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第113話 あたしの『傘』

【ホマレ視点】


 どう考えても悲劇的な最期を迎える様な『セルフ騒動』はまさかの『息子が分裂した』に収まった……っていいわけあるか!!何だよ『分裂』って!!


「また戸籍をいじっちゃうかぁ。戸籍上、アオイは死んだことになってるけどあれだよ、ちょちょいと働きかけて『実は間違いでした』って事にしておこう。あの、実は引きこもってました的な感じで」


「うんうん。こういう時、人脈って大事だよね」


 両親は呑気にとんでもない事を言ってのけている。

 ほぼ強制的に『長男』として迎えられたアオイはかなり困惑した様子だ。


「なぁ、えーと……ホマレ。その、色々と済まなかった」


「いいさ。お前の気持ちだってわかる。家族もみんな無事なんだ。それに、『兄貴』が出来たっていうのも嬉しい気持ちがあるよ」


「『兄貴』……か。でも本当にいいんだろうか?だって……」


「あの雑さを見ろ。細かい事は気にならなくなる」


 俺は親父達を指さす。

 アオイは『確かに』と肩をすくめた。


「しかし、参ったな。俺と兄貴は同じ顔だ。みんな見分けつかないよな。これどうする?」


「あー、それは問題だな。着る服や髪形を変えればある程度は見分けがつくんじゃないか」


 姉さんも口を尖らせこちらを見ていた。


「うぇぇぇ、本当に顔が同じだよね。これ完璧双子で通るよ」


「そうだよな。これってもしかして時々入れ替わっても気づかないかもしれないよな。なぁ、フリーダ」


 不意に話を振られフリーダは目を見開き答える。


「うん?うーん………え、ホマレ、あんた本気で言ってるのか?」


 フリーダが困惑した表情で俺を見ていた。


「え?どうしたんだ?どっから見ても同じ顔だろ?声も同じだしさ。見分けがつかないだろ」


「え、本当に気づいていないのか?わたしにはどっちがどっちか『しっかり』わかるぞ?」


 何だと!?

 まさかこの状況で『しっかり』わかる?


「まさか『愛の力』か?」


 思わず出た言葉に少し恥ずかしさを感じてしまった。

 それならばとフリーダに目を瞑って貰い、位置をシャッフル。

 アオイは服がボロボロになっていたので二人とも上半身裸になった。


「さぁフリーダちゃん、どっちがホマレかわかる?」


 おふくろに言われフリーダは困り顔になりゆっくりと指をさした。


「…………こっち」


「おお、確かに俺がホマレだ!」


 驚いた。確かにフリーダは俺の方を指さしている。

 だがまぐれという事もあるので再び目を瞑って貰いシャッフル。


「こっちだろ?」


 またもや正解だった。

 この後、2回確認をしたがいずれもフリーダは正確に俺の方を指していた。


「うぇぇぇ、凄いなフリーダちゃん。本当にホマレがどっちかわかってる。これが『愛の力』ってやつ?」


 アリス姉さんは感心した様子で義妹の肩を叩いていた。


「流石、あのシスコン弟の奥さんやってるだけの事はあるわね……」


 いやケイト姉さん。確かに俺はシスコンだけど愛妻家で子煩悩なんだぞ?

 フリーダ達のおかげで新たな『属性』に目覚めることが出来たんだ。


「あの、本気の本気でみんな気づいてないんですか?ふたりの見分け方」


 フリーダは更に困惑した表情を見せた。

 俺を含め、皆が首を傾げる。

 そして俺の方を指さして言った。


「わたしの旦那……ホマレの方が、『背が低い』じゃないですか!」


「何だとっ!?」

 

