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第129話 アルの受難

第3世代としては最初に設定されていながらほとんど登場しなかった最年長ヒイナお姉ちゃんが登場。

【ホマレ視点】


 誰が何と言おうが酒は悪魔の飲み物だ。

 迎えた1250年1月。


「ふふーっ、クリスってば真っ赤になってかわいーなー」


「ナ、ナギ。あたまをなじぇないでくだしゃいよぉ」


「えへへ、ナギ。それはウサギの置物れすよぉ」


 年上元聖女妻、最年少受付嬢妻、幼馴染3番狂い妻の3人が飲酒により見事に出来上がっていた。

 そしてクリスよ。お前の頭を撫でてるのは誰だ?ちょっと怖いぞ?


「やれやれ、みんな飲み過ぎなんだよな」


 結婚8年目に突入したリーダー妻が呆れ顔で3人を見ていた。


「お前が飲んで無くて助かったよ」


 酔い潰れた妻達の代わりに家事をするのだが何分普段はまかせっきりだったので非常に苦戦していた。

 俺、絶対奥さんに先立たれたらどうしようもなくなるタイプの旦那だよな。

 雑ながらも家事がしっかりできる親父を見習わなくてはいかん。


「いや、わたしも飲んだけどさ。あの程度で潰れないよ」


 ああそうだ。こいつは酒に強いんだった。


「強いのはいいけどさ、あんまり飲み過ぎて体壊さないでくれよ?長生きしてくれ」


「わかってるって。ところでさ……しんみりした表情でさり気なく尻を触るの止めようか?」


 おっと、いかん。これは手がつい悪戯を!!


「すげぇ、父ちゃんってば物凄く自然な動きだった!」


「俺達にもあの血が流れてるんだよな……将来が怖ぇぇ」


「なぁ、俺あんな感じでヒイナちゃんにそっとボディタッチをしてみて」


「弟よ、絶対に腕を捻られるからマジで止めとけ」


 おや、仲が良い兄弟だね。

 まあ、ヒイナちゃんに関しては俺も100%迎撃されると思う。


「それにしても3人とも潰れるとは予想外だよな」


 発端は隣家のマリエルさんが『エルフの仕込み酒』をくれたことだった。

 酒好きなら喉から手が出るほど欲しがる一品らしいが俺は酒を飲まない。

 という事で妻達が新年のお祝いに飲んだはいいのだがある事を失念していた。

 そう、『エルフの仕込み酒』はかなり強いお酒なのだ。

 結果があの酔っ払い3人だ。フリーダは少量かつお酒に強い耐性を持っていたのでいつもと何ら変わらない。

 ちなみにナギがちょっぴり誘惑っぽい事もしてきたが子ども達が居るのでぐっと我慢だ。


「だから言ってるじゃん。『酒は悪魔の飲み物』だって」


 俺が呟いた瞬間、暖炉の前でぐでーっと寝そべっていたカノンが勢いよく起き上がりこちらを見る。


「酒は悪魔の飲み物…………」


 おい、まさかこいつ。


「実に興味深い!パパ、それはどういう意味ですか?その根拠を!何か実体験が!?ぜひ、教えてください!!!」


 俺の駆け寄ったカノンが夢中で脚にしがみつきながら『教えてモード』になってしまった。

 しまったぁぁぁ、カノンの知的好奇心を刺激してしまった!!


