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第131話 冬空演奏会

【ホマレ視点】


「もう嫌!!」


 そう叫ぶとヨイドレーンは忍術でどこかへ姿を消してしまった。


「ああ、チクショウ!これでもう6回目だぞ!?今度は何処だ!?」


 酔っ払いドラゴンのやつ、見つけて攻撃しようとすると『ドロリンパ』と消えてしまう。

 そうして離れた場所に出現するのである。

 こんな時にナギが素面だったら!何処へ逃げようとが『声』で補足できるし何なら足止めだって出来る。

 やっぱり酒は悪魔の飲み物なんだよ。子ども達にもしっかり教えておかなくては!


【アル視点】

  

 父さんが新年早々仕事に出かけたのは間違いなくこいつのペット、『ポチ』のせいだ。

 政治家の一族だかなんだか知らないが本当にはた迷惑な奴だ。

 俺達は大きめの公園へ移動していた。


「ねぇ、アル君。そのドラゴンを捕まえたいんじゃない?なら私の『能力』は必要よね?」


「そうだなぁ……」


 頼るのは癪だがヒイナの言っている事も一理ある。

 現状で戦闘能力を持つのは俺とヒイナの2人だけ。

 ただ俺の能力は本当に弱いので戦闘では牽制に使えるかどうか程度。

 オージェは……聞くまでもないだろう。


「だが相手は酔っ払いとはいえドラゴンだからなぁ」


「そうね、油断は禁物。だからこその私じゃないかしら」


「だけどな、もしお前に何かあったら」


「あら、心配してくれるのね。やっぱりアル君は紳士だわ」


 いや、俺が母さんにぶっ殺される。

 お前のスカートをずり降ろした時はマジでヤバかったからな。

 とは言え、ドラゴンを放っておけば父さんは家に帰ってきてくれない。

 索敵しているとさっきから出現したり消えたりする『音』が聞こえてくる。

 これが『ポチ』なのだろう。


「おい、オージェ。あのドラゴンをおびき寄せる方法とかは無いか?」


「そうだな……やっぱりポチは『酒』が好きだからそれでおびき寄せるのが一番だと思うけど」


「わかった!それじゃあボクはお酒買って来るなり!!」


 元気よく手を挙げたベルが歩き出そうとするのをとりあえず首根っこ掴んで止める。


「ガキに売ってくれるわけねぇだろうが!てかお前、金ないだろ?」


「えー?そこは泣いて頼めば何とかなるなり」

 

 あらやだ。この妹ったら泣き落としを手段の一つにするだなんてどこで思いついたんだよ。末恐ろしい。

 


