第37話 親子
ナギは喋る時は『ナギ』という一人称を使いますが本来の一人称は『私』かなと考えています。
【ホマレ視点】
おふくろは危うく死にそうになったが、何とか持ちこたえてくれた。
メイママの治療による副作用で全身が筋肉痛になり味覚も少しおかしい状態になっているっぽいが一安心だ。
まあ、メイママ曰く『そのうち治るから気にしないでいい』らしい。
フリーダとナギが必死に治療してくれていたので比較的少ない副作用で回復出来たらしい。
メイママは『まあ、心臓が止まっていても無理やり動かしましたがね』とさらりととんでもない事を言っていた。
現場捜査にあたったウォーグレイブ隊長=イシダも『まあ、リゼットちゃんは殺しても死なないよね』と笑っておふくろから抗議されていた。
捜査の結果、まあ予想通りだが黒フードの男については不明。とりあえず念の為に警備隊の人間がしばらく家の周りを警備してくれるらしい。
更に隊長から、先日旧カリスト領で俺達と戦った女キュレネについて情報があった。
どうやら逃走中にナギが捕縛して警備隊に引き渡しを行い、留置場に入れていたのだが何者かの手引きで脱走したらしい。
あの黒フードが何か関わっているのかもしれない。
今の所、推測の域は出ないが俺はそんな気がしてならなかった。
さて、メイママは元々盾で攻撃を受け止め味方を守るいわゆる『タンク』的なポジションにいた。
そんな彼女が治療系の技術を習得する様になった原因は俺にある。
俺は生まれた時、結構な難産でしかも息をしていなかった。
その時のショックでメイママは今後同じような事が起きた時に対処できるよう治療系の技術を学ぶようになったらしい。
実の所、『本来のホマレ』はその時に死んでしまっておりそこに俺が入り込んで転生した。
今日まで俺はその事を隠し続けてきたのだが、こうなっては隠しきれない。
覚悟を決める時が……来た。
□
俺は親父達に話があると伝え、居間で向き合っていた。
親父、おふくろ、アンママ、メイママの4人。俺の大切な親達だ。
「親父……その、ずっと話していなかったことがあるんだ」
「何だ。お前が小さい頃にケイト達のパンツの臭いを嗅いでいたことか?」
いや、待て待て待て。そんな記憶は無いぞ。
勝手に捏造しないでくれ。周囲が聞いたら誤解するだろうが。
ほら、おふくろ達が疑念の眼差しを向けている。
「君ならやりかねない……否定できないのが辛いよ」
「おふくろ、頼むからそこは俺を信じて否定して!?違うからな?流石にそんな事はしないぞ!俺がしたいのは至極真面目な話だ」
ずっと逃げ続けていた過去と向き合う時が来た。
もしかしたらこの家の子どもとして過ごせる最後の夜になるかもしれない。
「実はさ、俺……ずっと黙っていたけど親父と同じ転生者なんだ」
その言葉に母親達が息を呑んだ。
俺はゆっくりと、自分が転生した経緯について話した。
本来の『ホマレ』は残念ながら生まれてすぐそのまま死んでしまった事も。
俺が神にお願い事をした代償としてリリィ姉さんの暴行事件が起きてしまった事。
その後、リリィ姉さんを助ける代わりに神から貰ったスキルを返却した事。
今はデュランダルに変身する能力を持っている事。
そして、おふくろを殺そうとしたのは俺の前世での弟、そして妹だった事。
何度も詰まりながら時間をかけて俺は話し切った。
「今まで騙してて本当にごめん!謝っても謝り切れない!」
沈黙が流れる。
最初に口を開いたのはおふくろだった。
「正直びっくりしたけど……それでも、君はホマレだよ。たとえ転生者であり前世の記憶があったとしてもやっぱり君はボクとお父さんの息子だよ。あの時に居なくなってしまった坊やの事を考えると悲しいって気持ちはあるよ。それでも、やっぱり君はボクの息子だから」
「おふくろ……」
次にメイママが口を開いた。
「正直、リリィが一度死を選んだという事に頭は混乱しています。ですが……私はその事であなたに対して怒りとかは感じません。むしろ、自分にとって大切なものを投げうってでもあの子を助けてくれたことに感謝しています」
「メイママ。だけど……俺があんな願いを神にしなければそもそも」
「誰かに愛されたいと願う事は悪い事じゃありません。それに、あなたが助けてくれたおかげであの子はユリウスと出会い、幸せになりました。孫にも恵まれて、それで私は十分です」
「でも……」
「何より、どんな経歴があったとしてもやっぱりあなたは私達の子どもですよ」
そしてアンママが口を開いた。
「確かにあなたは元々、地球で生活していた誰かかもしれない。だけど確実にリゼットや、ナナシさんに似ている。間違いなく二人の子だしこのレム家に生を受けた子どもなんだよ?」
「年々ナナシさんに似てきてますよね。時々すごく雑な所とか割とビビりなところとかやっぱり親子だなぁって思いますから。それに、姉や妹にだって似ている所はあるし、紛れもなくウチの子です」
メイママも賛同してくれている。
「ねぇ、メイシー。気になったんだけど『割とビビり』ってもしかして」
「え?リゼットったら若い頃からすぐに『うえぇぇぇ!?』ってビビり倒すじゃないですか。ホマレもそういう傾向有りますからそっくりです」
メイママに言いきられておふくろは何た言いたげだったが黙り込んだ。
多分、心当たりが山ほどあるのだろう。
