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第132話 さよならの冬

出勤ギリギリ間にあったぁぁぁ

正真正銘今年ラスト!!

【ホマレ視点】


 酔っ払いドラゴンを追っていたらまさかの息子たちに遭遇。

 俺が一番危惧していた状況。子ども達がモンスターに襲われてる……

 カチン!思わず頭に血が上ってしまった。


「な、なにすんだこのやろーーー」


「こっちの台詞じゃ、この酔っ払いトカゲ!!!」


 ドラゴンなのはわかってるけどもうこんなやつトカゲで十分だわ!!

 ハンマーを捨てると剣に持ち替え突撃する。

 先ほど迄逃げ回っていたのが嘘の様にヨイドレーンは瞳に闘志を燃やしており迎え撃つ姿勢だ。

 まあ、全身がなんか赤くなってるし戦闘モードなのかな。

 今回は観客が多いので変身する暇がない。そうであってもモンスターと戦う事は十分に可能。

 流石に単騎で多数のモンスターを屠れる姉や妹程ではないけどな!!


王左門(キングサーモン)ッッ!!」


 左側から斬りつける強烈な斬撃を放つが紙一重で避けられる。

 それでも踏み込み攻撃を続けるがフラフラとした動きで避けられてしまった。

 これってまさか……この酔っぱらってフラフラする動き、『酔拳』!?


「ぐへっへっ、へぼーい」

 

 ヨイドレーンはひょうたんの様なものの中味を煽り始める。

 今気づいたけどさ、あの容器どこかで見たと思いきや……『エルフの仕込み酒』があんな容れ物に入ってたぞ?

 ということはあれ、十中八九中身は『酒』じゃねぇか!!

 ふらついたと思ったら飛んで来た尻尾攻撃で俺は空中へ打ち上げられた。

 ああくそ!だから酒は嫌いなんだ。

 

 それにしても酔拳が相手だなんて、そんな……


(たぎ)ってきたぜ!!」

 

 まさか酔拳と相まみえることができるとは。

 異世界転生者である俺だが精神的にはほぼこの世界、そしてレム家の価値観が刷り込まれている。

 故に!酔拳という『武』を前にして『胸の高鳴りを抑えられない』!!


 剣を捨てつつ空中で回転しながら位置を調整しながら背中に尻もちプレスを放つ。


「ぐへへへ!?」


 まさか打ち上げた相手がこんな攻撃をしてくるとは思わなかたのだろうな。

 これも立派な技。スペイン語で『尻もち』を意味する『セントーン』だ。

 そして密着したならばこのまま逃がしはしない!!

 覆いかぶさると首筋を締め上げる。圧迫の狙いは『頸動脈』。

 これぞ貧血状態を引き起こし相手を昏倒させる『スリーパー・ホールド』だ!!


「ええっ!あのおじさん『ポチ』に組み付いて何やってるの!!?」

 

 小太りの少年が驚きの声をあげる。


「何って、『スリーパー・ホールド』じゃん」


「そうね。見事な『スリーパー・ホールド』。流石シスコンおじ様だわ」


「普通の事よね?」


「パパ、かっこいいなりー」


「え……これって僕の感覚がおかしいだけ?」  

 

 うん。『我が家』では普通の事だよな?


「ぬわわわ-ーー!!」


 ヨイドレーンは昏倒させられまいと身体を横回転させ地面を転がった。

 その衝撃でホールドが緩み俺は投げ出されてしまう。

 いいねぇ、その外し方!


