第17話 新しい関係
今回悩みに悩んでいくつかパターンを書いた末にこうなりました。
とりあえず新しいスタートになるかな?
【ホマレ視点】
おふくろが気絶する騒ぎから半刻。
母親3人からの事情聴取というか尋問を受けた俺は仕方なくフリーダにキスをしたことをゲロった。
こんな時親父が居てくれたら……なんだがこういう時に限って出張している。
「それで、あなたは今回の件についてどう決着をつける気ですか?」
いつもの食い意地が張った姿からは想像が出来ない程真剣な表情でメイママが俺に聞いてきた。
無理もない。彼女の娘であるリリィ姉さんは過去に付き合っていた男から乱暴を受けている。
俺がしたことは相手の同意を得ていないのだからある意味ではそれに近い行為とも言えなくもない。ああ、自己嫌悪してしまう。
「……自分でもあんな事をした理由がわからないんだ」
流石に『やかましかったから口を塞いだ』とか言えない。
「ホマレ。あなたは一時期、女癖が悪かったし何日も家に帰ってこない時期もありましたよね。正直、あの時は皆で頭を悩ませました。ですがその後……リリィの件があって、そこからあなたは心を入れ替えたと思っていました。シスコンさは一層激しくなりましたがね」
「ああ……まあ」
正直、心が辛い。
血が繋がっていないがアンママとメイママは俺にとってまぎれもなく母親だ。
今、俺は軽蔑されているのだろう。いや、そんな事より大切な母親達を心配させてしまっている。
その事がただひたすらに辛かった。
この家の子どもとして転生した俺に愛情を注いで育ててくれた大切な家族なのに……
「ねぇ、メイシー。あたしが思うには、なんだけどさ」
重苦しい空気が停滞している中、腕を胸の前で組んで黙っていたアンママがおもむろに口を開く。
「ホマレってフリーダちゃんの事が好きなんじゃないの?どう?」
「そ、それは……」
好き、なのか?
でも俺は姉さん達や妹達の事が好きなはずだ。結ばれることは無いのだがそれは確かなはず。
「……あたしが思うに、あなたは色々とこじらせているんだと思う。あなたは驚くほどの才能を持って生まれて来て、あっという間にお父さんを追い抜かして一流の冒険者に駆け上がった。沢山の人があなたをチヤホヤして女の子達も寄ってきて……それで、多分あなたは恋愛っていうのがよくわからない状態で成長してしまったんだと思う」
それは……あるかもしれない。アンママの指摘は頷ける所がある、
前世でも特にモテていたわけでは無かった。だから急にモテだして、舞い上がっていたのは事実。
だって特に苦労もなくすり寄ってきてなんなら服を脱ごうとする女性までいた。
流石にそう言うのはいかんだろうと思って断ったが。
ああ、少し思いだした事がある。
そんな状態だから俺は少し虚しさも覚えていた。人間の心なんてスキルでどうでもなってしまう。
あの頃は家族から愛されるのすらスキルの影響だと思っていたからな。
熱を出した俺の額に乗せたタオルをリリィ姉さんが傍に居て一晩中替えてくれていたのだってスキルのせい。
どうせ、スキルが無ければ見向きもされないだろうとかネガティブに考えていた事もあった。
結論から言えばそれは間違いで少なくとも家族が俺に抱いてくれていた愛情というものはスキルなどは関係が無かった。
それが俺にとって救いだったし、一層シスコンぶりが加速する原因でもあった。
「フリーダちゃんは、昔と変わらずあなたの背を追いかけていたんでしょ?なら、その事で恋愛感情を抱いた可能性は……あるんじゃない?」
確かにあいつの俺に対するスタンスは昔から変わっていなかった。
何だか妙な力も持っているみたいだし、それが影響しているのだろうか。
俺はあいつに恋愛感情の様なものを感じていた?結果としてあんな行動に?
俺の影響で変な能力に目覚めた。そのせいで死なれたら目覚めが悪い。というのはただの言い訳に過ぎず実はあいつが好きだったから必死に助けに行った?