「ホマレ、確かに君は最初に偽りがあったかもしれない。だけど、生まれてからこの日まで、生きてきた人生は偽りじゃない。紛れもなく君はボクの息子、レム・ジェスロードホマレだよ」
恨まれると思っていた。
俺は異物だから。ずっとそう思っていた。
特にメイママにとって娘の運命を変えた張本人。
だけどこの人たちは……
「ずっと本当の事言えなくて苦しかったよね?だけど心配しないでいいよ。君はボク達の家族だから」
「まあ、リリィの事は他の子達には黙っておきましょう。今更知る必要も無い。今が幸せなんですからね。その代わり、これからは私達が共有しています」
「そういうことだね。ほら、もうそんな悲しい顔を見せちゃダメよ。いつものホマレに戻りなさい。まあ、シスコンぶりはもう少し何とかしないといけないけどね」
それは……ちょっと無理だ。
だって姉さんや妹は最高なわけだし。
「ということで、締めをお願いね、あなた」
アンママに促された親父は困惑した表情で俺を見る。
「参ったな。いいこと全部、母さん達に言われちゃったんだが…………えーと……よしっ!これからも頑張ろう!!」
「雑い!肝心なトリを残してあげたのに何であなたはそう雑なのよ!!」
「いやいや、お前達無茶ぶりが過ぎるぞ!俺が言おうとしてたこと3人で全部言っちまったじゃねぇか!ちょっとは残しといてくれよ!!」
何だか力が抜けてしまった。
俺の人生ここから転落かと覚悟していたのだけれど……意外と普通だった。
□
【ナギ視点】
リゼットさんを治療した結果。エネルギーを使い果たした私は恩人として泊っていくように言われた。
お母さんは警備隊の隊長として襲撃事件の捜査報告書をまとめないといけないから家に帰れないだろうから丁度いいかとお言葉に甘えた。
フィリーは疲れ果ててベッドで休んでいる。
私は2階ホールのソファで階下の話を聞いていた。
地獄耳だし魔力は回復してきているからこれくらいの距離なら十分に聞ける。
「ホマが……転生者?」
「おやおや、盗み聞きとはいい趣味だよね」
気づけばお母さんが横に座っていた。
「お母さん!?え?帰ったんじゃないの!?仕事は!?」
「うん。一度は帰ったけどね。何ていうか報告書が面倒だから部下に任せて遊びに来たゾ」
いや、『ゾ』じゃないって。
部下の人、可愛そうじゃん。
「ていうか何処から入って……あっ!」
廊下の窓が開いていた。間違いなくあそこから入ってる。
「あそこの鍵、緩んでるんだよね。いやはや、勝手知ったる他人の家だね」
普通に不法侵入だし。
まあ、私もお母さんと一緒によく不法侵入かましていたけど。
「それにしても驚きだよね。ホマレが転生者だったなんてさ」
何だか言い方がわざとらしい。
「ナギが思うに、お母さん知ってたでしょ?」
お母さんは『まーね』と笑う。
「まあ、出身が何処だろうが関係無いじゃない。あなたが惚れていることに変わりはないわけだし」
「別にナギ、ホマに惚れてるわけじゃないし。それに、ホマの彼女はフィリーだからね」
お母さんはにやにや笑いながら私の顔を見ている。
まあ、どうせお見通しなんだろうけどさ。
「お母さんはね。ナナエダが好きだったよ。ホマレのお父さん」
「…………まあ、そんな気はしてた」
何せお母さんは昔からこれでもかってくらいこの家にちょっかいをかけている。
まあ、ホマのお父さんからはかなり煙たがられてるけど。
「もしかしたらあの輪の中に入ることが出来るかもって思った事はあったよ?だけど、私と彼は『平行線』だって事も気づいていた。嫉妬深いし、人は殺しまくってたし理由はどうあれ一度は娘を捨てたわけだしね」
「……だけど、迎えに来てくれたじゃん。この世界に連れて来てくれた。地球なんかよりもずっと過ごしやすいし楽しいよ」
「あら、泣けることを言ってくれるじゃない」
お母さんは泣き真似をしておどけるが心の中が揺れているのは聞こえてくる心音でわかっている。
「まあ、そういうわけで私はこれでいい。だけどあなたは、幸せを掴んでもいいと思うけどね」
「……だから言ったじゃん。ホマはフィリーと付き合ってるの。ナギは横取りとかそういうのは、嫌いだから」
「どうすればいいか、本当はわかってる癖に素直じゃないなぁ。まあ、私が言いたいのはね、『後悔だけはしないで』って事だから。どんな道でも最後に選ぶのは自分自身、だからね」
何だかそれっぽいアドバイスをしてくれる。
わかってはいるけど……だけどなぁ。自身は無い。
「ああっ、何か気配が増えたと思ったらイシダ!あんたはまたそんな所から侵入して!!」
2階へ上がって来たアンジェラさんが声を挙げた。
「やっべ見つかっちった。それじゃあ、お邪魔しましたー」
お母さんは笑いながら開いた窓から素早く飛び出して夜の闇に消えた。
アンジェラさんはと言うと…………
「待ちなさい!今日という今日は許さないわよ!!」
自身も窓から飛び出してお母さんを追跡し始めた。
いや、前から思ってたけどどうなってるのよこの家の人。
「最後に選ぶのは自分自身、か……ねぇ、キミもそう思う?」
廊下の隅に佇む『幽霊』に声をかけた。
彼女は微笑むと告げた。
『糸が導いてくれる。『流れ』に乗るかはあなた次第だよ』
何かそれっぽい事を言いながら幽霊は消えていった。
「はぁ。困ったなぁ……」




