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第18話 道標

【ホマレ視点】


 フリーダとお試しの恋人となったその日の夜だった。


『起きなさい、ホマレ』


 耳元でささやく声。

 目を開けると枕元に小さな女の子の幽霊が立っていた。


「おお、あなたは……ロリ姉様!!」


 俺の親父は転生時に何やかんやで3人の人間の魂が融合した。

 その内のひとりの娘が彼女なのだ。

 というわけで物凄く複雑なのだがこの人は俺達の『姉』にあたる。

 

『ロリって……呪い殺すよ?』


「姉に呪い殺されるなら本望です」


『はぁ……この子はこんな感じだから姿を見せたくなかったんですよね……』


 え?俺だけ誰よりも早くこの人が視えなくなったのって避けられてたから!?


『……まあ、いいや。あんたとフリーダちゃんについて、助言をしに来ました』


 姉が俺に助言を……

 流石俺の姉。幽霊であっても弟を愛してくれるなんて。


「慎んでお聞きいたします」


 ベッドから降りると俺は床に正座をした。


『…………』


 幽霊姉は少し頭を抱えつつ言葉を紡ぐ。


『あの子には特殊な『能力』がある。あれは呪いなどではなく魂の形。あんたの中にある力と共鳴した結果、覚醒したんです』


「……やはり俺の影響だったか」


『彼女は様々なものを『手繰り寄せる』事が出来る。だけどその力を制御できていないから『いいもの』も『悪いもの』も寄ってくる。このままだと彼女はいずれ命を落としてしまうでしょう』


 そういう系統か。制御できていないのでプラスにもマイナスにもなってしまうわけだ。


「それで、俺は何をすればいい?」


『話が早いわですね。彼女を助けてあげなさい。彼女を守りつつ、力が制御できるようになる道へ導くんです』


「どうすれば?」


『『流れ』がある。道標は『金色の糸』です』


 『金色の糸』?


『彼女と歩みなさい。その先にあなたに必要なものも見つかるから』


「そ、それはまさか姉さんや妹と結婚できる可能性ですか!?」


『………………何か不安になってきたなぁ。えーと、とりあえず最初の道標だけは示してあげます。彼女とパーティを組みなさい。そうすれば自ずと『流れ』が見えてくるはず。後はその『流れ』に上手く乗っていくのよ。頑張って、ホマレ。あなたの進む道には多くの『試練』があるけどその先は輝かしいものです』


 そう告げると幽霊姉は消えていった。

 俺の為にわざわざ出て来てくれるなんて……何て素敵な姉なんだろう。

 生前お会いできなかったのが残念でならない。


 幽霊姉の薫陶を受けて数日。

 フリーダとは恋人という事になったわけだが今までと何か大きく変わったかと言えばそうでもない。

 姉妹からの視線がやや厳しいのが気になるのと出張から戻った親父に散々呆れられたくらいだ。

 彼女ははどうも恋人になったからといっていちゃつこうとしてくるタイプでもないみたいだ。


 現状、俺の課題は2つ。

 1.自分がフリーダに恋心を抱いているかどうかを見極める

 2.彼女の謎体質を制御する方法を探る。そして彼女を引き寄せてしまうトラブルから守る。


 俺は準備を進め、そして彼女にこう告げた。


「なぁ、フリーダ。俺とパーティを組んでくれ」


「え?いや、でもあんた冒険者は引退したって……」


「ああ。確かに一度引退した。なので、もう一度登録し直してきた」


 俺は新たに登録したライセンスを取り出す。

 そこには最低ランクである五等初級初心者である事が記されていた。

 元々特級冒険者だったので再登録に際しても上級冒険者となるだろうと言われたが俺はそれをあえて拒否した。

 実際、今の俺にそこまでの実力はない。なので窓口の職員を説得、最終的には支部長と話をつけて最低ランクで再スタートを切らせてもらう事になった。

 

「でも、警備隊の仕事は……」


「しばらく休ませてもらうことにした。俺はお前と正式にパーティを組んでクエストに行きたい」


「あ、あぅ……」


 俺の言葉に顔を赤くする。

 え?何だこの可愛い生き物は?

 驚いたな。妹の可愛さには負けるもののこいつ、中々できる!!

 この感情は……やはり俺はこいつが好きなのか?好ましく思っているのか?


「はぁ、そういう所はお父さんそっくりだなぁ……」


 いつの間にか背後に居たおふくろがため息をついていた。


「え?俺、親父に似ている?」


「うん。そっくり。ボクも何度お父さんの言葉でドキドキしたことか……」


 やっぱり転生者と言えども親には似るものなのかな。

 それはそれで嬉しいけど。


「フリーダちゃん、わかってるよね。もしホマレが変な行動をしかけてきたら……」


「はい。思いっきり蹴り上げたらいいんですよね?」


 え?『蹴り上げる』?何を?

