第126話 シャケとフィジカル
【ホマレ視点】
「クリスマスと言えばシャケだよなぁ!!」
何か親父がものすごく暑苦しい感じで大量のシャケを焼いていた。
正確にはロニオンサーモンっていう魚型のモンスターなんだが味とか見た目とか、完全にシャケだ。
生前は水魔法とか使ってくるけど、まあシャケだ。
「うははは、シャケを食べるのはこの国の伝統だよなナナシ君よ!!」
もうひとり暑苦しいオッサンが親父の横で笑っていた。
この人は誰か?答えは……
「父さん……そんな習慣、わたしは聞いたことないぞ」
深いため息をつくリーダー妻。
そう、彼はフリーダの父親である。
家を追い出され転がり込んできたフリーダを俺がまだ邪険にしていた頃、彼女が戻れるように親父が説得しに行った。
結果、何か意気投合して酒を飲みかわした結果『娘さんは責任を持ってお預かりします』と話がまとまった。
親父も雑だがこの人も大概雑なんだよな。
というか責任を持って預かった結果、俺が手を出しちゃったんだよなぁ。
いや、まったく後悔は無いしむしろあの話し合い結果に感謝しているくらいだ。
ただまあ、雑なんだよな。
フリーダが村長の息子を袖にして俺と結婚したせいで村から追い出されたがそのおかげでノウムベリアーノに移住出来て色々と結果オーライなんだよなぁ。
ちなみに母親は……
「いいのよ、フリーダ。お父さん、脳みそが小さいから細かいことなんか気にならない人なの」
何だろう。凄くナチュラルに毒を吐くんだよな。
膝に乗ってるタイガは気にしてないけどホクトは口をぽかんと開けていた。
そのうち慣れるよ。
俺が結婚したいと挨拶に行った時もこの人、『やっぱり下半身の衝動は抑えられなかったオス畜生なのね』と無茶苦茶毒を吐かれた。
ただ、怒っているわけでは無く元々そういう人でむしろ祝福してくれていたらしい。
そういった性質、フリーダが似なくて良かった!!
「これぞ、ナダ共和国の伝統料理!鉄板の上で混ぜ合わせた調味料でシャケを野菜と蒸し焼きにして『ミーソ』なんかで味付けをするわけだ!!」
うーん、親父。それどこかで聞いた事あるぞ。
隣に立つナギの方を見る。
「ちゃんちゃん焼き……だね。ナギ、あっちに居た事あるからすぐわかった」
ああ、それだ!
思いっきり日本の郷土料理だよ!!
そもそもなぁ、この世界に転生して30数年……初めて見たからなそれ!!
絶対何かの拍子に思いついただけだろ!!
さて、もう一ヶ所では別の調理が進んでいた。
「こ、これが『タコヤキ』!?まさか球体だったとは……」
「ふふっ、カノン。想像力が足りなかったね」
「でもタコなんて食べて大丈夫なのかよ……」
ナギの母親がどこから持ってきたのか専用プレートで『タコヤキ』を焼いてアルとカノンに見せていた。
そうそう、あれが『タコヤキ』なんだよなぁ。
何かさ、この家の中だけ食が日本化してない?
「タコヤキ……これは新商品として売り出せば流行るのでは……」
セシルが真面目にタコヤキの商品化を検討していた。
うん。しっかりとおふくろの遺志を継いでくれているな。
「同じ原理で『3』のカタチをしたタコヤキを作るのも……」
それは止めよう。
ひっくり返しにくそうだし食べにくそうだ。
更に家の中を見渡す。
メイママの傍ではベルが『折り紙』をしていた。
「出来たー、鳥さんなり」
「ベルちゃんは手先が器用ですね」
「本当に、私も驚いています。小さな紙でも作れるんです」
クリスが笑顔で娘の頭を撫でる。
ベルが作ったのはいわゆる『鶴』。
その辺にある紙で色々折っていたのを見てナギが折り方を教えてあげたんだよな。
ちなみにパパも異世界出身ですが折れません!!
さて、子ども達の様子を眺めていて気付く。
ユズカが居ない。またあいつ……
「ユズカちゃんなら2階に行ったわよ」
俺が探していることに気づいたケイト姉さんが教えてくれた。
「あいつ、何で……」
「多分、『寂しい』んじゃない?」
寂しい?こんな賑やかなのに?