「父さん!そのドラゴンはこいつのトモダチで悪酔いしてるだけなんだ。だから頼む、殺さないでやってくれ!!」


 アルが大声で俺に向かって叫んだ。

 あー、そういうパターンか。よくある『お願い!怪獣を殺さないで』的なあれかぁ。

 それにしても悪酔いなぁ……


「アル君、だけど『ポチ』はあれだけ強いんだよ?そんなの……」


「大丈夫だ。ウチの父さんはその100倍は強い」


 それは言い過ぎだ。

 とは言え息子からそんな期待されちゃあ……


「頑張るしかないなぁ!!」


 懐からクリオネ型の彫像を取り出す。


獣纏(じゅうんてん)ッッ!!」


 魔道具を起動し【サイコモード】にチェンジ。


「サイコキネシスッッッ!!」


「あれれ?動けない!?」


 空間が歪むほどのサイコパワーでヨイドレーンをホールドして動きを封じる。

 そして手の中に『イメージ』した力の塊を作り上げた。


「この酔っ払いめ。いい加減目を覚ましやがれ!!!」


 ヨイドレーン目掛けエネルギーボールを投げつける。

 直撃したボールから淡い光があふれ出しヨイドレーンを包んでいく。

 要するに、だ。酔いを醒ませてやればいいわけだよな。

 ケイト姉さんがすぐに酔いから覚めるのと同じ原理。

 アルコールを『毒』と解釈してそれを分解する『解毒魔法』創造してを叩き込めばいいんだよな。

 幸いにも俺の中で酒は『悪魔の飲み物』なんでイメージは比較的楽だった。

 ヨイドレーンの身体はみるみる内に元の緑色に戻っていきそのまま地面に倒れ込む。


「おや?ワテは一体何を?」


 完全に酔いがさめたヨイドレーンは周囲を見渡す。

 やれやれ、これで大人しくなってくれたか。

 ただなぁ、この後色々大変そうだよなぁ……


 権力者って怖いわ。

 結局ヨイドレーンが起こした騒ぎについては小太り少年の父親、アルスター議員からの圧力で『無かったこと』になった。

 出動した警備隊員達にはいつもより多い特別ボーナスが支払われる事となった。

 ヨイドレーンを大人しくさせた俺にアルスター議員は近づくとそっと耳打ちをして来た。


「私の父も、君のご両親とは懇意にしてきたからね。だから我々も仲良くして行こうじゃないか」


 そういうのに興味はないんだけどどうも権力者との間にパイプが出来たっぽい。

 怪我人はウチの息子だけ。チクリと文句は言いつつも理解はしていた。

 大事にすればあのヨイドレーンは処分されることになる。 

 そうすれば小太り少年も悲しむことになるし、息子たちの気持ちを裏切る事にもなる。

 悔しいがここは我慢するしかないか……


□□


【アル視点】


「その……君に色々と失礼な事言ってごめん」


 別れ際、オージェが俺に謝って来た。


「別に構わねぇよ。中々刺激的な新年だったし」


「でも、僕のせいで肩に火傷……」


 オージェは俺の怪我を気にしていた。


「これくらい何てことないさ」


 本当はちょっとひりひりする。

 帰ったら即効で母さんに治癒してもらおう。

 あ、でも酔い潰れてるわけだし……まあ、フィリーママも治癒技あるからなんとかなるか。


「それにさ、『友達』を庇って出来た傷なんてカッコいいじゃんか」


「えっ……『友達』?」


「何だよ。こんな刺激的な経験を一緒にしたのに友達じゃないのかよ」


「いいの?僕みたいなやつ」


 まあ、最初はムカつくいやーな奴だったけどさ。

 何かこいつとは何だかんだで仲良くなれそうなんだよな。


「いいんだよ。俺らはもう『友達』だ」


「僕の……友達!うん!そうだね、僕達友達だ!!」


 よし、これでヒイナから逃げ回る口実が出来た。

 だって『友達』が出来たんだもんな。

 俺達は固い握手を交わした。


□□□

【ホマレ視点】

 

 報告書は後日でいいという事で子ども達を家に連れて帰るとフリーダが一人で料理を作っていた。


「ああ、お帰り。遅かったじゃないか」


 大鍋に丸ごと入ったキャベツ。


「今、『ロールキャベツ』を作ってるんだ」


 待て。俺の知ってるロールキャベツとなんか違うぞ?

