第27話 雷の街で女子会
【フリーダ視点】
オークとの子どもを連れた女性、アスカさん。
ナギとは知りあいらしくそのまま一緒にお茶をすることに。
店員が先ほどの騒ぎについて心配をしていた。
何でもあの太っちょおばさんは元々この街があった旧プロヴィデンス領の有力者だったらしい。
まあ、アスカさんは『だから?』と普通に飲み物を注文していたけど……
どうも不安だな。
わたしはどうも制御できていない『糸』の能力で色々なものを引き寄せる性質があるらしいからなぁ。変なことにならなければいいけど。
アスカさんは地球という異世界から転生してきた女剣士で何やかんやあってオークと結婚したらしい。
ひとり息子であるガサリ君はその旦那との子どもらしい。
それにしてもこの国って転生者多いなぁ。ホマレの父親もそうだしナギも確か……
「ナギは転生者じゃなくてそのままこっちに来た系だよ。だから、転移者的なやつ?」
「あー、何かそういう人も居るらしいな……ってだから何で考えてることまでわかるんだよ。怖い奴だなぁ」
「キミさぁ、ちょっと遠慮が無くなってきてるよね?」
「いやだって、考えてることわかっちゃうなら口に出した方が後腐れなくていいだろ?」
「なるほどねー。そう考えるかぁ」
ナギは特に気を悪くしたという感じはなくわたしをじっと見ていた。
「それにしても『黒雷イチゴ』とは面白いものを食べに来たわけねぇ。あら、という事は例の『彼』も一緒なの?」
アスカさんの言葉を聞きナギの顔色が変わる。
「ちょっとアスカ、それは……」
「え、どうしたの?まさか失恋旅行的な感じ?あなた、意気込んでたじゃない?『年下で酷いシスコンだけど落として見せる』って」
「わー、ダメ!それ言っちゃダメだから!!!」
それまでの人を食ったような態度からは想像もつかないほど慌てふためき腕をぶんぶん振るナギ。
「ふーん。年下で酷いシスコンねぇ。何かそんな奴を一人知ってるんだけど……アスカさんちょっとその辺興味あるから教えてくれないかな」
まあ、そんな奴が早々いるわけがない。
間違いなくあいつ、ホマレの事だろう。
「ええ。何かナギがこっちに来るときに出会った男性で家族ぐるみの付き合いがあって色々とちょっかいをかけてたり……」
そこで彼女はようやく気付いた様だ。
「あー、もしかしてこれ、言わない方が良かったやつ?」
「はぁ、もういいよ」
深くため息をつくとわたしのほうに視線をやり観念した表情を見せた。
「まー、そういう事」
やっぱりこの女、ホマレの事が好きだったんだ。
「あー、何かわかってきた。こりゃ修羅場的なものかしら?」
アスカさんは気まずそうだ。
「修羅場って程じゃないよ。このフリーダちゃんがホマレのカノジョなの。それだけの事」
「あんた、わたしとホマレの関係に拗ねてるだろ」
「別に拗ねてないし。色々とアプローチかけても全然ダメだったのにポッと出の若い子に落とされたってのが何か納得いかなかっただけだし!!」
「完全に拗ねてるわね、それ。一番年上の癖にお子ちゃまメンタルね」
アスカさんの容赦ないツッコミでナギは机に突っ伏した。
「はぁ、あんた達さ。ナギがある程度心読めるからってストレートに色々言ってくれて……もう少し優しくして欲しいし」
「確かにお子様だなぁ……ていうか別にわたしだって落とせたわけじゃないぞ?恋人関係もお試しなんだよ。現にあいつは相変わらずのシスコンぶりだし」
「良かったわね、ナギ。チャンスはゼロじゃないわよ!」
「はぁ、でも不利なことに変わりないじゃん。恋愛に興味ない風を装ってたのに……サイアク」
ナギは肩を落としずぶずぶと雷光ティーを啜る。
「うーん、あんたのホマレへの感情って割とバレバレだったけどな」
「年下のくせに生意気」
「年上のくせにお子ちゃま」
ナギは口元をヒクヒクさせていた。
あっ、意外と面白いな。
「あなた達、結構仲が良いわね」
「別に仲良くないし。てかアスカ。キミはここに何をしに来たのさ?」
「露骨に話題を変えに来たわね。まあ、家族旅行よ。ガサリもそこそこ大きくなってきたし色んなところを見せたげようと思ってね。まあ、はぐれちゃった時は少し焦ったけどね。ちなみにウチもフルーツ狩りをする予定だったんだけどターゲットは『雷鳴イチゴ』よ」
「まぁ、ちっちゃい子いるならそっちになるよねー」
「ていうか雷鳴の方で十分なのよ。黒雷は探すの面倒だし」
え、面倒?
もしかしてホマレが嫌な顔してたのってその面倒さが原因?
「あのさ、『雷鳴イチゴ』と『黒雷イチゴ』ってどんなイチゴなんだ?」
「どっちも同じ品種のイチゴなんだけどね。雷鳴イチゴが畑で栽培管理されているのに対し黒雷イチゴはユピル雷原の奥で雷に打たれ続け甘みを蓄えているの。一粒5万ゴルトくらいする高級品なのよ」
「ええっ!?そ、そんな高級なものを食べに来たのか!?」
「どーせなら美味しいの食べたいじゃん?美味しいもの食べるとね、幸せな気分になるんだよ?」
「その代わりユピル雷原を探索しないといけないのよね。ユピル雷原は凶暴なモンスターが多数生息しているわ。パッと思いつくだけでも『ミイラホース』、『シルバドン』、『グリンラフレシア』みたいな中級レベルの危険度を持つ連中の巣窟よ」
マジで?
ていうかそんな所ってわたしみたいな初級冒険者が入れるのか?
「命の保証は無いけどキミみたいな経験が少ない初級冒険者でも入れることは入れるよ」
「まあ、経験が少ないってのは事実だし仕方ないね。それにしても命の保証が無いか……………物騒だなぁ」
「あれ?怖くなった?」
「怖くないかと言えば怖いけどさ。まあ、色々引き寄せちゃうからそういうのも慣れてきたよ。ヤバいのも引き寄せるって事は、転ずれば能力を制御出来ればいいものだって引き寄せることが出来るんだよな?」
「うん、まあそうだけどさ……」
つまりこれはわたしが成長するチャンスにもなるわけだ。
いいシチュエーションを用意してくれたものだよ。
「ありがとうな、ナギ」
「はぁ。半分嫌がらせのつもりで連れてきたのに何かよくわからないこの前向きさ。自分の小ささに凹むわぁ」
「うんうん。確かに小さいよな」
ナギは小さく『うるさい』と呟いた。
そんなわたし達を眺めていたアスカさんは微笑を浮かべ、言った。
「あなた達、やはり仲が良いわね。ナギがこんなに楽しそうにしているのを見るのは久々だわ」
「アスカさぁ、キミっておめめ節穴?楽しんでないし」
「はいはい、そういう事にしておきましましょう」