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第12話 抱え込んでいるもの

なんか隊長が密かに見守る優しいお母さんポジションになってますね。

頭はかなりおかしい人ですけど。

「おやホマレ君、ボッチ飯かい?」


 同僚達から散々冷やかされた後に迎えた昼休み。

 食堂でフリーダが届けてくれた弁当を広げ食べていると上司がニコニコしながらやってきた。


「前、失礼するよ」


 俺の返答などお構いなしでテーブルの向かいへ腰を下ろす。

 この人はこういう人だ。トレーの上には熱々の湯気を立てるドリア。


「好きなんだよねぇ、ゲロ飯」


 その食欲が失せる様な表現は何とかならないのだろうか?


「知っているかい?ドリアは私が居た地球(いせかい)では日本の発祥なんだよ?カレーライスみたいなものかな?原型となったものはフランスの料理らしいけどね」


「イシダ、あんたなぁ……」

 

「こらこら。クリス。もしくはウォーグレイブ隊長って呼びなさい。公私はしっかりと分けようね。でないとお母さんに言いつけちゃうぞ?」


「…………はい」


 ああ、こいつ苦手だなぁ。

 俺が赤ん坊として転生したころから、いや、もっと言えば親父達が結婚した辺りから定期的に我が家に不法侵入を繰り返していた女だ。

 一応、宿敵扱いのはずだけど実際の所は『小さい頃から知ってる近所のおばさん』みたいな感じなんだよなぁ。


「えーとそれじゃ、隊長」


「いやん、名前で呼んでくれないの?おむつだって替えてあげたのになぁ」


 『不法侵入して』だけどな?


「はぁ…………頼むから『隊長』呼びで勘弁してくれ」


 こいつと話をしていると完全にペースを奪われてしまう。

 本当に苦手だ。


「ふふっ、仕方ないなぁ」


 配置転換届け出そうかと一瞬考えてしまった。少し胃が痛くなる。


「それで隊長。一応断っておくけど、さっきの子は色々あってウチで居候している田舎娘であって」


「君が『神童』って呼ばれて調子ぶっこいてた時に一回だけ連れてた娘だよね?」


「……知ってたのかよ」


「そりゃ君達一家の事を見守るのが私の趣味だったからね。交友関係とか、ずっと追って来たよ」


 それを世間一般ではストーカーと言うんだけどな。


「あの頃の君は控えめに言ってもクソなやつだったよねぇ」


「止めてくれ。恥ずかしい……」


 転生時に神から貰ったスキルのせいで本当にあの頃の俺はクソみたいにイキってた。

 穴があるなら入りたいくらいに恥ずかしい。


「今の君はとってもかわいいから安心しなさい」


「何でだろうな。あんたに言われると逆に安心できないんだが……」

 

「ふふっ、いいじゃない。同じ『転生者同士』なんだし仲良くしようよ。ね?」


「!?」


 ちょっと待て。いきなりとんでもない発言が飛び出したぞ!?

 俺はこいつや親父が転生者って事は知っている。

 だけど俺が転生者だって事は……誰にも話していない。


「まさかこの私が気づいてないとでも?これまでの言動を見ていれば君が転生者だって事は容易に想像がついたよ」


「…………その事、親父達には?」


「言ってないよ。そして君が心配している事について答えてあげよう。君の親達は君が転生者だって事には気が付いていないと思うよ。何せ他の子ども達も大概なチート能力者だったからね。息子も同様だろうと考えられているみたい。幸いにも君には王族の血も流れているからそれくらいのスペックがあっても不思議じゃない」


 確かにおふくろがイリス王国の元王女なので俺にはイリス王族の血が流れている。

 それにプラスして転生者である親父の血。

 だから頭一つ抜けて高い能力を持っていたとしても不思議では無いのだが……

 そうか、気づかれていないんだな。良かった。


「でもさぁ、何で言わないの?自分も父親と同じ転生者だって。話盛り上がるよ?」


 その理由は本当なら言いたくない。

 こいつに弱みを見せることになるから。

 だけど恐らく俺が口をつぐめばこいつはありとあらゆる手段を使って答えを求める。

 そうすれば親父達が真実を知る事となってしまうかもしれない。


「……言えるわけ。ないだろ。どうせウチの事をずっと見てきたなら知ってるだろ?俺が生まれた時、最初は息をしていなかったって。俺は、あの時死産になった子どもの身体に転生した魂が入り込んだ存在なんだ」


