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第133話 この時が来た

今回、ショッキングなスタートになりますがナギが冷静である点に注目です。

【フリーダ視点】


「うー……」


「ホクト、ニンジンを睨んでいても無くならないぞ?」


 更に残った野菜とにらめっこをしている息子は苦い顔をする。


「何で俺が嫌いって知っててニンジン入れるの?」


「親ってのはそういうもんだよ」


 ホクトは頬を膨らませる。

 かわいいんだけど困ったものだ。

 タイガは逆に野菜が好きだからバッチリ食べてすやすや眠ってるぞ?

 寝る子は育つ、だな。


「ナギママ……」


 我が家で一番甘いナギの方に助けを求める。


「ふふっ、野菜が嫌いだなんてカッコ悪いなー。ヒイナちゃんが聞いたらどう思うかなー?」


「うぐっ!」


 見事に撃沈した。

 これでホクトには逃げ場が無くなった。


「偏食したらパパみたいに強くなれないですよ」


「いやクリス。いい事言ってるんだがあんたは『マヨの実』を吸うのは止めようよ。それ飲み物じゃないから」


「えー。でもこれはホマレさんとの『想い出の味』なんですよ?」


 つまりこいつに変な嗜好を植え付けたホマレが悪いんだな。

 ちなみにクリスの娘であるベルは母親と違い『マヨの実』が大嫌いである。

 母親の真似をして『うげぇぇ』と泣いていた。それが本来の反応なんだよなぁ。

 現に今も『マヨの実』を吸う母親を変な目で見ている。


「それにしてもジェス君遅いですねぇ」


「帰ってきたら一緒に遊ぼうと思ったのになぁ」


「ユズカ!まずはあたしが甘えるんです!」


「ダメ、お父様はあたしと遊ぶの!」


「いや、セシルママ。娘と張り合うなよ……」


 対決を見ながらアルが呆れていた。


「というか非番なんだから休ませてあげないとダメですよ?」


「「えー!!」」


 この二人が親子だってよくわかるなぁ。


「でも、ホマ遅いよねー」


 確かに。

 いつもなら9時上がりなので遅くても10時くらいには戻って来るのにもう昼前だ。


「そうだな。また何かやらかして始末書とかかな」


 あいつならありうるからなぁ。

 よく降格されないものだよ。

 

 そんな事を考えていると玄関の呼び鈴が鳴る。


「パパが帰ってきたなりー」


「ベルちゃん、確認してから開けないとダメだって」


 玄関の扉に飛びついて開けようとする妹を止めるカノン。


「いいよ、カノン。『知ってる人』だから」


 恐らくナギは『音』によるサーチで誰かを判別したんだろうけどこの言い方はホマレじゃない?

 それに、何だか表情が強張っている。


「ああっ、ジェス君。おかえりなさ……」


 来客の顔を見てセシルも表情を強張らせた。

 それはホマレの上司、ゴンドール・エラ・バレッタ隊長だった。


「えーと、隊長さん?」


 彼女は痛々しい表情でこちらに視線をやっていた。


「アル、ホクト。みんなを連れて早く2階へ行きなさい」


「え、でもニンジンは?てか父ちゃんは……」


「いいから早く!」


 わたしに言われてアルとホクトが慌てて妹と弟達を連れて2階へと上がっていく。

 セシル、クリスはそれぞれ顔を青くして黙り込んでいる。

 ナギがわたしの背中に手を添えてきた。

 わかっている。こんな形で、そして表情で上司が尋ねてくるなんてひとつしかない。

 

「あの、レムさん。実は……」


「嫌だ、止めて……」


 セシルが後ずさりしながら口元を抑える。


「実はご主人が……今日、職務中に亡くなりました」


 足元がぐらつくような感覚がした。


「嘘っ……」


 セシルが泣き崩れクリスが慌てて寄り添う。


「ご家族に大変お悔やみを申し上げます」


 ふらつきそうになるがナギが支えてくれる。


「フィリー、しっかり!」


 耳元である言葉がささやかれる。


「………そうか、わかった」


 遂にこの時が来た、ということなんだな。


~20時間前~


【ホマレ視点】


「なぁ、ナギ。実はずっと気になってたことがあるんだけどさ」


「んー?」


 今日は珍しくフリーダ、セシル、クリスが不在。

 子ども達はいるが外で遊んでいたり、暖炉の前で暖まりながら寝そべっていたりする。


「俺とお前ってほら、元日本人だろ?」


「そーだね。日本人だよ?」


「でも、恐らくというかほぼ確定なんだけどさ……俺達って『住んでた世界、違う』よな?」


 俺の言葉にナギが目を丸くする。


「え、マジで?どういうこと?」


「俺は元々引きこもりがちだったけどニュースとかはチェックしててさ、だから外の世界の事を全く知らないわけではなかったんだ。それで、義母さんの起こした事件についてだけど……俺の記憶が正しければそんな事件は『起きてない』んだよ」


