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第51話 そして復讐という名の雨

【ホマレ視点】


「くっ、数が多い!これではセシルの方へ行けないわ!!」


 ハンマーヘッドバードを剣で切り捨てながらグレースが叫ぶ。


「昨日みたいな炎を纏った強烈な威圧は出来ないのかよ!?」


「私の能力発動には『火入れ』が必要なのよ!溜まれば無双だけどそれに5分はかかるわ。普段から『火入れ』をしていると消費が大きいから通常は『消火』状態なの!!」


 まあ、今のままでも十分強いがあの出鱈目な強さを出すには時間が足りない、か。


「よしグレース、ここは任せたぞ!!」


「え?お兄ちゃん!?」


 俺は首長オオカミの頭を掴むと力いっぱい持ち上げボディを振り回す。

 そうやって周囲のモンスターを散らし、進路を開けさせる。

 乱暴に扱ってすまん、オオカミ君。

 俺は開いた突破口からセシルを追って走る。

 

 途中でグラップラーリザードの群れが侵攻を阻んできた。

 相手にしながら視線を向けるとセシルがクロヒョウ型の災禍獣に対しがむしゃらに攻撃を仕掛けていた。


射両(いりょう)砲刃(ほうじん)ッッ!!!」

 

 両腕から大木を斬り倒すほどの飛ぶ斬撃を放ちまくるが災禍獣の軽やかなステップにより当たる気配はない。

 まずいな、あれはマジで周りが見えていない。

 どの程度キャパがあるかはわからんがあんな消費が大きそうな技を連発したらエネルギー切れを起こすぞ。

 ナギだって『声』を使い過ぎれば喉が枯れて『声』を出せなくなってしまう。

 消耗していくと射程や攻撃力も大幅に減退していく。

 そして昨日も大技を連発してたからエネルギー切れの危険は結構高いだろう。


「くそっ、ちょこまかと!」


 すると災禍獣の頭に角が生え複数体に分身。複数方向からセシル目掛け突撃を掛ける。

 セシルは状況を察すると素早く地面に手を叩きつけた。


八方(はっぽう)微刃びじんッッ!!!」

 

 八方へと広がる斬撃が八方から迫る災禍獣を捕らえるもその姿は掻き消えてしまう。

 どうやら全員が囮の分身だったらしい。草むらから飛び出した本体がセシルの腕に噛みつく。


「ッあああっっっ!!?」


 痛みに声を上げるがセシルはそのまま災禍獣に組み付く。


「掴まえたぞ!今日こそお前を!大黒砕刃(だいこくさいじん)ッッ……!?」


 技の発動を叫ぶが何も起きなかった。


「そ、そんなまさか、エネルギー切れ!?」


 セシルの顔に絶望が浮かぶ。

 やはりか。セシルの頭に血が上っていることに気づいて大技ばかり誘発させてエネルギー切れに持ち込んだようだ。

 時間経過はまだ3分。グレースの『火入れ』が完了するにはまだ時間がある。これでは間に合わないか。

 災禍獣はセシルの腕を咥えると無茶苦茶に振り回して地面に、そして大木へと叩き付けた。

 そうして放り投げると全身を刺々しい装甲で纏いセシルにボディプレスを放つ。


「――――っっっぎ、ぁ、がは……ッッ!!!!」


 あいつ、一撃で止めを刺すんじゃなくて嬲っている?

 災禍獣はセシルの反応を見てニヤリと口元を歪めていた。

 さっきも見せたあの表情。あれは……そうだ。あの悪意は……


【セシル視点】


「何で……仇がそこに居るのに!みんなの仇が……それなのに何もできないなんて!!」


 両親、村の皆、そしてよくしてくれた先輩聖女。

 あたしからそれを奪ったこいつを倒すために今日まで努力を続けたのに……


「ぁ…………!ぁ、あぁぁ、ぁ」


 惨めに嗚咽を漏らすあたしの表情を見て災禍獣は満足したのか止めを刺すべく前脚を大きく上げ叩き付けた。

 あぁ、ここがあたしの人生の終点なんだ……


誘導流糸(アース・ストリート)ッ!!」


 間に割って入り攻撃を槍で受け止め防いだのはナギ達と一緒に居た若い女性冒険者。確か、フリーダさん。

 直後、彼女の後方で地面が抉れた。

 まさかこれって……受け流し?


