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第36話 闇との邂逅

【ホマレ視点】


 響いた轟音は親父の鉄拳によりもたらされたもの。

 アトムの身体が大きく吹き飛ばされ地面を転がる。

 親父はゆっくりと俺に近づくと屈んで頭に手を置いた。


「プッツンしたお前を見るのは久々だなぁ。いかんぞ。守りたいものがある時こそ感情は抑えないと。身体に余分な力が入ってパフォーマンスが低下してしまうと教えてはずだ」


「お、親父……おふくろが……」


「ああ、メイも到着してるしあいつなら大丈夫。そう簡単に死ぬやつじゃないさ」


 親父の背後でアトムが勢いよく立ち上がる。


「ははははっ、そっちのカスよりは出来るらしいな!今のパンチで『アイギス』が8層目まで砕かれるとはなぁ。だがこいつは20層もある超多層装甲だ!!」


 今の派手な一撃でも8層目までしか砕けなかったっていうのか!?

 いや、ただのパンチで8層目まで砕いた親父に驚愕するべきかもしれないが……


「それにしても『怒るな』とは随分と薄情だな。嫁をぶっ殺されてその冷静さか。まぁ、ストックは他にも居るから気にはならないってわけかよ」


 こいつ!言うに事欠いてそんな事を!!


「いやまぁ、別に怒っていないわけじゃないんだよな。言ったじゃないか。身体に余分な力が入ったらパフォーマンスも落ちるって。守りたいものがあるなら、尚のことな」


 親父は立ち上がるとアトムの方へ向き直る。

 そう、親父は静かにキレていた。


「ところでチラッと聞こえたが、ウチの娘を可愛がるとか言ってたな」


「あん?それがどうした?」


「ウチには5人娘が居てな。どれも自慢の可愛い娘達だ。しかも母親に似て全員美人でね。残念な事に次女と三女は既婚だが長女と四女、末娘はフリーだ。ただ、どうも全員喧嘩っ早くて困った所があってね、その辺に目を瞑るならアプローチを試みるのをいいかもしれん」


 いやいや、何でいきなり敵に娘の紹介をしてるんだよ!?

 そいつは女を玩具としてしか見てない様な奴なんだぞ!?

 前世でもとっかえひっかえ女を変えて、問題が起きそうになったらもみ消してきた奴だ。


「まぁ、ただ……君はちょっと口が悪いね。それでは親からの印象も悪いし、何よりも娘達もそんな男は好みじゃないぞ?特に長女はな。その辺は気をつけなさい」


 一瞬にして間合いをつけた親父はアトムを掴むとそのまま膝蹴りを叩き込む。


「がふぁっ!?」

 

 叩き込まれた蹴りは一発。

 だが衝撃は何度も多段ヒットを繰り返しダメージを刻んでいく。

 しかも親父が身体を掴んでいるので衝撃の逃げ場は無かった。


「がばばばばっ!?よ、鎧が!!俺の『アイギス』が……全層突破……されただと!?」


 アトムの鎧が完全に砕け地面に散らばる。

 親父が手を離すとアトムは血を吐きながら膝をついてしまった。


「衝撃を喰らうと破砕するタイプの装甲で出来た鎧か。20層とは驚きの数だが、重くなかったか?とりあえず8層目まで砕いたのはわかっていたから残り15層分も砕けるくらいに調整しておいたぞ。死なれたら話が聞き出せないからな」


 ん?ちょっと待て。何かおかしい事を言ったぞ?


「お、親父。8層目まで砕いてたなら残りは……12層だ。3層余計に多い……」


 その言葉に親父は口をつぐみ何やら考え込む。

 沈黙と気まずい空気が流れる。指摘しない方が良かったか?


「うん。よく生き延びた!!」


 親父はこういう人だった。

 数字に弱く、割と大雑把。その事でよくおふくろ達に怒られていた。


「てめぇ、適当過ぎるだろ!こんなふざけたオヤジに俺が!!」


 掴みかかろうとするアトムだがまあ、何というか相手が悪い。

 ついでに攻撃手段も。親父に肉弾戦、しかも掴みかかるだなんて……

 親父はアトムと組み合うのを回避して飛び上がると背後に着地。そのまま背中合わせになる。

 そして相手の腕に下から自分の腕を入れると持ち上げて相手の足を自分の足にかけた。


「なっ、何を!?」


 更にアトムの首をクラッチすると前傾姿勢を取り締め上げる。


「ぐぎぎぎぎぎぎっ!?」


 関節技。

 関節技の達人と言えばウチではリリィ姉さんが真っ先に思い浮かぶが、そもそも関節技を教えたのは親父だ。


「ぐへぁっ!」


 アトムが血を吐く。

 親父はクラッチを外してアトムから離れるが終わりではない。

 アトムの腕を背面に「く」の字になるように自分の腕を絡めて曲げた。

 ああ、あれをやるのか……これは終わったな。

 親父はそのまま勢いよく回転すると背面から後方へとアトムを叩きつけた。


「ダブルアームスピンソルトッッ!!」


「ごばぁっっ!?」


 大きく体が痙攣して、アトムは動きを止めた。決着だ。

 あそこまでのコンボを受けるとまず立ち上がる事など出来ない。


「しまった、やり過ぎたか!?まあ、いいか」


 割と適当だ。

 親父は家の中の様子を伺うとこちらを向いてにこりと笑みをこぼす。


「母さんも何とか一命をとりとめたぞ。もう安心だ」


「そ、そうか。おふくろが……よ、良かったぁ」

 

 全身から力が抜けていくのを感じた。


「ところで、今日は随分と客が多いな。招待状でも出したかな?」

 

 親父の言葉に気づく。

 気絶するアトムの傍には髑髏の面を被った黒フードの人物が立っていたのだ。

 黒フードは家を見上げ小さくため息をつく。


「残念ながら招待状は貰っていないよ。今日はここに転がってるバカと中でしびれてるバカを回収に来ただけさ」


「ということは、こいつらの関係者か。何でリゼットを狙った?イリス王国の刺客とかか?だがあいつが王国を離れてからもう数十年経つぞ?」


 違うんだ。こいつらは俺への逆恨みからおふくろの命を狙ったんだ。

 俺のせいでおふくろが傷つけられたんだ。


「今回の件に関しては謝罪をさせていただきたい。まさかこんなバカな真似を起こすとは思わなかった。この者達には厳しい罰を与える事にするよ。今後、あなたの家族に危害を加えぬ様、しっかり言い聞かせておくから、それで手打ちにしてくれ」


「ほう、その言葉を信じろと?」


「あんたの妻、あの人を傷つけるなど俺にとって『あってはならない』事だからだ。そして娘達に関しても俺は傷つけることを『認めない』。無論。あんたや他の妻達についても、だ」


 何だこいつ。

 アトム達とは違い、ウチに対して敵対する意思が無いということか?

 それにおふくろを傷つける事は絶対にないという物言い。

 一体、どういう……


「ただし、そこに転がっている男。お前は別だ!!」


 仮面で隠れてはいるが強烈な敵意を感じる。


「お前は許さない。いつか俺から『奪ったもの』を返してもらうからな」


 男はそう言うとアトムを抱える。

 更にいつの間にかキララの事も脇に抱えていた。

 足元から煙が噴き出し、晴れると同時に黒フードたちは姿を消していた。


 

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