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第26話 前足をどけろ

今回は他の短編作品からゲスト出演です。

【フリーダ視点】


 長距離馬車に揺られながらわたし達は移動をしていた。

 わたしとホマレの向かいには脱走して来た聖女様だというナギ。

 いきなり『フルーツ狩り』に行こうとか言ってきて意味が分からない。


 というか、正直な所……ホマレとの関係が気になる。

 彼女はわたしが知らない彼を知っている。

 しかも結構仲が良さそうじゃないか。

 悪態をついたりしているがそれは親しい間柄だという可能性も無きにしも非ず。

 ああ、ダメだ。色々考えてしまう。自分の小ささが嫌になる!!


「フリーダ、気になっているんだな?」


「ホマレ?」


 もしかして、わたしが悩んでいることに気づいてくれている?

 何かちょっと嬉しいっていうか恥ずかしい気持ちがこみ上げて…………


「先日、装備を整えに工房へ行っただろう?あそこにメールが居た」


「は?」


「あいつもあそこを利用しているっていうか我が家御用達の工房なんで不思議は無いんだが……よく考えたらデューイと親し過ぎる気がするんだよな」


 デューイと言うのはわたしたちの装備を作ってくれた職人さんだ。

 リリィさんやリムさんと従兄弟という間柄らしい。


「えっと……」


「俺やメールからしたら血の繋がりは無い男だ。つまり、仮に結婚したとしても何ら問題はない!即ち!あいつがメールに手を出している可能性があるという事だ。あいつは昔からデューイに懐いていたし筋肉質の男は好きだ。何てことだ。まさか兄に隠れて男を作るようになっていたとはガチショックだ」


 そうだった。

 最近ちょくちょくカッコいい姿を見ていたしキスされた事とか色々あって忘れてたけどこいつはこういう男だった。重度のシスコン。

 急に現れたナギの事でわたしが色々考えている横で妹に彼氏が出来ていやしないかってずっと心配してたとは……


「はぁ、何か期待したわたしが馬鹿だったよ」 


「え、何?何を期待したんだ?」


「いや、何でも無いって……ははっ……」



 馬車で約3時間。

 曇り空が広がる中、わたし達は『サザランド』と呼ばれる街にやって来た。

 時折遠くで雷が落ちる音が響いていた。


「フルーツ狩りって言うけどこんな雷が鳴っていたらダメなんじゃないのか?」


「いや、違うんだ。このサザランドはこの国で『もっとも雷が多い街』なんだよ。だからこれが普通の光景だ」


「これが普通?」


 物騒だなそれ……


「大昔に雷公竜とかいう巨大なドラゴンが暴れた影響がまだ残ってるらしいよ。この先にあるユピル雷原はその影響をもろに受けている土地だからねー」


「ていうかそんな所に街を建てるなよ」


「この街にとって雷は恵みなんだ。雷の力を使って育つ農作物が特産物だからな。今回ナギが食べたがってる『黒雷イチゴ』もそのひとつだ」


 チクン。

 何だろう。彼がナギの名前を呼ぶと少し胸が痛む。

 わかっている。これは嫉妬だ。不安から来る嫉妬。

 まだ二人の関係がどんなものかも聞いていないのに勝手な想像をして悩んでいる。

 聞いてみたいのに。でも聞くのが怖い。

 ついでに言うと意外と鈍い男だから妹の話ばかりしてたし。

 

「ホマさ、雷原に出る手続きとか準備とかやって来てよ」


「はぁ?俺が!?」


「ナギ達はその辺でお茶してるからさ。こういうのは男の子の仕事でしょ?」


 嫌そうな顔をしながらもホマレは『フリーダに変な事教えるなよ』と釘を刺して何処かへと歩いて行った。

 残された女子二人。

 ナギはわたしをちらっと見るとにやっと口の端を緩めた。


「さぁ、これでふたりきりになれたよね?お話しようか?」


□□


 わたし達は近場のカフェに入った。

 カフェなんて入ったことが無くてどうしたらいいか困っていたらナギが適当に『雷光ティー』なるものを注文してくれた。


「キミさ、馬車の中でもずっと何かもやもやした感情が渦巻いてたよね。ナギは耳もいいからその辺よくわかるんだよね」


「そ、それはその…………まあ、そうかな。何ていうかふたりは結構親しそうだったから…………その気になって」


「ふーん。やっぱり自分の彼氏が昔の女に会ったら心揺さぶられるよね」


 昔の女!!