 何か物凄く嫌な予感しかしない会話だぞ!?


 俺達は一緒に家を出ると冒険者ギルド……へは行かずまずはとある工房へ向かう事にした。

 道中、彼女はある事に触れてきた。


「なぁ、その、『デュランダル』の事なんだけど」


「ああ。おふくろ達の前でその事に触れないでいてくれてありがとうな」


 俺が謎のヒーロー『デュランダル』に変身できることは秘密である。

 その事を知っているのは彼女だけだ。


「まあ、色々と事情がありそうだからさ。あんたが自分で喋るまでは黙ってるよ」


 よくわかってくれていて助かる。

 礼を言っていると目的地に到着した。


「ここは?」


「知り合いが働いている工房だ。装備を整えようと思ってな」


 装備を整えるのは冒険の基本だ。

 工房に足を踏み入れるとそこには知った顔が。


「あ、ホマレ兄ちゃんとフリーダちゃんだ」


「あ、ど、どうも……」


「メール!?お前何でここに!?」


 愛しの妹、メールだ。

 今朝早く出て行ったと思ったらこんな所に居たのか。


「え?何でって手甲直すの依頼してたから取りに来たの」


 そう言えばこいつもここ使ってたな。


「あのさぁ、何でお前はこう毎回壊すのさ!」


 奥から手甲を持って現れたのは逞しい体つきの青年。


「それじゃあ直すついでにもう少し頑丈になるよう加工してよ」


「なら繋ぎになるいい素材を持ってきなよ……っと、ホマレ。来たのか」


 こいつの名前はデューイ。

 この工房で働く職人であり、俺達とは『一応』親戚の関係だ。


「そりゃ妹居るところに俺有りだからな」


「お前、結構ドン引きな事言ってるからな?」


「兄ちゃん、彼女出来たのにそれはダメじゃないの?」


「メールの話はマジだったのか!?」


「ちょっとデューイ、あたしの言う事信じてなかったの!?」


「だってあのシスコンだぞ?」


 まあ、無理も無いけどな。


「待てメール。まさか俺とフリーダの関係を喋りまくってるのか?」


「うん。あたしに義理の妹が出来たってね」


 待て待て。

 確かに恋人という体裁だが結婚していないしそもそもお試しだ。

 将来的にどうなるかはわからないが俺が愛想を尽かされる可能性だってある。

 そんな気が早い事を言われたらフリーダだって迷惑に思うだろうに……


「…………」


 いや、こいつまんざらでもない顔をしているな。

 気が早いぞ。そんな過度な期待を抱くな。


「それにしてもまさか妹達より年下の女の子にキスとはやるなぁ」


「でしょ?あたしも最初聞いてひっくり返っちゃってさ」


 喋りすぎだぞ妹よ。まあ、かわいいから許すが。

 というかこのやり取りで真っ赤になっているフリーダも可愛い。

 本当に驚きだな。俺が姉や妹以外にこんな感想を抱くことになるとは。

 

 妹は散々俺達をからかった後、手甲を装備して工房を後にする。

 一応、言いふらさない様には釘を刺しておいたが3歩歩くと忘れて別の職人に喋っていた。

 流石としか言いようがない奴だ。兄として少し心配になるが……

 

「やれやれだぜ。それでデューイ、頼んでいたものだが……」


「ああ、出来てるよ。『ナイトサーベル+』お前様にチューンナップしておいた」


「あれ、これって……」


 フリーダがナイトサーベルを見てある事に気づく。


「ああ。お前に初めて会った時に使ってたのがこれだよ。倉庫を探して引っ張り出してきた」


 ちょっとキザな気もすがるがまあ、そういうのも悪くないだろう。


「そんでもって、そっちの彼女ちゃんにはこれだな」


「へ?わたし?」


「ああ。ホマレから急ピッチで作るよう頼まれてさ。『サンダージャベリン』。スティールジャベリンをベースにして持ち込んで来た『放電怪魚の電核』を加工して埋め込んだ槍だ」


「お前は槍使いだろ?だからまぁ、俺からのプレゼント、みたいなやつだ」


「わたしの、新しい武器……」


 フリーダは新しい槍をぎょっと握りしめていた。

 気に入ってくれたらいいんだけどな。

 

「よしっ、それじゃあ冒険者ギルドに行くとしようぜ!!」

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