第40話 それぞれの思惑、あと昆布
実は考えていることがほぼ同じな3人という話です。
まあ、フリーダとナギは繋がってますしね。
【フリーダ視点】
物心ついた時から同年代の子達からは少し浮いていた。
村の女の子が一般的に習得している様な糸つむぎやらは全くできなかった。
それが今や身体から糸を出す能力者なのは皮肉なものだよな。
何というか、そこに居るのに何だか『違う場所に立っている』という妙な感覚だった。
そんな子だからいじめられたりこそしなかったが友達なんかは出来なかった。
村を襲ったモンスターを、ホマレと親父さんが退治してくれた時『これだ!』と感じるものがあった。
結局、彼を追いかけて冒険者になろうとしたが夢破れて村へ帰った。あの時は大分怒られたものだ。
たまらなく悔しくて必死に腕を磨いた。
村の女の子は大体14から16くらいまでで結婚する。
だけどそんな中、わたしはやっぱり浮いた話も無く17歳と割と田舎では『行き遅れ』な感じになって行った。
一度、結婚の話が出たが全力で断った。今思っても正解だったと思う。
あそこで話に乗っていたらホマレとの再会は無かったのだから。
ホマレの家に居候する様になって、わたしの中で足りていなかったピースがはまって行く感覚があった。
何やかんやあってホマレとお試しの恋人になって、その後に現れたのがナギ。
彼女もホマレを好きで最初は強烈な存在に困惑した。
だけど話をしている内にわたしの中のピースが更にはまったと感じた。
わたしより10歳以上年上の癖にどこか子どもっぽい。
それでいてさり気なく気遣ってくれるお姉さんみたいな元聖女。
彼女の事をわたしは好きになっていた。
そして私の能力である『糸』。その中で『赤い糸』がホマレ、そしてナギと繋がった状態だった。
だから1年前、わたしはある提案をしてナギと沢山話し合った。
最初は随分と怒られたがわたしの中にある気持ちを一所懸命に伝え、遂に承諾してくれた。
わたしとナギが目指すもの。それはホマレの親達の様な『一夫多妻』の関係だった。
ナギと一緒にホマレを振り向かせて夢中にさせてやりたい。そして3人でずっと一緒に居たい。
それが、わたしの願い。
幸いにも一夫多妻を成立させる為の資格を、ホマレは過去に取っていた。
大方、『将来、姉や妹達に求婚された時の為』とか言って取ったものなのだろう。
その光景が容易に想像できるのが何か悲しいけど……
とりあえず、ホマレにナギを惚れさせないといけない。
日々のアプローチから結構いい線行ってるはずなんだけど、まだ届かない感じがする。
今回、向かうヴェラザノ郡。その郡都である水上都市は別名『恋の聖地』とも言われてるらしい。
ここで何とか更なる進展を目指したいんだけどな。
【ホマレ視点】
目的地へと向かう馬車の中、俺から少し離れた所でフリーダとナギは楽しげに談笑していた。
ふたりは1年前のおふくろ襲撃事件から一気に仲良くなり、まるで本当の姉妹みたいで微笑ましい。
フリーダに対する感情も『好き』がわかったので順風満帆なのだが少し気になっていることがある。
実は同時にナギに対してもフリーダに対するのと同じような感情が生まれつつあることに俺は気づいていた。
いや、まあ確かにナギは出会ってから俺をあちこちに振り回してた女だし、一度迫られたこともあったからなぁ。
しかもフリーダと絡みだすようになってから昔は気づかなかった魅力が見えてくるようになった。
ちょっぴり子どもっぽかったりお姉さんだったり。正直、フリーダの横に居ながらドキドキしてしまう事もあった。
やっぱり恋愛経験ない『童貞』だからなぁ、俺。
後、フリーダがそうであったのと同様、ナギも必死におふくろを助けようと頑張ってくれたし。
思っている事がある。
これ、例えば親父達4人みたいに『ふたりとも選ぶ』って出来ないかな?