 俺は慌ててアオイと自分を比べる。

 本当だ。アオイの方が俺より高い。

 確かこの前の健康診断で身長が189㎝。アオイはそれより5~6cm程高かった。


「顔が同じだから見わけがつかないという先入観があったけど、俺の方が低いじゃん!!」


「本当にみんな気づいてなかったんだ……」


 妻が呆れてうつむいていた。


「まあ、他にもわたしなりにあんただって判断できる要素は幾つかあるんだがな。一番わかりやすいのは『身長の差』だよ」


 ああ、一応身長以外にも俺と判断してくれる要素があったんだな。そいつは良かった。

 そして結論、我が家は何だかんだで『雑い』んだな


【ケイト視点】


「ごめんね、片付け手伝ってもらっちゃって」


 戦闘の後片付けを手伝ってくれているトム君を労う。

 本当に、よく働いてくれる。

 彼のおかげでこんなにも楽しい戦いが出来た。まだ興奮で身体が火照っている感じ。


「いえいえ、問題ないです。ケイトさんの頼みとあらばどこまでも!!」


「はいはい、大袈裟」


 苦笑しながら結界の細かい点検を行う。

 あの後、お父さん達は『アオイ』を家族として迎え入れるパーティーをすると連れて帰った。

 確かに雑だけど、何かあれで丸く収まったみたいだ。

 あたしも、どっちの弟も失う事無かった。

 ふと思ったが『分裂』したというより『増殖』なんじゃないだろうか。

 まあ、どっちにしろ弟に変わりはない。


 ホマレは『妻と子ども達が待っている』とフリーダちゃんと一緒に家へ帰って行った。

 市内にいるきょうだいが集まるので『やったぁ、姉さん達が揃う~』っていうかと思ったが意外と大人で驚いた。

 やっぱり愛は人を変えるものなのかしらね。


「愛、か……」


 あたしは私用で闘技場を使った上結構あちこち壊してるからこうしてトム君と後片付け。

 ふと、彼の後姿を見る。

 

 最初は警戒していたけど本当にいい人だと思う。

 何か傍からは『主従関係』と見られているが彼の前だとあたしは自分らしく居られる。

 だけど同時に、時々『弱い自分』を見せてしまうことも。

 それはギルドの役職についているあたしにとってはきっとよくないこと。


「トム君……」


「はい?」


 あたしは手をかざし彼の行動を縛っている『呪毒』を完全に解除した。


「え?ケイトさん?」


「今まで、おつとめご苦労様。あたしの個人判断になるけど、あなたは十分に貢献してくれたし厚生したと思う。だから……」


 唇を噛み、ゆっくりと告げた。


「これで……今日で終わり。あなたは自由よ。あたしから長く離れても問題は無い。だから、好きな所へ行って、新しい人生を歩んでいいよ。今までありがとうね、トム君」


 あたしは彼に背を向け、コートのポケットに手を突っ込み歩き出す。

 これで良い。これ以上、彼の人生を縛ることは出来ない。

 あたしにはこんな不器用な生き方しかできない。こうやっていい感じになっても壊してしまう。

 前へ進んでしまえば自分じゃなくなってしまう気がする。だから……


「それじゃあ、『また明日』」


 トム君の言葉に足を止め振り返った。


「え?トム君?」


「また『明日』、ギルドで会いましょう」


「何で……せっかく自由になれたのよ?」


「だってあなたの傍が、『俺の居場所』ですから。ほら、色々『わからされちゃった』ですしね」


 何だろう。あたしが凄く女王様みたいなんで止めて欲しいんだけど。

 ちょっと待って。色々想定外じゃない。こんなの……


「……トム君さ、お腹空いてる?」


「ん?ああ、空いてるかも」


「それじゃあ……ご飯食べに行こうか?」


「いいんですか?弟さんが新しく出来たのに」


「いいのよ、どうせ今頃実家はお母さん達や妹達で大混乱してて騒がしい事になってるだろうし」


 色々と事件が起きて終わってみたら家族が増殖しましたって状況だからね。


「それじゃあ……行きましょう!!」


 あーあ、困ったなぁ。ちょっとだけ『踏み出しちゃった』じゃない。

 この先、妹達はどうしたのかなぁ。今度じっくり話を聞いてみないと。


「あ、そうだ。トム君って歌劇とか興味ある?実は妹からチケットを貰ったんだけど」


「ケイトさん、歌劇とか好きなんですか?」


「実はあんまり。どっちかっていえば格闘技の試合観てる方が好き」


「むしろケイトさんなら自分が参加したいってなりませんか?」


「ふふっ、それは言えてるかもね」


 みんなには悪いけどこのチケットは使わないかもね。

 あたしは、自分のペースでやっていこう。きっとその方がいいはず。

 彼はきっと、あたしに合わせて歩いてくれる。

 あたしの『傘』、ようやく見つけた。

遂に長姉の恋愛が成就、したんですよね?

これはしたでいいですよね?

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