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第20話 旧カリスト領

 依頼書を持ちこんだ窓口担当の受付嬢は愛するケイト姉さんだった。

 

「どうせあたしのいる支部に来るだろうとは思ってたけど……あんたは期待を裏切らないわね」


 折角復帰したのだ。姉さんが働いている支部を拠点にしない理由など無い。


「ふふっ、褒めてもらって嬉しいぜ」


「はぁ……褒めているわけじゃないんだけどね。ていうかシスコン過ぎて彼女が出来るのは絶望視されていたあんたまで彼女できちゃって、そう思うとあたしって……」


 色々考えてケイト姉さんが落ち込んでしまった。

 いや、本人はそう言っているが実の所、姉さんの彼氏候補と思われる男性は何人か存在する。


 昔からの知り合いなんかがそうなのだが何というかこの人、『恋愛偏差値が低すぎて好意に気対いていない』んだよな?

 まあ、俺としては気付いて欲しくないのだけどな。


「それにしてもまた古い依頼書を持ってきたわね。こういうのって一定期間が過ぎたら依頼主に確認して取り下げになるとか、後は掲示板にも限りがあるから詰まれて奥の棚に動かしたりするものなのよ。まぁ、最近はそういう見逃されちゃう依頼書ももリリィの事務所に回したりしてだいぶ減ってるんだけど……それにしても10年前の依頼書が貼られたままだったなんて怠慢ねぇ」


 まあ、リリィ姉さんの事務所は『街の便利屋さん』的な側面もあるからな。

 かと思えばモンスター討伐とかもやってたりと多彩な事業を展開している。

 

 ケイト姉さんは依頼書を持って一度奥に引っ込む。

 そしてしばらくすると……


「確認を取ったけどね。この依頼書は今も有効みたいね。場所が場所だから気を付けてよね。まあ、あんたがついているから問題ないだろうけどさ。ところでフリーダちゃん、わかってると思うけど」


「はい。襲われそうになったら『蹴り上げろ』ですよね!」


 ちょっ!姉さんもおふくろみたいな事をこいつに教えてるの!?

 ていうか『蹴り上げる』ってあの場所だよな?

 いやー、あそこはなぁ……女の人ってやたら蹴り上げたがるけどそれって人道的にどうなんだよ。

 身を守る為ならまだしも冗談で蹴り上げるやつもいるからなぁ。いい加減、法律で禁止すべきだよ。


「…………襲わんからね?俺、結構紳士だよ?」


「衝動的にキスした男が言っても説得力が無いでしょうが」


「そ、それは……返す言葉もない……」


 旧カリスト伯領はノウムベリアーノの南西に位置し、険しい山の中に出来た盆地型になっている。 

 王国時代は非常に優秀な元伯爵が治めており様々な農作物が特産となっていた。


 ただし、爵位を継いだ彼の息子。残念な事にこれがどうしょうもなく無能であったのだ。

 領内の山から非常に希少な鉱石が採れると知ると息子は農地を潰してまで『鉱山の街』として整備しようとした。


 だが何というかその希少な鉱石はあっという間に『枯渇』してしまった。

 そもそも領地経営の方針を大きく変えてしまう程の量が無かったのだ。

 後に残ったのは潰された農地。そして鉱石の取れない鉱山。

 そうして伯爵家は没落していきそのまま王国時代が終了した。


「勿体ないな。農作物を特産品にしたままだったら良かったのにさ。だから人が居ないんだな」


 俺の説明を聞いたフリーダは口をへの字に曲げ呆れていた。


「まあ、それもあるが本番はそこからだ。旧貴族の連中は政治家に転身したり元々持っていたコネを利用して商売を始めたりと新しい時代に対応していった。だが若きカリスト伯はそういった転身も出来なくてな。起死回生の手段として自分が潰してしまった農地を魔法で復活させようと怪しげな魔導士などを招き魔法実験をした結果が……あれだ」


 俺が指さした先には様々な隆起したり陥没した土地が広がっていた。

 

「何だよあれは!?」


「実験の結果、地形があんな風に大きく変わってしまいモンスターも寄ってくるようになった。という事で人々はこの地を後にして『呪われた地』が完成したわけだ」

 

「何かとんでもない所だな。国の中にこんな場所があるなんて…………」


 そのとんでもない所への依頼を『引き寄せた』のはお前なんだけどな。

 まあ、それでもこういう冒険もわくわくするな。

 久しく忘れていた感覚だ。


「ホ、ホマレッッ!!」


 唐突にフリーダが緊張した声を上げた。


「ん?」


「前!前っ!!」


 促されるまま前を見るとそこには3mはあろうかという巨体のモンスター。

 三つ首の犬がこちらを見下ろし威嚇をしていた。

 あー、こいつこの辺のモンスターだったっけ?

 10年経つと生息分布もうろ覚えだからなぁ。とりあえずこいつは面倒な相手だ。

 ということで俺はモンスターを見据えると殺気を込めて威嚇し返す。

 やる気か、ワンコちゃん?

 すると三つ首の犬は脱兎のごとくその場から逃げ出してしまった。

 

「え?ホマレ、今のって……確か伝説のモンスター、ケルベロ……」


「サギベロスだ」


「はい?」


「あのモンスター、三つ首に見えるが実際の首は真ん中のひとつのみ。自分の事をケルベロスと勘違いさせて逃げ出した旅人の荷物から食料を漁るせこい生き物だ。デカい野犬という認識でいいぞ。素材も価値はないし、相手にするだけ時間の無駄だ」


 擬態の一種なんだが普通はああいうのって野生動物相手にするものなんだよなぁ。

 何で人間相手に詐欺る為の擬態とかいう変な進化してるんだろう。


「ほぇ……」


「この辺に生息しているモンスターはランク的には大したことが無いが気は抜かない様にしろよ」


 まあ、多分『何かある』感じはするんだけどな……

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……



---------モンスター名鑑---------

サギベロス

種族:哺乳魔獣系

体長:3m

危険度初級Lv2


旧カリスト伯領に生息する魔物。

三つある首のうち二つはフェイクで自身を『ケルベロス』に見せかけて相手を威嚇する。

かなり臆病な性格で威嚇し返すとすぐ逃げる。



 



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