「他には何かねぇか?」


「そうだなぁ、ポチは楽しい事。例えばだけど『音楽』が好きだね」


「ほぉ、『音楽』か。それなら俺らみたいなガキでも何とかなりそうだな。なぁ、カノン」


 妹の方に目をやると露骨に嫌そうな顔をされた。


「えー、だるいよー」


「お前なぁ、ポチをなんとかしねぇといつまで経っても父さんは帰ってこないぞ?」


「うー、それも嫌だなぁ……仕方ないなー」


 カノンはぶつぶつ呟きながらコートをはだけると片袖をまくる。


「こんな寒いのに何を……」


 オージェが疑問を口にする中、カノンの右腕に鍵盤の様な模様が現れる。


「あははー、カノンちゃん。ボク、それ弾くなりー」


「うー、嫌なスキル」


 ベルがカノンの腕に飛びつき指を添わすと鍵盤を弾く。

 すると綺麗な音色が冬空に響き渡った。


「え、何……あれ?」


「カノンちゃんは自分の身体の一部を楽器に変える能力を持っているの。本人は嫌っているけどね」


「どーせならママやお兄みたいな『声』を飛ばす能力が良かった。楽器化すると高確率でベルちゃんが遊びたがるから……」


 そうなんだよなぁ。

 ただ、ベルは音楽の才能があって見事にカノンの腕で演奏しているんだよなぁ。

 簡単な曲だが思わず聞きほれてしまうくらいだ。


「後はそうだな……あんま気が進まねぇけど」


 俺は息を吸いこみタイミングを見計らうとベルの演奏に合わせて即興で歌いだす。

 歌詞は流石に作れないのでハミングみたいな感じになるがそれっぽく仕上がってはいる。


「流石はアル君。私の夫になる人だわ!」


 いや、うるさいから黙ってくれねーかな。

 妹の演奏に合わせるのって結構大変なんだよ。

 そんな風に演奏と歌を披露していると視線の先で煙があがり赤鼻をしたワニ型ドラゴンが現れた。

 うん、わかってたけど思った以上にドラゴンだなぁ。これがヨイドレーンこと『ポチ』か。


「ぐへへへ、いい音色だなぁ」


 うん、わかってたけど思った以上に『ろくでもない』感じが漂っているぞ。

 オージェは何を考えてこんなやつをボディガードにしようと思ったのか。

 小1時間は問い詰めてやりたくなってきた。


 俺はヒイナに目配せをする、

 ヒイナはゆっくりと前へ出ると地面に手を置く。


「何だおじょうちゃん。おしゃくかぁ?」


樹木固(じゅぼっこ)ッッ!!」 


 そう唱えた瞬間、『ポチ』の足元から巨大な根が無数に出現して絡めとった。


「ぬおおお!?な、何じゃこりゃぁぁ!?」


「それは『植物の根っこ』よ。おじい様によると植物の生命力は強く異世界では頑強な『あすふぁると』とかいうものすら貫いて生きようとするらしいじゃない。私にピッタリの能力だわ」


 そう。ヒイナは魔力で植物を急成長させて色々な形で使う『植物使い』。

 流石、いとこの中では最年長だけあって大した能力精度だ。


「うわぁぁ、嫌だ。気持ち悪っ、ドロリンパッ!」


 慌ててドロンしようとする『ポチ』だが姿が消えることは無くその場にとどまっていた。


「あれ?」


「魔物避けにも使われる『タマトネリコ』の根だからね。モンスターの拘束にはちょうどいいわ」


 というわけでこれで父さんを振り回していた瞬間移動能力は封じたわけだ。

 後は『声』で父さんを呼んで拘束して貰えばそれで終了。


「やったー、大きなワニさん捕まえたなりー」


 ぴょんぴょん跳ねるベルを尻目に『声』を飛ばしていると……


「あーもう何だよこれ。やってらんねーべ!!」


 『ポチ』は言いながら首から下げたものから何やら液体を口に流し込んでいた。


「おいオージェ、あいつが持ってるあれは何だ?」


「うむ。あれは僕があげた『エルフの仕込み酒』だが……」


「「げっ!?」」


 思わずヒイナと顔を見合わせてしまった。

 確かヨイドレーンって『飲めば飲むほど強くなる』ドラゴンだって……


「ぐへへへ、何か気分がぁぁぁ、げへへへぇ」


 見る見るうちに『ポチ』の全身が真っ赤に染まっていく。

 

「ぱわーあっーーーぷっっ!!」


 叫ぶと同時にヒイナが仕掛けた『根の拘束』が弾き飛ばされてしまった。

 しまった。またドロンされるか!?


「ふぁいあーーー」


 残念、火炎を吐いて来やがった!!


「危ねぇっ!!」


 ヒイナが地面を殴りつける。


叉散火(さざんか)ッッ!!」

 

 幹が幾重にも分かれた樹木が出現し炎を吸い込むと枝の先から空中へ放出。

 そしてぶすぶすと音を立てながら朽ちていった。


「おお、見事……」


「ありがとう。ただちょっと……魔力を使い過ぎたかも」


 ヒイナは少しふらついていた。

 中々の精度だがやはり子どもが使うとなると負担が大きいらしい。

 現状ではコスパが悪い能力だな。


「あぁぁぁぁっ、ポチ止めてよ。そんな事したら危ないじゃ無いか」


「げへへへ」


 呼びかけも空しく完全に悪酔いしてる『ポチ』は主人であるはずのオージェ目掛け炎を吐いた。


「ああもうっ!!」


 俺はまごまごしているオージェに飛びかかり炎を回避させる。


「き、君!?」


 俺の行動に驚きを隠せないオージェは次に俺の肩が少し炎のせいで焼けているのを見て声をあげた。


「肩が火傷を!僕を庇って!?」


「ハッ、これくらいかすり傷でも何でもねぇよ。お前はムカつくけど怪我させちゃ警備隊の息子としちゃかっこつかねーしな。それに、来てくれたみたいだ」


 『音』が聞こえた。

 上空からハンマー片手に降下して来て『ポチ』の頭に一撃を叩き込む男。


「父さんッッ!」


「な、何すんだいてぇぇぞぉぉ?」


「何する、だと?このクソワニがぁぁ!お前こそ散々走り回らせた挙句俺の子ども達を襲うとはいい度胸だ!きついお仕置き一発叩き込んでくれるわぁぁぁ!!!」


 俺にとって最強のヒーロー、父さんが到着した。

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