第124話 最高にサイコキネシス
【ホマレ視点】
こっそりと物陰で変身した俺は飛行しながら街外れの農道をのっそりと歩く二足歩行のモンスターを発見する。
両腕に盾を思わせるような重厚なハサミがついており尻尾までついている。
えーと何だろう?カニ?アノマロカリス?恐竜?
ここは最近習得した新スキルを試してみるか。
その名も『モンスターデータチェック』!要するにモンスター限定の鑑定だ。
ケイト姉さんの力を継承した際におまけでついて来たスキルだ。
うん。てっきり最後に継承すると思ってたんだけどなぁ、ケイト姉さんの力。
「モンスターデータチェック!!」
発動と同時に脳内にあいつのデータが入って来る。
名前:アノマシルⅣ
種別:変異古代甲殻獣
身長:2m55cm
体重:600kg
能力:硬い両腕でガード
強さ:強いです
うん……ごめん、ケイト姉さん。この鑑定能力。むっちゃクソじゃん!!
何だよ『Ⅳ』って!!他の個体もいるって事?
あれだよ。『Ⅲ』とかならセシルが喜びそうだけどさ。
そんな事を考えていると侵攻を阻もうとする警備隊員たちがアノマシルに斬りかかる。
だが鑑定でも言っていたガード能力で攻撃は阻まれハサミによる打撃をくらい次々にダウンしていく。
「チッ、見てばっかりじゃいかん。今助けに行くぞ!!」
勢いをつけて空中から強襲。
頭に蹴りを叩き込んで……
「!!」
ガンッ!!
強襲を察知したアノマシルは両腕を合わせて俺の攻撃をガードして弾き返す。
やっぱりそう上手くはいかないか。
「それなら……」
右腕を振り上げ力を集中させる。
「デュランダルボンバー!!!」
渾身のラリアットを叩き込むがやはりそれも受け止められる。硬ぇぇぇっ!!
それなら関節技をと組み付こうとするが振り回される腕に邪魔されて上手く組めない。
しかもクソ硬い腕に当たればそれなりのダメージを受けるのだからたまらない。
「硬いやつならうってつけのがあるぞ!」
リムから継承された力を使って【ソリッドモード】にチェンジする。
動きは遅いが攻撃力、とりわけ『硬いものを破壊する力』に関してはトップクラスの形態だ。
右腕装甲を巨大杭打ちに変化させて放つ男のロマン。
「インパクトブレイカー!!」
杭が撃ち込まれ凄まじい激突音が響き大気が震えた。
耳がいいナギが近くに居たら後で怒られるくらいの音だ。
もしかして家に居ても聞こえているかもしれない。
だが問題は……
「効いていない!?」
アノマシルの装甲には傷ひとつついていなかった。
いやいやこれってゲームとかだと『当たれば会心』的な感じだろ?
メタル狩りとかに絶対便利なあれだぞ?
しかも体重がかなりあるせいであれだけの衝撃でものけ反りすらしない。
驚いている所にアノマシルが口から何かを吐きかけてきた。
回避できず被弾した箇所が熱を帯び、爆発する。
「酸か!?」
飛び道具まであるのか!!
これじゃあ両腕をこじ開けて攻撃を叩き込むことも難しいじゃないか。
攻守ともに完璧。こんな生物がいるのか?
何を食ったらこんな硬くて頑丈になれるんだよ。子ども達に勧めてやりてぇわ。
「だけどな……いつだって俺は諦めが悪いんでね」
息子に諦めるなって教えてるわけだしな。
俺は両腕をクロスさせ新しい力を試す。
先ほどまでのゴツゴツした形態から一転して軽装になりローブの様なものが羽織られた新しい形態。
その名もデュランダル【サイコモード】!!
ケイト姉さんから託して貰った能力により誕生した超能力を操る新形態だ。
「ほら、俺からの『贈り物』だぜ」
手の中に『毒』で作ったボールを作り出し振りかぶった。
「ポイズンギフト!!」
アノマシル目掛け贈り物を投擲。
敵は軌道に合わせ両腕でガードをする。
「そう。それでいい。実にナイスな防御ってやつだ。だけどな……」
ギフトがガードに到達する直前、急に高度を下げてガードの真下をすり抜け腹部に着弾する。
「悪いな、そいつは『フォークボール』だ」
まあ、コントロールはサイコパワーでやってるんだけどね。
「!!?」
毒が効いているようでアノマシルの両目が何度も点滅して両の腕がだらんと下がった。
こいつ、今気づいたけどどこか機械っぽい挙動だな。何かエラーが起きてる的な?
