第19話 依頼書横取りトラブル
首都ノウムベリアーノはかなり広い大都市だ。
その為、混雑を避ける為冒険者ギルドの支部も4カ所に点在している。
俺達が足を運んだのはサウスベリアーノ支部。
家からは多少距離があるのだがここは何せ俺の愛する長姉、ケイト姉さんが勤めている支部だ。
とりあえず新着依頼が貼られている掲示板の前に立つ。
まあ、階級的にはランクEかD相当の依頼しか選択肢が無いがそれでもそれなりにはある。
『廃墟のお化け退治』『空を飛ぶ騎士の謎調査』『冠職人の捜索』『ホムラ祭りの警備』とバリエーション豊かだ。
「へぇ、支部が違うと置いてある依頼も変わるんだな」
「基本的に依頼は受け付けた支部に掲載されるからな」
たまに複数の支部をまたいで掲載されているものもあるがそう言うのは珍しい。
後、純粋に俺の前世みたくコンピューターで同期させるなんてことも出来ないアナログ仕様だからなぁ。
いや、魔法水晶があるから近いことは出来なくはないんだがな。
「さて、受けてみたい依頼はあるか?好きなものを選んでいいぞ?」
「うーん、そうだなぁ」
ランクEは人探しや迷い猫探しといったおつかい系が多い。
ランクDからはモンスターの討伐も増えてきたりする。
「廃墟のお化け退治……うわぁ、怖いのはちょっと嫌だな」
「そうだな。ゴースト系モンスターなら聖職系の職業が居るのと居ないのでは難易度が変わるからあまりお勧めは出来ない」
まあ、ゴーストだろうが何だろうが素手で殴り倒す人はいるがな。
ウチの親父です。はい。
「聖職系ってリムさんとか?」
「いや、リムはヒーラーだが聖職系にならないんだ。あいつは教会で修業したわけでは無いからな。教会で修業した聖職系の初級職は『修道士』だ。リムは単純に治癒魔法が使えるだけでどちらかと言うと物理寄りだしな」
ちなみに修道士はその後、プリースト、ハイプリースト、ビショップと順当にランクアップしていく。
一方ヒーラーの場合は上級職としてハイヒーラーが選択肢に挙がる中級職に就く場合は別のクラスを経由することになる。
リムの場合はその辺が面倒くさいのもあって初級職であるヒーラーのままなんだがな……
「ちなみにわたしのクラスは『冒険者』だよな?あんたはどうなるんだ?」
「俺は元々自分用に用意された上級職だったけど引退と同時にその職業も廃止になったからな。今は警備隊の仕事をしている関係上初級職の『剣士』だよ」
まあ、神にスキルを返したとはいえ経験は残っているからそれなりに色々は出来るはずなんだけど……あれだ。『勘を取り戻す』必要があるからな。
それにしても、何かこうやって誰かとどんな依頼を受けようかとかやってるのって……楽しいな。
親父について行ってた頃が懐かしい。
調子に乗り出してからは掲示板の前に立ったりとかもせずふんぞり返って誰かが持ってきた依頼書を適当に選んだりとかしてたし。
はは、あの頃の俺って嫌なガキだったなぁ……
「よしっ、それじゃあこの『マッスルペンギンの牙』を納品する依頼にしようかな」
ほう、面白いものを選んだな。
依頼書に手を伸ばしたフリーダだが横から伸びた手が依頼書を掠め取って行った。
「悪いね、お嬢ちゃん。この依頼は俺が貰っておくぜ」
掠め取った男がニヤニヤとこちらを見ている。
周りには同じ様な雰囲気の男女が取り巻きとしている。
「何だよ。他にもいっぱいあるのにわざわざ横取りしなくてもいいじゃないか」
まあ、こいつそういうの嫌いそうだもんな。
怒るのも無理は無いか。
この手のトラブルはよくある事なのでいちいち目くじらを立てていられんのだがな。
