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第137話 映画館

【バレッタ視点】


 私は最低だ。

 夫の死を偽って伝えて奥さん達を悲しませた。

 子どもさん達を不安にさせた。

 その上で騙して連れていき拘束して人質にしている。


 私の前の前では奥さんのひとりが手枷を嵌められて椅子に座らされていた。

 幼い娘さんが不思議そうな顔で何をしているか聞くと彼女は『ちょっと色々ね』と不安にさせない様笑顔を作っていた。

 

 そして娘さんはスケッチブックにお絵描きをして楽しんでいた。


「この様子だと、夫は無事な様ですね」


「……ええ」


 向かいに腰を下ろした私は小さくうなずいた。

 彼女は奥さん達の中で一番若い。今も現役でギルドの受付嬢をしているらしい。

 やっぱり彼ってモテるんだなぁ。そんな風に思った。


 奥さん同士も仲が良いらしく、少し羨ましく感じた。

 もし自分も、家の事とかを考えずあんな風に笑い合いながら共同生活が出来たら……


「ホマレさんが我々に協力しやすくなる様、あなた達を保護させていただきました」


「それはつまり、『人質』という事ですね」


 はっきり言えばその通りだ。

 彼女たちの無事を代償として無理やり協力をさせるというのが今回の作戦だ。

 ただ、それすらも恐らくは裏切られるであろうことを私は知っている。

 他の奥さん達を拘束している連中は素行の悪い連中。恐らく何かしらの危害を加えてしまうだろう。

 私に出来たのはかろうじて一番若い奥さん達を自分の管理下に置いて守るくらいしか出来なかった。


 守っていると言えば聞こえはいいが彼女たちからすれば私も似たようなものに見えるだろう。否定はできない。

 ナダ王国から共和国へ変わった時、多くの貴族たちは政治家や商人などに転向していった。

 軍に居た騎士や兵士達も冒険者になるなど新しい道を歩んでいった。

 国防という観点から軍自体は残ったが影響力は弱く、あまり人気では無かった。

 そんな組織の中でも素行が悪く爪弾きにされてきたものが強硬派である父の元へ集まっていた。


 正直、父の考えている『抑止力』の保持はこの国を悪い方向へ向かわせるだけなのでは無いかと思っている。

 だけど、私は逆らう事が出来ない。

 それがゴンドール家という名門に生まれた私の運命なのだから。


「あなたは、辛そうですね」


「何で急にそんな事………」


「そんな風に見えました。どこか昔の自分が重なってしまいました。自分自身の気持ちに向き合えずずっとだまし続けている。『仕方がない事だ』って言い訳をして目をそらしている。そんな風に見えました」


「ッ!!」


 それは当たっている。

 だけど……


「それが、どうしたって言うんですか。生まれる場所は決められない。私の人生なんてあの家に生まれた時から決まってたんです!自分の歩む道すら決められないんだから!」


 本当は画家になりたかった。

 絵が好きだったから。だけどそんなことは認められるはずもなく……


「同情するような目で見ないでください!私を憎んだらいいじゃないですか。蔑んでくださいよ。これから私が何をするかわかりますか?協力が取れ次第、あなたの夫の子どもを生むために私は……ゴンドール家の新しい血を取り入れる為に……私は……」


「………」


 私の言葉を聞いて彼女は黙り込んでしまった。

 最低だ。拘束した相手に『あんたの夫を寝取ってやる』と宣言したのだ。

 どこまでも自分勝手で最低な女……


「産むとき、凄く大変ですよ?」


「え?」


「これはナギから聞いた話なんですけどね。人生で痛い事って女性の出産が堂々の一位らしいんです。確かにこれは何かの拷問か、死ぬんじゃないかと思いましたよ」


 彼女は、何を言っているのだろうか。


「でも頑張ってそれを耐え抜いた結果、私はベルに出会う事が出来ました。愛する我が子をこの手に抱けたんです。だから、あなたも頑張ってください」


「何を言ってるんですか?私は……」


「だってあの人の子どもを授かるつもりなんでしょう?正直、あまりいい気はしませんがそこは先輩としてのアドバイスですよ」


 馬鹿げている。

 何でそんな風に他人の、それも自分の夫を寝取ろうとしている女の心配なんて……

 

「ど、どうも……ありがとう……ございます」


 思わず目を逸らす。

 調子が狂う。私は何をやっているのだろう?

 こんな事で心が揺れるなんて……


 ふと、娘さんが描いている絵が目に入った。

 下手くそな絵。だけど……


「……お絵描き、好きなんですね」


「うん!ベルはお絵描き大好きだよ!これがパパでー、ママでー……」


 楽しそうに絵の解説をしてくれる。

 そこには彼女の家族達が描かれている。


「ユズ姉、カノンちゃん、タイガ……みんな、ベルの家族なり」


 彼女が心から家族を大切に想っているのが判る絵だった。


「ベルちゃんは絵描きさんになりたいんですか?」


 それは自分への問いかけだったのかもしれない。

 彼女は『うーん』と首をかしげ応える。


「よくわかんない。だけど、パパが言ってたの。『自分が行きたいと思った道を歩けばいい。見守っててやるから』ってね。もしかしたらベルもパパみたくみんなを守るヒーローになるかもしれないなり」


「ヒーロー……」


 私は……

 

【ホマレ視点】


 目を覚ますと奇妙な空間に居た。

 俺はここを知っている。

 ここは………映画館?

 

 そうだ。映画館のホールだ。

 何でこんなところに?

 俺は何を……


「何ぼーっとしてるんだよ兄貴」


 声をかけられ振りむくとそこには前世の妹、キララが笑いながら立っていた。

 

「お前……確か死んだはずじゃ。それにその格好は……」


 キララは前世の姿であり女子高生の服装をしていた。


「そんな事よりポップコーンとジュース持ってよ。何で妹に買いに行かせるかなぁ」


「あ、ああすまん」


 妹からポップコーンなどを受け取り一緒に劇場入口へ。

 チケットを見せて中に入るがその時の受付を見て腰を抜かしそうになった。


「お前はキュレネ!?」


 何度か俺達の前に立ちはだかった女、キュレネだった。

 まあ、実際に俺が戦った事は皆無なんだがな。

 最終的にはアリス姉さんに倒され消滅したはずだが……


「お客様のご覧になる映画は5番スクリーンで御座います」


「いや、お前だから……」


「ほら何してるのさ、早く行くよ!!」


 妹に引っ張られ5番スクリーンへ。

 途中で気づく。映画館には他にも客や従業員がいたが皆これまでの人生で出会って別れてきた人々だ。

 新作映画の予告ポスターを眺めている男性はセシルの父親。

 廊下を走って騒いでいるのは俺が救えず犠牲になったクリスの友達だ。 

 訳が分からないまま席へ連れていかれた。


「えーと、席はここだね。兄貴はそっち側座ってね」


「あ、ああ……」


 促されるまま席についた。ポップコーンやらを置いた時、隣の席の人に手が当たった。


「あっ、すいませ……」


 相手の顔を見て俺は固まった。

 だってそれは……


「やぁ、久しぶりだね。ホマレ」


 俺に笑いかけるその女性は……


「おふくろ……」

 

 俺に愛を注いでくれたおふくろだった。

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