 だから本来『ホマレ』として生まれて来るはずの子どもの居場所に居座っているだけの異物が俺の正体だ……

 本来、その子に注がれるはずだった愛情なんかを俺は横取りしたようなものだ。


「でもさ。君がその身体に入り込まなければ彼らは唯一の息子を死産で亡くしてしまったって事実が残るよね?だから君が身体には行った事は結果としてプラスだったと思うけどなぁ」


「…………言いたいことはわかってる。だけど……頼むからこの事は」


「はぁ、色々と考えて抱え込むめんどくさいその癖、両親そっくりだね。君の親って『二人とも』そうなんだよなぁ。アンジェラちゃんが居なけりゃ最悪のこじれ方をして歴史も大きく変わっていただろうね」


 隊長は小さくため息をつく。

 確かに我が家の一夫多妻が成立している最大の要因は家長であるアンママのおかげな部分が大きい。

 あの人が流れを作っているおかげで我が家は円満に動いている。


「安心しなさい。黙っててあげるから。別にその事で脅迫とかしないよ。そういうのは私の美学に反するからね」


「……感謝する」


「ところで話は戻るけどさっきの女の子だけどね。君、どう思ってる?」


 話題を変えてくれたか。ありがたい。

 何か本当に『近所のおばさん』みたいだな。


「どうって……ウチに転がり込んで来たじゃじゃ馬ってだけだよ。それ以上は何も」


「ふぅん。気づいてないみたいだけど気をつけないといけないよ?あの子は『危ない』から」


 まさかこいつから見て『同類』の気があるとかか?


「霊感体質ってあるじゃない?視えてしまうし、寄ってきてしまうとかいうやつ。あれに似たものがある。彼女は『手繰り寄せてしまう』体質があるよ?幸運も不幸も、『手繰り寄せてしまう』って事」


「それって『悪魔の呪い』?」


「うーん、どうだろう。呪いとまで行かなくても近いものはあるかもしれない。ただ、制御できていないから結果として破滅する可能性は高いよ?」


 破滅……あいつが。


「かつて、君について歩いていたのを見た時の彼女は何処にでもいる一般人だった。でもさっきの彼女は私から見れば明らかに後天的な特殊な能力を宿していたからね」


「それって、もしかして俺と関わったせいとかじゃ」


「君の影響で元々隠れていた能力が無理やり開花した可能性については否定も肯定も出来ないかな」


 俺のせいって可能性もあるのか……俺の……


「ところで彼女、冒険者ギルドに仕事探しに行ってたけど大丈夫かな?」


「えっと……」


「例えばだけど……簡単なクエストをこなしている最中に低確率でとんでもないモンスターが乱入してきちゃうとか。ゲームとかじゃ定番じゃない?それを『手繰り寄せ』ちゃうかもしれないよね」


「あっ……」


 そう言えばあいつと再会した時も『たまたま』凶暴化したカバゴドンが観光地を襲撃してきた。

 更にこの前の魚納品でもまさかの乱入。

 それも彼女の体質によるものだというなら……


「まあ放っておけば君にとっての『異物』は勝手に破滅する、かもしれないからそれを待つのもありかもね」


「隊長、俺は……」


 椅子から立ち上がった俺に隊長は小さな紙を差し出す。


「とりあえず半休で処理しておいてあげるね?サインだけどうぞ」


「感謝する!!」


 俺は申請用紙にサインすると急いで食堂を後にした。


【隊長視点】


 うーん、彼ってば面倒くさい拗らせ方をしている子だよね。

 20年以上彼らの息子として過ごしてきたわけだし、何より色々な性質が親そっくりだ。

 間違いなく、本当の親子なのにね。

 

 でもずっと負い目を感じていて……

 あの家の子は何かしら抱えているものがあるけど彼はそれが特に大きいんだよね。

 はぁ、面倒くさいなぁ。


 でもそこが可愛いんだよね。

 息子になってくれたら楽しそうだけどね。

 ウチの娘に彼なんか恋人にどうかって勧めてみた事があるけど反応は乏しくなかったなぁ。


 はて、もしかしてあの子誰か良い人見つけてるのかな?

 ちょとそれはそれでキュンキュンするじゃない。これが親心かぁ。やっぱりおむつ替えてあげたの正解。


 それにしてもさぁ……広げたお弁当くらい片付けて行こうよ。男の子らしいなぁ。

 仕方ない。洗っといてあげようかな?


「ふふっ、頑張りなさい」

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