第130話 酔っ払いの経緯
【ホマレ視点】
通報を受けて街中にある公園に駆けつけるとそこには巨大なワニが闊歩していた。
緑色の体躯に湾曲した双角。鼻の周囲は真っ赤に染まっており首からひょうたんの様なものをかけていた。
何だこのとてつもなく嫌な感じしかしない見た目は……
「と、とりあえずモンスターデータチェック!!」
あまりアテにならない鑑定スキルを発動させた。
名前:ヨイドレーン
種別:忍竜
身長:4m
体重:230kg
能力:口から炎的なものを吐く
強さ:酔っています
相変わらずいい加減な鑑定だ!!
普通こういうのって俺の成長につれて凄い能力が身につくもんだろ?
何だよ『炎的なもの』って!
しかも『酔ってる』!?どういうことだよ。
「ぐへへへ、あー、いい気持ちなのら~」
喋りやがった!?知能が高いなこりゃ。
そして『酔っぱらってる』!?
何てことだ。家でも酔っ払いの相手をして仕事でも酔っ払いと対峙する羽目に。
やはり酒は悪魔の飲み物だ。
「とりあえずこれ、どうすればいいんだろうな」
見たことないモンスターだが一応相手はドラゴン系。
舐めてかかると痛い目を見ることになってしまうだろう。
酔っ払いならばこのまま酔い潰れた所を捕獲してしまえば簡単なのだが。
「ふぁいあーーーかっとーん」
間延びした声と共に開かれた口から火炎が噴射された。
「ぬおおおお!?」
どうやらこれが『炎的なもの』らしいが何故わざわざそんな表現が……いや、理解した。
炎と一緒に漂ってくるアルコール臭。
こいつ、アルコールに着火して火炎を吐いてやがる!!
「あれれ、お口が火事だぁぁ。がははは」
「あー、うっとおしい!」
周囲に他の警備隊員もいるので変身は出来ない。
とは言え放っておくわけにはいかないな。
変身前でもデユランダルの能力はある程度使える。
「サイコモード!」
変身前のサイコモードの利点は『魔法使い』になれるという事。
姉さんが得意とする障壁魔法である黒曜壁で壁を作り炎を阻む。
ああ、姉さんありがとう。俺、今魔法が使えているよ!
「ダブルアロービーム!!」
壁で防御しつつ矢尻型光弾をサイドスローで敵に投擲。
数発が着弾して敵が跳ね上がる。
「うぎゃぁぁぁぁっ、な、何じゃこりゃー」
何だろう。結構いい攻撃しているはずなんだけど敵がオッサンぽいせいでイマイチ緊張感が無い。
まあ、とりあえず炎攻撃も止んだわけだし……
「一気に攻め込む!ソリッドモード!」
ソリッドモードは人間状態だとハンマーを使うくらいしか出来ないがそれでも攻撃力は十分。
「あ、ちょっ、それはダメ。痛そうだぞー?あーもう、嫌!」
ハンマーを持って迫る俺を見たヨイドレーンは両手を器用に合わせ叫んだ。
「ドロリンパッ!!」
煙が立ち上がりヨイドレーンの姿は跡形もなく掻き消えてしまった。
「え?忍竜ってそういう事?」
瞬間移動系のスキル持ちって事か?
つまりこれ、別の場所に酔っ払ったドラゴンが現れた可能性があるわけで……
「報告します!ブリューレ地区に酔っぱらったドラゴンが!!」
数分後、予想通りドラゴンが別の場所に出たという報告が飛び込んできた。
「やっぱりかよチクショウ!!!」
□
【アル視点】
近づいてきたトラブルの正体は逃げたペットを探しているという小太りな子どもだった。
最初は関わり合いになりたくないと逃げようと思ったが妹達が話しかけてしまい見事に巻き込まれる羽目になってしまった。
「そんで、お前さんはオージェっていうんだな」
「うむ。何を隠そう、あのアルスター家のひとり息子なのだぞ?」
「知らんな」
「なぬっ!!?」
オージェは随分とショックを受けたようだが知らんものは知らん。
「有名な政治家一家よね」
ヒイナが仕方なく説明してくれる。
なるほど、政治家ね。やっぱり知らん。
「その通り。おや、そちらのお嬢さんはよく見ればミアガラッハ家のご令嬢ではないですか。父のパーティーでお会いしましたね。やはり名家の出となると出来も違いますな」
そういやヒイナのミアガラッハ家は元辺境伯家だったっけ。
父方のモンティエロ家も元伯爵家だし。まあ、名家のご令嬢になるよな。
そしてとりあえずこいつがすげー嫌な奴だという事はよくわかったわ。
「あなたのお父様の事は覚えているけどあなたの事は覚えていないわね」
「ぬぬっ!?」
何だろう。ちょっぴりスカッとしたなぁ。
「はいはい。ボクはレム・リゼット・ブルーベル!みんなからは『ベル』って呼ばれているなり」
「あのねお嬢ちゃん。別に君みたいな平民の名前は聞いて……レムッ!?」
オージェは目を見開いてベルをじっと見つめる。
おい止めろ。俺の可愛い妹を見つめるな。
音攻撃するぞ?
「もしや父上から聞いていた噂のレム一族……平民ながら商売で多くの財を成したあの……」
いちいち平民ってうるさいな。
張り合う気もないが血筋で勝負するなら俺達兄妹には漏れなくイリス王族の血が流れている。
こっちの勝ちだぞ?
