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第32話 不穏な予言

【フリーダ視点】


 茂みの中に生っているのは黒く輝く大ぶりなイチゴだった。

 まるで『宝石』の様、と思わず頭の中に浮かんだ。宝石なんてあんまり見たことはないはずなんだけどな……


「これが黒雷イチゴ……」


「そーそー。ユピル雷原のあちこちで絶え間なく落ちる雷のエネルギーを凝縮して成長した雷鳴イチゴの中でも特に成長したのがこれなんだよねー」


 一粒が握りこぶしほどあるそれをもぎ取るとナギがわたしの方へ差し出す。


「ほら、食べてごらんよ。フィリー」


 手渡されたイチゴを受け取ったわたしは一口かじってみた。


「ッ!!?」


 これまでの人生で味わった事のない甘味が口の中に溢れる。

 輝くイチゴは喉元を過ぎてもなお凄まじい存在感を主張していた。


「な、何だよこれ!おいしい!!」


「冒険者の中にはこういった美味い物を専門に探す連中もいるくらいだからな。お前に連れまわされた最後の冒険もこの黒雷イチゴだったよな、ナギ」


「はいはい。そんな昔のこと思い出さなくていいからねー。キミは、目の前を見てたらいいの」


 ナギは小さくため息をついてわたしの方を見ていた。

 その視線は何処か寂しそうな感じだった。

 とりあえずホマレの脚を蹴っておくとしよう。


「痛っ!?な、何で俺蹴られたんだ!?」


「あんたはデリカシーが無いからな」


「え?何?俺何かやっちゃったか!?」


 助けを求めるホマレだったがナギは肩をすくめて一言。


「うん。キミはデリカシーが無い」


「何でだよ!!?」


 それがわからないからデリカシーが無いんだよ、あんたは!

 わたしとナギは視線を交わし笑い合った。


「ええっ!?本当に何だよ!?」 


【ホマレ視点】


 何かふたりが結託していてちょっと何を言っても墓穴を掘ってしまいそうな雰囲気なので周囲を確認すると告げて離れる。

 女って怖いなぁ……タッグを組むからなぁ。


「おや?」


 シルバドンが沈んだ穴の近く、そこには巨大な卵が落ちていた。

 なるほど。さっきのシルバドンは卵を守っていたのか。

 悪い事をしたが食うか食われるかの大自然では仕方ない事だ。

 こっちも戦わねば食われていたからな。

 ただ、出来ればあいつらには見せたくないな。負い目を感じて欲しくないし。


 そんな事を考えていると目の前で卵にひびが入る。

 どうやらシルバドンの幼体が生まれるらしい……が。

 殻を割って出てきた生物は予想もしないものだった。

 身体はシルバドンなのだが、その顔は……醜く歪んだ人間のものだった。


「ま、マズイッ!?」


 こいつは、『予言の獣クダン』だ!

 地球(いせかい)では半人半牛の妖怪として伝わっているがこの世界では必ずしも牛型とは限らない。

 様々なモンスターの幼体として超低確率で生まれて来る。

 人間の言葉を話し、生まれ落ちると発見した者に関する予言を行い、間もなく死んでしまう。

 その予言は『確実に的中する』と言われている恐ろしいモンスター。

 そしてその予言は大抵が良いものではない。

 感じていた得体のしれない気配はこいつのものだっのか。


『予言する』


 クダンが口を開く。

 動けなかった。まあ、例え耳を塞ごうが予言は聞こえてきてしまうから逃走は無意味だ。


『お前と血を分けた者が、お前の一番大切な人を奪いに来る』


「なっ!?」


 クダンはにやりと笑うと破裂し、落命した。

 何だ、今の予言は……?

 俺と血を分けた誰かが、一番大切な人を奪いに来る?

 俺にとって一番大切な人、真っ先に思い浮かぶのは初恋の人でもある次女のリリィ姉さんだ。

 だけど俺と血を分けたって……それってつまり。『姉妹の誰かがリリィ姉さんを殺そうとする』って事なのか?


「そんなバカなっ!!」

 

 あり得ない。

 俺達きょうだいはお互いを大切に思い合っている。

 だから身内を殺そうとするやつなんか一人もいないはずだ。


「ホマレ、どうしたんだ?」


 ただならぬ気配を察したのかフリーダとナギが近づいてくる。


「ホマ……その破裂した死体……それに今の嫌な気配……もしかしてクダン?」


 ナギは素早く状況を察してくれた様だ。

 そしてフリーダも『クダン』の名を聞き顔を曇らせる。

 クダンの存在は広く知られており子どもの頃から聞かされるおとぎ話のひとつだ。


「いや、何でも無い。クダンなんて、そんなのただの迷信だ」


「ホマ。クダンは実在する。イリス王国でも危険なモンスターとして恐れられてたの。予言は必ず当たるんだよ?」


「あり得ない。そんなの、ある筈がない!!」


 だって、クダンがした予言は……そんなの到底受け入れられるものではない。


「ホマ!いいから話して!早く動かないと取り返しがつかない事が起きるかもしれない!!」


 ナギは俺の肩を揺さぶりながら答えを促してきた。

 わかっている。事態はかなり深刻なんだ。だけど受け入れられない。

 そんな事あるはずが……


「……クダンは言ったんだ。『お前と血を分けた者が、お前の一番大切な人を奪いに来る』って」


「ホマにとって一番大切な人って……」


「それってリリィさんじゃないのか?だけど『血を分けた者』って……」


「だからおかしいんだ。ウチには姉さんに危害を加えようとするやつなんて居るわけがない。そんなのあり得ない!!」


「それでもクダンの予言は馬鹿に出来ないよ。急いで帰ろう!ナギが知っている限りだとクダンの予言は聞いてから発生までそんなに時間が無いよ。それにその予言だったら……その文言なんだったら防ぐことが出来るかもしれない!!」


 そうだ。『命が奪われる』じゃない。『奪いに来る』だ。

 つまり、事件は起きるが俺達の行動次第で阻止も出来るはずだ!!


【リリィ視点】


 ベッドで眠る私の可愛い娘、ヒイナ。

 この子を眺めていると本当にあっという間に時間が過ぎてしまう。

 

 私にとって幸せの象徴。

 夫はよく『天使』と表現してデレデレになっていた。

 大袈裟だと窘めてはいるけれど、私もこの子が天使みたいに見える。

 

 一度は諦めていた人生をもう一度歩むことが出来たのは彼のおかげ。

 そして彼と結ばれる道を支えてくれたのは私の大切な家族達。

 たくさん愛してくれた父様と母様、そしてアンママとリズママ。

 私と血を分けた姉、そして弟や妹達。私は、何て幸せ者なんだろう。

 

 玄関で呼び鈴が鳴る。誰か来たみたいだ。

 応対した私は目を丸くした。一体どうしたのだろうか?


「いらっしゃい。それじゃあ、コーヒーでも入れようか?」 


 私は、その人物を家に招き入れた。

 鍵を閉めて向き直る際、壁にかけられた夫と共に描かれたふたりの肖像画が目に入った。

 私は目を細めそっと祈った。この幸せが、この先もずっと続きますように……

第4章は終了です。

不穏な空気のまま、第33話より第5章に突入します。

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