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第4話 釣り納品クエスト

 朝食が終わった辺りでようやく親父が帰って来た。

 俺はウキウキしながらフリーダの親と話し合った結果について尋ねた。


「親父、こいつの親と話をつけてくれたんだろ?どうだった?」


 親父は笑顔で『おう!』と拳を握ると小さく掲げた。

 流石は俺の親父だ。何と頼もしい人なのだろうか。

 前世でもこの人が父親であったなら俺もどれだけ幸せだったのだろう。

 

「しっかりとあちらの親御さんと酒を飲みかわしながら話をつけて来たぞ」


 それはつまり、俺の怪我は大したことないので彼女にはやることが無いので帰宅を許してもらう様話をつけてくれたという事だろう。

 良かった。これでこのじゃじゃ馬とおさらばだな。

 いや、待てよ。今、妙な単語が聞こえたぞ。


 そう、確か『酒を飲みかわした』って言ってたよな?

 酒を飲んでおっさん達が話し合い……何だろう。そこはかとなく嫌な予感がしなくもないのだが……大丈夫、だよな?


「そ、それで結果はどうなった?」


「うむ。責任を持って娘さんを預かって冒険者として育てるって、約束をして来たぞ」


「は?」


 俺は親父の言葉を数度心の中で反芻した。

 どう考えてもフリーダを返品するとかそういった内容が見当たらないではないか。


 ちょっと親父ィィィィ!?

 いや、完全に話し合いの趣旨変わってるよね?何やってくれてるの!?

 このじゃじゃ馬を返品するために話をしに行ったのに何で預かる事確定になってんの!?

 見れば母親達が『やっぱり』といった感じで額に手をやっていた。

 いや、予想通りだったのかよ!?だったら誰かついて行ってくれりゃ良かったじゃないか!!


「まあ、ほらウチも娘がふたり家を出てしまって少し寂しくなっているしな。丁度良いだろう」


 何が丁度良いだよ。こっちは全然良くないぞ?

 こいつは家族でも何でもない、赤の他人だぞ!?


「えーと、だけどそれならわたし、やっぱり家賃とかそういうのを払った方がいいですよね。どうしたら……」


 そう!それだ!只のじゃじゃ馬かと思っていたがまっとうな事を言うものだな。少し見直したぞ。

 冷静に考えて欲しい。よその娘さんをただで養う義理も無いのだ。

 即ち、やはり村に返品するのが最適解となるのだ。


「まあ、それに関してはほら、君は冒険者見習いなんだろう?だから、冒険者として働いて貰ってその報酬からいくらかをウチに入れてくれればいい」


「わたしが、冒険者として……」


 待て待て。こいつ多分そんな強くないからあんまり稼げないぞ?

