第3話 妹騒動
「ちょっと兄ちゃん!またフリーダちゃんをイジメてるの?」
庭で修練をしていたひとつ下の妹、メールがリビングへやってくる。
難しい事を考えるのが苦手で頭より体が先に動くので結果としてよく親に怒られている可愛い妹だ。
「いやいや、『また』とか『イジメ』てるとか人聞きが悪い。俺にはこいつの助けがいらないとはっきりと言ってやってるだけだ」
「でもさ、元はと言えば兄ちゃんがモンスターに突っ込んでケガしちゃったのが原因でフリーダちゃんが家を追い出されちゃったんでしょ?それは兄ちゃんが悪いよ」
俺が悪いのかなぁ。一応、庇った結果なんだけど。
ちなみにこいつは本当に『転がり込んで来た』感じだ。
流石に追い出すわけにいかないということで今は空いていた部屋に居候させている。
「あら、珍しく意見が合いますわね。確かに今回の件、お兄様に責任がありますね」
花の世話を終えて戻ってきたリムがメールの意見に同意する。
こんな時は意見が合うんだよなこの二人。
いや、だから何で俺が悪いんだよ……と言いたい処だが。
「まあ、お前達がそう言うなら、俺が悪いな」
「うわ、妹に対してはクソザコレベルに弱っ……」
フリーダが少し呆れた様な視線を向けてくる。
そりゃお前、可愛い妹が言うならなぁ。俺が悪いに決まってる。
「何かさ、フリーダちゃんがウチに来てからちょっと賑やかになったよね」
「ええ。上の姉様方ふたりが結婚して家を出てしまってから少し寂しくなっていましたからね」
「一番上のケイト姉ちゃんは未だ彼氏の『か』の字も無いけどさ」
「いけませんわ。我が姉。それは禁句です。触れてはいけない禁忌です」
そうだな。確かにそれ指摘されるケイト姉さんはへこんでしまうだろう。
へこむだけならまだいいが虫の居所が悪かったら『ビーム』が飛んでくるぞ?
まあ、俺としては結婚なんかせず一生この家に居てくれたほうが嬉しいのだが。
「それにしてもさ、何かあたしは妹が出来たみたいで嬉しいよ」
メールがフリーダの肩をパンパン叩く。
いや、お前隣に妹居るじゃん。
メールの言葉にリムは笑顔で毒を吐く。
「うふふ、バカ姉。妹ならここにひとり居ますよ?」
「あ、そうだった。ごめん!リムは妹だ!」
ええっ!?
マジかよ。あのメールがすんなりと謝った!?
いつもそこで嫌味を返すなりして最終的に掴み合いになって庭に出てバトりだすっていうのに。
そして最後は母親の雷が落ちるまでがお約束の流れとなっている。
「まあ、いつもの事なので慣れてますけどね」
珍しい事にリムもそこで矛を収めてしまった。
穏やかな立ち振る舞いをするので彼女をよく知らない人間は大人しいお嬢さんという印象を抱く。
だが、そこは戦闘となれば肉体言語が火を噴くレム家の人間だ。
実の所、リムの喧嘩っ早さはメールといい勝負なのだ。
「でも確かにあなたの言う事もわかりますわ。私もフリーダさんを見ているとお姉さんになった気分ですもの」
妹達は22歳と21歳。
対してフリーダは18歳なのでふたりからすれば確かに妹みたいなものだ。
そして末妹のリムにとっては初の年下同居人となる。
もしかして彼女の存在が妹達を少し大人にしたということなのかもしれない。
そう思うとこのじゃじゃ馬も多少なりとも役に立っていると考えられるのかもしれない。
「思ったけどフリーダちゃんさ、どうせならこのままあたしらの妹になっちゃえばいいのに」
「そうですわね。珍しくい良いことを言いますね、我が姉よ」
その言葉にフリーダは照れ臭そうに頬を掻きながら返答する。
「わたしが妹に?な、何か照れくさいな」
微笑ましい光景である。だがここで冷静になって少し待って欲しい。
妹達の提案を満たす手段についてだ。
ひとつはフリーダを我が家の養子に迎えるというものだが彼女は生まれ故郷のオンデッタ村に両親が居る。
そうなると現実的な手段はもうひとつの方。俺がこいつを嫁に貰うというものだ。
うーん、悪いけど無理がある。
そもそも俺は姉さんと妹達以外の女性に魅力を感じていない。
だけどいくら考えてもときょうだいで結婚は出来ない。どこかに抜け穴が無いかと法律の隅から隅まで目を通したがやはりだめであった。
その事を確信した時はしばらく絶望したものだ。
ついでに俺の様子を見て心配した三女のアリス姉さんが事情を聞いてきたので素直に話したところ、思いっきり殴られた。
以上の事からある答えが導き出された。
そう、俺は生涯独身という悲しき宿命を背負っているのである。
そもそもフリーダは俺から見たら5歳も離れている。
正直恋愛対象としてはどうかという想いがある。
だが冷静に考えると親父とおふくろは7歳差だったりする。
ただ、親父もまた俺と同じく転生者で現在の年齢もあくまで書類上のもの。
以前聞いた話では確か前世じゃ40歳に近かったらしいから実年齢を突き詰めるとおふくろとは20歳近く歳の差がある事になる。
いや、そうなるとやっぱり恋愛相手として可能とかそういう事になってしまうのだが親父は親父、俺は俺だ。
要するに何が言いたいのかと言えば俺にとって子どもなんぞ相手に出来るかという話なのだ。
だから妹達よ、申し訳ないがこいつがお前達の妹になる事はない。
「いや、でもちょっと待てよ。だったらわたし、こいつと結婚しなくちゃいけないじゃん!無理、超無理!!」
どうやらフリーダ自身も自分が妹になる手段がどういったものか気づいて様で慌てて否定をする。
そう、それでいい。俺にとって大切なのは愛すべき『家族』なのだから。
「確かにそれは最大の問題だよね。ホマレ兄ちゃんってユリウス義兄ちゃんみたいな懐深さはないし、結婚したら苦労しそうだよ」
待ってくれ妹よ。何故そこで次女の旦那である義兄貴の名前が出てくる。
いやまあ、あの人は確かに懐深いイケメンだ。
最初会った時はクソ野郎だったがそこからあの人が起こした奇跡を考えると姉が惚れたのも納得だし安心して託すことが出来た。
かく言う俺自身も一瞬あの人には惚れそうになったこともあるくらいだしな。そういう人だ。
「そもそもこの兄が彼女にやらしいことをするところを想像して御覧なさい」
確かに結婚するならそういった事も視野に入るだろう。
「うわっ…………兄ちゃん、サイテー」
「ええ、実におぞましいですわ……」
おかしいな。俺は何も悪くないというのに勝手に妹達の好感度が下がっしまった。
ちょっぴり理不尽を感じ心が苦しい。それに……
「フリーダ!お前も何で身を震わせてるんだよ!想像の中で勝手に俺を貶めないでくれ!!」
「いやでも……そ、そうだな。寝る時、部屋に鍵かけないと」
「待て待て、何で俺がお前を襲う前提で話が進んでるんだよ!?」
思わず詰め寄る俺にフリーダは身を引いた。
「ひぃぃぃっ!お、襲われる!?」
「誰が襲うかぁぁぁぁ!!」