 こいつ、何を自由な創作料理に目覚めてるんだ?

 フリーダの横ではホクトが笑顔を引きつらせていた。

 そりゃこんな豪快料理見せられたらなぁ。


「あっ、ヒイナちゃん!」


 ホクトは俺達についてきたヒイナちゃんに気づくと急にシャキンと背筋を伸ばして近づいて行く。

 新年の挨拶を交わした後、自然な感じを装いボディタッチを試みようとするが……


「うががが、痛ぇぇ!!」


 見事に手をねじられていた。


「バカ。だから言ったじゃねぇか」


 アルが弟の愚行に呆れかえっていた。

 まあ、何とも楽しそうだな。


 さて、酔っ払い3人組はというと。


「うー、あたま痛いー」


「お水、お水ぅぅ」


「ホマレさんの言う通りお酒は『悪魔の飲み物』です……」


 見事に『二日酔い』で苦しんでいた。

 回復役である元聖女ふたりが二日酔いだからなぁ。

 俺は先ほどヨイドレーンの酔いを醒ましたのと同じ原理で解毒魔法をかけてやった。


「あ、何か気分が良くなって来ました」 


「わー、ありがとーねホマ。どうなるかと思ったー」


 クリスとナギが回復し顔色も良くなる。


「ジェスくーん、あたしはぁ?」


 おや、忘れてた。

 いや、別に意地悪したわけじゃ無くてお前が水汲みに行って不在だったからだぞ?

 セシルにも解毒魔法をかけてやるとほわーっと顔色が良くなっていく。


「ああ、気分が……助かりました。ジェス君優しい……あぁ、やっぱり…………好き」


 何かセシルの顔が赤いな。

 まだアルコールが残ってるのか?

 

「流石ホマ……」


「相変わらず変な所が鈍いですね」


 あれ?呆れられてる?

 俺、何かしちゃったか? 


「うわっ!ちょっとナギ!私達が潰れてる間にフリーダが何か豪快な料理を作ってますよ!!」


「ええっ!?ちょっとフィリー、何それ!?」


「ふふっ、これぞ『オンデッタ風ロールキャベツ』だ」


「ナギの知ってるロールキャベツと違う!?」


 うん。賑やかな日常が戻って来たな。


「あぁ、ジェス君……」


 そしてセシルは何でこんなに感動してるんだろうか?

 ちなみに『オンデッタ風ロールキャベツ』は豪快な見た目だったが意外と美味かった。


 姉さん、そしてリムから受け継いだ能力も使いこなせる様になってきた。

 そうなると残るはひとりだな。

 イリス王国へ嫁いでいった1歳下の妹の顔が浮かんだ。


「あいつ、元気にやってるかな?」


【メール視点】


 イリス王国パレオログ領

 パレオログ公爵夫人になって8年。

 遂にこの時が、来てしまった。


「ちょっと待ってくれ。メール、君は今何を言った?」


 愛する人が戸惑いながら聞いてくる。


「あたしは、ダーリンやレオポルド、それにパレオログ領の領民。この国に暮らす人たちみんなが大好き。大切な家族だよ」


「あ、ああ……」


「だから、あたしと『離縁』して。あたしの事は忘れてちょうだい。そして、落ち着いたらアルに新しいお母さんを……」


 夫に背を向け歩き出す。


「待ってくれ!何故だ!?何で急にそんな事を……」


「あたしが公爵夫人だと迷惑がかかっちゃうから。その時が来ちゃったんだ。あたしは……殺さなきゃいけない」


 出来れば来てほしくなかった。

 だけど夜空に真っ赤な星が輝いた今、あたしはやらなくちゃいけない。

 血を分けた、実の兄を……この手で殺さないと。

 だから背後からの声に振り返ることなく走り出す。

 ごめんね、みんな。あたしの事、許さなくていいから。

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