第125話 レム家のクリスマス
今回からクリスマスエピソードになります。
【ホマレ視点】
碧猪の節、12月の20日~25日は『クリスマス期間』となっている。
家族や友人といった親しい人と過ごすのが習慣でありこの期間は基本的に皆、『仕事を休む』。
この期間に仕事をしろと強制すると罰せられるくらいだからな。
ただ、警備隊員とかは流石にいないとまずいので人員を減らしつつ期間中1日から2日は出勤する。
俺は期間の初日だけ出勤して後は休みを貰っていた。
何せ22日は三女のベルが生まれた日だし、翌日の23日はおふくろの命日だ。仕事なんぞしてられん。
ちなみにこの国の文化では『命日』ではなく『天に召された日』という扱いで特別何かの行事があるわけでは無い。
「よし、今日はおばあちゃんに会いに行って、その後でおじいちゃんの所に行くぞ!!」
23日の我が家における恒例行事。
それはおふくろの墓参り後に俺の実家に行く事だった。
割としょっちゅう会ってはいるが全員が一斉に行く事はあまりない。
親父達からしてもちょっとしたイベントだ。
子ども達も心なしか興奮した様子だ。
「今年は、アリスお義姉様のご家族は来られないんでしたっけ?」
クリスが出かける支度をしながら聞いてきた。
「ああ、あっちでも色々あるらしくてな。年明けには来るらしい」
正直残念でならない。
久々に姉さんに遭えると思っていたんだがなぁ。
「ジェス君、ユズカが見えないんですけど知らないですか?」
「え?ユズカ?」
確かにリビングに揃ってる子ども達の中に長女の姿が無い。
「ユズ姉どこー?」
次女も姉を探してひょこひょこリビングを歩き出す。
クッションの下を確認したりしているがそこには居ないと思うぞ?
三女は天井を見上げるががそこに姉はいない。
「ユズ姉、上にも居ないなりー」
姿が見えない時の選択肢に天井を見上げるというものが入っているのは流石ウチの娘といったところだな。
実際、天井に張り付いて遊んでいる事も少なくないからなぁ。
「もう、あの子は……」
セシルが肩を落とす。
すると目を瞑っていたナギが『あっ』と声を出す。
「見つけたよ。ユズカ、もー外へ出てるね。先に霊園へ行ってるみたい」
「ええっ!?あの子ったら本当に……あたしちょっと先に行って捕まえに行きます!!」
「あーいや、俺が行くからお前達は後からゆっくり来てくれ」
何か叱られるのが可愛そうだ、
コートを羽織ると俺は霊園へ急ぐことにした。
□
「やぁ、今年も来たね。さっきユズカお嬢さんが来たよ」
霊園につくと管理人さんがユズカが来たことを教えてくれた。
この人は昔からここの管理をしている一族の人だ。
「まだ中に居ます?」
「出てくることは見てないよ」
「ありがとうございます。メリークリスマス」
俺はチップを渡し礼と言うとレム家の霊廟へと向かった。
霊廟につくとユズカがひとりぽつんと佇んでいた。
何処か寂し気な様子で……
「ユズカ、先に来てたんだな。びっくりしたぞ」
「お父様……えーと」
ユズカは少し俯き、そしていつものような明るい表情で言った。
「だってみんな準備が遅いんだもん。待ちきれなくて……それに、あたしだってもう5歳だよ!」
何か繕った様な、そんな雰囲気だ。
「そうか。偉いな。それで、おばあちゃんは元気だったか?」
「……わからないよ。だって何も言ってくれないし。本当に御祖母様はここに眠っているの?いつ起きるの?」
うーん。なかなか難しい質問だな。
「そうだな……起きたりは、しないかな。声も聞こえない。だけどきっとユズカが来てくれて喜んでいるよ」
「そういうものかな……」
納得は難しいだろうな。
「ところでユズカ。セシルが心配してたんだが……」