「何にせよ一気に決めるぜ!」
両腕からビームソードを出し前方宙返りをし回転しながら距離を詰め……
「デュランダルスライサー!!」
モンスターを斬りつけた。
どうやら両腕以外の防御力は低いらしいな。
そのままビームソードを振るい乱舞し関節部を斬り続ける。
やがてモンスターは幾つかのパーツに分解され、沈黙した。
「倒したか……だがこのモンスター。一体何なんだ?」
身体を屈め、モンスターの破片に手を伸ばした瞬間だった。
脇腹に鈍い痛みが奔った。
頭からカブトムシの様な角を生やした男。
彼の角がデュランダルの脇腹に突き刺さっていた。
こいつ、確かフリーダの幼馴染。ヒザンとかいう軍人?
「おっと、そいつは俺達が回収するぜ」
クソッ、防御力を犠牲にしている【サイコモード】のせいでダメージが!!
慌てて離れるがヒザンは俺の腰を掴んで離さない。
「しっかり掴んどけよ、ヒザン。誰かは知らねぇが、『実験体』を破壊できるような奴を黙って還すわけにはいかねぇ」
もうひとり。身の丈程ある体験を構えながら近づいてくる軍服の男、ザゲータの姿が目に入る。
やべぇ、剣を抜いてやがる!アレはまずいやつだ!!
「フィニスルプス……」
ザゲータが唱えると奴の身体が狼の様な姿に代わっていく。
そう、こいつは『フェンリル』タイプの獣化系能力者。
「終わりだぜ、狼狩閃ッッ!!」
空間を裂くほどの強烈な一撃が放たれた。
□
ギリギリで光球になり緊急離脱することで窮地を脱した俺はほうぼうの体で家へと帰り着いた。
「ちょっ、どうなってんだよこれ!?」
フリーダが俺の怪我を見て悲鳴を上げる。
ギリギリで回避したというのは『直撃しなかった』だけでかすった攻撃に寄り俺は深手を負っていた。
脇腹に刺し傷、左肩から斜めには大きな斬り傷。
幸いにも全員揃っていたのでフリーダは『癒雷糸』。ナギとセシルは聖女の力で俺を治療してくれた。
「あーくそ、痛ぇぇ」
3人のおかげで出血は止まり回復していってはいるが受けたダメージが大きいのでかなり痛い。
しかも何だか傷口が染みてる感じがする。染みて……
「おい、セシル。横、横……」
「ジェス君。あんまり喋ったら傷に響き……え、横?」
俺に促されセシルは自分の横を見て……
「ちょっとユズカ!何やってるんですか!!?」
母親達がしている様に娘が懸命に力を出して俺を治療しようとしてくれていた。
ユズカは子ども達の中で唯一『聖女』の力に目覚めている。目覚めているのだが……
「あたしも、お父様を癒すの!」
「いや、その気持ちは褒めるべきところなんだけど……」
いやいや、躊躇しないで。
まずはこの子を止めて!話はそれから!!
何が起きているのか?
確かにユズカは俺を回復しようと聖女の力を使っている。
ただ、母親達に比べまだ制御が未熟。
それ故に………
「ユズカ、あのね、『塩』出てるよ?」
結局、ナギがツッコんだ。
そう。制御が未熟なあまりユズカは聖女の力で俺をわずかに癒しながら同時に能力で出した『塩』を傷口に塗り込んでいたのだ。
「ぬぁぁぁぁぁぁ、痛いぃぃぃぃっ!!」
流石に限界を超えて叫んでしまった。
□□
「色々と死ぬかと思った………」
治療を終えた俺はソファにぐでーっと横たわっていた。
ベルがお腹に登って来るがすぐにクリスに抱きかかえられる。
「やー、パパと遊ぶなり―!!」
「パパは怪我してるからダメ!傷が開くでしょう」
「ぶー」
頬を膨らまし脚をバタつかせる三女。
ごめん。かわいいけどちょっとパパは今無理です。
離れた所ではユズカがセシルに叱られていた。
ナギは『まぁ、塩は殺菌作用もあるわけだし』とフォローを入れている。
うん。問題はそこじゃない。
「そんなに強いモンスターだったのか?」
「まあ、そんな所だな……」
さっきの出来事についてどう説明したものか俺もわからないので適当に答える。
恐らくナギ辺りは俺の心音聞いてわかってるだろうしフリーダだって俺が誤魔化していることは気づいているだろう。
その上で納得した風を装ってくれている。
「まとまったら話してくれよ」
そう告げ、離れた。
入れ替わりにホクトがやって来て心配そうに俺を見ていた。
「よぉ、ホクト。お前のおかげでパパ、怖いモンスターを倒せたぞ」
言いながら頭を撫でてやる
「?」
「遊びの中にヒント有りってやつだな」
戦いの最中、思い出したのはホクトとのキャッチボール。
ユズカに対しホクトが放ったあの『フォークボール』だった。
あれのおかげでモンスターに有効打を与えることが出来た。
「傷が治ったらまたやろうな。『キャッチボール』」
「ああっ、お父様!それあたしも混ぜて!!」
「ユズカッッ!!」
離れた所で反応した長女がセシルに雷を落とされていた。
やれやれ、本当ににぎやかで楽しい家だ。
それにしてもあのモンスター。まさか軍が何かしら関係してる?