「……わからない」
だけど恋愛感情がよくわからない自分では否定も肯定でも出来ない
何て情けない事だろう。チート転生の弊害ってやつなのかもしれない。
「ホマレに恋愛についてちゃんと教えてあげられなかったボク達も悪かったと思う。ごめん」
ヤバイ、心が痛い。おふくろ、頼むから謝らないでくれ。
俺の身勝手が引き起こした事態なのに。
「でも君は自分の行動に対し、何らかの決着をつけるべきだよ」
俺も困惑しているがあいつはもっと困惑しているだろう。
もしかしたら俺の行為で酷く傷ついているかもしれない。
でも、どうしたら…………
「あの、お話している所ごめんなさい!!」
頭を抱えているその時、フリーダが姿を現した。
母親達の顔に緊張が奔ったのがわかった。
「あの、ホマレ。昼間の事だけど、その……」
え?母親達が見ている前で?
ヤバイ。益々状況が悪化してないか!?
いや、この状況を引き起こしたのは俺なのだ。しっかりと向き合う必要がある。
「えっと、ボク達は席を外した方が……」
おふくろが席を立とうとするがアンママが無言でそれを制し俺達を見守る。
メイママもそれに賛同しているようだ。
マジですか……
「それで、その、昼間の……そ、そのキスの事だけど」
「お、おぅ……」
思いっきり切り込んで来るな。
はっきりと『キス』って言ってきたぞ。
何だろう。凄く気恥しい。ただのキスってだけのはずなのに。
「わたし、混乱したけど……その嬉しかった」
「え?」
「キスされるまでは気づかなかったんだけど、わたしはあんたが好きだったんだ。幼い頃に助けて貰っただろ。それで再会してからも変わりなく何だかんだで今もわたしを助けに来てくれるあんたはわたしにとってヒーローであり、目標だった。憧れを抱くと同時に、恋をしてたんだと思う」
俺は、そんな憧れを抱かれるような人間じゃない。
本当は色々な人を騙して生きてきた様な、そんな人間なのに。
「そ。それで。だからって特別な事をしろとか言うんじゃない。ただ、自分の気持ちを伝えておきたかったんだ。だから……」
恋愛について思い切りがあるのがナダ女の特徴だ。
リリィ姉さんやアリス姉さんは心に傷を負っていた影響もありやや消極的な一面があった。
それでも決断すると一気に相手との関係を進展させて結婚して出て行った。
だからこいつもたとえこの場で失恋したとしてもといった気持ちで自分が気づいた感情を勇気を振り絞って伝えてくれたのだろう。
「フリーダ……済まないが俺は正直、恋愛についてよくわからない。自分の感情が何かもよくわからないんだ。昼間のキッスについても自分自身が驚いているくらいの体たらくだ」
「ああ、そうだよな……」
失恋。
それを覚悟して彼女がうつむく。
「だけどあんな事をした理由は……俺の中にもお前を好きという感情が芽生えているという事なのかもしれない。だが済まない。今の俺はそれが確信を持ってそうだとは言えない」
「それは……」
「失望させてしまって済まない。だが、やはり最初に断っておかないといけないと思った。この先、どうなるかはわからない。もしかしたら、勘違いだったってなって傷つけることになるかもしれない。そんな俺でいいなら……傍に居てくれないか」
母親達がやや失望した視線をこちらに向けてくる。
勘弁してくれ。告白なんて前世でもロクにしたことが無いから作法とかもよくわからん。
これが何というか、俺にできる精一杯だ。
「何か、ちょっとカッコ悪いなぁ。でもまあ、あんたの気持ちは伝わったよ。それじゃあ、お試しってことでいいのかな?」
「ああ。そういう事だな。俺に愛想を尽かしたその時は容赦なく振ってくれ」
「ああ、わかった。それじゃあ、お試しだけどこれからよろしくな!」
こうして、じゃじゃ馬ことフリーダとお試しの恋人関係を築くこととなった。
一応はそこそこ丸く収まったが母親や姉妹達からは呆れられていたのだった。
QUEST CLEAR
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フリーダとお試しで恋人の関係になった。