第134話 妹が家出?
今回も時間軸的にはホマレの家に隊長が死亡を伝えに来る前、となります。
今更ながら冷静に考えるとヤバイんだよなぁ、ホマレの家族。
主に2番目と3番目の嫁さんが……
【ホマレ視点】
警備隊の詰め所に入り夜番の準備をしていると上司に呼び出された。
気が重いがそこそこ長い付き合いになるゴンドール・エラ・バレッタ隊長の執務室へと入る。
座る様言われ、椅子に腰を掛ける。
「えーと、俺を呼び出したのは何か用があるって事ですよね?何かやらかしたかなぁ」
「ホマレさん。以前からあなたに対してお願いしている件についてですが……心境の変化などはありますか?」
「あー、それね。それ……ああ」
いや、わかってたけどさ。
ちょっと深刻な問題なんだよな。
彼女が言っている『お願い』というのがまた困ったものだ。
簡単に言えば自分を『5人目』として娶って欲しいという内容。
初めて聞いた時は腰が抜けそうになったものだ。
確かに付き合いは長いし、一緒に様々な事件を解決してきた。
個人的な相談に乗った事もあるがまさかそんな提案をしてこられると思いもしなかった。
だが……
「先日も伝えたけど、無理だ」
「それは、上司と部下という関係だからですか?」
首を横に振る。
正直、そういったものはあんまり俺にとって関係ない。
何せ実家で預かったよその娘に手を出したり、上司の娘に手を出した男だ。
もっと言えば10歳年下の少女にも手を出した前科すらあるからな。
いや、これじゃ俺が悪い人みたいだな。
ちゃんとみんな恋愛してるぞ?
3番目だけ勘違いの末結婚しているがしっかり愛してるし。
「あなたの様に仕事ができる素敵な女性に好意を持たれて光栄だよ。だが、申し訳ないがあなたに対して恋愛感情を抱くことはできない。あくまで仕事上の関係なんだ」
大分きつい事を言っているのは理解している。
だが事実である。セシルにしてもクリスにしても運命の様な何かを感じた。
実際、時折喧嘩する事はあるものの、みんな仲良く助け合いながら生活している。
だが恐らくバレッタ隊長は……無理だと思う。
「な、なら。愛人でもいいです。都合のいい女でいいです」
「ダメに決まってるだろう。4人も妻が居るが不貞行為には興味が無いんだ」
そんなバカげた真似、間違っても出来ない。
ようやく異世界転生で手に入れた幸せを一時の快楽の為に犠牲には出来ない。
セシルがかつてそんな風に俺に対して自分の身を差し出そうとしたことがあるがあの時の様に強烈なツッコミを入れる気にもならない。
今思えばあの段階で既に直感でセシルが幼馴染だと気づいていたのかもしれないな。
「一度だけでいいです。その、子どもを……」
やはり単純な『好いた惚れた』意外に理由がありそうだな。
「一体どうしたんだ?何をそんなに焦っている?」
「……ゴンドール家は代々男子が家を継いできました。だけど今は私だけで男の子が居ません。だから……」
つまり、彼女は『レム家』の血が欲しいわけか。
ただなぁ、どっちかというと女の子の方が生まれやすい血だぞ?
「まあ、家によって色々事情があるんだろうな。ただ、そうだとしても俺があなたと不倫する理由にはならない」
「くっ……」
「俺は家族を愛している。裏切るような真似は出来ない。隊長、既に知っていると思うが異動願を出してある。お互い気まずいだろ?上には本当の理由は伝えていないから安心してくれ」
あくまで『キャリアアップ』を目指す為と伝えてある。
「それじゃあ、俺は夜の見回りに行ってくるから」
「あっ……」
引き留める声を無視して、俺は夜の見回りへと出かけるのであった。
□
「それじゃあ、気をつけて帰るんだぞ」
保護した酔っ払いの酔いを醒まし、家へ帰るように促す。
やれやれ、こんな真冬に酔っぱらって寝たら朝にはアイスキャンデーの出来上がりだぞ?
よく寒い国の人は目がシャキッとするから凍死しないと聞くのだが、寒冷国であるイリス王国生活が長かったセシルに聞くとあっちでも普通にあるらしい。
結論、やっぱりどう考えても酒は悪魔の飲み物だ。
こうやって見回りする事で酔っ払いの凍死をある程度防ぐ事でも出来るし夜の犯罪抑制などにもなっている。
時計は深夜の1時を指している。今頃、みんな寝てる頃かな?
ふと、半泣きですがってきたセシルを思い出す。
あいつはいささかオーバーなところがあるが『寂しい』というのはみんなを代表した意見かもしれないな。
なるべく子ども達と接するようにしているが不十分かもしれない。
親父はあちこち飛び回ってはいたもののなるべく長く家を空けない様にしていた。
あれも家庭円満の秘訣だったのだろうか。
「さて、どうしたものかな」
白い息を吐いた俺だがふと、知った『匂い』が近づいてくる事に気づいた。
太陽の様に温かく、そして力強い『匂い』。これは……
「やっほ、兄ちゃん。こんばんは」
「お前……メール?」
おふくろの故郷であるイリス王国へと嫁いでいった妹がそこに立っていた。
いや、何でだよ。今、深夜だぞ?
だが『匂い』は間違いなく俺の愛する妹だ。
「帰ってくるなんて聞いてないぞ?何かあったのか?ハッ、まさか……」
ははーん。お兄ちゃんわかっちゃったぞ。
旦那と喧嘩でもしたんだな。
そうだな、あの旦那は多忙らしいからそれが原因だな。
それで家ならぬ国を出てきたわけだ。
我が家には姉妹喧嘩をして異世界へエクストリーム家出した姉が居るからな。
国を飛び出す程度ならなんら驚きはない。
もっと言えば国を飛び出して指名手配されたことがある嫁や死亡を偽装して亡命した嫁とか……うん。我が家って意外とヤバイな。
まあ、今頃あっちは大騒ぎになってるだろうが知った事ではない。
「妹よ。兄ちゃんはお前の味方だからな」
「え?あー、うん。よくわからないけどありがと……」
うむ、素直に礼が言える自慢の妹だな。どこぞの公爵なんぞにはもったいない。
そうだな。一応は公人という事になっているので伝記なんか出したらいいかもしれないぞ。
子ども達にも読ませてこんな大人になるんだぞって教えてだな。
「あのさ、兄ちゃん。何か自分の世界入ってる?おーい」
「うむ。すまん。今、頭の中ではお前の伝記、上・中・下が発売中だ」
「あっ、そ、そうなんだ……」
何やら戸惑っている様だが俺の妹だからな。
それくらい普通だろう。
「あのさ、兄ちゃん。仕事中で悪いけどちょっと話があるの……」
頭の中で仕事と妹の話を天秤にかけ。
「うむ。聞こう」
「即答!?流石兄ちゃんだ……あのさ、ちょっとここで人に聞かれちゃうかもしれないからあっちで話しようよ」
俺はメールに促され人気のない林の方へと歩いて行った。