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第50話 セシルの過去

【フリーダ視点】

 

 災禍獣とか言うヤバいモンスターを討伐するためにわたし達3人とイリス王国の聖女ふたりはヴェラザノ地方にある森を進んでいた。


 最前にはホマレと『炎刃の聖女』であるグレース王女。

 中央に索敵をしているナギ。周囲を兵士たちが警戒して固めている。

 そして後列にわたしと【斬滅の聖女】であるセシルがついて歩いていた。


 この位置取りは正直言って暇だ。

 ナギは索敵中だからおしゃべりは出来ないし、ホマレは最前列だ。

 糸を伸ばして『糸通信』をすればいいけど何か邪魔そうだしなぁ。

 

 仕方ない。さっき気になった事をセシルに聞いてみるかな。

 

「なぁ、えーと斬滅の……」


「あたしにはセシルという名前があります。聖女ランキング第3位のセシルです。特別に名前で呼んでいただいて結構ですよ」


「ああ。それじゃあセシル。ちょっと気になったんだけどさ、さっき聖女の力の源についての話になった時、少し不安げな表情だったよな?」


「……別に。気のせいじゃないですか?」

 

 セシルはこっちを見ずに前だけ向いて答えるが眉はピクピク動いていた。


「あのさ、もしかしてなんだけど……あんた、自分の力の源がわからないとか、そういうことなんじゃないのか?」


「ッ!!」


 セシルは目に見えてわかるレベルで明らかな動揺を見せた

 あっ、図星だったみたいだ。


「確かに『普通じゃない』冒険者ですね。ナギもよくこっちの考えていることを見透かしていましたがあなたも似たような感じです。本当に厄介ですね」


 多分、『糸』のせいだろうな。

 ナギほど広くないけど索敵も出来るし何となくだがセシルから不安みたいなものが糸を通して伝わってくるんだよな。


「……あたしの根源は殿下やナギみたいな希望に満ちたものじゃないんです。どす黒い、恨みに満ちたものなんです」


 隠しても無駄と考えたのかセシルはゆっくりと話し始めた。


「あたしは、マントル領にある小さな村の出身でした。小さい頃から特に秀でた能力も無い普通の女の子。それがある日、突然聖女としての力があるって言われて……聖女宮に移り住んで修行する様になりました。だけど、あたしは自分の力の根源がわからなかった。それでも一所懸命聖女としての修行を積みました。そんなある日……あたしの住んでいた村が災禍獣に襲われて全滅したんです」


「村が……」


 その言葉にわたしの記憶にある苦い記憶が思い起こされた。


「それだけじゃありません。討伐に向かった先輩聖女も災禍獣の手にかかって……よくしてくれた優しい人だった。だけどあたしは何も出来ず奪われるだけだったんです……その時強い『怒り』と『憎しみ』を感じました。皮肉なことに聖女の力はそこから強くなっていき、第3位の聖女にまで上り詰めました。だから、あたしの根源は他の聖女とは違う、負の力なんです」


 無意識に繋げていた糸から伝わってくるのは哀しみの感情だ


「わたしの住んでいた村もモンスターに襲われたことがあるよ。全滅はしなかったけど仲の良かったお友達とか親しかった人達が何人も死んだんだ。わたしのじいちゃんもそのひとりだったよ」


「フリーダさん、あなたは……」


「その時助けに来てくれたのがたまたま近くに居た親子。ホマレと、あいつのお父さんさ」


 その内、『お義父さん』って呼ばせてもらう事になるだろう。楽しみだな。


「何でもっと早く助けに来てくれなかったんだってあの時は泣いたよ。助けて貰っといて理不尽だよな?たださ、その時ホマレが泣きそうな顔で『ごめんな』って何度も謝ってくれたんだよな。あいつは何も悪くないのにさ」