 ナギの母親が起こしたという、『戦後最大の大事件』。

 これが原因で彼女、そして俺の親父はこの世界へ転生したわけだ。

 だが少なくとも俺はそんな事件は知らない。

 

「それと前に話したよな。俺が死んだ原因。世界的に流行した伝染病にかかっちゃったけど病院に連れて行って貰えず死んだって。お前のいた日本でそんな事ってあったか?街行く人たちが皆マスクをつけている。そんな状態」


「うーん、無かったね」


「俺がリリィ姉さんを救出するために地球(いせかい)へ渡った時、つまりお前と初めて出会った時もそうなんだ。そんな雰囲気は全くなかった」


「でも、時空の歪みで転生者っていつの時代から転生するとかランダムなんでしょ?ホマがあっちで死んだのってナギがこっちに来るより後の事で……あれ、そうなるとあの時、前世のホマは別の場所に居た事に……」


 その辺がややこしいんだよな。

 転生したとはいえ同一人物が同じ時間に居て良いものだろうか?

 だがもし、そもそも『居なかった』ならどうだろう。

 そうなるとある説が浮上する。


「その可能性もあるんだがな。ただ、俺の記憶が正しければこれではっきりすることがあるんだ」


 ナギと出会ったあの時、たまたまカレンダーを見た。

 本当に一瞬だったしまじまじと見たわけではない。

 だが、何か強烈な違和感を感じていた。

 それを最近、ふとした瞬間に思い出したのだ。


「なぁ、ナギ。昭和の『次』はどんな元号だった?」 


「え?元号?何言ってるの、『正化』でしょ?」


 やはりそうだったか。

 あの時、カレンダーに『正化』という見慣れない文字があった。


「ナギ。俺が生きていた世界ではな、昭和の次は『平成』って元号だったんだ。ついでに言うとその後、『令和』って時代があって俺が死んだのはその時代だ」


「え、何それ?まさか、パラレルワールド?」


「恐らく。それも結構デカい変化があるパラレルワールドかもしれないな。『正化』は『平成』と同じく新元号の候補だったらしいぞ」


「うわー、何かすごいよね。まさかそんな事があるなんて。てっきり異世界転生者って同じ世界から来たとばっかり思ってた」


 ずっと気になってたんだよな。


「そうだよな。というわけで、だ。『正化』世界ではどんなことが流行ってたんだ?」


「いーねそれ。同じところや違うところ見つけるの楽しいかも」

 

 こうして俺達はお互いの世界の違いなんかを比べ合っていた。

 結果、見事に昼食の事を忘れて子ども達に睨まれてしまった。


「あはは、みんなごめんねー」


□□


「ジェス君、帰って来ましたよ!!」


 出勤直前、セシルが大慌てで戻って来た。


「何だセシル、腹痛で早退か?」


「ちっがいますよ!今夜は夜勤でしょう?一晩会えない寂しさを乗り越える為にレッツ、ハグですよ」


「行ってきます」


 セシルを無視して出ようとすると半泣きで足元にすがって来た。


「ひどいですよぉぉ!夜勤なんて悪です!仕事を終えて帰っても夫が居ないこの寂しさがわかりますか!?お金が気になるならあたしがもっと働きますからぁぁぁ!だからぁぁぁぁ!」


「わかったから!ご近所が見たら色々と勘違いするぞ!」


 何か俺が『金ないから出ていくわ』とか言う最低亭主みたいな感じに見えなくもない。


「とりあえずそれに関しては扉を閉めたらいいよー」


 ナギ、冷静なツッコミありがとう。

 俺は玄関の扉を閉めてセシルをハグする。


「悪かったよ。確かに夜番に入ってるのはお金を稼ぐためだったけどしばらくやってみて、夜は夜で大切な仕事をしてるんだっていう誇りみたいなのが出来たんだよ。だけど夜番の回数に関しては考えてみるよ。だから泣かないでくれ」


「あい。約束です……」


 やれやれ。

 まあ、『どうぞお好きに。羽を伸ばしておきます』とか言われてもなんか悲しいけどな。

 この後、『ナギの事はハグしないのかなぁ』という無言の圧力を受けてナギの事もハグして俺は仕事に出ることにした。


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