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第16話 気づいた恋心

【フリーダ視点】


 わたしがまだ6歳くらいだった時の事だ。

 母親の手伝いで森で薪を拾っていたら迷子になってしまった。

 帰る道を探して彷徨っている内に凶暴な鉄トラというモンスターの縄張りに入り込んでしまった。

 あ、これは『死んだな』って覚悟を決めた時だった。

 

 剣を片手に乱入してきた少年があっという間に鉄トラを退治してしまった。

 少年は父親と一緒にこの辺へ来ていた冒険者だった。

 その時、少年の強さにわたしは心が躍った。

 

 彼と一緒に冒険をしてみたい……

 翌年、わたしは家出同然で村を飛び出し彼が住んでいるというノウムベリアーノへ行った。

 捜し歩いた末にようやく見つけた彼は綺麗な女の人達を傍に侍らせ、たくさんの人達から頼りにされている一流の冒険者になっていた。


 まるで別世界の人間。

 それでもわたしは思い切って彼に話しかけてみて……案の定場違いな感じでバカにされたけどなんとか荷物持ちとしてパーティに入れてもらった。

 

 だけど結果は足を引っ張るどころでなく本当にただのお荷物で……あっという間にパーティを追い出されて村へ帰されてしまった。

 親からは無茶苦茶怒られるし彼には見放されるし、本当に悔しくてわたしは何日も泣きじゃくった。

 泣いて泣いて泣き疲れて。わたしは決めた。

 もっと自分を鍛えて絶対に追いついてやる。


 そうして村で暮らしながら自信を鍛えていって、こっそり冒険者見習いにまでなって……そんなある日、わたしはある宿場で『彼』と再会した。


 当然の如く彼はわたしの事なんか覚えていなかった。

 だけどその代わり、初めて出会った時に似た雰囲気に戻っていた。

 聞けば一流の冒険者として活動していた頃の力は無くしてしまったらしく、今は冒険者を引退しているという。

 そう語る彼の表情は何処か寂しげだった。


 それから、何やかんやあって彼の家に居候としてお世話になる事になった。

 そこで父親以外の彼の家族と初めて会った。

 とても温かい人達だった。『妹になる?』とか言われたが流石にそれは……

 彼には憧れていたが恋愛感情の様なものは無かった。

 きっとそれは彼も同じ。こんな村娘よりきれいな人がこの街にはたくさんいる。

 まあ、彼は重度のシスコンなのだが……


 わたしは冒険者として正式に登録して活動を始めた。

 本当はかつて目指したように彼と一緒が良かったけど……彼はすでに引退して警備隊に所属していたから無理だった。


 彼のお母さんに頼まれて忘れ物を届けに行った時、聞こえてきた言葉があった。

 それはかつて『神童』と呼ばれていた彼を揶揄するものだった。


 多くの人が力を失くした彼から離れて行ったらしい。

 中には『堕ちたもんだよな』『今やあの家で一番の凡人』と心無い言葉を放つ人も居た。

 正直腹が立ったが直後に彼の上司がやって来て何かを言うと、バカにしていた連中は顔を真っ青にして立ち去って行った。

 彼女は『権力ってこういう時役に立つよねぇ』って笑っていた。


 その日、ひとりでクエストをこなしていたわたしを心配して彼が駆け付けてくれた。

 以前から何度かわたしを助けてくれた変なヒーロー、デュランダルが彼であるという事がその時判明した。

 そして彼を問い詰める中、急にわたしはキスをされた。


 初めてのキスだった。

 正直混乱した。その行為自体にもだがもっと混乱したのはその後の感情。

 胸の中が温かくなり、何だかうれしくて恥ずかしくて……


「あ、あのさフリーダちゃん」


 彼のお姉さん、ケイトさんが部屋に入って来た。

 どうやら夕食の時の様子をおかしく思って様子を見に来てくれたらしい。

 面倒見のいい、大人の女性だ。


「も、もしかしてだけど……その、ウチの弟が何か……」


「そ、それは……ぅぅぅぅううう…………」


「や、やっぱりホマレが絡んでるみたいね。えっと、その……ウチの弟、バカだから何かひどい事でも言っちゃった?」


「そ、そうじゃなくて……その……」


 ど、どうしよう。無茶苦茶恥ずかしくなってきた。

 だけどこれはもう黙秘できない……


「キ……キ」


「キ?」


 ああもう!こうなったらぶちまける!!


「キスされたんです!」


「…………え?あ?え?ホマレが?え?え?えぇぇぇっ!?」


 ケイトさんはわたしの言葉を理解すると腰を抜かしてしまった。


「あの子が!?え?あれ?な、何で?」


「わ、わかりませんよ。でもその、急にキスされて……その舌も入れられちゃって」


「舌まで!?あ、あの病院に連れて行った方がいいんじゃないかって心配になる弟が、女の子にキスを……あー、いやでも一時期女癖が無茶苦茶悪い時期があったし……それっぽい相手が居なかったわけでも無いわけだし…………あーそれでも……うーん」


 ケイトさんはしばらく唸っていた。


「それで、あいつはその、キスしたことに対して何か……」


「そ、その……よくわからないけど『やっちゃった』みたいな顔をしててお互い気まずくて最低限の会話しか……」


「んんっ!あいつはぁ……あー、でもその反応ってまさかあいつ……あー、それでもだ!その、フリーダちゃん。ウチのバカがとんでもない事をしちゃってその……取り合えずボコボコにシメておくから」


「あの……それだけどその、わたし嫌な感じはしなくて……その……」


 正直、この感情には自分でも驚いている。


「ちょっと……嬉しかったのかもって」


「フリーダちゃん……え?」


「笑っちゃうかもしれないけどわたし、彼の事が好きだったんだなって。その、昔はただ憧れだと思ってたけど、その……」


 彼の傍に居たいというこの感情。

 もっと触れたい。彼を知りたい。

 それは……恋心だと思う。

 

 メールさんやリムさんから『妹になればいいのに』と言われた時、わたしは慌てて否定した。

 すぐ彼と『結婚しないといけないじゃないか』という発想に到達した。

 その時は気づいていなかったが意識していたからこそ出た言葉じゃないかな。

 だから慌てて『超無理』とか否定したけど本当は……


「ああ、あたしはどうしたらいいのよ。リリィの恋愛もアリスの恋愛も見守ってきたけどこれはちょっと急展開過ぎてどうしたらいいか」


「いいんです。彼がどんな気持ちだったかはわからないけど、それでも、自分の気持ちがわかっちゃって」


「フリーダちゃんはこの後、どうするの?その、ホマレと」


「自分の気持ちをはっきり伝えようと思います。受け入れてはもらえないかもしれないけど、それならそれで仕方ないかって」


 そう、逃げても仕方が無い。

 だからわたしは自分の中に芽生えたこの感情を……彼に伝えよう

 

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