フリーダと関係を進めていけばいずれナギと道が分かれる日がやって来る。
だけど欲張りな俺は『ナギも傍に居て欲しい』と思ってしまっている。
この国には『一夫多妻』の文化があるからふたりさえ良いなら実現する。
幸いというか、若い頃に資格は取得しているんだよな。
あの頃は超絶バカだったので『姉さんや妹達と結婚できる未来が来た時の為』とか考えて『こっそり』取得していた。
なぜ、『こっそり』だったかというと流石におふくろからキレられそうだと理性が働いたからだ。
だったら取るなよ!と過去の自分にツッコミを入れたい所だ。
多分あれだ。やっぱりちょっと『異世界ハーレム』とやらに憧れていた節もあるよな。
ただ……そんな都合のいい事って許されないよなぁ。
言ったら絶対怒られるだろうし下手したらフリーダから別れ話を切り出され兼ねない。
「ホントだって、わたしの親指の方が絶対大きいよ」
「そうかなぁ。それじゃあ、ナギのと比べてみよっか」
いや、どんな会話してるんだよお前達!?
【ナギ視点】
何回も自問自答し続けた。
自分はこれでいいのか、と。
ホマもフィリーも大切な仲間。だからこそ幸せになって欲しい。
自分は年上だし、いざとなったら身を引くのがベストな行動。
だけどフィリーは私の腕を掴んでずっと一緒に居たいって言ってくれた。
選ばれたのはフィリーなんだからもっと自分を大切にしないとって怒ったけどそれでも怯まなかった。
とりあえず了解し、ふたりでホマレを『攻略』することに。
頃合いを見計らって姿を消すつもりだったけど、失敗したなぁ。
私も二人と離れるの、嫌になっちゃったんだよね。
こうなったらとことんやってやる!ってなったわけだけどさ。
何かホマの方にも何かしら思惑がある感じなんだよね。
ただ、何かそれが私達の思惑と微妙に噛み合ってないというか実は噛み合っているんじゃないかっていうか……世話が焼けるなぁ。
フィリーも付き合いだして1年なわけだし考えることもあると思う。
ここは年長者として頑張ってあげないと。
【ホマレ視点】
「うわぁ、これが『海』かぁ。でっかいなぁ」
ヴェラザノ海岸に着くとフリーダは初めて見る海に目を輝かせていた。
今回訪れたヴェラザノ郡こと旧ヴェラザノ子爵領は国の南西部に位置する。
水産資源が豊富で海運等で発達をしてきた地域である。
「フィリー、海は初めてなんだね。海って世界の大部分を占めてるんだよ。沢山の生物が住んでるし、海の向こうには別の国があって沢山の人が住んでいるの」
「へぇ、噂には聞いてたけど凄いな。山育ちのわたしにとっちゃ未知の世界だよ」
そういやこいつはアスコーナ郡の山村出身だったもんな。
あの辺りは海とは無縁の土地だからなぁ。
さて、普通なら『夏』そして『海』ときたら『水着』と連想されるがこの世界では『海水浴』という文化は無い。
ちょっと見てみたかったんだがな、ふたりの水着姿とか。
ふたり共、スタイルは結構いい方だからな。
「ホマ、何かやらしいこと考えてない?」
ジト目でナギに睨まれた。
ああ、しまった。心音を読まれたか。
「記憶にございません」
政治家みたいな言い訳をして視線を逸らせる。うん、ダメな奴だよな。
さて、先ほど海水浴文化が無いと言ったが理由は至って簡単だ。
海みたいな場所でそんな『危険な真似出来るか』だ。
早速、波打ち際を漂う複数の海藻がむくっと起き上がりモンスターが咆哮を挙げた。
「いいっ!?あれなんだよ!?」
「えーと、ワカメビーストだっけ?」
「あれはコンブビーストの方だな。色がちょっと違う」
そう、つまりはこういう事。
海岸は普通にモンスターが闊歩している。
地球で考えられている海水浴をしようものならモンスターの腹の中だ。
「とりあえず戦うぞ!フリーダ、水が多い場所だから無暗に雷を打つなよ。ナギ、こいつは火が弱点だ。サポートを頼むぞ!!」
---------モンスター名鑑---------
海藻魔獣コンブビースト
種族:水棲哺乳類系
体長:1m50cm
危険度:中級Lv5
ヴェラザノ海岸に生息するモンスター。波打ち際を漂う海藻に擬態して獲物を待つ。
身に纏うコンブは特定の条件下で天日干しして乾燥させることで絶品の出汁が抽出できるようになる。