第31話 ブレスなんてろくなものじゃない。
【ホマレ視点】
首長ドラゴンの一種であるシルバドンは縄張りにさえ入らなければ基本的には大人しいモンスターだ。
だがひとたび縄張りに入ろうものなら自慢の硬い頭殻を使っての強烈な物理攻撃。そして口からはブレスを吐くという最悪な奴だ。
ブレス攻撃なんてかっこいい!とか思ってた時期が俺にもあったんだよな。
だけど冒険者をやってブレスを吐くモンスターと対峙してわかった事がある。ブレスを吐く奴はクソだ。
ブレス攻撃って要するに『吐瀉物』。つまりは『ゲロ』だ。
ちなみにブレス攻撃について話題を振るとおふくろは不機嫌になる。
親父に聞いたら昔、空中でゲロったことがあって軽いトラウマらしい。
原因を作ったアンママからは『ブレス攻撃』だと未だに思われているとか。
やっぱりブレスってゲロじゃん。
さて、モンスターのブレスに話を戻そう。
水ブレスは胃液の臭いとかが混じっていて臭い。じゃあ炎ブレスならどうか?何か変なものが焦げたようなにおいが炎と一緒に漂ってくるもんでやっぱり臭い。
それ以外のブレスだって口臭が漂ってくるんで臭い。モンスターは歯磨きとかしないからな。
しかもブレスを吐く奴に限って歯周病みたいな感じになってるから余計臭い。
というわけでブレスを吐くシルバドンは最悪である。
しかもこの特殊個体、肉を食べる様になっている。どう考えても臭いブレス使いだろう。
とまあ、ひたすら臭さについて考察したわけだがそれよりも問題なのはこの特殊個体殿がやはりというか大層ご立腹な事だろうな。
「ガァァァァァァァ」
咆哮を挙げながら突撃して来る。脚が短いが走る速度は結構早い。
例えば同じく短足で鈍重そうなカバなんかは時速30kmもしくは40kmの速度で走るという。
要するに、危険という事だ。
サーベルを抜き次に行う行動を瞬時に思考する。
『いなし刃』でジャスト回避するか?否、以前戦った巨大ウナギとはレベルが違う。
ジャスト回避も失敗したら大変なことになってしまうわけだ。
ならば純粋に避けるかと言えば突撃のホーミング性とかを考えても難しい。
「シールドソング!!」
「白糸反射!!」
答え。ナギが障壁を張って威力を減衰。突き破られた後はフリーダが糸による反射ネットを張り一気に跳ね返す。
この凶悪コンボによりシルバドンの巨体が大きく飛ばされた。
ははっ、フリーダの奴、本気で覚醒してきたな。あの特殊個体は軽く見積もっても上級モンスタークラス。ナギのサポートありとは言えその攻撃を跳ね返すなんてな。
まあ、気になるのは『俺がほとんど役に立ってない』って事だよな。
ユピル雷原に入ってから戦闘はほぼナギとフリーダが行っている。
俺が役に立ったのってせいぜい二人が休んでる時に見張りしてたくらいだ。
うん、これって完全に『ヒモ』じゃん。
「ホマレ!今の内に変身しろ」
フリーダが叫ぶ。
いやいや、無理だって。
前に言っただろ?ギリギリまで頑張って踏ん張らないと変身できないし、何より人目があるといかん。ナギが見てるじゃん。
モンスターに見られているのは問題ないが人間とかそういうのはダメなんだ。
「ナギには話した」
「何だって!?」
ちょっと、秘密の意味!!
「ナギなら秘密を共有しても大丈夫だとわたしは確信したんだ。これも『流れ』だ」
「というわけで変身お願いねー」
いや、それでも頑張ってないと変身がなぁ……って何か力が沸き出てきてる!?
あれ、これってもしかして変身できる!?
「わたし達が休息できるように頑張って見張ってくれてただろ?だから大丈夫さ!!」
えーい、このまま考えてても埒が明かない。
俺が手を高く掲げると光が溢れ出し、デュランダルへと変身を果たした。
「で、出来た。って事は!!」
俺はナギの方を見る。
ナギは唖然として俺を見ており呟く。
「わー。まさかホマがコスプレ好きだったとは……ちょっと意外だなぁ」
「ち、違う!変身だ!!」
だけどこいつフリーダと同じ様に俺の変身を阻害しない上、俺がデュランダルだと認識出来ているよな?
例外2人目かよ!!
「あっ、前……」
「え?」
敵から目を離していた俺は腹部に見事な頭突きを喰らってしまう。
「このっ!痛いんだよ!!」
シルバドンの頭を掴むと力の限り振り回し地面にその巨体を叩きつけてやった。
さらに追撃を掛けようとしたところ、口から錆色のブレスを放出。
直撃を喰らった俺は威力と臭さに悶え膝をついてしまう。
そこへ再び突撃をしてくるが急にシルバドンの動きが鈍り足を止める。
見れば足元に蜘蛛の巣上に糸が張り巡らされている。
「雷糸回路!糸に雷を纏わせた」
「頭上から降り注ぐ重低音、プレッシャーソング!」
フリーダとナギが敵の動きを止めてくれたようだ。
このチャンスを逃してはいかん。
身体の奥底から力を振り絞る。胸の前にエネルギー球体が出現。それを力いっぱい殴るとビームの奔流がシルバドン目掛け奔った。
「レッキングスマッシャーッッ!!!」
ビームが直撃すると同時に爆発が起こり、シルバドンの足元の地面が崩れた。
シルバドンはそのまま沈んでいき更なる大爆発を起こした。
「うわー。お母さんに言わせれば『様式美』だぁ……」
ナギが感嘆の声を上げた。
ああ、確かにあの人なら言うよな。
確かにこれは『様式美』ってやつだ。
それにしてもこんなモンスターが居るなんてな。入り口で感じた気配はこれだったのかな?
俺は周囲を警戒しつつ変身を解く。
変身する時や変身解除時にごまかしをしなくていい分、気持ちが楽だな。
「やったな、ホマレ!」
「お疲れさんでしたー」
ふたりが駆け寄ってくる。
それにしてもまさか秘密を知るやつが増えるとはな。しかもよりによってそれがナギだとは。
「なぁ、ナギ。この事なんだけど」
「わかってるって。内緒でしょ?まあ、お母さん辺りは知ってそうだけどさ」
何か俺に監視虫とやらをつけてたらしいしあの人ならありうるなぁ。
「ホマレ、その……秘密を話したことだけど」
「別に怒ってないよ。お前はナギを信じたんだろ?なら俺はそんなお前の判断を信じるよ」
するとフリーダの顔がさっと赤くなる。
どうしたんだろうか?風邪でも引いたかこいつ?
「はいはい。お熱いのはいいからねー。それよりさホマ、気づいてる?」
「え?何が?」
ナギが近くにある茂みを指さす。
視線をやるとそこには黒く輝くイチゴが成っていた。
「黒雷イチゴ。発見だよ」