そう言えば、親父も昔こういうことがあったって話してくれたな。
その時に依頼を横取りした冒険者っていうのは今じゃ親父の親友なんだが。
「あのなぁ、こういうのは『早い者勝ち』なんだよ。ところでさ。後ろにいる男、お前ってレム家のホマレだろ?へぇ、本当に復帰したんだなぁ」
「ああ。最初からやり直しだがな。ところであんたは誰だい?」
「俺の名を知らないのか?遅れてるねぇ。俺の名はニョッキ。今注目の冒険者だ。俺のクラスを知っているか?中級職の魔法剣士だぜ?驚いただろ?」
へぇ、中々器用な奴なんだな。
まあ、ウチには錬成しながら格闘する姉やら闘気を操る格闘家とかいるからあんま珍しくは無いんだがな。
「ねぇニョッキ。あんまり絡んでやったらかわいそうじゃん。もう『終わった』冒険者が栄光を忘れられずみっともなく足掻いてるんだからさ」
ああ、そっか。俺達絡まれたりしてる状態なんだな。
いやぁ、何かてっきり出来の悪いコントでも見せられているのかと思ってたよ。
とまあ、そんな感じで俺にとっては安い挑発だ。
そうなんだが……フリーダは違うみたいだな。本気で額に青筋を立ててる。
仕方ないな……
「わっはは。いやぁ、あんたみたいな凄腕の冒険者にはかなわないな。いやはや参ったぜ。その依頼はあんた達に譲るよ。頑張ってくれ。さあ、フリーダ、俺達でも出来る様な別の依頼を探そうぜ!!」
俺はフリーダの肩をポンポンと叩き何か美味そうな名前の冒険者から距離を取る事にした。
何か言いたげなフリーダだったが仕方なく俺に従い離れてくれた。
□
「ホマレ、あんた今の良かったのかよ!!」
「まあ、ああいう手合いが現れるのは想像ついてたからな。それより、悪かったな。嫌な気分にさせちまって」
「わたしが馬鹿にされるのは別に構わないさ。田舎娘だしまだ新人だ。でも……」
ああ、こいつは俺の為に怒ってくれてたわけか。
やれやれ、本当にこいつは姉さん達みたいなとこがあるな。
「ありがとうな。その気持ちで十分だ。俺は大丈夫だからさ。さぁ、気分を変えて別の依頼を探そうぜ」
「うん……」
瞬間、フリーダは背後の掲示板にぶつかり依頼書が一枚宙を舞う。
「わわっ!?し、しまった!!?」
慌てて依頼書をつかみ取るフリーダ。ナイスキャッチだな。
彼女は掴んだ依頼書をじっと眺めている。紙の変色具合から随分と古い依頼書だとわかる。
そもそも奥の方にある掲示板の端っこに貼られていたものだし。
「どうした?」
「いや、その変に思うかもしれないけど一瞬、『金色の糸』みたいなものがこの依頼書に繋がってるのが見えて」
「何?」
幽霊姉が言っていたな。『金色の糸』が『道標』だと。
ということはその依頼はこいつが『手繰り寄せた』ものなのかもしれないな。
「その依頼書、見せてくれ」
彼女から受け取他依頼書に目を通す。
依頼内容は『旧邸にあるローゼンドールの納品』。
要するに旧い家の『後片付け』か。
「もう10年以上も前に出された依頼だが何で今まで解決されて無いのか。一体どういう…………ああ、そういうことか」
その旧い家の場所を見て納得がいった。
「どうしたんだ?」
場所は旧カリスト伯爵邸。
中々癖がある場所だな
「なぁ、フリーダ。一応まだ依頼が有効か確かめてはみるけどこれなんかどうだ?」
「え?ああ、いいけど。何かあんただけ色々分かったって感じになってないか?」
「まあ、その辺は後々説明するよ。それじゃあ、決まりだな」
QUEST3
旧カリスト伯爵邸にあるローゼンドールの納品。
ランクD
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