俺の言葉にユズカが『げっ』と小さく漏らす。
「とりあえずさ、怒られる確率を少しでも減らすためにパパと掃除したりしてようか?」
「はい………」
後から皆が来るまで俺はユズカと霊廟を軽く掃除して過ごした。
セシルは何か思う所があったようで特にユズカを叱ったりはしなかった。
そして……
□□
「おおっ、団体さんがお出ましだぁ!!」
実家に行くと無駄にテンションの高い親父が待っていた。
「確かにホマレの家族が一番多いですから賑やかですよね」
メイママが苦笑しながら出迎えてくれた。
「こうやって毎年来てくれて。リゼットもきっと天上で喜んでくれてるわね」
笑いながら『ごく自然な雰囲気』でキッチンへ行こうとするアンママを見て妻達が目配せをして駆け出す。
「あ、大丈夫です。わたし達が手伝いますから!!」
「そ、そうだよ。アンさん、ゆっくりしててねー」
「あたし達頑張るんで大丈夫です!」
「私、お茶入れますから!!」
見事な連係プレーだ。
そう、アンママを『キッチンに入れてはならない』。
あの人は料理の腕が異次元であり『出禁』になっている。
わかっているはずなのについキッチンに立ちたがるのだから困ったものだ。
本人に全く悪気はない。
「うん。あんたの嫁達も大したものね。見事だわ」
ケイト姉さんが感心していた。
姉さんは結婚後、しばらくはアトムと一緒に別の家で暮らしていたが出産を機に実家に戻った。
他の姉さんや妹達もそうだが人妻になっても変わらず魅力的だなぁ。
「いつも助けられてばかりだよ」
「よろしい。いい心がけだわ」
よっしゃ、姉さんに褒められた!!
ああ、何て素敵なクリスマスプレゼントだろう。
ふと、姉さんの後ろに小さな女の子が隠れていることに気づく。
「やぁ、ジョセリンちゃん。メリークリスマス」
「メ、メリークリスマス……です。おじさま」
彼女はレム・ライラ・ジョセリン。
ケイト姉さんとアトムの間に生まれた子であり現在3歳。
ウチのカノンやベルと同い年だ。
姉さんに似たかわいい子だがいかんせん人見知りが激しい。
「ジョセリンったら。何かあたしの小さい頃によく似てるわね」
「何言ってるのよ。あなたはこのくらいの歳の時はリリィやアリスと山を走り回って泥んこになってたでしょうが。ホマレのお世話を取り合って負けたらビービー泣いて拗ねてたじゃない」
「えー?」
アンママがすかさずツッコミを入れていた。
そうなんだよなぁ。姉さんってお転婆だったからどちらかというとユズカに似てるんだよな。
ユズカは典型的なレム系女子。だからジョセリンちゃんみたいな子はウチの一族じゃ珍しい。
敢えて言うなら若い頃、それも『親父と出会う前』のアンママが大人しい性格だったらしい。
大人しいアンママ……それが今や『抑止力』と呼ばれて恐れられているんだから世の中わからない。
「でも内気なのはちょっと気がかりなのよね。友達もまだいないみたいだし」
ジョセリンちゃんは俺達から離れてぽつんと一人でソファに座っていた。
ここは俺の娘達と遊ばせて……と思っていたら長女は大好きな壁のぼりを始め、次女は飾られた花を興味深そうに観察し、三女は親父に肩車をしてもらい遊んでいた。
うん、ちょっとダメかな。いとこに興味なし!!
ならば息子の方はどうだ?
「なぁ、父さん。ヒイナちゃんは……来ないよな?来ないよな?」
アルはヒイナちゃんが来ないかを心配して周囲を落ち着く気なく見回し、
「ヒイナちゃん来ないのかな?」
ホクトはヒイナちゃんが来ない事を嘆いていた。
うん、ちょっとダメだ。別のいとこの事ばっか考えてる!
ならば我が家の期待の超新星、タイガは………寝息を立ててすやすや眠っていた。
すまん姉さん。ウチの子はあんまり役に立てそうにない。