ちなみにその辺を知ってるのは長男である俺だけだ。弟や妹には知らされていない。
「とりあえずさ、こいつ何かムカつくから放って帰ろうぜ」
「ま、待ちたまえ!レム家と言えばおじいさまの代から困った時に色々手を貸してくれたという。つまり、下男みたいなものではないか!」
「おい、子豚。それ以上レム家を見下した発言続けると煮豚にすっぞ?」
ヒイナがオージェを睨みつけ殺気を放っていた。
怖っ!何か口調も変わってるしトーンが低い!!
そうだよ。大人しそうな見た目だがこいつにもしっかりレム家の血が流れてるんだ。
実はすごく好戦的だしキレたらヤバいんだ。
最近知ったが何でもケイト伯母さんとアリス伯母さんはリリィ伯母さんをいじめた奴を報復としてボコボコにして停学になったらしい。
リリィ伯母さんもその後で同級生にドラゴンスープレックスを掛けたということだがそれが現在の旦那。つまりヒイナの父親ってわけだ。
うん、もう意味わからんし物騒だぞウチの一族。
ちなみに伯母さん達が卒業した学校では一族まとめて『危険』と判断されているとか。
子豚もといオージェはしょぼんと小さくなりつつ俺の方を見る。
「あ、あの。出来ればこんな僕に力とか貸してくれたら嬉しいなぁって……」
いきなり下手に出たな。
まあ、困っているみたいだし話くらいは聞いてやるか。
父さんもよく『困っている人には手を伸ばせ』って言ってるしな。
じいちゃんの代からの教えってやつだ。
「それでオージェ。ペットを探しているそうだな」
「うむ。『ポチ』といってな。何やかんやでうっかり逃げてしまったのだ。」
犬探しかぁ。
まあ、それくらいなら手伝ってやってもいいか。
それにしても『何やかんや』とはまた雑いなぁ。
「仕方ねぇ。探すの手伝ってやるよ。それで、どんな犬なんだ?」
「流石、私の未来の旦那様ね。素晴らしきヒーローっぷりだわ」
「あー、ヒイナ。お前は妹達連れて家に行ってくれていいぞ」
「えー」
これで合法的にヒイナから離れられるというわけだ。
尚且つ、俺抜きでホクトとヒイナを会わせる事も出来て正に『ひとつの石で2羽のヨイガラスを撃墜』というものだ。
「ベルもワンちゃん探し手伝うなりー」
「私は家に帰りたいけどベルちゃんが帰らないならひとりで帰るわけにはいかないし……」
「というわけなので私達も迷子犬の捜索を手伝うわ」
うわぁ、めんどくせぇ。
これ、全員残留かよ。
「あの、さっきからワンちゃんとか言っているけど『ポチ』は犬じゃないよ」
「はい?」
ややこしい奴め。
ポチといえば犬の代名詞だろ?
ちなみに発祥は父さんと母さんが居た『日本』という異世界の国らしい。
「じゃあ何だよ。ネコか?それとも変わり種でロバとかか?」
「違う。ポチの種族は『ヨイドレーン』というドラゴンだ」
「はぁぁ!?」
ドラゴンだと!?
こいつ、ドラゴンに『ポチ』ってつけてるのか!?
「お前、バカじゃねぇのか!」
「な、何がバカだ!バカって言った方がバカなんだぞ!!」
「じゃあお前の方がバカじゃん!!」
もう今日はどういう日なんだよ。
こんな訳の分からんやつに出会っちゃうとはなぁ。
「そもそも、ドラゴンをペットにするなよ!」
「そんな事言うなよ!ポチは僕のボディガードをしていた大切なモンスターなんだ」
ボディーガードね。
「それで、何でそのボディガードが主人を置いて逃げ出したんだよ?」
もう全然ボディガードの役目はたしていないよな。
クビになっても文句言えないボディガードぶりだぞ?
「元々、ヨイドレーンというドラゴンは高い知能を持っていて様々な忍術も身につけているんだ。そして酒を飲むことで能力が上がる『酔いどれ』というスキルを持っている。酔えば酔う程強くなるんだぞ?」
「酔う事で強くなる……実に興味深い!!」
ああ、クソ。カノンが無茶苦茶興味持っちゃったよ!!
「ただ、ポチは気が弱く力もあまり強くないんだ。ニワトリに追いかけられて逃げまどうくらいにね。そんな自分に嫌気が差して酒に溺れる毎日を送るようになってしまったのがポチなのさ」
えーと……『ボディーガード』って何だっけ?
もう色々とグダグダでダメなやつじゃん!!
もしかして中にオッサンとか入ってないか!?
「そんなポチを励まそうと父上の酒倉庫にあった『エルフの仕込み酒』を飲ませてあげて庭でかけっこをしようとしたら悪酔いしてそのまま『ドロリンパッ』っとされちゃってね」
「完全にてめぇのせいじゃねぇか!とんでもない人災だなおい!!」
しかも飲ませた酒って現在我が家で母さん達を酔い潰した酒と同じやつじゃないか!
酔った挙げ句、父さんに抱きついて耳を甘がみしていた母さんに色気を感じてしまったんだよな……
「まさかこんな事になるとは思わなかったんだ!!」
「思えよ!酔っ払い忍者に酒を追加して自由にさせたらそりゃどっか消えるわ!」
もしかして父さんが緊急出動したのもそいつが原因なのでは?
せっかく何も起きず父さんが家に居てくれる日だったのにぃぃ!!
「あーもう、なんて日だぁぁぁ!!」