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第1話 転生先でやり直す人生

 眩暈(めまい)、吐き気……身体がものすごく熱っぽくてだるい。

 何とか部屋から這い出すと化粧を終えた妹がまるで汚物を見るかのような視線を投げかけてくる。


「ちょっと、あんた何で病気になってんのよ。もうマジであり得ない。うつすとかマジで止めてよね」


「い、医者に……医者に連れて行ってくれ。これはマジでヤバい。頼むから……」


「はぁ!?何であんたみたいなクソごく潰しを医者に連れて行かなくちゃいけないのよ!!」


 辛辣な言葉の刃が心に突き刺さる。

 ごく潰しだなんて……そんな言い方……

 そこへ弟も現れる。かつては俺の後ろをついてきた可愛い弟だったが……


「おいおい、冗談だろ?何で病気になんかなってんだよこのクソ兄貴が!!」


 今や俺を見下し足蹴にする奴になってしまった。

 お前が……お前がリスクある行動を取った末に持って帰ってきて俺に移したんだろうが。


「さっさと部屋に入ってろ!出て来るんじゃねぇよ。それでなくとも撮影休んでるのにこれでまた自宅謹慎になったら主役降ろされるだろうが。本当に愚図な兄貴だな!!」


 蹴り飛ばされて倉庫みたいな狭い部屋に押し戻される。

 何でだよ。俺達は家族じゃないのかよ。

 ああ、ダメだ。意識が……このままここで命を終えていくのか。

 俺の人生って………


「ッ!!」


 目を覚ますと酷い寝汗で衣類が肌に張り付いていた。

 見渡せば倉庫みたいな部屋では無く幼い頃から過ごしてきた俺の部屋。

 俺用のタンスがあり、机があり……そして壁には大事な姉や妹の『似顔絵』が五枚。

 そうだ、ここは『転生』先。ナダ共和国ノウムベリアーノ市内にあるレムの家だ。

 今の名前はレム・ジェスロードホマレ。

 初めての男の子という事で親父が気合を『入れすぎて』つけてくれた名前だ。


「ああ……クソッ!最悪だ!!」


 久々に昔の夢を見た。

 俺にとって最悪だったあの時の夢……

 ベッドから降りて廊下に出る。

 ああ、クソ、眩暈がする。最悪の気分だ。

 病気で重体になったが医者にも診せてもらえず俺はあの狭い部屋で命を落とした。

 そしてこの家の長男として『転生』して今に至るわけだ。

 

 時々、昔の夢を見る。

 もう二度と見たくなんか無いものなのに。

 もしかしたらこっちの方が夢であの悪夢のような狭い部屋で悶え苦しんでいるのが現実なのではと錯覚してしまう事がある。


星歴(せいれき)1218年7月13日生まれ。今の年齢は23歳……そうだ。俺はホマレだ。俺は……」


 廊下に出てふらふら呟きながら歩いていると背後から声をかけられた。


「お兄さま?どうかなされましたか?何やら顔色が悪そうに見えますが……」


 声をかけてきたのは『現在』の妹、リムだった。

 2歳年下で6人きょうだいの一番下。


「ああ、リム。いや、ちょっと昨日飲み過ぎちゃったかな?」


 妹にあんまり心配を掛けたくない。

 彼女は特に心配性な所があるから尚の事だ。


「またご冗談を。お兄さまはお酒を飲まないではありませんか。我が家でお酒を(たしな)むのはお父様とアリス姉さまだけでしょう?」


 まあ、そうなんだがな。実際の所、全く飲めないわけでは無い。

 ただ、この世界で初めて酒を飲んだ翌朝に目を覚ましたら庭で郵便受けを頭に被っていた。

 そんな経験を踏まえてそれ以来、酒は飲まない様にしている。

 後、結婚して家を出たアリス姉さんは酒乱だったので酔い潰れた彼女をよく迎えに行ったものだ。あれを見たら余計に飲めないよな。



「どれ、ちょっとお見せください」


 近づいてきた妹は俺の顔やらをあちこち触り……


「うーん、熱なんかはありませんね。脈拍は少し早いですが……睡眠の質が悪かったのでしょうか?疲れが溜まっているようですね。軽くヒーリングをかけておきますわ」


 そう言って治癒魔法をかけてくれた妹に思わず見とれてしまう。

 ああ、何てことだろう。俺の妹が天使過ぎる!

 前世の妹は調子が悪そうだった俺を邪険にしたのにこっちの妹はどうだ?

 心配してくれた上、ヒーリングまでかけてくれるではないか。


「……あの、お兄さま?本当に大丈夫ですか?何やら呆けているようですが?」


「ああ、いや。お前の天使ぶりに感動してしまったんだ。ありがとう」


「もう……天使だなんて大袈裟な。それより調子が戻らない様ならお医者様に診てもらってくださいね?お医者様がお嫌いなのでしたら台車にくくりつけて連れて行って差し上げますわ」


「いや、あれは……別にいいよ。医者怖くないし」


 我が家には『受診用台車』というものがあり何かと言うと、医者嫌いの親父が風邪などを引いた時にこれにくくりつけて強制的に連行するためのものだ。

 尊敬できる親父だがこの一点に関しては『かっこ悪い』と素直に思ってしまった。

 

「そうですか。それでも無理はなさらぬように。それでは私は花の水やりをしてきますわ」


 階下に降りていく妹の背中に天使の羽が生えていないかと思う程に心優しい子だ。

 窓から外を見ると庭で筋トレをしている一歳下の妹が居た。


「あっ!兄ちゃんおはよー!!」


 こちらに気づくと元気よく手を振ってくれた。ヤバイ、マジで天使だ。

 身体の奥から喜びが沸き上がってきて俺も笑顔で手を振り返す。


「おはよう、ホマレ」


 廊下ですれ違った一番上の姉はにこやかな笑みをこちらに返してくれた。

 一瞬、女神様か何かと勘違いしてしまったじゃないか。

 流石はきょうだいの長だけある。もはやその立ち振る舞いは神がかっており尊さが限界突破してしまっている。


「そうだ。俺の家族は彼女たちなんだ。だから……」


 俺は人生をやり直しているのだ。

 この家族の下で幸せに暮らしている。

 あの頃とは違うんだ……あの頃はもう、遠い過去の出来事なんだ。

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