 自分でもわかるくらい心臓が高鳴り、そして痛んだ。

 ああ、この人……楽しんでいる。

 わたしが困っているのを。心揺らして、痛めているのが楽しいんだ。


「あんた、性格悪いね」


「そーだね、よく言われるよ」


「ホマレと、付き合ってたの?」


 じっと相手を見据える。


「もしそうだって言ったらどうする?」


「……別にどうもしないよ。ちょっとショックは受けるかもしれない。だけどあいつは元々モテる男だったから。そういう人のひとりやふたり位いたとしてもおかしくはないわけだしさ。大事なのはこれからだって思ってるから、その……」


 すると急に挑発的な視線をこちらに見せていたナギが笑いだす。


「な、何がおかしいんだよ!?」


「あはは、ごめん。ごめん。ちょっとからかい過ぎたなぁ。ナギの悪い癖なんだよね。別にナギとホマレは付き合ったりはしていないよ。彼はナギと出会った時から既にかなり重度のシスコンだったからね。他の女なんか眼中にないって感じでさ……」


 一瞬、ナギが視線を斜め横に流す。

 次の瞬間にはいたずらっぽい表情へと変わっけど……


「知ってる?ホマってシスコンなだけじゃなくて若干マザコン気味でもあるんだよ?本人に自覚は無いみたいだけど。ちょっとそういうのはねー……」


「ナギ、あんたもしかして……」


 次の言葉を紡ぎかけた時だった。


「ちょっと!何でこんな所にオークが入り込んでいるのよ!!!」


 ヒステリックな女性の声が響く。

 見ると別の席で中々に横幅が広い中年女性が怒鳴っていた。

 女性の傍には泣きべそをかく緑色の体色をしたオークの子どもが立っていた。


「ご、ごめんなさい。ママとはぐれちゃって……」


「汚らわしい!オークみたいな獣が入り込んでいい場所じゃないでしょ!!」


 女性は近くにあった雑誌でオークの子どもの頭をバシバシ叩きはじめる。


「何だよあれ!」


 オークは獣では無い。

 人間と見た目は違い身体も大きいが獣などでは断じてない。

 舌打ちが聞こえた。見ればナギも明らかに不快を感じている。

 瞬間、雑誌がはじけ飛ぶ。

 今の……もしかしてナギの『能力』?確か『声』を使う能力だと言っていた気が…… 

 

 一方の女性は雑誌がはじけ飛んだことで更にヒートアップ。


「このオーク!妙な力で私を殺そうとしたわ!衛兵に突き出してやる!この野蛮な種族が!!」


 子どもの胸倉を掴もうとした瞬間だった。

 横から女性の腕を掴み止める者が居た。


「何か随分とブヒブヒうるさいと思ったら……その『前足』どけてくれないかしらね?」


 髪の毛を後ろで束ねた女性が太った女性を睨みつけていた。


「この野蛮なオークが私を殺そうと……ていうかま、『前足』!?」


「あら、違ったかしら。これは失礼。てっきり豚の前足かと思ったわ」


「なっ!あ、あなた私を誰だと思って……」


「はぁ?知るわけないでしょ。興味ないわよ。てかね、あんたこそウチの子に何をするつもりだったのよ?」


 え?ウチの子?

 すると泣き止んでいたオークの子どもが『ママぁ!』と髪を束ねた女性の足に抱き着いた。


「ウ、ウチの子って。あなたまさかオークと……」


「あのなぁ。わたしの事はどうでもいい。重要なのはあんたがわたしの坊やに害を為そうとした事だ。今度ウチの子に手出してみなさい。その『前足』を切り落としてスープの出汁取りに使うから覚悟しときなさい!!」


 母親の言葉に唖然として震える女性。

 彼女は何かわけのわからない言葉を喚き散らしながら店を出て行った。


「うわ、すごいな。あの人……」


「キミって喧嘩っ早いけどスカッとするのは相変わらずだよね。アスカ」


 ナギは母親に『アスカ』と呼びかけた。


「あら、あなたもしかしてナギじゃない!久しぶりね!!」



------------キャラ名----------------


アスカ

年齢:27歳

職業:異世界転生剣士、主婦

家族:夫、息子 



という事で「オークに敗北した転生女剣士の……」に登場する女剣士アスカが今章は何度かゲスト出演します。

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