 いやまあ、その辺は承知の上でフリーダが遠慮しない様に提案しているんだろうな。


「と、いうことでだ。早速簡単な依頼を貰って来たぞ」


 早速かよ。スピード感あるなぁ。

 親父が一枚の依頼書を机の上に置いた。

 依頼内容は『ミラトラウト2匹の納品』ランクはE。報酬金は1800ゴルト。

 ミラ湖とは街の北側の森にある湖だ。

 なるほど、釣りをして魚を納品するという簡単な納品クエストだ。


「まあ、ごく簡単な依頼だろ。腕試しに丁度いい」


「これならすぐ終わりそうだね。フリーダちゃん、あたしが手伝ってあげるよ!!」


 メールが肩を回しながら気合を入れている。

 うん、何と心の優しい妹だろうか。流石は俺の妹、といったところだな。


「あーいや、メールお前はダメだ」


「えー、何で!?」


「お前が行くと湖に飛び込んで素手で捕ってきかねん。それじゃあ趣旨が違うしそもそも彼女の経験にもならんからな」


「えー」


 確かにメールならそれくらいの事をやりそうだ。

 釣竿を使うより素手で泳いで取った方が話が早いという気性の持ち主なのだ。

 というかそもそもじっとできない妹に『釣り』のクエストは根本的に向いていない。


「せっかく泳げると思っていたのになぁ」


 やっぱり泳いで素手で魚を捕る気だった様だ。

 そうなると妹は水着姿になるわけだが、それを拝めないのはやや残念だ。


「という事で、ホマレ。お前がついて行ってやれ」


 親父は唐突に俺に話を振って来た。


「ちょっと待ってくれ!?何でだよ。そもそも俺は冒険者ライセンスは既に返納しているんだぞ!?」


 俺のかつてのランクは3等特級冒険者。

 ただ、その頃の力についてはある理由で喪ってしまい、冒険者ライセンスを返納して冒険者を引退した。


「警備兵ライセンスがあるだろう。あれを持っていれば彼女にも同行できる」


「え?あんた警備兵だったの!?」


「無職だと思ってたのかよ!?」 


 こくこくと頷く冒険者見習い女。

 人を勝手にニート扱いするなど失礼極まりない奴だ。

 こう見えても一応この大都市を守る警備兵のひとりだからね、俺。


「ガキの頃に使えてたスキルを無くしてたって冒険者としての勘までは無くしていないだろう?万が一があったら親御さんに申し訳が立たんしな」


 それなら冒険者として育てようとか言わず村に返品して欲しかった。


「でもなぁ、今日は折角の休日なのになぁ……」


 無理だとは思いつつも俺はささやかな抵抗を試みる。

 そう、今日は休日なのだ。せっかく姉や妹達と親交を深めようと楽しみにしていたのに。


「ちなみにその依頼主だが、リリィだぞ?ミラトラウトを夕食のおかずにしたいという事らしいんだがなぁ」

 

「何だと!?」


 親父が口にしたのは結婚して家を出た2番目の姉の名前。

 そして俺にとって初恋の人だ。


「昔から魚嫌いで出来れば食べたくないというスタンスのあいつだが流石に今は旦那もいるからな。時々魚も食卓に出さないといかんと思っているんだろう。ミラトラウトなら骨も取り易いからな。あいつが食べられる数少ない魚だぞ」


 確かにリリィ姉さんは魚、そして酸っぱい味付けが苦手だ。

 南蛮漬け的な調理を施した料理とかはもう最悪である。まあ、我が家には魚嫌いが数名いるから魚自体あまり出て来ないのだが。


 そうか、このクエストにはリリィ姉さん家の食卓がかかっているのか。

 それならば速やかに解決する必要があるし、手は抜けないな。

 まさしくかなり重要な『緊急クエスト』というものだ。


「さぁ、フリーダ、食事はとったか?。まだならさっさと食べて支度しな。お前の初仕事は俺がしっかりとサポートしてやるから安心しな?」


 全ては愛する姉の為。

 それならばじゃじゃ馬のお守くらいどうという事では無いのだ。


「え、何か急に凛々しくなってやる気に満ちた!?そこはかとなくカッコいい気も……」


「はぁ、身内びいきを抜きにしても基本はイケメンな人なんですけどね。これで重度のシスコンじゃなければきっといい人が見つかるでしょうに…………」


 何やら末妹が嘆いているが何か悩みがあるのだろうか?

 それはいけない。兄として今度相談に乗ってあげないといけないな。


「行くぞ!姉のディナーメニューの為!!」


「お兄さま、趣旨が変わっていますよ……まぁ、やる気を出してくれたならばいいのですけど」



QUEST1

ミラトラウト2匹の納品

ランクE

報酬:1800ゴルト


【???】


 ミラ湖のほとりに腰まで長い紫色の髪をした魔術師風の女性が立っていた。

 巨大な体をくねらせ湖を泳ぐ影を見て、女性は満足げな笑みを浮かべる。


「実験は最終段階に到達。ふふふ、立派に育ったわね。私の可愛いペットちゃん」



キュレネ

クラス:中級魔法職・ストレーガ

備考:魔女




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