「ということでカノンの相手はあんたに任せたぞー」


 笑いながらフリーダは洗濯籠を持って外へ。


「あっ、フィリーママ。あたしも手伝う!!」


 ユズカはフリーダの後を追ってお手伝いに。

 うん、お姉ちゃんらしく育ってるなぁ。

 出来れば俺にしがみついている妹も何とかして欲しかったんだけどなぁ。


「あれ?そういやベルは?」


 三女の姿が見えない。

 さっきまでソファに座ってうとうとして居た筈なんだけど……


「ベルちゃんならお外へ遊びに行きました。さぁ、パパ。それでは私の知識探求に協力を!!」


「落ち着きなさい!ズボンが!ズボンが脱げるから!!」


【アル視点】


「まったく。寒い日だっていうのに何で妹を探しに行かなきゃいけないんだよ」


 ぶつぶつと文句を口にしつつ母さん譲りの『声』で索敵をしながらベルを探す。

 便利だけど母さんに比べればまだまだ範囲も狭い。


「お兄が一番上のお兄だからです。私だって家の中でぬくぬくしながら知的好奇心を満たしたかったのにぃ」


 横ではカノンが口をとがらせていた。

 ベルが一人で出かけたと判明した直後、緊急連絡があり父さんは仕事に行ってしまった。

 そこで妹の捜索という重要任務が俺達兄妹に課せらたわけだ。


「お、見つけたぞ。あっちの方だな。さっさと連れて帰って『ファバベス』食いてぇ」


 こんな寒い中遊ぶなんて俺には理解できない。


「お兄は豆の煮込み大好きだね」


「ばあちゃんの得意料理だったしな」


 あっ、やべ。ちょっとカノンがしょぼんとしてしまった。

 こいつが生まれた次の日、ばあちゃんが亡くなったんだ。

 だから想い出と呼べるようなものはほぼない。


「……悪い」


「別にいーよ。私の名前はばぁばがつけてくれたんだもん。それで十分」


「そっか……」


 そんな事を言っていると見覚えのある後姿を発見。

 ひょこひょこ歩く我が家の三女だ。


「ベルちゃん、見っけ!!」


「にゅ?あれれ、お兄ちゃんにカノンちゃん。もしかして二人も遊びに来たなりか?」


 いつも思うけど何だよ『なり』って。


「ちげーよ。お前が勝手に出ていくから連れ戻して来いって言われたの。ほら、帰るぞ」


「えーやだー。ボク、お外で遊びたい―」


 普段は家の中で遊ぶ方が好きな癖にいきなり外で遊びたがる気まぐれやだからなぁ。


「ベルちゃん。寒いから帰ろうよ。私は家の中でご本を読んで知的好奇心を満たしたいの」


「それじゃあカノンちゃんはそうすればいいじゃん。ボクはお外の気分なり!!」


 うわぁ、妹がうぜぇ状態になった。


「ともかく!今日はクソ寒いからとっとと帰るぞ!」


「あっ、アル兄アル兄!大変なり!」


 今度はぴょんぴょん跳ねだした。

 落ち着きのない妹だなぁ……いや、ウチに落ち着きある妹なんかいないか。


「あー、お兄。いい報告と悪い報告があるんだけど?」


「何だよ、カノン。それじゃあ、悪い報告から聞かせろ」


「ヒイナちゃん」


 妹が口にした従姉の名前に背筋が凍り付く。

 何処だ!?何処にいやがる!?


「上なりー!!」


 上?

 見上げると塀の上に腰掛けこちらに笑顔を向ける従姉の姿が。

 ミアガラッハ・レム・ヒイナ、9歳。

 リリィ伯母さんの娘であり俺の『天敵』だ。


「カノンちゃん、ベルちゃん。新年おめでとう」


「おめでとう、ヒイナちゃん」


「おめでとうなりー!!」


 よし、妹達が引き付けている内に俺は撤退を。


「おめでとう。アル君。今年もよろしく」


 いつの間にか進行方向を塞ぐように従姉が立っていた。

 こいつ、『ダブル』のスキルを使いやがったな。精度が上がってやがる!!


「…………おめでとう」


 あーくそ、何だって新年早々こいつに会っちまうんだ。

 まさか今年の運勢は最悪なのか?


「ちなみにいい報告っていうのもヒイナちゃんがいる事でした。私達にとってという意味で」


 どっちにしろこいつだったのかよ!!


「ヒイナちゃんもお外で遊びに来たなり?」


「いいえ。私は教会に行った帰りなの」


 はいはい。信仰心が厚い優等生様だねまったく。

 こんな事ならベルを縛り付けてでも家にいりゃよかった。


「丁度、そっちに挨拶に伺おうと思っていた所よ」


 チクショウ!

 どっちにしろ遭遇する運命だったのかよ!!

 ばあちゃんみたいな『未来視』が欲しかった!!


「やっぱり未来の義実家なのだからその辺はしっかりしておかないとね」


「あのな、いい加減にしてくれよ。赤ん坊の頃の俺が可愛かったとしても昔の話だ。ほれ、今はクソガキだぞ?現実を見ろ!!」  


「いいえ。素敵な紳士に成長しているわ。私もあなたの所へ嫁ぐために自分を磨かないとね。そうね、母様の様に立派な『悪役令嬢』の称号でも得てからでないとあなたには釣り合わないわね」


 一生釣り合わないでくれ!!


「あのなぁ。そもそも俺らは従姉弟だろうが。わかる?い・と・こ」


「ええ。法律的には何の問題もないわね」


 ダメだこの女、迷いがない!

 今でも本気で俺の嫁になる気満々だぞ!?


「他にいい男がいるだろうが。そうだな、例えばホクトとかどうだ?あいつの筋肉はすげーぞ?」


 俺としちゃ弟を応援したいんだがなぁ。


「は?何で?」


 ダメだ、ホクトの事が眼中にない!


「ヒイナちゃん、それじゃあベルとお家で遊ぶなり!!」


「おや、ベルちゃんが家に帰る気になりましたね。良かった!ヒイナちゃんが来てくれたらお留守番のユズ姉も喜びます」


 うーん。出来れば家にあがってほしくないけどベルが大人しく戻ってくれるならこれはこれでいいか。


「それじゃあ、帰るか」


 そう言った時であった。


「おーい、ポチ!ポチやーい!どこ行ったんだぁ!?」


 何か聞こえてくる。

 やべぇ、こいつは……トラブルが近づいてくる予感しかねぇ!!

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