「ランチャーソング!!」


 ナギが飛ばした『声』を察知して災禍獣が飛びのき距離を取った。


「何で……あたしを助けたりなんか……」


「悔しいよな。必死に頑張ったのに、それでも届かないなんてさ。だけど、それでも終点はそこじゃない。全てのものには『流れ』があるんだ。だから、後は『託そうか』。なぁ、ホマレ?」


 フリーダさんが呼びかけた先には昨日と同じく装甲を纏った男が立っており災禍獣の頭を掴んでいた。


「ああ、それじゃあ『駆除』といこうか」


【ホマレ視点】

 

 怒りは自分を滅ぼす。

 身体に余分な力が入ればパフォーマンスが落ちてしまい、先ほどのセシルみたいになるからだ。

 1年前におふくろを殺しかけた連中に親父はいつもの調子で戦いを仕掛けていたが『怒っていないわけじゃない』とも言っていた。

 静かな怒り。頭はしっかり冷やして身体の奥底にマグマのような怒りを沸かせる。

 災禍獣の悪意と嗚咽するセシルを見てようやく親父がやっていたことが分かった。

 セシルの事情はフリーダやナギから聞いていた。そして、仇を前にして何もできない時の悔しさは俺も味わった。

 あの怒りも自分がどれほど惨めかと絶望する気持ちも痛いほどよくわかった。


 俺は災禍獣の頭を掴み持ち上げる。

 バタバタともがく敵を力の限り近くの木へと叩きつけた。

 デュランダルは俺自身の力だ。変身せずに力を引き出すことも不可能ではない。

 見られている状態で変身は出来ないが、力を振るうことは出来る。


「さて……一応確認させてもらおうか。お前、元は『人間』だろ?」


 先ほど災禍獣が見せた『悪意』。あれで確信した。

 自然界にも獲物を弄ぶような生物は居なくもない。

 だがあれだけの悪意を見せる生物なんて俺は1種類しか知らない。


「ギィシュー、よく気付いたな」


「やはり喋られるようだな。お前、殺しが楽しいってタイプの人間だろ?」


「ああ。元々は別の世界で傭兵家業をしていてな。合法的に人を殺せるのがたまらなく楽しかったんだよ」


 しかも転生者だったか。

 まあ、あれだけ転生者が居ればロクでもないやつも混じるか。

 実際、ちょっと糾弾しにくいが俺にとって義理の母親になる予定の人も相当ロクでもない転生者だからな。


「この姿に転生からは新しい楽しみを見つけたんだ。獲物を追い詰め食い散らかすっていう野生の醍醐味だ。知ってるか?たっぷり痛めつけて絶望させた肉ってのは最高に美味なんだぞ?あっちで泣いてる惨めな聖女の親ってのもしっかり『調理』して味わったぜ?後、返り討ちにしてやった聖女は絶望とかしなかったからだろうな。あんまり美味くなかったんだよなぁ。まあ、今度の聖女はさぞ美味しく仕上がってるんだろうなぁ」


「十分わかった。もう黙っていいぞ?」


 瞬間、一気に距離を詰めて放つ爪を束ねた突き攻撃が災禍獣に叩き込まれた。


「ぐああっ!?」


「いいか、この一撃はお前が家族を奪ったセシルの分だ」


 更に連続でのローキック。


「肋骨くらいが何本かイッただろうな。これも村の人達を失ったセシルの分だ」


「このガキッ!調子に乗りやがって!」


 『隠密』スキルを発動させ姿を消そうとする災禍獣だがフリーダが結び可視化させた『糸』におよりその動きは手に取るように分かる。

 災禍獣の前脚を捕まえると関節を決めて一気にへし折った。


「ぐがぁぁぁっ!?そんなっ!隠れているのに!?」


 念には念を入れてもう片方もへし折っておく。


「痛いだろうな。これはお前が無惨にも先輩を奪いセシルに与えた分の痛みだと思え。こんなものじゃ足りないがな」


 そして空中へとかちあげる。


「グレースの『火入れ』を待つ気でいたが気が変わった。お前は跡形も残さない!!そして、もう一度宣言しておくぜ。これもセシルの分だぁぁぁっ!!」


 全身から力を振り絞り回転しながら空中の敵目掛け飛びかかる。


「レグルススクリューッッ!!!」


 ビームエネルギーを纏った回転により災禍獣はズタズタに引き裂かれ空中で霧散した。


---------モンスター名鑑---------


ハンマーヘッドバード

種族:鳥系

体長:1m

危険度中級Lv1


ハンマーのような頭を持つ胴長の鳥。数十羽の群れで行動する

高い所は飛べないが低空飛行の速度は速い。



グラップラーリザード

種族:爬虫魔獣系

体長:70cm

危険度中級Lv5


数十体の群れで生活する爬虫類。前脚が非常に硬い甲殻で覆われている。

戦いの際は二足歩行になり前脚を拳の様に敵に叩き込む。

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