおかしくなっていたからな。味覚に関しては造血作用のある木の実を口に放り込まれたせいでもあるけど。


「まぁ、命が助かったのは良かったじゃないか」


「ええ。皆の仇も一応は討てましたからね。ありがとうございます。だけど、あの災禍獣が倒れた今、あたしには生きる意味が無いんです」


「あの災禍獣への復讐がお前にとって生きる理由だったんだもんな。この先どうすればいいか、心の整理をつけるには時間がかかると思う」


 セシルは黙って視線を逸らす。


「だけど俺達は一人で生きているわけじゃ無い。この手は相手を傷つける力を振るう為に使われることもあるけど、相手の手を握ることもできる。だから、困ったら手を伸ばしてくれ。俺に出来る事は限りはあるかもしれないけど、伸ばされた手はしっかり取るからさ」


「…………随分と気障(きざ)な台詞ですね」


「あー、やっぱりそうか。俺も自分で言っててそんな気がしたんだ。まあ、取り合えず今はさ、これをやるから、元気出せよ」


 土産物の荷物から焼き菓子を一個取り出した。


「は?お菓子?」


「とりあえず美味い物を食べて、それからどうしたらいいかゆっくり考えろって事さ。この焼き菓子は2番目の姉さんも大好きなやつでね」


「……気障(きざ)な台詞からの落差が酷い……そもそも、あたし甘いものは苦手なんですけど」


 あっ、そっちタイプだったかぁ。

 しまった。失敗したかぁ。どうも落ち込んでいる女性の扱いは慣れてないな。


「いや待てよ?甘いものが苦手、か。そういやアリス姉さんがそのタイプだ。凄いぞ、お前大物になるよ!!」


「…………微妙に意味が解らない上、何でもお姉さんが基準なんですね。まあ、あなたの『優しさ』は一応伝わりましたよ」


 セシルは焼き菓子を受け取ると一口かじる。


「当然の如く甘いですね。まあ、美味しい事は美味しい、かな。その、ありがとうございます」


 そう言ったセシルは少し微笑んでいた。

 よし、その笑顔が出せるなら恐らくは大丈夫だろう。


「へへっ、良かった。それじゃあ元気でな」


 俺はセシル、そしてグレースに別れを告げると中央行きの馬車へと乗り込んだ。



 帰りの馬車内。俺が持っている土産物の袋にナギが言及してきた。


「あのね、ホマさ、お土産買い過ぎじゃない?その大きな袋……多分リリィにだよね?」


「姉さんは甘いもの好きだからな。たんまり買ったぞ。喜ぶといいなぁ」


「買い過ぎだっての。まったく。ちょっと姿を消したと思ったら大量に買ってくるんだもんな」


「まー予想はしてたけどさー。あのね、それ全部食べたらリリィ、太るよ?」


 それはいかん!

 愛するリリィ姉さんは出産後に体型が少し変化したことを気にしていた。俺としてはどんな体型でも魅力に溢れていると思うんだがな。


「ここは普通に他の姉妹や親、後は関係者に配ったらいいだろ?ナギのお母さんにだって挨拶に行かないといけないわけだし」


 ああ、確かにそうだな。いい事を言うな。

 それにしてもよく考えたら上司の娘に手を出しちゃったなー。

 仕方ない。愛する人が上司の娘であっただけなんだからな。


 正直、あの人に隠し事をしていてもすぐバレるしきっとロクな事にならない。

 先手必勝でこちらから素直に挨拶に行くのが無難だろう。


「フィリーの親御さんにもあいさつ必要だね」


「えっ!?いや、それは……い、いいんじゃないかな?」


 いやいや、何でそうなるんだよ。

 まだ婚約とかはしていないがこういう関係に発展した以上、着地する場所はもう決まっている。

 ナダ人特有の価値観が無ければもうこちらからプロポーズをしているくらいの状況だ。

 

「いいわけ無いだろうが。その辺はしっかりしとかないといかん。しかし、挨拶の順番が色々と大変だな。どう攻めるか」


「わ、わたしは後でいい!だからまずはあんた達の方をしっかり押さえておこうよ。な?」


 何か隠しているのが丸わかりだが敢えて追及はしないでおこう。

 焼き菓子の期限も考えれば申し訳ないが近場に居るおふくろ達への報告、そしてナギの母親への挨拶を先にするしかない。

 さて、帰ったら忙しくなるぞ。

 こうして俺達はノウムベリアーノへと帰って行くのであった。



QUEST CLEAR 『災禍獣の討伐』

報酬 55万ゴルト獲得

短めでしたが7章終了。

次回から8章スタートです。

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