「ユズカちゃんは気にしてるんじゃないかな。自分には『おばあちゃんが居ない』って事に」
「あっ……」
そうだ。アルとカノン、ホクトとタイガにはそれぞれおばあちゃんが居る。
でもユズカには『血の繋がった祖母』は居ない。
おふくろはユズカが物心つく前に亡くなったし、セシル側も既に結婚した時には亡くなっていた。
ベルも同じ条件でしかもおふくろの声すら聞いたことが無い。それでもアンママやメイママが自分の孫の様に可愛がってくれていて、ベル自身もそれを受け入れている。
ユズカだって可愛がっては貰っているが成長している分、感じることがあるのだろう。
「ジェス君。ユズカはこの頃よく聞いてくるんです。『何で神様は御祖母様を連れて行っちゃったの?』って。だけどあたし、教典通りの受け答えしか出来なくて……」
俺達の話を聞いたセシルがやってきて教えてくれた。
確かに難しい問題だ。俺だって正直な所質問s慣れたら答えに詰まる。
「だから今日も一人で先に墓へ行ってたのか……」
「あの子、人一倍寂しがり屋ですから。何か心配です」
確かにそうだ。
ユズカは我が家で一番お転婆だが実は一番寂しがり屋でもある。
基本的に家族にべったりなのだ。
アルやホクトが家の外に興味を持って外で友達を作ったりする中、ユズカだけは友達がいない。
外で同年代の子どもに会う事はあるけどそんな時、ユズカは必ず『お嬢様』の仮面を被って距離を取っていた。
「そっちも大変みたいね」
ケイト姉さんの言葉にセシルが答える。
「はい。そちらも、ジョセリンちゃんが友達が出来ないって」
「そうなのよ。あの子内気だから。まあ、実は性格だけじゃなくてちょっと色々あってね……」
色々?
内気なだけじゃない何かがあったのか?
「あいつ、以前は公園とかに行って遊んでたんだ。でも、そこでよその子に大ケガをさせちゃったんだよ」
俺の背後からアトムが言った。
「怪我って、子ども同士ならそれくらい普通だろ?まさかモンスターペアレントが現れたとか?」
アトムは苦い顔をして『ちょっとこっちに』と促す。
もしかして姉さんの前では話しづらい事なのか?
姉さん達から少し離れて話を聞くことにした。
「ケイトは随分と気にしてるからさ。自分からの『遺伝』って」
「遺伝?まあ、確かにウチだって子ども達に色々と変わったスキル持ちが居るけど……まさか『毒』か?」
「あーいや、そうじゃない。ただ何というか……」
何だか言いにくそうだ。
「ほら、デメリットになってるスキルがあるだろ?お義母さんはさ、『異次元の料理力』でケイトは『異次元の恋愛偏差値』」
いや、あれスキルじゃないからな。
あー、でも確かに二人共とびぬけた能力を持つ分、何かしらのデメリット持ちだな。
「ジョセリンの場合はさ、メリットとも考えられるけど今はデメリットとして働いているものがあるんだよな」
「何だよそれ?」
「『異次元のフィジカル』」
「いやいや、そんな事言ったらうちの子達だって中々だぞ?」
「いや、ジョセリンは3歳だがすでに大人顔負けのフィジカルを持っている。腕相撲でケイトに勝つからな。それにリンゴを片手で握りつぶせる」
え?何それ?
ウチの子どもも大概だがそれでもまだまだ子どもだなぁって感じだ。十分対処できる。
「あー、えーと……」
「転生者ってわけじゃないことは確認している。だけどさ、あの子はその強烈なフィジカルのせいで同年代の子どもと遊ぶことが出来ないんだ。怖がられちゃってるし怪我をさせてしまう恐れがあるんだ」
まあ、確かにそのフィジカルは『異常』だ。
特にまだ制御の効かない幼い頃だとなぁ……
「そうなるとやっぱウチの子達が遊び相手にでも……」
でもなぁ、アルはあんまりそういうタイプじゃないしなぁ。
ホクトは肉体派なんだが正直なところジョセリンちゃんにエロい事をしそうなんで怖い。
あれだよ、今はまだ小さいけど将来的に『エロ漫画顔負け』の超展開で『親父やっちまった、ガハハ』とか言われたら胃が死ぬ。
まあ、見事なまでに自分へのブーメランなんだけどな。
女の子で言えばカノンはお勉強大好きっ娘だからまず遊び相手にはならない。
ベルやタイガはそもそも『異次元のフィジカル』を相手出来る様な子ではない。
「そうか。ユズカなら……」
やや戦闘狂な一面をのぞかせる我が家の長女ならもしかして……
でも何か心配だなぁ。
「あれ?ところでそのジョセリンちゃんは?」
「そういや見えないな。自分の部屋に行ったのかもな」
「あの子の部屋って?」
「昔、ケイトが使ってた部屋だけど?」
2階か。
確かユズカも2階へ……
あれ、これってもしかして……