「そんな事が……すいません。あなたはてっきり何も考えていないお気楽な村娘だとばかり」


「いや、それは当たってると思うぞ?だって今の話さ、オチが無いし」


「は?」


「普通ならそこから何かアドバイスとか贈ることが出来たらカッコいいんだけど、正直わたしはホマレやナギみたいに頭がいいわけじゃ無いから上手くまとめられないんだよな。まあ、何だろう。わたし達は生きてる。だから前を見て歩いて行こう!とかくらいしか言えないよ。あっ、でも最後列に居るから後ろを警戒しないといけないんだけどな」


 セシルは口をぽかんと開けていた。


「あなた…………凄くバカですね」


「凄くって失礼だな。確かに読み書きはあんまり得意じゃないからホマレのお姉さんに教えてもらっているけどさ……」


 ホマレの家族はみんな頭いいからな。

 特に長姉のケイトさんは学校を首席で卒業したらしい。

 超難関である受付嬢になれたのも納得な気がする。


「だけどそうですね。生きてるから前を……ですか。一応、参考にしておきましょう」


 あっ、あんまり参考にしないで。

 微妙にまとまってない考えを思うままに言ってみただけだからさ……


『フィリーってやっぱり優しいよね』


 ナギがこっそり声を飛ばして来る。まあ、聞こえてただろうな。

 優しい、のかなぁ。何かバカ丸出しだった気がするけど……


「捕捉したよ」


 そこでナギが足を止めてとある岩山を指さした。

 全員が警戒をする。ナギが示した岩山には巨大な四足歩行の獣が佇んでいた。


「あの災禍獣はッ!!!」


 わたしの横でセシルが拳を固く握り締め、血が出る程に歯を食いしばった。


「セシル?あれ、もしかして」


「災禍獣ブルパルト!あたしの村を襲った災禍獣!!」


【ホマレ視点】


 岩山からこちらの様子を伺うのはヒョウ型のモンスター。


「災禍獣ブルパルト。まさかこんな所に隠れていたとは……幾つもの村を壊滅させ、聖女も奴の犠牲になった恐ろしい相手よ。災禍ランクは星3クラス。聖女でも上位のものでしか相手に出来ない実力者よ」


 なるほど、確かに普通のモンスターとは纏っている気配が違うな。

 災禍獣の存在は知っていたが対峙は初めてだ。そうだな、やはりだが『強い』な。


「上の……6,いや7ってところか」


 警戒を強める中、後列のセシルが溜まらず飛び出す。


「セシル!?しまった!あの娘にとってあいつは家族の仇なのよ!!」


 そりゃじっとしていられんだろうな。

 フリーダに初めて出会った時の苦い記憶が甦る。


 それにしてもあれだけ頭に血が上っていたらまずいぞ。

 1年前、おふくろを殺されたと思った俺も怒りで我を忘れた。

 万全の体調じゃ無かった事も重なってぼろ負けした経験から言わせてもらうと、かなり危険な状態だ。


 援護に向かおうとした瞬間。森のあちこちからモンスターが姿を見せた。

 いずれも中級クラスのモンスター達だ。


「え!?何こいつら、索敵に引っかからなかったのに!?」


 ナギが困惑する中、岩場に居た災禍獣がニヤッと笑い、同時に姿が掻き消えた。


「まさかあいつ、ナギの索敵にかからない高レベルの『隠密』スキル持ち!?しかもこの状況、周囲のモンスターにもそれを付与できる!?」


 マズイ。とんでもない知能の持ち主だ。

 この辺のモンスター達を傘下に入れて群れをつくってやがる。

 しかも部下を使い、俺達を襲撃・分断させた上で狩ろうという事らしい。

 今、一番危ないのは飛び込んでいったセシルというわけか。


「やれやれ、世話が焼けるお嬢さんだな。まずはこいつらを蹴散らすぞ!!」



---------モンスター名鑑---------


災禍獣ブルパルト

種族:災禍獣

体長:2m40cm

危険度:災禍ランク3※上級Lv7に相当

黒ヒョウ型の災禍獣。かつてセシルの村を壊滅させ、聖女を返り討ちにし逃亡していたお尋ね者。

高度なステルス系スキル『隠密Lv5』はナギの音波索敵にも引っかからない。

また、精度は劣るが『隠密Lv4』を自分の眷属に付与する能力も持つ。 


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